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2022年3月4日金曜日

令和三年 冬興帖第四/令和四年 歳旦帖第四(花尻万博・岸本尚毅・内村恭子・山本敏倖・ふけとしこ)

【冬興帖】

花尻万博
炭飛べり教科書に季語古びつつ
水ありて舟となる木々枯葉寄せ
海鳴れり子ども崩せる煮凝りに
木の国の鯨に故山ありにけり
白髪に隠るる耳に届く雪か
狼の大きな母屋欲しがりぬ


岸本尚毅
風花やぽつんぽつんと雲のあり
窓よぎる風花の皆同じ向き
寒林を来て顔ほどのメロンパン
晴着の子毛皮だらりとして遅刻
この庭に水仙のある月日かな
マフラーの二人並びて猫撫づる
雪達磨よろめくさまにとけ細り


内村恭子
寒暁や沼にあまたの鳥騒ぐ
雪吸うてをりしが積もり初むる沼
不確かに雪を探れど失せしもの
石壁は果てなく続く冬館
寒の月蛇口より水迸る


山本敏倖
福耳が一つ付いてる冬座敷
間口二間の障子を染める昭和かな
人間につるんと入る雪の精
紅葉散るもう引き算はいらない
シナリオの歩幅は雪の円周率


【歳旦帖】

ふけとしこ
太箸や袖口といふ邪魔なもの
漁休み焚火に竹の爆ぜる音
左義長の果てて大きく水溜り


岸本尚毅
日々に猫屯す家や松飾
嫁が君病める茅舎にささやける
初富士のざらざらとして光りけり
繭玉のうつろに映る硝子かな
福笑そのまま誰もゐない部屋
松過や昼餉に鯖の一夜干
置いてあるやうに老人初大師


内村恭子
初松籟白衣古武道者の集ふ
元朝や渓谷によき風の音
まづ松の枝ぶりを褒め年賀客
菓子切れば富士現るる大旦
再開発地区ビル街の御慶かな

2021年8月13日金曜日

令和三年 花鳥篇 第七(眞矢ひろみ・浅沼 璞・内村恭子)



眞矢ひろみ
全身を覆う看護師袋角
はくれんや白とは空で無ではない
蕗味噌の苦み男娼連れ歩く
ぶつ切りの蛸の総身を逆算す
柘榴咲く六は完全数だから


浅沼 璞
金蘭のあかるさ肉のまろやかさ
襖絵の龍の瞳やうすら繭
月涼し鸚鵡無言のまゝ飼はる
日や弓のしなりて海は夏の海
短夜のマウスピースは水の底
母の日は大陸父の日は列島
首浮かしゆく夏霧の向うがは


内村恭子
アクリル板だらけ金魚になつた気分
非接触電脳決済冷房裡
断捨離もし尽してをり走り梅雨
椅子に×(バツ)もしくは蓮の花の鉢
吊り革につかまる手なき薄暑かな

2020年4月17日金曜日

令和二年 春興帖 第五(内村恭子・早瀬恵子・渕上信子・真矢ひろみ・仲寒蟬)



内村恭子
踏青や道を聞かれてばかりゐる
邸宅の裏庭に入る鳥交る
春を待つ次の間飾る銀食器
生前のままの書斎や冴返る
春暖炉泰西名画一面に


早瀬恵子
血圧と脈拍99 66 77(ゾロメ)春立つ日
コロナウイルスVS東京大空襲忌
パンデミックさくらの女神号泣す
仏壇にお迎え祈る母の春
デュオや吹かれゆく蝶々と和毛


渕上信子
蛇穴を出てコロナつてなに
三月や無人の滑り台
ふらここの人たちまち寝落ち
春のマスクを洗つては干し
囀のつひにパンデミツク


真矢ひろみ
じゅん菜のぬめりぷちぷち甘露かな
禍々しきは菜の花の昏きより
煌めきを十把絡げぬ春の川
春一や暖色電球廻し点く
春愁ひゴルゴンゾーラを二三片


仲寒蟬
キャスターのピアス揺れをり今朝の春
流氷に乗つてどこぞの神が来る
ヒヤシンス顔洗ふ手に水鏡
徐々に声高紅梅派白梅派
初蝶の飛ぶといふよりただよひ来
先生のやけに小さく卒業式
なまじ音立ててさびしき風車

