2023年8月12日土曜日

令和五年 春興帖 第五/花鳥篇 第四(望月士郎・浅沼璞・曾根毅・岸本尚毅・中村猛虎・花尻万博・小野裕三・松下カロ

【春興帖】

望月士郎
金箔に息をふーっと春薄暮
胸びれに尾ひれの触れて春の宵
うれしくてスイートピーのぐるぐる巻き
入学式ちりめんじゃこの中に蛸
耳にきて風少し巻く糸繰草


浅沼 璞
梅ちらりほらり背中をかく道具
看板を枝つきぬけて桜かな
薄氷の眼鏡の縁をこする音
蒜の臀部の皮を剥きだしぬ
小柄にて春闌の土手塗りたくる
春雨のチラシの猫の迷子かな
霾ると恐竜の鼾になりぬ


曾根 毅
春疾風木像の顔二つに割れ
松の枝先雪嶺のざわざわと
春めくや坂の時間が長くなり


岸本尚毅
漫談が出て寄席楽し春の蠅
うち眺め白きところは茅花かな
頭上やや澄みて遠くの霞みをり
土の上に墓ある雀隠れかな
松の芯引き傾けて葛若葉
水深きところ舟ゆく柳絮かな
春惜しむ土人形の西行と


中村猛虎
ハンドバッグに入りきらない春愁
ぶらんこに酔う年頃になりました
春泥の中より救急救命士
恋の猫監視カメラを横切れる
下萌や卵子凍結する女
卒業証書丸めたままの三元号
海馬より始む啓蟄鬱きざす


花尻万博
菜の花に入りゆく眼菜の花に
濡れている水黒々と鹿尾菜干す
遠霞む人工林の祓ひかな
菩薩らの半眼永久に豆の花
けむりぐさ温みし水の中けむる


【花鳥篇】

小野裕三
ハッピーと名につく店や抱卵期
思案する頭集まり浮巣めく
輪唱の尻切れとんぼ黄楊の花
キッチンにアネモネの色混ぜにけり
捩花が曲馬団へと雨降らす


松下カロ
海見えて芯まで齧る青りんご
鯉幟ちらり山手線外回り
青りんご投げて静けし日本海