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2016年9月2日金曜日

平成二十八年花鳥篇 追補 (関根誠子・飯田冬眞)



関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
ざんざ降りその日椿は地獄絵に
うぐひすや葛をひいたるよな食後
緑陰を分け合ひ私・ハト・すずめ




飯田冬眞(豈、未来図)
半紙にも縦目横目や鳥帰る
理科室の標本覗く揚羽蝶
貝塚は満腹の跡早稲の花
楮の実の赫赫と生れ縄文居
目を伏せよ武器庫に黒き薔薇は散る






2016年8月26日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第十二 (渕上信子・筑紫磐井・北川美美)




渕上信子
わたし違ふでも大虻はついてくる
雲の峰いちごソースのトッピング
蟻歩く虚子散策の道の地図
派遣かい手ぶらの蟻に聞いてみる
汗拭いて一拍おいてから文句
寝室の虫一匹を殺す汗
とんぼあめんぼ国境は静かなり




筑紫磐井
過去未来去来す虚子と灯取虫
擲ってもなげうっても黄金虫
山国(やま)の蝶・山国(やま)の蟻ゐて虚子もてなす
避暑地には本当の恋・嘘の恋
いろいろの戦後おしよせ汗しとど
  小池百合子
鉄の意志・鉄の女に向かへば汗




北川美美
紙の薔薇握り潰せば開きけり
鶯や激しき谷の向こふ側
ペンギンに水という空流し鯵





2016年8月19日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第十一 (西村麒麟・竹岡一郎,・小林かんな,・小林苑を)



西村麒麟
風の宮その足もとに蟻の道
素麺を食べつつ褒める地獄の図
もろもろのことより隠れ昼寝人



竹岡一郎
初夏の記念日舌から吊るさるる人々
初夏の記念日銃の組立選手権
結界のやうに敷きゐて夏布団
梅雨晴間土方巽凝固せる
玉苗は村の虚ろを埋めきれぬ
百年を露台に動かざる爺さま
舟として地獄に灯る夏布団




小林かんな
背の高きマネキン愛でる火取虫  
浮舟の碑を読んでおりサングラス  
金魚より長生きをして詩を読んで  
梁桁の十字に黒し鱧炙る  
理容室の椅子ごと沈む巴里祭




小林苑を
桃咲いて大縄跳びのぱたんぱたん
転居して小さな空に飛行船
瑠璃蜥蜴どうぶつ園の草叢に















2016年8月12日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第十 (花尻万博・水岩瞳・佐藤りえ・真矢ひろみ)



花尻万博
葱の花まどろみの中風聴けば
一人行く境まで羊歯若葉かな
干し蕨白々と刻を入れにけり
美しき岬蝶々新しや




水岩瞳
戦争に使はれし日々 花に問ふ
花の夜句集ひとつも残さずに
Kポップのひとり徴兵花は葉に



佐藤りえ
裏声の占星術師夏きざす
探偵は立つて新茶を飲み干せり
崖うへのゆすらをさはに欲しがりき
羽衣は天女の水着ひとへなる
マスタング路上駐車の青蛙



真矢ひろみ
磐座にブラックスワンかげろへり
空蝉をふるふ頻伽の高声かな
ビル路地の鵺と目が合ふ夏季講習





2016年8月5日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第九 ( もてきまり・堀本 吟・浅沼 璞・林雅樹 )



もてきまり (らん同人)
未来より逃げ来てそつと薔薇を吐く
身の中の藪分けゆけば蛇苺 
ダリア濃し平成平和といふ不安 



堀本 吟   
紫陽花や門ごとに佇つ老ばかり  
紫陽花や中耳が痛み始めたり
香りあるような無いよな額の花



浅沼 璞
下水路の遙かに囀れるものら
明急ぐ百景滑稽烏骨鶏
明易き鴉若気の高笑ひ
いきとめてゆつくりはいて夏つばめ



林雅樹(澤)
春深む魔法少女のステッキに
燕来るはめ絵の失せし一片に
二階より反吐の落ち来る躑躅かな
浴室の明り垣根の薔薇を照らす
ほととぎす鞭もて打てば虚子射精









2016年7月29日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第八 (坂間恒子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)




坂間恒子(「豈」「遊牧」)
風紋を感ずる足裏条黒蝶  
使徒となる泰山木の花の下
青すすき古墳の空気動くかな



下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
何の花ほたるぶくろと揺れてゐて
愛鳥日畳に風を入れませう
蛍袋誰ぞ栖みたるやうに錆び



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
ひととほり習ひし踊り藤の房
枇杷色の浮子を乾したる夏柳
朝顔や面勝つ花は団十郎



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
あらあらと誰が摘みきたる夏花かな
茄子の花如露にぽつりと落ちにけり
舟もなき海の見えたるライラック



依光陽子 (「クンツァイト」「クプラス」「屋根」)
霾風や長啼く鳥は未だ空に
翼あるものへ靡きし茅花かな
八重桜落つるかばんに風が入る





2016年7月15日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第六 (望月士郎・内村恭子・木村オサム・ふけとしこ・仲寒蟬)




