2024年9月13日金曜日

令和六年 春興帖 第七/歳旦帖 補遺(青木百舌鳥・小沢麻結・渡邉美保・前北かおる・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【春興帖】

青木百舌鳥
神木の宿木まみれなる芽吹き
畦塗機直してをれば烏来る
ルピナスの若葉噴きをる空家かな
闌春の造化忙しや佐久平


小沢麻結
確と見え行きしことなき島うらら
蕗の薹刻むでまかせ口遊み
ペン落とし響く階寒戻り


渡邉美保
墨壺より棟梁の聲春浅し
薄氷を掬いたき日の偏頭痛
春愁やコーンポタージュの黄を解凍
春雷や傘の柄にある鳥の貌


前北かおる
クレーンの垂らせる紐のあたたかく
一丁目一番地てふ春野かな
風吹いてきたる日永の日裏かな


【歳旦帖】

下坂速穂
初芝居昭和の言の葉をかさね
お運びさん足袋うつくしく忙しなく
湯気立てて買はぬお客ににこにこと
福豆や袋に入れて香りたる


岬光世
手を取れば詫びを言ひたり初御空
乗初や往きたき処行く所
あふむけの目を灯したる初景色


依光正樹
水涸れて大きな水の音思ひ
一対の鷺の息して寒きこと
松取れて風が上より降つて来る


依光陽子
松を目に椋の落葉を踏みをりぬ
天鵞絨に揺らぐ枝影冬館
せはしなき自動ドアや日脚伸ぶ