冨岡和秀病むおんな智恵子抄を愛読す
詩の極意 ウニオ・ミスティカへの架橋
晩年を純潔にする天の磁力
亜大陸 古インドの智慧を召喚す
鷲津誠次秋茄子や身籠りし子の眉長く
懲りもせず母の文来てすがれ虫
夕鶲いつもの古里の風緩く
月光につぶやく夫の肩黒子
碁敵の似合ふ五分刈り草紅葉
浅沼 璞それぞれの傘輝かす野分あと
瓶底の砂までとどく曼珠沙華
ましら酒髭の先まで雫して
秋の蚊の痒みを踝に歩く
月白の恥づかしければ笑ふなり
場違ひの空気に蜻蛉来てとまる
鉄塔の尖端霧に現るる
仙田洋子生温き薬罐のお茶や敗戦日
みどりごも老婆となりぬ敗戦日
獺祭忌偉人と呼ばれ親不孝
行年の数字うすれし墓洗ふ
お日様のどすんとありぬ村祭
近寄ると見えて椋鳥去りにけり
秋濤や独りの長き影法師
水岩瞳月を待つ黒田杏子を書き留めて
月祀るどの子も光りの中に居よ
入ると出る数の合はない大花野
誰にでも非はあるものよ烏瓜
有の実と言つてみたとてなしはなし
【冬興帖】
仲寒蟬むささびや夜空に宇宙ステーション
上海へつながる海よ冬あたたか
少しづつ骨ずれてゆく毛布の中
風花や山を睨んでハンニバル
無人機攻撃横切つて神の旅
ラグビーの泥人形が立ち上がる
鎮痛剤より鯛焼の方が効く
関根誠子花伝書を閉づ北風を深く吸ふ
舞ふ落葉大合唱となりにけり
雪催ひ遠くの町に肩すくめ
捨てばちのど演歌ひと節年用意
賀状書く生きて在ること小前提
瀬戸優理子凍空のくちびるを焼くカレーうどん
音楽性違う木枯らしのようだ
研究に疲れた博士ジンベイザメ
後悔を素手でさわるな軒氷柱