下坂速穂猫の恋忘れしころに返事来て
猫の夫かな入れ替はりたち替はり
生みし子を綺麗に並べ春の猫
うつらうつらと起きてゐる子猫かな
岬光世浅春や太き木を聴くたなごころ
つちくれの野遊びの香を落としける
剪定や蒼天あふぐ藤の蔓
依光正樹街の人きらきらとして花の冷え
白鷺の春の雪降る中にかな
消えがてに泡のあつまる水温む
老いしづかきのふの花の冷えのやうに
依光陽子死の土を堆く盛り囀れる
肉強くなつて囀りゐたるかな
春の死や楽譜に雨の音を足し
しろばなの蒲公英に指遠くなる
筑紫磐井阿耨多羅三藐三菩提菩提僧莎呵
(仏説摩訶般若波羅蜜多心經より)
觀世音菩薩歩くや春の闇
佐藤りえ道の辺に泥棒結びの春地蔵
アラン・ドロン邸霾れる銃七十二丁
【歳旦帖】
筑紫磐井『戦後俳句史』成る
豆単に無意味な単語去年今年
(豆単:旺文社『英語基本単語熟語集』)
佐藤りえ犬に顔舐められてゐる猿回し
先生に先生がゐる初昔