2025年11月21日金曜日

令和七年 夏興帖 第四/秋興帖 第二(岸本尚毅・小野裕三・瀬戸優理子・豊里友行・山本敏倖・仲寒蟬)

【夏興帖】

岸本尚毅
材木や流るるごとき蟻の道
風鈴が鳴る老人の食べ残し
山の虫大きく密に網戸かな
臍見せて見られて避暑の娘たち
夕ぐれを人々遊ぶ芋の花
鬼の貌なる空蟬や百合の葉に
夕蟬に家無き人等肌を脱ぐ


小野裕三
未草彼女はきれいに定規を当てる
来た順に人魂埋める夏満月
湖で暮らす一生はたた神
平泳ぎに無駄な動きのありにけり
ラムネ瓶集めて発明クラブかな
予告状めいて広がる夏木立
それからは罠のごとくにバンガロー


瀬戸優理子
鶏がらを潰す日盛の力士
顔の無い父母と逢う昼寝覚
みぞおちにふくるる闇へほうたる来い
こんぷらいあんすありんすどぜう鍋


【秋興帖】

豊里友行
赤とんぼ生きてるだけも丸にする
鎧なり喧嘩した日の松ぼっくり
〆切よ跳び箱の虹をください
歩け歩けの天体ワンちゃんショー
小鳥来る琉球石灰岩の島
木の実ふる空爆の世を棄てちまえ
麦の穂がゲルニカの風を切り取る


山本敏倖
言霊がモノクロになる震災忌
茸飯を届けるボタンを付けている
手のひらに乗っかる虫の音をさがす
単三の灯りが一点真葛原
銀漢に近づくように歩き出す


仲寒蟬
耳掻の先の小鈴や今朝の秋
来月は人手にわたる盆の家
その茸抜けば全山滅ぶべし
調律師いつしか竈馬になる
地虫鳴くこの世黄泉よりおそろしく
鼻筋のきれいな人と新酒酌む
啓示とはたぶん単純からすうり