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2025年10月24日金曜日

令和七年 夏興帖 第二/令和六年冬興帖 補遺(仙田洋子・豊里友行・山本敏倖・水岩瞳・浜脇不如帰)

【夏興帖】

仙田洋子
麦笛を吹く子に恋の矢の当たれ
雷兆す千住大橋渡りけり
たつぷりと濡れて朝顔市の鉢
亡き夫のたましひの火か螢飛ぶ
蟻地獄しづかに崩し始めけり
河童忌の万年筆のかすれけり
青春の歳月澱む香水瓶


豊里友行
ダンサーの宇宙の息吹よダリア咲く
桃ふたつ水惑星の水動く
薇ののの字のうねり山描く
大花火ぽんぽんだりあの夢野なり
傾けるサングラスの水平線
ひっぷほっぷのもももももももももも桃
今日、薫る新風は森の妖精


山本敏倖
大仏の掌から出てゆく梅雨の蝶
風鈴の目玉が闇を深くする
水中花ひらたく言えば体温計
別の世へ行く道示す水を打つ
雷雲が広がる将棋を差している


水岩瞳
怖いものなんてなかつた夏帽子
其のなかに樹齢千年青嵐
夏草の真つ只中を廃線路
旧式のそよ風よろし扇風機
ネタニアフとプーチンを撃ち昼寝覚
礼拝堂出入り自由や夏の蝶
うなだれし向日葵にある長き鬱


【冬興帖】

浜脇不如帰
主なるきりすとは蕎麦湯に冷えピタを
焙じ茶にたのしまされて初六日
寒鯛はくさりやすくもルームシェア
故国在るたのしさかみしめる鮃
柚子風呂のゆだん海月の不死身度合
せうが酒それと枕のやはらかさ
十字架の主には掛毛布の痛み

2025年10月10日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第十/夏興帖 第一(鷲津誠次・仲寒蟬・浜脇不如帰・杉山久子・辻村麻乃)

【歳旦帖・春興帖】

鷲津誠次
春雷や九九諳んじて長湯の子
廃線の噂遠のく山桜
身ごもりのふいに鼻唄飛花落花
囀りや隣家のピアノ粛々と
初蝶来少年院へ長き坂


仲寒蟬
ヒヤシンス水縦横に都市の底
目の前に山たちのぼる木の芽和
受験生まづはトイレを確かめて
壺焼の水平線や噴きこぼれ
こし餡派つぶ餡派ゐて蓬餅
またあの子菫の前にしやがみをる
西行を呼び捨てにする花の客


浜脇不如帰
こなごなになるまで笑う味噌つくる
ギャンブルは双六のはじまりと〆
古暦そこに画鋲の矛先を
あおむけの地軸のままに餅焼ける
天ぷらの疵を治さぬかまいたち
猪鍋のすすみたるヘーベルハウス
十字架のひかりするどし置蜜柑


【夏興帖】

杉山久子
短夜や色鉛筆の白しづか
腋かたく締めてペンギン南風
酢の香立つ本番前の心太


辻村麻乃
出生の秘密とともに墓洗ふ
蛍待つ髪にねつとり沢の風
手水舎に匂ひ満ちたり樟の花
鉾の鉦鳴らす子尻をはみ出して
質草に桐の箪笥や薫衣香
扇風機止めて本気の喧嘩して
地方車の爆音煽動彩夏祭

2024年7月12日金曜日

令和六年 歳旦帖 第七/春興帖 第三(竹岡一郎・岸本尚毅・浜脇不如帰・冨岡和秀・杉山久子・松下カロ・木村オサム)

【歳旦帖】


竹岡一郎
女礼者とアンモナイトを論じ合ふ
人に化け杓子定規の礼者なり
賭博場へ向かふ礼者に嘆息す
寒声や流謫の嘆き高くうねり
欠けざる歯誇りて漁翁ごまめ嚙む
人日や祟る理由もまた恋と
怨霊の行く方を観る七日かな


【春興帖】


岸本尚毅
豚汁にこんにやく多し雛の宵
筒のやうな白く大きなチユーリツプ
色薄く生れし蠅やゆるく飛ぶ
灌仏や五本の杓のあるばかり
やがて来るものの如くに春の雲
ほねつぎの骸骨と春惜しみけり
老人に魔法の国の亀が鳴く


浜脇不如帰
十字架の掌なら激辛ほたるいか
東京タワーは血の味宵の雉
こきざみに惑える窒素菜種梅雨
とびばこをおたまじゃくしをうつくしく
痛いトコ突かれましたですね目刺
きりすとと鵲の巣と歯磨き粉
まったくの基督はさくらもち気質


