2024年7月19日金曜日

令和六年 春興帖 第四(小林かんな・ふけとしこ・眞矢ひろみ・望月士郎・鷲津誠次・曾根毅)



小林かんな
畑まで行くのにそんな寒紅で 
版画展るるるるしゃぼん玉るるる
音楽に駆られる木馬春の昼
陽炎に何焚べたんですか博士
紫木蓮マネキンの腰細すぎる


ふけとしこ
摘み頃の蓬よ雨に打たれたる
鹿子の木の肌濡らしゆく春の雨
そのかみの女王陛下の春帽子
煙突の遠く見えゐる古巣かな
春愁のとろりとこはす目玉焼


眞矢ひろみ
春一のすでに腐乱の気配かな
空いてゐる君の隣席春の夢
老いてなほ海馬に少年坐す春暁


望月士郎
囁きの唇やはらかく「うすらひ」
合掌にかすかなすきま木の芽風
三叉路に阿修羅が立っていて三月
まどろみのまなぶた初蝶のつまさき
零ひとつ輪投げしてみる春うれい
絮たんぽぽ吹く球形の哀しみに
原子力いそぎんちゃくにさっと指


鷲津誠次
春雨香ばしく鯉の睡りがち
若葉風左折ゆつたり教習車
土筆摘む保母にも苦き別れあり
病床の母の一口さくら餅
飛花落花母校一度も訪ふことなし
筆まめな異国の母や花月夜


曾根毅
戸袋の見え隠れする春の雷
国境のロープをくぐり白椿
御神渡りゆらりゆらりと戯言など