2020年1月10日金曜日

令和元年 冬興帖 第二/令和二年 歳旦帖 第一(小林かんな・池田澄子・辻村麻乃・内村恭子・中村猛虎・夏木久)

明けましておめでとうございます。
昨年から、俳句帖の掲載ペースが落ちており、出来るだけ季節感と合わせるために、複数の季節を同時掲載することとしました。現在夏興帖は終わり、秋興帖と冬興帖の掲載が進んでいますが、まだ当分同時掲載が続くと思います。このような中で恐縮ですが、歳旦帖を開始させていただきます。
このため、掲載が遅れている方、また掲載にあたり秋と冬の掲載の順番が変わっている方から問い合わせを頂いています。BLOG参加者にはご迷惑をおかけいたしますがご宥恕ください。

筑紫磐井


【冬興帖】
小林かんな
太陽の塔へ冬日のモノレール
着ぶくれて亜細亜の百の仮面の前
死者包む装束の紐冬の蝶
小春日のサバニの上に魚籠と櫂
ゆりかごも呪術の品も藁仕事


池田澄子
冬ざくら谷へこぼるるしずけさよ
凍月夜しずかになさい紙袋
膝掛毛布催眠剤を飲むか否か
寒き夜のひとりのお茶の濃すぎたる
雪の気配うしみつどきを寝そびれて


辻村麻乃
鐘島に波の鳴りたる冬夕焼
航跡波うねりてきたる鰤起し
路地裏の路地を迷いて冬花火
一艘の呑まれゆきたる冬紅葉
長瀞に石の積まれて冬うらら
燦燦と擬宝珠に冬陽跳ねゐたる
虚無と云ふ鬼の底這ふ十二月


内村恭子
雪の高野手に手に幣を携へて
寒暁や僧の手が撒く紙の蓮
勤行に凍つる手合はす夜明かな
手を組みて宇宙は遥か息白し
胼の手で修行の僧が運ぶ膳


中村猛虎
唇を這わせて進む大枯野
懐手袂に触るる龍角散
冬の稲妻撃ち抜け心臓はここだ
食パンに入れる刃の音冬に入る
枯野人明日履くための靴磨く
悴んでいても今夜も生きている


夏木久
小春日へ箸落としましたねあなた
歓談をしつつお昼を雪達磨
非難甘受冬へ脚立を立てかけて
裏窓や朝日の当たる駅その他
出口だと?そいつは冬の入口だ
金継や偶に傷口べろつと舐め
さうだらう南瓜の返事はNOだらう


【歳旦帖】
辻村麻乃
おでんから引いては足して銀の匙
冬花火上がりで山の定まりぬ
五千頭の龍冬天を睨みをり
足裏より凍突き上ぐる大伽藍
礫岩層十指に余る初御空

2019年7月12日金曜日

令和元年 春興帖 第八(内村恭子・林雅樹・神谷 波・北川美美・中村猛虎)



内村恭子
鳥のごと石油掘削機の春愁
パイプライン春の原野を貫きて
蜃気楼海上プラントの遥か
夕凪をタンカーのゆく遅日かな
タンクローリー銀色に風は春


林雅樹(澤)
恋猫や煌々として花やしき
回春の妙薬は砒素木瓜赤し
妾宅の猟奇殺人濃山吹
朧月屋形船にて乱交す
国道に馬牽く人や春の雲


神谷 波
たんぽぽの絮吹きをはり走り出す
宮殿の男手に手にチューリップ
用忘れ花に見とれる二階かな
さくら散る夜と昼とのあはひかな
改元初日うぐひすは普段通り


北川美美
春陰の臨月となる妃かな
魚屋が逗子駅前に桜海老
青山椒一合半の米を研ぐ


中村猛虎
意地悪なこの意地悪なチューリップ
靴裏の紅きヒールや夏燕
褒められる事なき齢鳥曇
骨壷の蓋開けている蛍の夜
残雪や賽の河原に石を積む

2019年3月1日金曜日

平成三十年 冬興帖 第八(真矢ひろみ・堀本 吟・内村恭子・青木百舌鳥)



