2020年2月28日金曜日

令和元年 秋興帖・冬興帖追補/令和二年 歳旦帖 第八(林雅樹・小林かんな・小沢麻結・渡邉美保・高橋美弥子・川嶋ぱんだ・青木百舌鳥・家登みろく・水岩瞳・井口時男)

【歳旦帖】

林雅樹(澤)
カレンダーお渡し会や握手なし
輪飾や犬寝そべりて町工場
『ラ・カテドラルでの対話』下巻を読み始む
バイアグラ飲めば頭痛や姫始
後期高齢者餅の早食ひ大会ぞ


小林かんな
ペンキ絵の富士の嶺年のあらたまる
はろばろと鳥の声して初射会
白足袋を奉射の幅に広げつつ
つつしんで後ろの射手も矢をつがえ
隅っこに突き当たりたる嫁が君


小沢麻結
読初や私淑の心定まりて
繭玉の揺れ止み影はなほ揺らぎ
向合ひの真珠大玉初句会


渡邉美保
手拍子は祝うて三度実南天
祝杯の金粉沈む手毬歌
波音を聴きとめてゐる初鏡


高橋美弥子(夜守派)
御降や猫の鼻先ふくふくり
女正月母の銘仙帯の蝶
初買や高齢猫の缶選りぬ


川嶋ぱんだ(夜守派)
元旦の廊下の人はちりぢりに
人は水 木も水 寒九の水を汲む
怒鳴りたるチーズと置かれたる御屠蘇


青木百舌鳥
フロントの肌つるつるの鏡餅
席ゆづるゆづらるるまた厚着なる
寄鍋のアルゼンチンのエビとかや
冬の蠅なぜ居るなぜに見当たらぬ
節分草石に膝つき誉めにけり


【秋興帖】

家登みろく
秋初めきつね色帯び昼の月
一茎に命ぎつしり蝦夷竜胆
鋸を引く背押す肩うろこ雲
馬の眼の光恋しと残る蠅
颱風のかきまぜてゆく芋の蔓


【冬興帖】

水岩瞳
カプチーノのハート崩れてレノンの忌
冬三日月阿弖流為のこと母礼のこと
散紅葉天より降つて天を透く
父が父らしき頃なり懐手
寒紅を引くきつちりときつぱりと
思春期の黙の主張や青木の実


家登みろく(森の座)
千切れてはまた集ふ雲千空忌
落葉道深くもわづかに師の軌跡
棘なき青森薊句碑に供す
白息の激し俳論語らへば
着膨れて母小さき荷を持て余す


井口時男
母我を忘れたるとか雪便り
メルカリで背骨売ッたるや冬ごもり
新巻がクワッと眼を剥く雪起し

2020年2月21日金曜日

令和二年 歳旦帖 第七(ふけとしこ・花尻万博・前北かおる・なつはづき・網野月を・中村猛虎)



ふけとしこ
しゆと走るものに巻尺嫁が君
七宝の指輪の金茶粥柱
五つ紋乗せ宝恵駕を送り出す


花尻万博
枯れ薄卵を産ます鳥寝かす
言の葉のうすらひまとふ白菜か
新しき海ウツボの腸は熟れて
すぐ手毬に飽きた人死ぬといふにも
道入れて道を老いしむ置炬燵


前北かおる
房総のやま常葉なる初詣
年越せる葉が欅にも銀杏にも
足指の先まで包む冬日かな


なつはづき
鉄アレイじっと見つめている三日
人日や手帳のすみっこで眠る
ぽっぺんぽっぺんひとり夜のうすうすと
思い出のそこだけが夜鮫きたる
真新しい石鹸の香よ寒に入る


網野月を
数え日を五指に納める令和かな
鳥影の梢に四羽大晦日
眼底疲労の薬を白湯で初燈
目薬を点す手の震え羊歯白し
初場所や舐めたらいかん突っ張り棒
タコ焼やちょっと歪な新満月
寒寒寒痰の絡んでいる烏


中村猛虎(なかむらたけとら)
横たわる百舌鳥古墳群去年今年
太陽の塔の背中の御慶かな
仁徳陵へ続く参道淑気満つ
生物の頂点はヒト虎落笛
年酒酌む今もヒロポン三百円

2020年2月14日金曜日

令和元年秋興帖・冬興帖追補/令和二年歳旦帖 第六(早瀬恵子・夏木久・中西夕紀・岸本尚毅・菊池洋勝・高橋美弥子・川嶋ぱんだ・青木百舌鳥)

【歳旦帖】
早瀬恵子
にい霞白き羽毛の俳句舞う
嫁が君か君は嫁かとかしこまれ
新年や庚子の産声高らかに
チューと鳴く千五百秋ちいほあきなるお正月


夏木久
明星に馬車繋ぎあり初御空
パソコンの上を暫らく初埃
この夜を軽く着てゆく初厠
初風は厠窓より素つ気なく
初笑すべて昨夜の舌禍にて
ぼくの基地私が爆破す初夢
海鳴りと惑ふ耳鳴り初明星


