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2022年3月18日金曜日

令和三年 冬興帖第六/令和四年 歳旦帖第六(男波弘志・望月士郎・のどか・小沢麻結・前北かおる・浜脇不如帰・木村オサム・鷲津誠次)

【冬興帖】

男波弘志
色が欲しくて影踏みをしています
寒月に眉間をひらく獣たち
冬の芽よ鬼になりたる大人(オニ)たちの


望月士郎
訃報というキリトリ線や冬鷗
痛くない死に方マフラーの巻き方
私の棲むわたしのからだ雪明り
予後すこし兎のしっぽ狐のしっぽ
みずうみの深層心理ささめ雪


のどか
小春日や飼ひ馴らさるる天邪鬼
大枯野夢の駿馬を放ちけり
阿智村やシリウス行のロープウエイ
真つ白なスニーカーにある初昔
油彩画の農夫のやうに寒肥うつ


小沢麻結
河豚鍋の雑炊までは記憶あり
梅肉を添え寄鍋の締め饂飩
鍋にして白菜豚肉花の如


前北かおる(夏潮)
ばつさりと剪りたる薔薇に寒ごやし
いかづちの如くに枯れし薔薇かな
冬薔薇日比谷公会堂とざす


《歳旦帖》

浜脇不如帰
きりすとやお節にあって過分ナシ
大皿にならぶてっさはみえる銃
ヨク咲うコ程すぐ泣くお年玉
年末始面目埋まるシャトレーゼ
風花のように巧くは語れざり


木村オサム
輪の中のわたくし越しの御慶かな
輪になって嘘の初夢語り合ふ
断崖へ輪舞で向かふ嫁が君
知恵の輪を放れば解ける淑気かな
ぽっぺんを吹きメビウスの輪を進む


鷲津誠次
ふと浮かぶ一句小さく初日記
村いちばんよく泣く双子福寿草
初湯して推敲よもや捗らず
人日やタイムカードの打ち忘れ


男波弘志
漸ように白い日向となりにけり
餅を切る息のつづきにある廊下
廓ごと闇になりてや嫁が君

2022年1月21日金曜日

令和三年 秋興帖 第九(望月士郎・前北かおる・のどか・仲寒蟬)



望月士郎
鳥渡る骨のかたちをして綿棒
蕎麦の花われもだれかの遠い景
てのひらは生まれた町の地図とんぼ
すいみつとう心的外傷的に剥く
夕花野ときおり白い耳咲かせ


前北かおる(夏潮)
貝塚に人も葬り鉦叩
秋蝶も雲も真白にあらざれど
団栗を一万年も煮てゐしか


のどか
だまし絵のなかに息ある枯蟷螂
ひとけりに超ゆる子午線飛蝗かな
コロナ禍ののこつたのこつた泣き相撲
病魔調伏四股高々と宮相撲
死にしふり演じ冬蝿逃げにけり


仲寒蟬
水澄むやかつて都を映せしに
道なくば作るまでなり葛の花
どこまでが庭どこからが野分の野
幾重にも塔にひぐらしからまりぬ
秋の川跨げるところまで歩く
月に雨書かれぬ前の継色紙
晩年の庭露草のあればよし

2021年10月22日金曜日

令和三年 夏興帖 第六(のどか・夏木久・早瀬恵子・竹岡一郎)



のどか
幼き手にバナナを二丁カウボーイ
山法師の花や老ひたるニュータウン
旅行ガイドの付箋紙の増え秋隣
炎日や厳かにするトーチキス
寝ころびし青芝と息あわせをり


夏木久
寝室へ四角い夜の侵入後
パレード後の夢の広場の蝸牛
アフガンもロレンス在らず並ぶ銃
半畳の案山子の不味い性生活
永遠=銀河の底辺×時間÷2
海溝を回想ゆれて敗戦忌
紅型を魚の形に夜の海流


早瀬恵子
残暑とや吻に屏風を立てるごと
科学と政治ダリアかっと咲き
赤い遺伝子モルモット風人類に
てらてらとふふむ銀なり蛇曼陀羅


竹岡一郎
船溜り箱眼鏡より火があふれ
翡翠とわれ幽谷を遁れゆく
贄の決議が巴里祭の議事堂に
炎帝に医学部昏きまま吞まれ
河原より梯子すずしよ橋へ立て
涙形に鱗融けをり蛇去れば
山蟹の鋏や雨意に紅深み

