2024年9月27日金曜日

令和六年 春興帖 第八・歳旦帖 補遺(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・筑紫磐井・佐藤りえ)

【春興帖】

下坂速穂
猫の恋忘れしころに返事来て
猫の夫かな入れ替はりたち替はり
生みし子を綺麗に並べ春の猫
うつらうつらと起きてゐる子猫かな


岬光世
浅春や太き木を聴くたなごころ
つちくれの野遊びの香を落としける
剪定や蒼天あふぐ藤の蔓


依光正樹
街の人きらきらとして花の冷え
白鷺の春の雪降る中にかな
消えがてに泡のあつまる水温む
老いしづかきのふの花の冷えのやうに


依光陽子
死の土を堆く盛り囀れる
肉強くなつて囀りゐたるかな
春の死や楽譜に雨の音を足し
しろばなの蒲公英に指遠くなる


筑紫磐井
阿耨多羅三藐三菩提菩提僧莎呵
(仏説摩訶般若波羅蜜多心經より)
觀世音菩薩歩くや春の闇


佐藤りえ
道の辺に泥棒結びの春地蔵
アラン・ドロン邸霾れる銃七十二丁


【歳旦帖】

筑紫磐井
『戦後俳句史』成る國栖奏(くずのそう)萬春樂(ばんすらく)
豆単に無意味な単語去年今年
(豆単:旺文社『英語基本単語熟語集』)


佐藤りえ
犬に顔舐められてゐる猿回し
先生に先生がゐる初昔