望月士郎 (「海程」所属)
春はこつんと卵の黄身に映る窓
鶴帰り折り跡のある紙一枚
朝が来るだれかのからだから桜
湯舟より顔の出ている花の夜
花過ぎの白衣の胸にうすく染み



内村恭子 (天為同人)
やはらかに蕗生ひそむる沢の風
ぽんと蓮開きてよりの朝ご飯
薔薇の園月の出づればまた香り
野を濡らし木椅子を濡らし夏の雨
杏子実れば母の手のあたたかさ



木村オサム(「玄鳥」)
ひまわりを出られず作り笑いでは
罰として尺蠖虫がやって来る
ベネチアに腹違いの兄金魚玉
プラトニックラブの数だけ蛍舞ふ
寂しくて一番長い蛇を引く



ふけとしこ
遠巻きにされてゐる猿松の芯
十薬や道の分かれてまた合うて
雨の日の巣をととのへて鳰



仲寒蟬
 雲飛んで辛夷の空となりにけり
子を叱る女の前を二頭の蝶
雁風呂にほの暗き月昇りけり
黒靴に踏み散らされて飛花落花
天神の細道若葉雨しとど
近づけば増えてゆくなりかきつばた
この蠅と夫婦であつたかもしれぬ

2016年7月8日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第五 (小野裕三・小沢麻結・網野月を・青木百舌鳥・山本敏倖)



小野裕三 (海程・豆の木)
勇気その他ぜんぶ並べて山滴る
赦されるように芒種の瞳集う
風の身体持ち試着室を覗く夏



小沢麻結
言ひさして唇思案チューリップ
紫陽花は水色恋は修羅場色
美央柳蘂の深きに蟻捕へ



網野月を
ウルトラマン好きの私は梅雨生れ
梅雨生れテレビは夢の箱だった
自転車に乗れたあの日の梅雨生れ
背番号28なり梅雨生れ
梅雨生れ安い方から二番目を
恋人よ梅雨に晴れ間の日曜日
やこまんの輸血を繰りて梅雨の冷え



青木百舌鳥
暗闇の水面にとまる落花かな
やがて目を逸らしうららか我と鹿
双眼鏡霾る町の何処か見え
一鉢に満ちしレタスを搔き初むる
水路とはなれど清水の拍子かな




山本敏倖 (豈・山河)
大根の花より貰うシノプシス
輪郭は菜の花月夜あるでんて
半ドアの螢補聴器濡れている
紫陽花や横笛の音の首実検
水中花事実の本籍見ています





2016年7月1日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第四 (陽 美保子・曾根 毅・前北かおる)



陽 美保子(「泉」同人)
水差しに水のしづもり初桜
仙骨を立てて座つて朝桜
夕桜硝子の中に本古りて




曾根 毅
生のはじめの暗きに生まる桜かな
生の途中のくらきに触るる桜かな
生のおわりの昏きに死ぬる桜かな




前北かおる(夏潮)
さらはれし帽子ころがる干潟かな
子に何か訴へられてサングラス
時きたり汐干狩場を開放す



2016年6月24日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第三 (とこうわらび・ななかまど・川嶋健佑)


とこうわらび(鯱の会)
花冷えや切り離されたドアの中
しゃっきりと目を覚ませない海苔かじる
わさび漬け刻む音する夜中かな
前掛けを締めて出陣こどもの日
居酒屋にはじけるラムネ皿運ぶ



ななかまど(鯱の会)
涼しげに鴨川の鴨水を掛け
馬刺喰う隣の人の花粉症
サシ飲みにお前は来んな稲花粉
梅田駅夕凪戦線異常あり



川嶋健佑(船団の会、鯱の会、つくえの部屋)
夏帽子神戸の海に浮いている
電線が絡みあう日の青葉風
ぶらんこに夜風が響く世相かな
向日葵に異邦人来てずっとジャズ

2016年6月17日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第二 (杉山久子・神谷波)




杉山久子
本番の前のためいき柚子の花
燦燦と牡丹の雫日を抱き
白鷲のうしろ白鷺うしろ白鷺



神谷波
日本国憲法前文山藤が似合ふ
山鳩の人恋しげに鳴く立夏
電話切り心残りや牡丹散る


2016年6月10日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第一  (石童庵・夏木久・中村猛虎)



石童庵
梅寒し文革以後は違ふ国
軒端の梅内へ内へと薫りけり
たかんなや京帥に近き杣暮らし
たかんなや同窓会へいそいそと
わくらばの一葉を載せ臥牛石




夏木久
乳液を出し過ぎてをり花ふぶき
春夕もワインも君も傾けり
画面右へ逆説的な菜種梅雨
順調でますます歪暮の春
梔子の錆を落せり比喩として
モナリザの背景辿り何時か初夏
邂逅や若夏へストロー差すやうに




中村猛虎(なかむらたけとら)1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。
向日葵に見つめられていて童貞
花の下きっと私が埋まってる
昼顔や靴紐解けて死ぬしかないか
十五歳無防備すぎるラベンダー
菜の花の塊てんてんてんと海へ
メビウスの帯の如くに夏燕
木苺の粒で閉じたる生態系