2021年9月10日金曜日

令和三年 花鳥篇 第十一(仲寒蟬・早瀬恵子・井口時男・佐藤りえ・筑紫磐井・のどか)



仲寒蟬
梅林に迷ひしことは伏せておく
鶯の森の明るさ湖よりす
三方に奇岩絶壁桃の村
草を編むネアンデルタール人の春愁
お若いですねと言つて筍をもらふ
しまはれぬ翅だらしなく兜虫
海月に聞けその海流のことならば


早瀬恵子
スノッブな風のごちそう花見鳥
花パワー天地返しの自粛の園
バロックはロックのオンかパンジー茶
而して母の金魚は喪の素振り


井口時男
春宵の「居酒屋馬酔木」灯りけり
逃水や王国いくつ亡びたる
遠富士へ言の葉若葉ちぎり行く
すひかづら日暮の母の足の裏
ルノワールの少女らにサァ薔薇の鞭


佐藤りえ
測るがに尾を振り回す春の牛
枇杷の実や蓋を組み合はせて遊ぶ
デスメタル聞かば聞けとし夜光虫


筑紫磐井
ドクホリディは死なず炎天なる決闘
助五郎(きょうかく)を葦原雀贔屓にす
  北川美美を思い出し
死んで十両生きて五両の洗鯉


のどか
白鳥座へ戻る交信時計草
素足の子ペディキュアでする自己主張
父の日の似顔絵に濃き鼻毛まで
木耳や百鬼夜行に遅れたる
勝鬨や木耳数多亡者めく

2021年4月23日金曜日

令和三年 春興帖 第一(のどか・大井恒行・夏木久)



のどか
寄居虫の手本地球の歩き方
太陽であったおみなよ花ミモザ
“ローランの美女“の吐息や霾晦
さくら餅付喪神なる皿へもり


大井恒行
陰卓というさびしき丘や春隣
軍旗また興亜を祈り花の森
幼年や焦土にありしかの牡丹


夏木久
淘汰して空誂えり紋白蝶
瘡蓋のように瓦礫をあっ菫
銭湯の富士へ太郎は旅立ちぬ
ヴィーナスを視線で縛り付け春宵
執拗に執事が春夜を叩き執着
サヨナラの切手を雨で霞草
墨蹟へ棹差すように花筏

2020年10月2日金曜日

令和二年 夏興帖 第九(水岩 瞳・のどか・下坂速穂・岬光世)



水岩 瞳
廃校の足踏みオルガンアマリリス
わたくしも並んでそよぐ夏木立
七夕竹終息の文字ここかしこ
捩花の選ぶ右巻き左巻き
混沌が混濁となる泉かな


のどか
月下美人魔女と契約した証
ミルク飲み人形にもと天花粉
前世での爵位隠してゐる飛蝗


下坂速穂
蛸はいつより海に棲む壺に眠る
其処な者毒消売か酒飲みか
蛸が壺出でゆくほどの月明り


岬光世
初夏や女庭師の道具入
内にある水音立てて葛桜
花束を簡単服の腕へ受く

2020年7月3日金曜日

令和二年 花鳥篇 第七(真矢ひろみ・渕上信子・曾根 毅・のどか)



真矢ひろみ
花篝焚いて百鬼のしんがりに
亀鳴くやカーナビ座標北にずれ
ロボットの長い瞬き風光る
飛花に顔上げて軌跡は眼裏に
素数てふ割り切れぬ数おぼろの夜


渕上信子
涅槃図や遠近法が変
手のとどく鳥の巣のからつぽ
さくらんぼ未完のグッド・バイ
堂々と玄関から蜈蚣
犬は片足上げ小判草
ちまむちまむと尺蠖虫は
なつれうり器をかへただけ


曾根 毅
花冷の枕の端が縮むなり
花筏妻の匂いを潜めたる
花客なり別れのときは離岸めき


のどか
朱の紅は覚悟の色や晶子の忌
燃え上がる草矢の射ぬく処から
石楠花や懐妊を知る日の鼓動
軽鴨やモンローウォークの母を追ひ
雛罌粟や転校生は帰国子女

2020年3月6日金曜日

令和二年 歳旦帖 第九(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・のどか・水岩瞳)