真矢ひろみ
御講凪みな悪人にして笑顔
テロありし大路を渡る冬の月
煮凝りや液化せし魂見える化す
瞑りゐて三日とろろを泳ぎけり
箱庭にけもの道引く春隣


堀本 吟
日の射すや紅葉散る森ふかく行き
片時雨電話ボックスただ独り
そらいろに翳る皇帝ダリアの域
冬に咲くダリアも仮のあはれかな


内村恭子
二日はや川辺はアスリートばかり
氷壁を数歩穿ちてまた静寂
猟銃音ノイシュヴァンシュタイン城の朝
アイスホッケー防具外せば細き肩
無念の帰還とアノラック飾られて


青木百舌鳥
金剛の砥の粉にまみれ霜の舟
PRINCESS PRINCESS(プリプリ)は我になつかし公魚釣
道わたりくる公魚の釣師かな
生きてゐるものとは見えず暖め鳥

2018年7月13日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第四(岸本尚毅・渡邊美保・神谷 波・木村オサム・堀本吟・内村恭子)



岸本尚毅
どの店の煙ともなく梅雨の路地
店の中あちこち眺め麦酒のむ
蚊喰鳥後生鰻の水深し
世紀末過ぎて久しき昼寝かな
眉と髯こぞりめでたき裸かな
南瓜抱く夕焼村の村長は
昼顔が遠く咲くのみ昼休


渡邊美保
ボール蹴る少年老いて花は葉に
賞品は白詰草の首飾り
曳航の後の高波夏燕


神谷 波
つれだつてつつじを越える揚羽と揚羽
昨日ほととぎす今日鶯の主張
気兼ねなく十薬群れる日陰かな
あぢさゐの「あ」のいきいきと濡れてゐる


木村オサム
夏蝶来君に寝癖がある限り
潮まねき波打ち際の音たわむ
文字のなき砂漠の上を紙魚走る
町内に虎いる気配大西日
許されたつもりまくなぎついて来る


堀本吟
神功皇后陵
亀石や亀の祖先と鳴いてみた
蜂飛んで来るも高くもない鼻に
はんかちを線対称にわかつ蟻
白砂に倦み巌磐井石清水
神功皇后陵ある村や立葵


内村恭子
ゴンドラの櫂の音響く夏館
夏潮や波音に消ゆ「タジゥ」の声
パラソルはいつも青白縞模様
夕星を待つ中庭の噴水に
衣擦れと甘き音楽夏至の夜の

2018年5月25日金曜日

平成三十年 春興帖 第六(木村オサム・渡邉美保・内村恭子・真矢ひろみ・前北かおる)



木村オサム
三猿のでんぐり返る春の泥
形代を透かして見やる春日かな
家政婦がとある女雛に耳打ちす
夜桜やパジャマのままでコンビニへ
真夜中に遇ふ三匹の孕み猫


渡邉美保
花曇うつぼかづらを吊り怠惰
うつぼかづらに誘われてゐる花の昼
臨界とは浦島草の裏表


内村恭子
応接間いつもひんやり風光る
春浅しレースのカバー長椅子に
アップライトピアノに少し春の塵
春宵の硝子の煙草盆光り
朧夜や百科事典の並ぶ棚


真矢ひろみ
空豆を炒る素粒子にスピンあり
落花止まず翳らしきもの魂らしき
副作用とは青饅の舌ざわり
シャボン玉短詩はアイデア勝負なの
春灯ちゃぶ台返しを躊躇わず


前北かおる(夏潮)
囀や目覚めの遅き木を仰ぎ
はすつぱにつつじの花のひらきけり
桜餅みやげ話を朗らかに

2018年4月13日金曜日

平成三十年 歳旦帖 第五(松下カロ・内村恭子・浅沼 璞・渡邉美保・佐藤りえ・筑紫磐井)



