2023年8月18日金曜日

令和五年 春興帖 第六/花鳥篇 第五(渡邉美保・なつはづき・小沢麻結・堀本吟・眞矢ひろみ・望月士郎・曾根 毅・岸本尚毅)

【春興帖】

渡邉美保
住吉の風吹き上ぐる松の芯
海光のまぶしさをゆく鰆船
キャベツ山盛り食事処の幟立て


なつはづき
一筆箋にたった一行落雲雀
パレットから逃げ出している涅槃西風
桜蕊降るや表札出せぬ恋
鍵盤に春が毀れてます 教授
春の蜘蛛話し足りない夜の嵩
ヒヤシンスつま先つんと触れて恋
姉さんの部屋の死角にいそぎんちゃく


小沢麻結
持ち帰り上履き捨つる為の春
予報より降り初め速き春の雪
遠ければ良いのではなく柳絮とぶ


堀本吟
妻たちのうわさ根も葉も迎春花
陽炎の塀はぼろぼろ廃校舎
逃げ水や電光ニュースを先送る


眞矢ひろみ
かげろふやサムトの婆の野に出れば
独酌や独活の歯ざわり当てとして
復活祭神の笑顔をググる夜


【花鳥篇】

望月士郎
人ひとひら桜ひとひら小さな駅
はんざきのまなうら飛行船がくる
くちなしが私を嗅いでいる夜風
悩みごと抱えています金魚鉢
夜店の灯舌先で触る親知らず


曾根 毅
桃の花僧のかたちを整えて
裁かれることなく老いぬ白牡丹
灰色の夜は人肌の桜蘂

岸本尚毅
マーガレットはサイダーの壜にさす
道逸れて来たる男女に浮巣あり
小さめの沈み加減の浮巣かな
子を孕む井守や腹を藻に擦りて
雨の墓尺取虫は濡れながら
かたつむり花屋花の香鬱々と
大いなる赤き日除に肉を売る