下坂速穂
初便りにはお互ひの母のこと
店子いつ入れ替はりたる飾かな
どんど焚くけむりは蘆花の旧居へと


岬光世
飾取る品川宿を後にして
小正月過ぎて売約済の花
帯留を愛でてもらひし女正月


依光正樹
花街あり焚火をぢつと見つめたる
露地の人しやがんで立つて年詰まる
亡き人と冬あたたかき手拭屋
侘助や露地の途中に店があり


依光陽子
のし餅のうんと言はする厚みかな
枝撥ねて一鳥枝に淑気かな
鳥のほか父母のゐる御慶かな
かめむしの白き半分寒暮かな


のどか
大氷柱風のおらびを閉ぢ込めて
軒氷柱の雫となるや星の声
バラライカウォッカに氷柱つき立てて


水岩瞳
雑の句を集めて久し師走かな
大安で締め括りけり古暦
初日記また書いてゐる今年こそ
初詣いつもの神社いつも吉
読初の一書「ポピュリズムの功罪」

 

2020年1月17日金曜日

令和元年 秋興帖 第八(小林かんな・加藤知子・網野月を・早瀬恵子・中村猛虎・のどか・近江文代・佐藤りえ・筑紫磐井)



小林かんな
前を行く人のリュックの秋日かな
弁当を河原の上に解く照葉
竿で押す紅葉の映る川の底
乗ってすぐ降りる渡船や石叩き
紅葉山滝はいくどか折れながら
     

加藤知子
りんご剥くごと金属探知機の触る
塹壕の深堀林檎湿らせる
唇を切り獣の笛の音楽会
腐りかけのりんご断面見せて舞え
林檎端正に置かれてもはや林檎じゃない


網野月を
爪先で食べ尽くさんと柿落葉
立ち上がる海原睨む石蕗の花
白菜や名無き料理をアルマイト
眠れない呪禁の夢を花八手
欅紅葉地獄にしても温過ぎる
初霜や小鳥のように生きてみる
高くはないが深い空堀返り花


早瀬恵子
秋夕べ新書解体オークション
白秋や恋する本のらんらんと
月明り片口に盛る天女舞


中村猛虎
子規の忌の三角関数溢れ出す
攫われる肩車の子十三夜
カトマンズに人焼く匂い夜長し
亡骸を洗うガンジス紅黄草
鶏頭花方位磁石は黄泉を指す
男根を祀る神社に色鳥来


のどか
黒鍵のエチュード転び色鳥来
御陵を守る鍵穴鵙猛る
霜降や綾取り糸の忘れ物
母と生きる火宅を抜けて桃を剥く(三世火宅)


近江文代
書き順を間違え曼殊沙華一本
散骨の忽ち小鳥来るならば
猫きっと来るコスモスは束となり
入りゆく団地の子供茸山
今生は囮にされる鳥になる
  

佐藤りえ
コスモスや向こう側からも犬が来る
鵙も来よ株式会社月世界
霧の電柱幽霊船の帆と見ゆる
古書店の百均台や夜長く


筑紫磐井
山姥の旦暮(あけくれ)といふ紅葉あり
醍醐味は智山・豊山の紅葉など
数列の視界を秋の蝶が舞っふ
たつたいま見殺しにして秋の蟬
花野とは子供ひとりが消える場所

2018年9月28日金曜日

平成三十年 夏興帖 第七(木村オサム・のどか・真矢ひろみ・前北かおる・堀本 吟)



木村オサム
夏帽を振りて夏帽呼びにけり
    日盛りやブロンズ像の乳の張り
子どもより木登り巧し夏休み
次の世へ生まれそこねて海月浮く
夏痩せの男全員島流し


のどか
アスファルトに燃え尽きてゆく終の蟬
懐妊の土偶色づきそむる桃
色つきの夢消えかけて西瓜食む
歳月の翡翠色なる羽化の蟬
反骨の捩れ重ねてたうがらし


真矢ひろみ
夜濯ぐアラフォー単孤無頼たる
白玉の歪み好きなる不惑かな
逃げきって間のおきどころ夕端居
尿の切れ良くて深山に象がゐる
夏帽は深し繊毛縛しけり


前北かおる(夏潮)
似合ふ気がしてきて髪にプルメリア
日盛や首長竜が椰子になり
踊唄ひくし瓢を打ち鳴らす
祝詞あげフラ奉る合歓の花
花合歓や夜空の下のレストラン
ジャグジーにホームシックの夜の秋
虹の島傘をひらけば雨あがり


堀本 吟
友来たりその友も来て汗まみれ
有刺鉄線灼ける理想の一捻り
冷麦や君たち品を培えよ