2023年5月12日金曜日

令和四年 冬興帖 第七/令和五年 歳旦帖 第六(ふけとしこ・岸本尚毅・渡邉美保・青木百舌鳥・眞矢ひろみ・林雅樹・木村オサム)

【冬興帖】

ふけとしこ
通行量調査二枚の膝毛布
ウエハースに律儀な格子年詰まる
かく小さき歩幅に年を越しにけり


岸本尚毅
木賊折れ小春ひねもす鉦叩
草の絮くはへ小春の蟻がゆく
枯芝が剥げ土が剥げ石が見え
冬の日や指をひらいてあたたかく
冬の蠅砥石に翅を光らせて
明滅の周期正しく聖樹あり
その人の影その人の寒き耳


渡邉美保
裸木の奥に湖光りけり
邪推するポインセチアの恋のこと
仏手柑や一つ一つの裏事情


青木百舌鳥(夏潮)
けら叩く音のときをり障子堀
沢涸れてクレソン青き水汲場
一本の武鯛を以て釣納め
折りたたみバケツを濯ぎ釣納め


眞矢ひろみ
黒傘をたたむ柔肌憂国忌
霜柱ゴジラとなりて踏み鳴らす
山の子の青き水洟畏ろしき
階層に「せかい」とルビす枯芙蓉
冬麗やダイオウイカの哀しき眼


林雅樹(澤)
教会の壁のみ残る焚火かな
燻れる焚火の薪湖に投ず
東急本店屋上植込の枯れて


【歳旦帖】

木村オサム
何もかも昔となりて寝正月
生まれ出た時が最良寝正月
寝正月駱駝が部屋の隅で待つ
空へ行く足跡見えて寝正月
あっさりと世界は消えり寝正月