下坂速穂横丁にスナックのある浴衣かな
説教やバナナの横に皮置いて
瓜を噛むやましいことの少しある
白玉やほなと話を終はらせて
岬光世ラムネ持つ指輪の指を立てて待つ
狢藻の花へさつきと同じ人
何代目かと寺島なすの花に問ふ
依光正樹若葉して匂ひのつよき花咲いて
赤きもの夏の落葉の中にあり
光る蟻光らざる蟻蟻の道
明るきも昏きも佳しや金魚玉
依光陽子汐干狩より帰りたる息を吐く
年輪に鑿で分け入る青葉かな
トマト二個箱に偏る暗さかな
出目金の目のバランスの憎からず
【秋興帖】
川崎 果連秋雨をバケツにためて牢に置く
前置きの長い戦争桐一葉
まだ斬るかそこまで斬るか村芝居
やわらかく生まれて硬く死ぬ秋思
死者の手を組むは生者や秋深し
秋深し牛が見ている遠い沖
ミサイルの光沢秋鯖の捩れ飛び
前北かおる爽やかや人にバッグを担がせて
秋蝶に誘われゆく芝の上
また人にしがみつきたるいぼむしり
中嶋憲武口語訳の月夜へひらく紙の質
月白を逸れ桃いろの足のうら
ことば古ければ鶴来るためしあり
童貞を捨てれば刈田広がる死
稲妻に文字追ふ闇の高架駅
晩秋の手相知らない紫雲の木
濡れてゐて月のほとりの茶葉ひらく
早瀬恵子紅葉かつ散るケーキタワーにも紅葉
琵琶湖爽秋幽庵焼に灯す舌
ひ孫集える花圃よ秋蝶のラルゴ
小林かんな広島の果物届く今朝の秋
大西瓜種父の十八番を皆が言い
女郎花二手に分かれ探し出す
神将のみな秋冷に影を負い
秋風のしみて獄卒目しばたく