冨岡和秀
群棲の萼(がく)をはねのけ踊る花びら
光る家ゆくえはいずこ声を出せ
沸騰する生命波動や舞い踊る


杉山久子
カピバラの食欲無限春の雲
陽炎へ二足歩行のまま進む
春愁や駱駝をとほす針の穴


松下カロ
落第子ジャングルジムのてつぺんに 
ぶらんこに酔ひてジャングルジムに醒め
春の月ジャングルジムに閉ぢこもり


木村オサム
しゃっくりが止まらぬ午後の枝垂梅
モルヒネを増やした朝の薄氷
爆音に怯え蛙か兵になる
落第知るジャングルジムの真ん中で
かげろうの水っぽい手触りが詩だ

2024年6月14日金曜日

令和六年 歳旦帖 第四/令和五年 冬興帖 補遺(杉山久子・木村オサム・小林かんな・ふけとしこ・早瀬恵子・浜脇不如帰・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【歳旦帖】

杉山久子
対岸の仲間へ啼けり初鴉
犯人の見当つかぬ読始
買初の途中のプリン・ア・ラ・モード



木村オサム
人日やみんなうなじにコンセント
人日の埴輪の顏を覗き込む
人日やわたしの中は別なひと
人日のボンレスハムの糸ほどく
人日や仮面外すがすぐ付ける



小林かんな
それぞれの位置に鴨たち初景色
初雀老婆三人手を合わす
浅草に人あつまれば笑初
双六に今年の運を使い切る
比類なき単純であり初芝居



ふけとしこ
虎豆も黒豆も煮え小晦日
砂時計の仄白き影年新た
足跡を州浜に残し初鴉



【冬興帖】

早瀬恵子
顔のなき冬天ゆるび地球弾
噴き出せり抹茶ラテの輩たち
つつがなくワイン日本酒からっ風


浜脇不如帰
きりすとは彼が掌くだきてはつひので
散在したる痛点にすきまかぜ
政権は特におでんの具でもなく
蝶凍つるじかんのひずみ否みつつ
インド式九九のてほどきてぶくろに
金将の裏まで読んでたらばがに
カルバリの主と寒晒寒晒



下坂速穂
水仙やとほくに人のあらはれて
鳥に戻つて冬空へ飛んでゆく
萩枯れていつまで揺れてをりしかな
年下の君にも白髪町も冬



岬光世 
数へ日や仕事帰りに寄る花屋
清き藁匂ひたちたる年用意
小晦日埃の交じる星の砂



依光正樹
人の手と動物の手と冬に入る
冬の音見上ぐればまた雲流れ
スケートや手摺り磨きも楽しくて
寒ければ寒いと言ひし女かな



依光陽子
水連れて雲は来にけり栗の毬
水鳥に無色の水を絵筆かな
水槽の金魚に冬の時間かな
雪来るやがさりと鳴りし袋麺


2024年6月8日土曜日

令和六年 歳旦帖 第三/令和五年 秋興帖 補遺(山本敏倖・岸本尚毅・浜脇不如帰・冨岡和秀・下坂速穂・岬光世・依光正樹 ・依光陽子)

【歳旦帖】 

山本敏倖
滅びなる予言のかたち元旦の地震
鏡餅ずらし平和を呼び寄せる
液化するピアノのような初日かな
初夢を覚めても醒めても夢の中
霊辰(れいしん)の扉を開き水を歩く


岸本尚毅
近づくや花びら餅へ鼻と口
水仙がおもちやの如し避寒宿
伊勢みちや冬田の雀みな空に
ひしやげたる箱を苛み寒鴉
スズメ鳩ヒヨドリ枯木おじいさん
もの問ふが如き木の影春近し
笹鳴やうす濁りしてあら煮の眼


浜脇不如帰
冬耕の痕が微かに将棋盤
泰然と構えてしまえこたつねこ
富士額てかげん無用雪礫
きりすとが電気はしらす鶴の骨
冷やかしてげふっと冴えるウィルキンソン
十字架の苦すら本鮪の造
緩急をツケて湯気立つ卅日蕎麦


