小野裕三臆病な貨車十月の石運ぶ
銀杏紅葉家に番犬法に番人
金木犀に助太刀されていたりけり
技師ひとり冷えていくなり始発駅
曼珠沙華予知夢の中に並びけり
佐藤りえ糸瓜殿夕顔殿に日の高し
ガブリエル・ミカエル神の汲む新酒
筑紫磐井八百政が秋のかたちのものひさぐ
【冬興帖】
小野裕三片恋をもう隠さずに石蕗の花
人影が人影として飲む葛湯
冬薔薇女の名前欲しがりぬ
錯覚の消えぬ枯薗ありにけり
梟の部首を集めていたりけり
泣かぬように冬の金魚が翻る
佐藤りえそらで書く地図にか黒き冬の川
風邪の日眼鏡になにも見せない日
筑紫磐井戦後史も昭和史も時雨けり