2025年9月12日金曜日

令和六年 冬興帖 第八/令和七年 歳旦帖・春興帖 第九(水岩瞳・佐藤りえ)

【冬興帖】

水岩瞳
不機嫌なブロッコリーとゐる食卓
寝る人の(かたち)覚える蒲団かな
冴ゆる夜の抽斗の奥の恋の文
枯るるにも中途半端と完璧と
毛糸編む人を眺めし夜汽車かな
風邪ひいてちよつと幸せ玉子酒
数え日といふ一日を待ちぼうけ


佐藤りえ
胡桃割り人形ふいに寒さ言ふ
冬雲の下にお椀のやうな山


【歳旦帖・春興帖】

水岩瞳
年賀状ホノルルマラソン完歩した
歌留多して負けず嫌ひの孫が泣く
初写真いつもの神社のいつも此処
   *
恋なんてと菜飯田楽たひらげり
仏滅も佳きにはからへ桜鯛
春眠もバスと電車を乗り継いで
花吹雪むかし学徒を煽りけり
散る桜焦土の色を忘れまじ


佐藤りえ
また女斬り殺されて初芝居
使はれぬアコーディオンが冴返る
階段の表に裏に海髪の揺れ
花守はみんな年下よく晴れて