冨岡和秀
旅涯てに地獄めぐりや恐山
斜陽館文士の声が滲み出す
虚家(からいえ)はいずこにゆけば光満つ


【秋興帖】


下坂速穂
或る町の消えて道ある秋彼岸
厨房の二人に狭し小鳥来る
隙のなき色となりたる唐辛子
水澄みて校歌はいつも山や川


岬光世
新秋や波除願ふ水の音
秋桜ををしき海の鳴り止まず
蔵町を舟と流れて後の月


依光正樹
石ごとに丸みのちがふ水の秋
携帯のなきころの吾秋が澄み
秋の野や桜でんぶの弁当も
町に入りて秋の気配の遠くなり


依光陽子
るりしじみ秋へ秋へと誘ふは
波音のする人美術展覧会
眼の玉に水陰うつす蜻蛉かな
空を来て花野に遊びゐたる人

2024年5月31日金曜日

令和六年 歳旦帖 第二/令和五年 秋興帖 補遺(小野裕三・水岩瞳・神谷波・早瀬恵子・浜脇不如帰)

【歳旦帖】

小野裕三
麺類の看板続く小正月


水岩瞳
元旦や揺れて机の下に入る
二つの神籤いいとこ取りする辰の年
二日はや隣りの坊のバイク音
胡桃入りのごまめまだある五日かな
図書館に十代の句集春隣


神谷波
まんまるの月数へ日の窓ごとに
元日の暮れかかる頃家揺れる
吹きとんでしまふ正月気分かな


【秋興帖】

早瀬恵子
長き夜の脳内パズルかけめぐる
降りみ降らずみアナーキーな秋
点滴と酸素の母じゃ澄み渡る


浜脇不如帰
あかるくは月と椛と基督の肩
ほつるるはできれば秋分の日でも
双肩がちきゆうをわかるむししぐれ
右肩を失くしたやうに瀑したり
馬肥えてやつと雲の上を語る
月の砂齧る6番アイアンに
地にいちど転がりし柿かも基督

2023年6月30日金曜日

令和五年 春興帖 第三(山本敏倖・小林かんな・浜脇不如帰・仲寒蟬)

【春興帖】

山本敏倖
春うらら四分音符らと街へ行く
青だけの空に貼りつく飛花一片
骨格に浮力を付ける花明かり
陰陽はとろいか春の腹話術
ぎやまんの奥の奥へと麦を踏む


小林かんな
弁財天へ橋もり上がる花筏
物種蒔くこの地に都永くあれと
大陸の裳裾を絡げ潮干狩
ひこばえる命婦侍従のみな低く
峡越えくる田螺売も花嫁も


浜脇不如帰
十字架は花火かバラエティ豊か
脇にキズ鮎にカルシウムが足らず
扇ぷう機それが自転の精一杯
じょうねつが炎えさかるほど水鉄砲
はれわたる月水金の雪解富士
空腹が兄弟のいくさを起す
「十」が天圀江の鍵やおとしぶみ


仲寒蟬
梅嗅いで発掘現場へと通る
夕桜旗亭に死すと年表に
クラスには翔平ふたり入学す
二流国などと自虐を目刺食ふ
亀鳴くや原子炉は地にうづくまり
春眠や涎たふとし老僧の
林檎咲くロシアを嫌ひにはなれず

2022年11月25日金曜日

令和四年 夏興帖 第六(鷲津誠次・木村オサム・青木百舌鳥・望月士郎・浜脇不如帰)



鷲津誠次
頬骨の尖る老母よ夏の蝶
しかと見つめられおののく油虫
かなぶんぶん転校生にやたら寄る
先頭はくじ引きで決め蟻の列
咄家の善き友ならん雨蛙


木村オサム
万緑を見上ぐ胃腸の弱い人
不眠症水母の中は遊園地
手術室に無かったですよ風鈴は
朝曇顔の歯車噛み合わぬ
夕顔に合はせて土下座しに来たる


青木百舌鳥
りんりんと麦茶鳴らして配りけり
胡麻油香り鱧天穴子天
植樹して梅雨の濁りを汲み来たる
雌雄無きかたつむりとて紅濃きは


望月士郎
疑問符のかたちにみみず干乾びて
白玉のあたりを女医に診られてる
熱帯夜たらりたらりと砂時計
空蝉が背中に爪を立てている
どの窓も殺意やさしく大西日


浜脇不如帰
二千年オーバーエージ枠の神
百世紀かけて櫃まぶしをペロリ
成金を中トロで別件逮捕
すみません時間がなくて揚花火
らいてうのココロ毎秒半年後
箱眼鏡生温かりし壱気圧
十字架の鮎そのままのたなごころ

2022年8月12日金曜日

令和四年 花鳥篇 第三(曾根 毅・瀬戸優理子・浜脇不如帰・小野裕三・小林かんな)