松下カロ
人日の一駅先の合鍵屋
刻まれて芹は小さな島となり
だぶだぶの花柄パジャマ小正月


内村恭子
初浅間風のナイフが削ぎ真白
狛犬の化粧際やか初詣
中京や雪積もりゆく犬矢来
飼犬はをらず読初に八犬伝
ロビーに金屏風外は銀世界


浅沼 璞
歳旦三つ物
犬あまた初日まぶれに丘の上
 飼主たちの交す年酒
花を酔ひ月を酔うてはギター抱き


渡邉美保
お焚上の最後の榾の燻れり
あやふやな顔となりけり初鏡
日照雨きらきら予定なき五日
人日の魚の肝のゼリー寄せ


佐藤りえ
あはゆきをたつたひとつのお守りに
クレヨンの海漕ぎいづる宝船
大寒や末の娘も指圧中
履き物の出尽くしてゐる三が日
野良猫に尾など振られて御慶かな


筑紫磐井
平成のなつかしくなる初放屁(おなら)

2018年1月26日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第三(内村恭子・曾根 毅・神谷 波・渕上信子・大井恒行・前北かおる)



内村恭子
天窓の氷雨やフィヨルドは青く
窓に霜帆船沖をよぎる朝
毛糸編む窓辺漁より夫帰る
島に婚ありし暖炉の赤々と
冬深む夜の深さのままの朝


曾根 毅
寒林過ぐ次の電車は血を流し
どの指も朱肉に塗れ年の暮
白菜と白菜と黒いビニール吹かれ


神谷 波
石の上枯蟷螂の眠さうな
いろいろなことあり冬至のメロンパン
クリスマスイヴで大安で大欠伸
金星のここぞとばかり枯木道


渕上信子
八王子初時雨を自慢
煤払この女螺子どこから
寒鰤捌く腕逞しき
リルケを刺して冬薔薇の黙
懐炉背中にスーパームーン
寒オリオンのいよよ仰け反る
すべて些事冬の大三角


大井恒行
寒影を温くわかちて街の角
災後にも七年(ななとせ)はあり雪の華
石蕗黄なり故郷の姉はみまかりぬ


前北かおる(夏潮)
小春日や甘蔗畑の道なほし
渓流に魚の影なき真冬かな
駆け付くるサンタクロースイルカショー

2017年12月1日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第六(花尻万博・山本敏倖・内村恭子)



花尻万博
白露や人を避(よ)けては人に寄り
獣らは無言楽しみ花園よ
烏瓜夕日に緩みあらぬかな
今寄せる波聞きゐたり名残蚊帳
無花果や光の上を光垂れ
芒原波となる音微かなり


山本敏倖
望月のごと正座して妻を待つ
ふらんすの容の秋思翻訳す
山粧うプチ整形の手術痕
天元へ行って帰って野菊なり
胡桃割る列島の角現れる


内村恭子
月忙し神話の女みな住ませ
写真傾けハロウィンの異人館
コンテナの角をきりりと秋高し
雨催ひ路地の焼き栗よく匂ひ
路地赤く染め秋霖の中華街

2017年9月1日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第一(仙田洋子・杉山久子・仲寒蟬・望月士郎・内村恭子・松下カロ)



仙田洋子
さびしさのはじまりの白さるすべり
いつまでの後半生や水中花
阿弖流為の霊を鎮めて蟬時雨
見つめられすぎて琉金あつち向く
熱帯魚めまひしさうな数となる
迷惑よ明るすぎたる向日葵は
時計草昔の住所うつくしく


