2025年12月12日金曜日

令和七年 夏興帖 第五/秋興帖 第三(冨岡和秀・堀本吟・木村オサム・ふけとしこ・岸本尚毅・瀬戸優理子)

【夏興帖】

冨岡和秀
風前のともし火となるディストピア
傲慢と空虚のはてに消滅都市
日没に絡めとられて獄中記


堀本吟
水田風頭上の尾灯はB29
整然と骨の連なり轢かれ蛇
女たち右と左に整列す
まつりごとですそもそもはもぞもぞと


木村オサム
赤丸が描かれただけの暑中見舞
廃線の二駅結ぶ暑さかな
館長が噴火の話盛る小暑
トンネルと対峙するエペ夏の暮
ハチガツノヒフガカラダニシガミツク


【秋興帖】

ふけとしこ
新涼や栗鼠の尾が幹打つてゆく
百年が過ぐかなかなを聞きゐしに
夜も晴れてきれいに外す桃の種


岸本尚毅
鳥と人秋のみなとの片陰に
乱心の大きな目鼻秋の風
赤蜻蛉飛びをり赤き蜂も飛ぶ
秋風や老いの昼餉の飯白く
折れて伏すカンナや濡れて土がつく
霧来るに向かひて立てる露台かな
秋風やお道化歩きの座頭虫


瀬戸優理子
秋冷の擦り傷光る硝子瓶
揚げたての雁擬き盛る良夜かな
さるのこしかけ悪妻を貸出し中
ハーブティー蒸らして軟禁の小鳥