曾根 毅
葉脈の薄きひかりを囀れり
光る桃われと齢をともにせし
湖の水底固し花の冷え


瀬戸優理子
合格を決めし拳や春にひらく
巣立鳥指紋の残る子供部屋
泣きすぎの眼が雲雀野に途中下車
アマリリス恋した記憶だけ脳死
花は葉に二度目は事実婚えらぶ


浜脇不如帰
テロメアの増しゆく癌のねぐるしさ
無訓練冷酒キラーT細胞
涼しげにきびすまで真空パック
七重虹ラザロにもキリスト泪
涼やかに地を刺す十字架の柔和
貫く棒じゃなく彩濃しなつやすみ
カルバリの十に畏まるがラムネ


小野裕三
春眠の稀に平行四辺形
設計図通りに咲いて一輪草
豆の花双子似たまま老いゆけり
囀りや離れ離れにショベルカー
傷心に虹と名づける選択肢


小林かんな
初夏を行きつ戻りつ鶏冠の緋
あめんぼと古墳と浮かぶ昼下がり
空海へさかのぼる寺燕子花
鳥たちも天皇陵も茂りのなか
山滴る神杉のそこかしこ

2022年3月18日金曜日

令和三年 冬興帖第六/令和四年 歳旦帖第六(男波弘志・望月士郎・のどか・小沢麻結・前北かおる・浜脇不如帰・木村オサム・鷲津誠次)

【冬興帖】

男波弘志
色が欲しくて影踏みをしています
寒月に眉間をひらく獣たち
冬の芽よ鬼になりたる大人(オニ)たちの


望月士郎
訃報というキリトリ線や冬鷗
痛くない死に方マフラーの巻き方
私の棲むわたしのからだ雪明り
予後すこし兎のしっぽ狐のしっぽ
みずうみの深層心理ささめ雪


のどか
小春日や飼ひ馴らさるる天邪鬼
大枯野夢の駿馬を放ちけり
阿智村やシリウス行のロープウエイ
真つ白なスニーカーにある初昔
油彩画の農夫のやうに寒肥うつ


小沢麻結
河豚鍋の雑炊までは記憶あり
梅肉を添え寄鍋の締め饂飩
鍋にして白菜豚肉花の如


前北かおる(夏潮)
ばつさりと剪りたる薔薇に寒ごやし
いかづちの如くに枯れし薔薇かな
冬薔薇日比谷公会堂とざす


《歳旦帖》

浜脇不如帰
きりすとやお節にあって過分ナシ
大皿にならぶてっさはみえる銃
ヨク咲うコ程すぐ泣くお年玉
年末始面目埋まるシャトレーゼ
風花のように巧くは語れざり


木村オサム
輪の中のわたくし越しの御慶かな
輪になって嘘の初夢語り合ふ
断崖へ輪舞で向かふ嫁が君
知恵の輪を放れば解ける淑気かな
ぽっぺんを吹きメビウスの輪を進む


鷲津誠次
ふと浮かぶ一句小さく初日記
村いちばんよく泣く双子福寿草
初湯して推敲よもや捗らず
人日やタイムカードの打ち忘れ


男波弘志
漸ように白い日向となりにけり
餅を切る息のつづきにある廊下
廓ごと闇になりてや嫁が君

2022年3月11日金曜日

令和三年 冬興帖第五/令和四年 歳旦帖第五(網野月を・田中葉月・なつはづき・浜脇不如帰・木村オサム・山本敏倖)

【冬興帖】

網野月を
寄り竹の中の緑や冬はじめ
長濤忌黒のドレスに青差しを
オーボエの音に隊を組み白鳥来
姫熊手鯛は金魚に飾り櫛
出来映えは上の下ほどのシュトーレン
大鵬もゴヂラもクリスマスツリー
泥つきの葱を読売新聞紙


田中葉月
冬夕焼ゆつくり拒むレクイエム
裸木や影なきものを走らせて
野水仙あなたの横顔すてきです
まあだだよ枯野に星のかくれをり


なつはづき
冬の薔薇反旗しまったままでいる
寒波来る影を持たない稚魚の群れ
この鍵が短刀になる十二月
猫脚の椅子ぐらぐらと三島の忌
おでん酒回想いつも殴り書き
ポインセチアぽんとコルクの抜ける音
スカイツリー見上げ白菜重くなる
寒雷やおんなは猫を捨てにゆく