中西夕紀
口中に舌のごろつと年つまる
休みをる脳へも響け除夜の鐘
大奥のごと羽子板の姫並ぶ
鳥のこゑ虫の翅音や淑気満つ
太鼓打つ役を頂き弓始め


岸本尚毅
煤逃やあてを酢モツの二合半
手に達磨下げて現れ札納
老いの屠蘇まなこつむりて吸ふやうに
日を経つつ出水の跡や初景色
夕翳りしながら破魔矢また売れて
破魔矢売る巫女の齢を問ふまじく
留守の家居留守の家や松も過ぎ

【秋興帖】
菊池洋勝
天高し牛の拒める荷台かな
盗まれた下着並ぶや秋の色
試し書きする筆ペンや冬支度


高橋美弥子(夜守派)
紅葉且つ散れりベビーカーの双子
ふるへる手岬の野路菊の揺るる
芋洗ふ吾が腸の黒かりき


川嶋ぱんだ(夜守派)
人生はがんばらないと秋がくる
秋空に打つ音階のない木魚
掃けば掃くほどに銀杏の石畳

【冬興帖】
菊池洋勝(無所属)
入院の手続き済むや冬の月
年惜しむつけ置き洗う溲瓶かな
喰積の何でも噛める歯を磨く


高橋美弥子(夜守派)
夫も吾も猫も嘔吐す十二月
木々は眠りぬ湖面は真冬みなぎらせ
水面てふスクリーン美し冬の薔薇


川嶋ぱんだ(夜守派)
改札を出れば広場や落葉焚
老人を射殺野原の日は短か
銃声が心に響き雪の声
目薬を落とし怠惰な冬の海
鼻に穴 炭焼小屋は施錠せず
赤い海とうとう青くなる冬至


青木百舌鳥
稲荷社にあぶらげ人に散黄葉
降る雪のバスの窓打つときに鋭し
子の頰のみるみる赤し餅を搗く
食堂のからくり時計年つまる

2020年2月7日金曜日

令和元年 冬興帖 第六/令和二年 歳旦帖 第五(木村オサム・ふけとしこ・真矢ひろみ・前北かおる・佐藤りえ・筑紫磐井・飯田冬眞・竹岡一郎・妹尾健太郎・神谷波)


【冬興帖】

木村オサム
全身に刻むハングル冬日向
小春日のロシア民族大移動
モアイ像のまなこの窪み日短
日向ぼこビルマのチェスの仏たち
シベリアの飢餓のざらつき寒卵


ふけとしこ
深草の少将へ散る冬紅葉
三椏の蕾欲しがる雪をんな
妖精の棲みつきさうな木にも雪


真矢ひろみ
餅白く罅深くして冬季鬱
石蕗何ぞ己が照らしに引きこもる
一月や竹の切り口気にかかる
日を掬い虚空に透かす寒の水
野に消えし寒茜いま新宿に


前北かおる
中社前中谷旅館雪を踏む
雪踏に随身門の遥かなる
寒造滝の如くに水注ぎ


佐藤りえ
たゞ冬のお菓子売場に迷子なる
猫の子のやうに子供が泣く師走
地味な花買つてクリスマスを往けり


筑紫磐井
壺の中に雪降る如く酒醸す
サンヨウチュウの化石に火花ありといへり
雪山を爵位のごとく頂けり
辰巳湯に小銭の如き柚子の数
人間ひと永遠とはに争ふ されどクリスマス
いつもどこかで戦場のごと雪が降る
ゼームスは小春のごとく無期懲役


【歳旦帖】

飯田冬眞
去年今年鱗の色の変はりゆく
寒波来る不揃ひの歯をむき出しに
初凪や原子炉の火を飼ひ殺す
湾ひとつほのと明るし寒桜
寒釣や銀貨は魚の口より出


竹岡一郎
稲積むや旅に雨垂とはに聴く
ぽつぺんに漁港の皺の深みけり
書初に「鏖」とは優しい子
白みけり傀儡から抜くたましなる
羽子板の押絵の顔としてあたし
西窓や傀儡こまかく解体す
辻につく手毬いきなり石と化す


妹尾健太郎
貫禄もまあ中くらい年男
 ゲゲゲにおけるバイプレイヤー
初夢に食べられかけていたのかも


真矢ひろみ
御鏡の罅の深きを覗く児よ
ぱたぱたとスマホを閉じぬ御慶かな
御降りの溪一筋となりて消ゆ


木村オサム
葬儀屋に積まれし柩年明ける
元日のしづかな紐を揺らしをり
坊主だけ抜き出してみるお元日
踏切の音はたと止む三日かな
静脈に流れるけむり寝正月


神谷 波
全身を洗ひをへれば除夜の鐘
見て見てといはんばかりの初日かな
富士山に雲のちよつかい五日かな