2025年8月22日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第八(眞矢ひろみ・村山恭子・冨岡和秀・田中葉月・渡邉美保・小沢麻結)



眞矢ひろみ
樹に残る釘痕深し成木責
飾り歯朶太郎次郎を囃すなり
裏山に龍起つ気配初山河
豆撒いて豆拾い食う孤高かな
うすらひを透いて地霊の閑かなる
若鮎の鰓のくれなゐボルシェビキ
鶴亀の鳴いてリーマン予想かな
別の世の道草遅日使い切る


村山恭子
大人にもとりどりの夢雛あられ
踏青や我が心にも鬼がをり
ゆつくりと雲の流れを追ひて春
初鮒の鱗に虹の色のあり
後出しのじやんけん負けてクローバー
蕉公や去来や美濃の花に酔ひ
ぷかぷかとブリキの金魚春深む


冨岡和秀
ビッグバンその後のいのち白明集
いずこにも花降りそそぐ銀河より
見えざる孤悲 雲の渓間に抱き締める
浅草に早桜咲く永遠の国
ヴェネチアに沸き立つ日々や仮面祭
妖精の森にたたずむ亡命者
よろづ世の朽ち葉舞い散り腐葉の碑
包みより(ぎょく)が飛び出す観世音
言の葉は超えて羽ばたく幽明境
幽明境 銀の言の葉超えて咲く


田中葉月
うすらひの孤島となりて離れゆけり
国境は春キルトの針が見つからぬ
蟠りほぐれしところ囀れり
黒鍵の影につまずく花菜風
言霊をさがしに行けば金鳳花
花筏ゆつくり動くムー大陸
春光をほろほろこぼしクロワッサン
からつぽの埴輪みつめる春の闇
山茶花のいたいたしくも奔放で


渡邉美保
歳晩の水撥ねてゐる金盥
無罪放免崖下の波の花
水甕の水位の変はる建国日
臥龍梅這いゆく先の白煙
春愁ひうつぼかづらが揺れるから


小沢麻結
初乗のりんかい線の遅延詫び
恵方道晴れ晴れと風吹きわたり
ぶちまけし破魔矢火を吹くどんどかな
よき風を待ち散りぎはのチューリップ
春風へ翳せば光り飴細工
息つめて引き剝がしをり薄氷