神谷波がらがらの電車西日をゆらゆらと
口数の少なき夜の水中花
重い腰あげて掃除を百日紅
すずやかな瞳あざやか金魚掬ひ
結末に涙鼻水夜の秋
音荒き八月六日の俄か雨
川崎果連地球儀を猫がぐるぐる熱帯夜
撃たれてもセルロイドなら浮いてこい
蛇皮を脱ぎ否定する多様性
しかれどもヒエラルキーに蟻が這う
天秤の上の革命てんとむし
加藤知子なんじゃもんじゃ五感毳立つ森がある
青い街総身包帯インスタレーション
わらび餅貸金庫とは無縁なり
兵糧攻めされればまたも敗戦日
満州で万葉集を歌う冷麺
愛新覚羅溥儀へのうぜんかずらブギ
曾根毅平和憲法蠅の手つきを真似てみる
揚羽蝶耳のうしろが痛くなり
舟虫やじわりじわりと酔いはじめ
松下カロ蜘蛛の囲に透けて大阪美しき
大阪のおばちやんに西瓜アメもろた
汗びつしよりで大阪より戻る
【秋興帖】
冨岡和秀海上の舞台で踊る孔雀二羽
龍宮に花の咲きたる宴の譜
肉体を脱ぎ捨てて飛ぶ銀河まで
堀本吟曼殊沙華人外境を飾る花
百あれば百の音響曼殊沙華
本堂のうらに曀(かげ)りし曼殊沙華
曼殊沙華こつこつかこつ米不足
曼殊沙華さあてのひらが軽くなった
木村オサム流星を見過ぎて眠さうな駱駝
行きずりにナンを打つ僧昼の虫
星一徹の卓袱台しづか今年酒
シェリー酒の熟成アンダルシアの霧
風葬の目の真ん中へ小鳥来る