辻村麻乃あめんぼの求婚波を掴みたる
選択の光受けたる蓮の花
いづれかが落つる定めよ柿の花
卯の花腐し他人のやうな一人つ子
病とは白き野にあるハンモック
振り向きて鶴の貌なり半夏雨
合歓の花閉ぢて光を仕舞ひけり
堀本吟草むらに衣擦れのおと蛇が脱ぐ
毀れたか成層圏の日雷
金魚田のらんちゅうに陽矢ゆらゆらと
【秋興帖】
鷲津誠次音読の覚束なき子虫時雨
うつとりとシルク湯浸かり残る虫
誰も彼も一詩を胸に星月夜
つややかに灯る城町鉦叩
下坂速穂八月を永しと思ふ路地に唄
棚経や水面の月が月を呼び
月よりも光ほのかに団子かな
月の友思ひ返せば背の高く
岬光世天地を畏るる日日に秋の蟬
水澄みて心許なき花のこと
定まりし蕾の向きや曼珠沙華
依光正樹掃苔の水に映れる母の色
大きくてはかなき人と展墓かな
小さき石落ちてしづかや秋の山
水澄んでゆく先々に澄める人
依光陽子草色の草には非ずきりぎりす
一部屋に居場所のいくつ秋灯
キッチンにもの書いてをり秋湿
ふぞろひの暦が二つ夜業かな