2024年7月12日金曜日

令和六年 歳旦帖 第七/春興帖 第三(竹岡一郎・岸本尚毅・浜脇不如帰・冨岡和秀・杉山久子・松下カロ・木村オサム)

【歳旦帖】


竹岡一郎
女礼者とアンモナイトを論じ合ふ
人に化け杓子定規の礼者なり
賭博場へ向かふ礼者に嘆息す
寒声や流謫の嘆き高くうねり
欠けざる歯誇りて漁翁ごまめ嚙む
人日や祟る理由もまた恋と
怨霊の行く方を観る七日かな


【春興帖】


岸本尚毅
豚汁にこんにやく多し雛の宵
筒のやうな白く大きなチユーリツプ
色薄く生れし蠅やゆるく飛ぶ
灌仏や五本の杓のあるばかり
やがて来るものの如くに春の雲
ほねつぎの骸骨と春惜しみけり
老人に魔法の国の亀が鳴く


浜脇不如帰
十字架の掌なら激辛ほたるいか
東京タワーは血の味宵の雉
こきざみに惑える窒素菜種梅雨
とびばこをおたまじゃくしをうつくしく
痛いトコ突かれましたですね目刺
きりすとと鵲の巣と歯磨き粉
まったくの基督はさくらもち気質


冨岡和秀
群棲の(がく)をはねのけ踊る花びら
光る家ゆくえはいずこ声を出せ
沸騰する生命波動や舞い踊る


杉山久子
カピバラの食欲無限春の雲
陽炎へ二足歩行のまま進む
春愁や駱駝をとほす針の穴


松下カロ
落第子ジャングルジムのてつぺんに 
ぶらんこに酔ひてジャングルジムに醒め
春の月ジャングルジムに閉ぢこもり


木村オサム
しゃっくりが止まらぬ午後の枝垂梅
モルヒネを増やした朝の薄氷
爆音に怯え蛙か兵になる
落第知るジャングルジムの真ん中で
かげろうの水っぽい手触りが詩だ