杉山久子
アライグマ生息地図や明易し
ががんぼのせまる洛中洛外図
防災機器管理課長の足に蟻


仲寒蟬
きつかけはただ一匹の蟻なれど
山三つかけ持ちにしてほととぎす
灯台の閂として黒揚羽
ちりちりと火の回りたる毛虫かな
虫捕りの極意や一子相伝の
地下室のサンドバッグや明易き
交代の車掌の頬へ夏の月


望月士郎
地下街に噴水見てた変声期
再会や握手の真ん中に金魚
オルゴールの中にさびしい甲虫
夏は幼女の九九が聞こえる二人が死
ずーっとひまわり原爆ドーム何個分


内村恭子
世紀末の重さの鍵や風死して
夏の果骨董市にバンドネオン
旅情とは夕焼の路地とピアソラと
白服の男ばかりの酒場なり
ラプラタの河口に銀の夏の月
革命の街に噴水高々と
薔薇絶ゆることなしエビータの墓碑に


松下カロ
フィレンツェの聖母子永遠(とは)に滴れり
パンナイフへなへなとして雲の峰
ハンカチに包みそのまま忘れけり
ジェット機が近づいて来る百合の茎

2017年7月21日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第四(林雅樹・内村恭子・ふけとしこ・小野裕三・木村オサム・前北かおる・加藤知子)



林雅樹
満を持し放つおならや松の花
二の腕にまゆみ命や桜鯛
ネル着たる長濱ねると握手せむ
銅像を染める雨粒楠若葉
仏語授業さぼりし葵祭かな

【紹介文・近況】
一九六〇年生。一九九四年から小澤實に師事。二〇〇〇年澤入会。二〇〇二年 澤新人賞、二〇〇三年第二回澤特別作品賞受賞。現在澤同人。著書:『喨喨集: 鷹新人スクール句集』(一九九五年)『俳コレ』(二〇一一年)(いずれも共著)最近は句会も吟行も縁遠くなって、結社誌以外では、このなんとか帖がほぼ唯一の作品発表の場である。


内村恭子
旅楽し大樹の陰に瓜を食む
灼くる地の国境点線にて真直ぐ
大いなる作り滝ありけふの宿
楽園にバビロン思ふ茂りかな
オアシスの井戸を照らせる夏の月
噴水に夜はライオンの来てゐたり


ふけとしこ
木漏れ日揺るる梅花藻の白揺るる
葭切に舟板塀にミサイルに
鮮血は椋鳥のもの姫女苑
ひよこ豆ひとつ含めば百合ひらく


小野裕三(海程・豆の木)
空梅雨の素足の部屋のトムとジェリー
不屈と言うは容易き言葉月涼し
階段がよく広がって満天の夏
夏の露弁天島を研ぎ澄まし
壁に大穴塞ぐでもなく梅雨長し


木村オサム(「玄鳥」)
囀やローマ帝国衰亡史
暮の春音叉かざして気球待つ
モノクロの記憶の底のチューリップ
梅雨深し自画像がみな河馬に似る
突然の泉に出会ふまで歩く


前北かおる(夏潮)
椋鳥の群枇杷次々に撃墜し
放課後の枇杷の梢に金髪君
日と陰と接するところ夏の蝶

【紹介文・近況】
1978年4月28日生まれ。高校時代、本井英先生に作句の手ほどきを受ける。慶大俳句、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加。長男藤次郎の誕生を記念して、句集『ラフマニノフ』(2011年、ふらんす堂)を上梓。長女翠の誕生を記念して、句集『虹の島』(2015年、ふらんす堂)を上梓。2016年は年間150回出席を目指して句会に励み、これを達成。2017年は年間200回出席を目指すも既に黄信号。俳人協会幹事。日本伝統俳句協会千葉部会副部会長。千葉県俳句作家協会理事。ブログ「俳諧師 前北かおる」http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/


加藤知子(「We」「連衆」「豈」)
少し湿る花びらほどの霊安室
夏カーテン開けて筋肉ケンタッキー
靴脱いで謀議しただけアマリリス
水張田を横切る風の無言なり
茅の輪くぐり無限大という宿題

