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2017年4月8日土曜日

平成二十九年 歳旦帖 第八 (岸本尚毅・浅沼 璞・佐藤りえ・田中葉月)


岸本尚毅
元日だうでもよくて落葉を蹴る子かな
底ひまで見えて海ある初御空
初凪やペンキと雲の白と白
出初式窓に見えをり小鳥に餌
伸子すこし古風な名前初句会
野良犬を見て初旅の続くなり
やる気なささうに馬ゐる馬場始



浅沼 璞
歳旦 三つ物 
還暦の貫禄もがな鏡餅
 ロッケンロールとぞ花の春
朧夜をとぼとぼ雪の降りかかり


佐藤りえ
歳旦 三つ物
淑気満つチーズフォンデュの面かな
 賀客はいずれ髭の四五人
春鹿も土間も日向に濡れるらむ

かまくらに時間外用小窓あり
逆剥けの新巻鮭が湯の中に
猫が跨ぐプラスチックの鏡餅
シェルターに雑煮の湯気の立つばかり




2017年1月27日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第六 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・池田瑠那・松下カロ・浅沼 璞)




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
寝足らぬ顔顔顔の暖房車
目も脚も頭も黒き冬烏
日へ白く影へと白く返り花




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
此処はもう吹雪の中と手をあづく
凍鶴に月の触れゐる水面かな
薄雪や見馴れし町の屋根の向き




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
枯れてゐる音を流して滝しづか
白い朝に冬の呼吸が始まりぬ
年詰まる塀にもたれて何か思ひ




依光陽子 (「クンツァイト」「クプラス」「屋根」)
ガサ市も消えてゆく世や帰り花
極月や指にはりつく風の端
冬に紛れけふは木賊になつてゐた




池田瑠那
旅鞄曳く石畳寒く鳴る
マトリョシカ頬に赤丸冬あたたか
大鍋にボルシチ澄める暮雪かな




松下カロ
くちびるに血の味すこし冬ざくら
雪降るや少年鷹の死を言はず
廃駅が鯨の中で燃えてゐる
くるみ割り人形なれば歯で愛す
冬ざくら拇印いくたび押しなほし




浅沼 璞
世が世ならと口々に雪ゴジラかな
やほよろづジャパン軟骨クリスマス
出刃を研ぐ目利きちがひの寒鮃







2016年8月5日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第九 ( もてきまり・堀本 吟・浅沼 璞・林雅樹 )



もてきまり (らん同人)
未来より逃げ来てそつと薔薇を吐く
身の中の藪分けゆけば蛇苺 
ダリア濃し平成平和といふ不安 



堀本 吟   
紫陽花や門ごとに佇つ老ばかり  
紫陽花や中耳が痛み始めたり
香りあるような無いよな額の花



浅沼 璞
下水路の遙かに囀れるものら
明急ぐ百景滑稽烏骨鶏
明易き鴉若気の高笑ひ
いきとめてゆつくりはいて夏つばめ



林雅樹(澤)
春深む魔法少女のステッキに
燕来るはめ絵の失せし一片に
二階より反吐の落ち来る躑躅かな
浴室の明り垣根の薔薇を照らす
ほととぎす鞭もて打てば虚子射精









2016年4月22日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第四 (網野月を・浅沼 璞・石童庵)




網野月を
卒業生四年熟成ものワイン
初花の振袖スーツ映えにけり
研究室に角瓶一つ春の宵
送られる卒業生と送る師と
二日後の校舎春光のみ充ちる
寂しさや師は前を向くしかない
年度末来月は未来人来る




浅沼 璞
卒業の看板ありき映画館
紅白梅送辞答辞図鑑賞す
またがつて古木とともに卒業歌




石童庵
卒業す紅萌ゆる丘を背に
卒業す誰とも消息絶つ心算
未練などさらさらなくて卒業す



2016年2月12日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第四 (浅沼 璞・坂間恒子・網野月を・近恵・前北かおる・内村恭子)



浅沼 璞
   悼・澤田和弥
初東雲祈りはいつも目尻から




坂間恒子
初御空ショートステイの母おくる
四日はや整形外科の待合室
人日や百羽の鴉薮のなか




網野月を
来い来いに芒が残り年暮れる
終着駅は始発駅なり去年今年
レンジ上の張りぼて申に咲く淑気
初釜の萩の貫入数えけり
雑煮餅下になるとの隠れいて
三日なら駅伝を視てべっこ飴
伸し餅の耳を磯辺に七日かな




近恵 (炎環・豆の木)
数え日の肉体ことばとは違う
水掻きに血管あまた初日の出
鉢巻に額の皮脂がお正月




前北かおる(夏潮)
惣領の立ち働ける雑煮かな
数の子を白木の箸につまみけり
御降や雲の帳の暗からず




内村恭子 (天為同人)
お降りの静か天井画の豪華
招き猫飾りて仕事始とす
柏手に始まる市の淑気かな




2016年1月8日金曜日

平成二十七年冬興帖 第七 (神谷波・仲寒蟬・岡田由季・小林苑を・福田葉子・浅沼 璞)



神谷波 
十一月海月のごとく過ぎゆけり
ねつとりと枯蟷螂の視線かな
隣席はどちらも他人日短か
凍て雲が猟銃の音撥ね返す
狙はれて鴨は声なく落ちてくる



仲寒蟬
しぐるるや橋の向かうは見知らぬ村
誰も来て影おいてゆく冬泉
手袋の出口さがして薬指
海鼠より海鼠の思ひあふれ出す
枯蓮や空の半分晴れてゐて



岡田由季(炎環・豆の木)
北風や鏡面何も受け入れず 
コーランの一字も読めず帰り花
雪眼鏡かけたつぷりと雪を見る 



小林苑を
クリスマスツリー淋しい犬通る
冬銀河濃し国境は越えられる
落とし蓋して大根のぐらぐらす



福田葉子
月光へ父の目うるむ憂国忌
冬めくカフェ ゴッホの星の瞬きて
昭和平成生きて霜夜の実母散



浅沼 璞
脇さむき女力士の土俵際
落ちませぬ小春太夫が自家発電
暁の反吐は拙者か寒鴉
若年性痴呆空白古日記