網野月を
口口口しか見えないツバメの子
口よりも声の大きな燕の子
時鳥アルゴリズムの老いを啼く
老鶯やハスキーヴォイスの谷渡り
羽抜鳥見て見ぬ振りの与ひょうかな
電球の中の渦巻き夏祓
右回り左回りの茅の輪かな
しゃも鍋でもビールがうがい薬なら
小林苑を
幽霊が映画館から出て行かぬ
夏休み投げては戻るブーメラン
交通量調査の人の麦わら帽
よく曲がる胡瓜だ友達にならう
夜の蝉ぷつと強制終了す
池田 澄子
遠方へ行きたしと居る籐寝椅子
万緑や子等の声ご飯粒みたい
空々しく空あり夏の満月あり
そしてこうして忘れ忘られ涼しさよ
夕顔や気持ち隠しておく努力
夏木久
漏電や昼寝の梯子より落下
この星の水のオペラを蓮の花
皆がみな孤独であればこそ蛍
炎昼や牛タン塩焼き五百円
蔓引けば砂に晩夏の摩れし音
きりかぶへきつつききつつきりかへす
気に入らず月と海月を並べ換ふ
舟を抱き月を舫ひて懐妊す
秋蝶がピアノの渕を浮き沈む
秋風へ積極的な神社かな
西村麒麟
風の宮その足もとに蟻の道
素麺を食べつつ褒める地獄の図
もろもろのことより隠れ昼寝人
竹岡一郎
初夏の記念日舌から吊るさるる人々
初夏の記念日銃の組立選手権
結界のやうに敷きゐて夏布団
梅雨晴間土方巽凝固せる
玉苗は村の虚ろを埋めきれぬ
百年を露台に動かざる爺さま
舟として地獄に灯る夏布団
小林かんな
背の高きマネキン愛でる火取虫
浮舟の碑を読んでおりサングラス
金魚より長生きをして詩を読んで
梁桁の十字に黒し鱧炙る
理容室の椅子ごと沈む巴里祭
小林苑を
桃咲いて大縄跳びのぱたんぱたん
転居して小さな空に飛行船
瑠璃蜥蜴どうぶつ園の草叢に
小林苑を
肩に上着を陽炎の町に着く
死んだ兵士に石鹸玉飛んでゐる
青空の見えてバケツに霞草
筑紫磐井
歳旦のある春興の本意かな
春分のしづかな君と僕の生活
アパートで晩春しつつ女ひとり
北川美美
わたくしにわたくし帰る花は葉に
春塵にバスは消えゆくラストシーン
神谷波
十一月海月のごとく過ぎゆけり
ねつとりと枯蟷螂の視線かな
隣席はどちらも他人日短か
凍て雲が猟銃の音撥ね返す
狙はれて鴨は声なく落ちてくる
仲寒蟬
しぐるるや橋の向かうは見知らぬ村
誰も来て影おいてゆく冬泉
手袋の出口さがして薬指
海鼠より海鼠の思ひあふれ出す
枯蓮や空の半分晴れてゐて
岡田由季(炎環・豆の木)
北風や鏡面何も受け入れず
コーランの一字も読めず帰り花
雪眼鏡かけたつぷりと雪を見る
小林苑を
クリスマスツリー淋しい犬通る
冬銀河濃し国境は越えられる
落とし蓋して大根のぐらぐらす
福田葉子
月光へ父の目うるむ憂国忌
冬めくカフェ ゴッホの星の瞬きて
昭和平成生きて霜夜の実母散
浅沼 璞
脇さむき女力士の土俵際
落ちませぬ小春太夫が自家発電
暁の反吐は拙者か寒鴉
若年性痴呆空白古日記
渡邉美保
石に穴穿つ遊びをいわし雲
島暮れて酸橘百個の搾り汁
にれの木が森の入口色鳥来
ふけとしこ
子別れの鴉や窓に雨汚れ
走り根の抱へる水も澄みにけり
この駅へ通ひし日あり稲光
佐藤りえ
俯いて歩くよ秋の水を避け
武蔵野にむかし掘つ立て小屋の秋
回り道しない大人になつて秋
ガントリークレーンおとなしい宵寒
一団は踊りながらに過ぎて行く
望月士郎 (「海程」所属)
象に象重ねる銀漢までいくつ
めいめいの雨月の羊撫でて寝る
月の駅みんな待ってる紐電車
すすきはら母が背中に文字を書く
虫売りの妻です怖いとき笑う
衛藤夏子
露あれば星のしずくと思う朝
昼の月ふたりになって知るひとり
星月夜森に忘れたハイヒール
小野裕三(海程・豆の木)
秋郊のストロー一本惨劇のよう
雨音葉音槌音足音鉄道草
灯籠に集まりやすき唇あり
堀本 吟
擬態から真のいのちの火(ほ)が見える
音たてて銀河真中を流される
写生論どの満月もまんまるな
白かぼちゃただに置かれてある宇宙
電線の囲みに月という天体
小林苑を
天高し賑やかに行く春画展
椎の実を知らない子から貰ひけり
人類の絶へたるあとの欅の木
林雅樹(澤)
大学に芝刈る匂ひ鰯雲
虫の声高まる駅舎攻むるごと
デモに行く爺楽しさう銀杏踏み
秋出水デモ隊叫びつゝ流れ
川沿ひの小さな家や彼岸花