2025年7月25日金曜日

令和七年歳旦帖・春興帖 第七(中村猛虎・松下カロ・望月士郎・堀本吟・花尻万博)



中村猛虎
トーストの飛び出し損ね女正月
あがりから戻る双六離婚して
たましひにひとつずつあるかざぐるま
猫抱けば猫の形の春の闇
唇の奥に舌ある女雛かな
饒舌なブランコと寡黙なブランコ
筍や自分で脱いでくれないか
足音の成長している子供の日
背表紙の丸み辿れば春の闇
青蔦に絡まっている打球音


松下カロ
訃報来る喇叭水仙二三本
トイレットペーパー尽きて春の雪
晴着脱ぐピカソの女お目出たし
  

望月士郎
一頭の蝶の越えゆく象の昼
うすらひの音感さすらひの予感
海市消え双子のそっと手を離す
漢字みなひらがなにしてきつねだな
ミモザ揺れ私のいない町にいる
花降る日からだの中の無人の駅
鏡花を読むうしろの鏡花あかり


堀本吟
初詣亡父亡母の背の大き
ハツクニシラス南に基地のある旦
紅梅がさきに白梅そのあとで
探梅や木椅子に犬が躓きぬ
二月尽一毛そよぐ美女の眉
遠枝垂桜の花や雷に揺れ
メタセコイアの芽好きの枝を見に行かん
麦青むトートバッグの皺のばし
木瓜ゆたか大欠伸して糸電話
春月の翳りほのかに閨の人


花尻万博
暖かしくろしおを待つ数分も
瓦礫より密に車の田螺かな
木流しを思ひ出さずにせせらげる
遊ばんと誘はれている紀伊遍路
されかうべもう繋がらぬ摘草か
桜見せる死に近き鬼動かして
学びとはならぬ器用さつゝじにも
街音に耳の休めず蕗の薹
クレソンが遅れて駅の中で待つ