【歳旦帖】
林雅樹(澤)
初日さす川に浸かれる倒木に
ふにやふにやの摩羅折り入るゝ姫始
級友の娘が巫女や初詣
水岩 瞳
初暦絶景三百六十五
初御籤末吉上等待ち人来る
初鏡変えたコスメの効果どう
下坂速穂
松立てて小さな駅の賑はへる
似た人の後を君ゆく寒詣
拳玉を母へ買ひつつ初薬師
戸が噛んでをりし福豆見つけたる
岬光世
会ふことの無からむ人よ賀状愛づ
輪飾を抜けて天空金の鶴
語らひは山から山へ初霞
【冬興帖】
筑紫磐井
真っ黒な蟹赤くする周富徳
嘘つきメニュー 人魚の温スープ
白鳥の王子・王女やむつみ合ふ
【冬興帖】
水岩 瞳
薔薇ジャムをティーにたつぷり漱石忌
よりかかり泣く人を抱く大冬木
世間てふ愚から北窓塞ぐべし
弁当に緑一点ブロッコリー
小走りに消える街角久女の忌
下坂速穂
ワーキングスペースと云ひ炬燵に独り
犬を枕にサンタクロース待つてゐる
猫の背の冬日を撫でて弱気なる
かまくらへそろりそろりと何運ぶ
岬光世
着ぶくれて海より見ゆる町のこと
休憩や順に置きたる冬帽子
音信の無きことに馴れ枇杷の花
依光正樹
冬ざれや止まない雨が吾を打ち
夕方や寒くてごめんねも言へず
初空がくまなく照らし人の肩
寒稽古派手なターンを見せ合うて
依光陽子
青銅の翼を我に冬が来る
何色と云ふはむつかし冬の花
曲を書くこともスケッチ冬の日の
寒き窓よりあたたかな木の見えて
佐藤りえ
雪止んで犬の睫毛も暮れてゆく
修羅雪の刃の先に血の五片
ペン先をふり洗ひして寒の水
【歳旦帖】
ふけとしこ
輪飾りや風が生簀へ寄つてゆく
人日やユーカリの葉に鼻を当て
どんど焼き日は薄紙を被るやうに
岸本尚毅
初春や昔ながらの自動ドア
裏白の先が何かにひつかかり
なまり節猫に食はせてお元日
起伏ある墓地広々と初鴉
よく動く彼の頭や初笑
竹馬の子に犬を抱く子が笑ふ
墓見つつゆく松過の家路かな
渡邉美保
少彦名命にもらふ龍の玉
花びら餅のうすももいろの禍根かな
初凪の海へ鶚の急降下
青木百舌鳥(夏潮)
沖をゆく船も加はり初茜
雲上にあふれ出でけり初日の出
磯の人に初日の波の寄せてをり
からければ酒を酌み継ぎ正月魚
眞矢ひろみ
旅はじめ綺羅あるものをよく拾う
初夢や象すこし色づいてゐる
初日いま三千世界全うす
初日射す夢殿にある真暗がり
破顔一笑十日戎へ向かひけり
【冬興帖】
ふけとしこ
通行量調査二枚の膝毛布
ウエハースに律儀な格子年詰まる
かく小さき歩幅に年を越しにけり
岸本尚毅
木賊折れ小春ひねもす鉦叩
草の絮くはへ小春の蟻がゆく
枯芝が剥げ土が剥げ石が見え
冬の日や指をひらいてあたたかく
冬の蠅砥石に翅を光らせて
明滅の周期正しく聖樹あり
その人の影その人の寒き耳
渡邉美保
裸木の奥に湖光りけり
邪推するポインセチアの恋のこと
仏手柑や一つ一つの裏事情
青木百舌鳥(夏潮)
けら叩く音のときをり障子堀
沢涸れてクレソン青き水汲場
一本の武鯛を以て釣納め
折りたたみバケツを濯ぎ釣納め
眞矢ひろみ
黒傘をたたむ柔肌憂国忌
霜柱ゴジラとなりて踏み鳴らす
山の子の青き水洟畏ろしき
階層に「せかい」とルビす枯芙蓉
冬麗やダイオウイカの哀しき眼
林雅樹(澤)
教会の壁のみ残る焚火かな
燻れる焚火の薪湖に投ず
東急本店屋上植込の枯れて
【歳旦帖】
木村オサム
何もかも昔となりて寝正月
生まれ出た時が最良寝正月
寝正月駱駝が部屋の隅で待つ
空へ行く足跡見えて寝正月
あっさりと世界は消えり寝正月