2017年5月19日金曜日

平成二十九年 春興帖 第五(内村恭子・仲寒蟬・松下カロ・川嶋健佑)



内村恭子
浅春や眉をきりりと狐絵馬
白梅や蕾は清らなる緑
春浅き三条に買ふ酸茎かな
春温し人寄れば鯉泳ぎ出す
白梅や根付に千の物語
浅春や京の深きに鹿ヶ谷
春昼や蛇腹で閉ぢるエレベーター



仲寒蟬
啓蟄のはちきれさうな餃子かな
その中の一人は刺客花衣
一ヶ所に○春宵の解剖図
ファックスの紙の丸まる仏生会
深海生物大図鑑へと菜飯こぼす
春水の濁るとはよみがへること
馬を見かけず春昼の競馬場



松下カロ
きさらぎの青年をまた見失ふ
責め具とも春の回転扉とも
百人の男うつむく鳥帰る



川嶋健佑(船団 鯱の会 つくえの部屋)
駅舎傾いて新生活はだるい
春風が吹いても今日は家にいる
蛍光灯割れてきらきら風光る
言い訳をまず言ってみる石鹸玉
愚痴ってもいい春霖の傘の下

2017年3月24日金曜日

 平成二十九年 歳旦帖 第六 (小沢麻結・池田澄子・陽美保子・内村恭子・小野裕三)



小沢麻結
踏まれたるより光初め霜柱
けんちんの大鍋煮ゆる初閻魔
初不動火の粉火柱湧き上がり


池田澄子
二人して寒しと月を斜め上
ひかり眩しく愛は煩く返り花
蓮根の穴の空気を解放す
馬車馬の昔ありけり雪へ雪
ぼたんゆき神よ父よと口に出さず


陽美保子(「泉」同人)
骰子の一の目の出る淑気かな
絵双六京の名所に休みけり
絵双六狂歌を詠めと言はれても


内村恭子 (天為同人)
青空を忘れがちなり年用意
羽子板市異国の王女描かれて
数へ日や神保町に山支度
大きからむ洪積世の初日の出
次々とピザ焼き上がる四日かな


小野裕三(海程・豆の木)
頭骨標本日陰に連なり大晦日
宝舟遠来しんじつ笑うは誰
骨董市に王様の首冬木立




2017年2月3日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第七 (加藤知子・真矢ひろみ・小沢麻結・内村恭子・水岩瞳・坂間恒子・羽村美和子)



加藤知子
一月号のペンギン呼ばれ表紙顔
ぐるぐると猪はクール宅急便でくる
肉塊と猪と冬晴れのなか歩く
冬の血のしたたり同じ太陽の下
冬林の夜の誠実ひざを抱え
次々にビリー・ジョエルを聴く冬の夜のむかし



真矢ひろみ
冬銀河不思議の夜のありどころ
煮つめれば人魚は蒼く枯木立
ガン病棟へ寒一灯の力かな
灯は遠く鬼火か終の団欒か
今生を時給換算海鼠かな



小沢麻結
指先のその先意識スケーター
羽田便追つて雲間へ雪女
傷痕のなかなか消えず鎌鼬




内村恭子  (天為同人)
数へ日の故郷までの道遥か
冬の地震村の教会まで壊れ
衛星は軌道を外れオリオンへ
地吹雪や空港閉鎖されしまま
国境の凍てし鉄条網越えて




水岩瞳
何だつて知らぬが花のおでんかな
敏雄の方が狂つていたかも昼の火事
 (島尾敏雄)
玉子酒啜り尊し母の恩



坂間恒子
鵙高音思考の断片染色す
冬の鳥ふたつの島の目配せす
柩でるとき皇帝ダリアに風




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
陸棚に遺跡あるらし雪しんしん
月光がさざなみになる黃落期
ポインセチア眩しい顔を遠巻きに
盛装のモンローウォーク聖樹星
裏切りの顔をちらりと花泊夫藍
狐火のところどころをLED
スーパームーン獣の息となっている




