小林かんな畑まで行くのにそんな寒紅で
版画展るるるるしゃぼん玉るるる
音楽に駆られる木馬春の昼
陽炎に何焚べたんですか博士
紫木蓮マネキンの腰細すぎる
ふけとしこ摘み頃の蓬よ雨に打たれたる
鹿子の木の肌濡らしゆく春の雨
そのかみの女王陛下の春帽子
煙突の遠く見えゐる古巣かな
春愁のとろりとこはす目玉焼
眞矢ひろみ春一のすでに腐乱の気配かな
空いてゐる君の隣席春の夢
老いてなほ海馬に少年坐す春暁
望月士郎囁きの唇やはらかく「うすらひ」
合掌にかすかなすきま木の芽風
三叉路に阿修羅が立っていて三月
まどろみのまなぶた初蝶のつまさき
零ひとつ輪投げしてみる春うれい
絮たんぽぽ吹く球形の哀しみに
原子力いそぎんちゃくにさっと指
鷲津誠次春雨香ばしく鯉の睡りがち
若葉風左折ゆつたり教習車
土筆摘む保母にも苦き別れあり
病床の母の一口さくら餅
飛花落花母校一度も訪ふことなし
筆まめな異国の母や花月夜
曾根毅戸袋の見え隠れする春の雷
国境のロープをくぐり白椿
御神渡りゆらりゆらりと戯言など