浜脇不如帰
十字架やえんがわ迄に味広き
その西は起立しかなし寒鮃
垂涎を来すヤキトリウォッチング
悴んで未だ固かるアルフォート
鱶や虫歯には挫けず波に泣く


木村オサム
消えさうな顔に囲まれ大くさめ
道化師の中は枯木のかたちです
冬の虹見えて埴輪の変声期
葱抜いてみても境涯変わらざる
相席の人に早梅教えられ


【歳旦帖】

山本敏倖
元旦の硝子のような空気かな
鏡花まで明治の路地を破魔矢行く
手のひらの生命線へ射す初日
若水や過去を開いてぬり絵する
鏡餅は時限爆弾でありけり


網野月を
斛斗雲孫と語らふ三が日
駅名に無き新浦和福笑ひ
浦和にも夜霧へ礼を言ふ奴が
寒卵コンツアーボトル握りしめ
美美の忌やひもかわ少しやわらかめ
心臓のあたりの痛み浮寝鳥
水騒にだんだん慣れて日向ぼこ


田中葉月
去年今年エッシャーの階段にゐて
掛け軸の虎の目うごく初明かり
栴檀の大樹言祝ぐ福寿草
一月の漁火ゆかしシュガーロード


なつはづき
こんなにも我が名うつくし年賀状
はつはるや猫喜ばす羽織紐
電話出る初鏡から飛び出して
ホームからはみ出し止まる宝船
独楽の紐借りて男を縛りけり

2021年3月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第九/令和三年 歳旦帖 第十(小野裕三・飯田冬眞・妹尾健太郎・浜脇不如帰・五島高資・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】


小野裕三
プレッシャーに強き青年悴めり
鳰の岸幽霊話ある酒場
オーバーの自由な色で吊るされり


飯田冬眞
寒椿奔馬のごとき運命線
冬の蝶壊るる色を引きずりて
冬木立鏡の国に迷ひこむ
寒木瓜の瘦せて原色のくちびる
寒明の紙は一途なる凶器


妹尾健太郎
妙薬の角狩人の手には無し
にょっぽつりつららのつらのうつらつら
物さがす冬服のどれみふあ
縄跳に時化はじめたる校舎裏
この辺かやや下か大根の首ねっこ


浜脇不如帰
おんらいんしょっぷのシラタキのカラミ
虎河豚はあぶらぎらないフルボディ
「ほんじゃこりゃぁ」Gパン畳む寒夕焼
敗北に得るもの診出す河豚鍋
カピカピが新米ならば缶バッジ
生きて置く要するに意地寒鮃
主イエスの血さらりキッパリ霜柱


五島高資
乗り降りもなくドア閉まるレノンの忌
星空やマスクを取りに帰りたる
飴玉を落として洗ふ寒九かな
寒林や赤色灯の駈け廻る
涸れてなほ夜の病院に水の音


【歳旦帖】

下坂速穂
近況のさても短き雑煮かな
寒紅や江戸の鬼門に棲んで佳き
足音の風のごとしや寒念仏
人去りて人あらはれて露地寒し


岬光世
初凪へ斉しくあらむ願ひ事
切山椒開化の町に商へる
親筆や上寿を記す年賀状


依光正樹
人待つてゐるせはしさに年用意
年の瀬のコートまとつて暑がりで
年の音ひとつひとつの芽が生きて
眺めては灯りがあたり年の花


依光陽子
極月や我が笑ひ声遠のき
見えて来るものを見るべく初旦
星を読む人のことばを仏の座
一月や動かないもの動くもの

2020年9月25日金曜日

令和二年 夏興帖 第八(なつはづき・渡邉美保・前北かおる・浜脇不如帰)



なつはづき
青葉騒悲しいときは歯を磨く
風鈴や誰かの思い出にわたし
日雷荷台に剥き出しのギター
急に真顔ボートを揺らすひとことに
途中からハミングになるソーダ水
叶わないくちづけが浮く金魚玉
水中花ベッドの下という魔界


渡邉美保
葉桜のトンネルつひに抜けられず
鰺割きの欠けし切つ先晩夏光
川岸の流木を蟻走りゆく


前北かおる(夏潮)
二の腕をさはりにくる子早桃むく
コンビニのかち割り氷首にあて
地下の扉をひらけばごつた返す夏


浜脇不如帰
「じゅうじか」や百割引の鉄火巻
陽子にはまるでふれずに海水浴
打水や青信号で白いトコ
人力車いわしみず足す男梅
雲海は宙が自ら諦めた
むらさきの充つるイケイケ作り舟
梅雨茸は星をそこまで謳わずも