2016年11月18日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第十一 (松下カロ・もてきまり・内村恭子・坂間恒子)




松下カロ
うつとりと水へ入るなり秋の蛇
疵ありて香る檸檬もたましひも
鳩の羽 人形の首 夕花野
黄落のたびに柩は透きとほる
うつとりと菊の花びら酢に沈み



もてきまり
十月知的孟宗竹と無知アタシ
身のうちの既知くだくべく柘榴割る
無意識のコスモス畑俺を責む



内村恭子 (天為同人)
高野槇高々とある墓所の秋
廻廊を四角く巡る鱗雲
曼荼羅に清盛の血や秋暑し
肉でなき肉の美味なる十三夜
虫すだく仏像半眼で眠り



坂間恒子
ひょっとして白曼珠沙華本籍地
泥濘の白刃櫓雨後の羊歯
感情の毀れそうなり鶏頭花






2016年7月15日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第六 (望月士郎・内村恭子・木村オサム・ふけとしこ・仲寒蟬)




望月士郎 (「海程」所属)
春はこつんと卵の黄身に映る窓
鶴帰り折り跡のある紙一枚
朝が来るだれかのからだから桜
湯舟より顔の出ている花の夜
花過ぎの白衣の胸にうすく染み



内村恭子 (天為同人)
やはらかに蕗生ひそむる沢の風
ぽんと蓮開きてよりの朝ご飯
薔薇の園月の出づればまた香り
野を濡らし木椅子を濡らし夏の雨
杏子実れば母の手のあたたかさ



木村オサム(「玄鳥」)
ひまわりを出られず作り笑いでは
罰として尺蠖虫がやって来る
ベネチアに腹違いの兄金魚玉
プラトニックラブの数だけ蛍舞ふ
寂しくて一番長い蛇を引く



ふけとしこ
遠巻きにされてゐる猿松の芯
十薬や道の分かれてまた合うて
雨の日の巣をととのへて鳰



仲寒蟬
 雲飛んで辛夷の空となりにけり
子を叱る女の前を二頭の蝶
雁風呂にほの暗き月昇りけり
黒靴に踏み散らされて飛花落花
天神の細道若葉雨しとど
近づけば増えてゆくなりかきつばた
この蠅と夫婦であつたかもしれぬ

2016年4月1日金曜日

平成二十八年春興帖 第三 (内村恭子・小野裕三)



内村恭子 (天為同人)
春の雷キメラマウスに耳新た
いもりの尾また生えてくる春闌けて
春宵の丘にクローン羊たち
シナプスのつながつてゆく春隣
春の虹映す再生角膜に




小野裕三(海程・豆の木)
大玉を持ち歩きけり島朧
尖塔を学び終えたる春の客船
正餐に猿も鳶も魚島も




2016年2月12日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第四 (浅沼 璞・坂間恒子・網野月を・近恵・前北かおる・内村恭子)



浅沼 璞
   悼・澤田和弥
初東雲祈りはいつも目尻から




坂間恒子
初御空ショートステイの母おくる
四日はや整形外科の待合室
人日や百羽の鴉薮のなか




網野月を
来い来いに芒が残り年暮れる
終着駅は始発駅なり去年今年
レンジ上の張りぼて申に咲く淑気
初釜の萩の貫入数えけり
雑煮餅下になるとの隠れいて
三日なら駅伝を視てべっこ飴
伸し餅の耳を磯辺に七日かな




近恵 (炎環・豆の木)
数え日の肉体ことばとは違う
水掻きに血管あまた初日の出
鉢巻に額の皮脂がお正月




前北かおる(夏潮)
惣領の立ち働ける雑煮かな
数の子を白木の箸につまみけり
御降や雲の帳の暗からず




内村恭子 (天為同人)
お降りの静か天井画の豪華
招き猫飾りて仕事始とす
柏手に始まる市の淑気かな