2024年5月17日金曜日

令和五年 秋興帖 第八/冬興帖 第八(小野裕三・佐藤りえ・筑紫磐井)

【秋興帖】

小野裕三
臆病な貨車十月の石運ぶ
銀杏紅葉家に番犬法に番人
金木犀に助太刀されていたりけり
技師ひとり冷えていくなり始発駅
曼珠沙華予知夢の中に並びけり


佐藤りえ
糸瓜殿夕顔殿に日の高し
ガブリエル・ミカエル神の汲む新酒


筑紫磐井
八百政が秋のかたちのものひさぐ


【冬興帖】

小野裕三
片恋をもう隠さずに石蕗の花
人影が人影として飲む葛湯
冬薔薇女の名前欲しがりぬ
錯覚の消えぬ枯薗ありにけり
梟の部首を集めていたりけり
泣かぬように冬の金魚が翻る


佐藤りえ
そらで書く地図にか黒き冬の川
風邪の日眼鏡になにも見せない日


筑紫磐井
戦後史も昭和史も時雨けり