2024年2月17日土曜日

令和五年 秋興帖 第一(竹岡一郎・山本敏倖・杉山久子・仲寒蟬・関根誠子)



竹岡一郎
生身魂八方の数珠煩いと
舌鋒を受け流したる扇置く
夜郎自大牛飲馬食長夜舌禍
愛しく踊れ独り善がりのあはれさを
剣戟を踊りし魂も喰へば淡し
干され攣る若き傲りへ鵙高音
わざはひの恋文を焼く紅葉かな


山本敏倖
音写そして竹の春から離脱する
新蕎麦や土蔵造りの店構え
空間をねじりて紅葉黒潮へ
木の実落つ一光年の代名詞
十一月むろん丹後丹後かな


杉山久子
小鳥来る遺影の母はふつくらと
相席の赤子笑はす柿日和
露の世や紙は言葉を受けとめて


仲寒蟬
遠縁の人踊り出す盆の家
風船葛陰気なる仕舞屋に
洋梨へ明るくしたるランプの灯
南にも北にも火山稲の花
秋灯や本屋素通りするは恥
蟋蟀と蟋蟀会ふを奇遇といふ
芒一本抜いて夕日を通しけり


関根誠子
独り居の友の嗄れ声秋暑云ふ
日暮里と書けば秋立つ心地して
秋の水飲んでは語尾をうすめをり
新蕎麦や門なき方の店に入り
母さんてふ誰かを温くする仕事