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2019年5月17日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第十(仲寒蟬・佐藤りえ・筑紫磐井)



仲寒蟬
臍の緒をはなれ久しき臍初湯
何もせぬことこそよけれお正月
歌留多取り恋と無縁の顔をして
不揃ひの歯もめでたけれ初笑
読初に地球四十億年史


佐藤りえ
あぶな絵の橋揺れてゐる初昔
海鮮の餡かけお焦げ淑気かな
鳥渇く口をしてゐる実朝忌


筑紫磐井
初春や令和の前のこの静けさ
カウントダウンをしつつ我等は過去の人
  すべての日は夜から始まる
メビウスの循環しつつ初夜空

2019年5月10日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第九(近江文代・網野月を・北川美美・小野裕三)



近江文代
喪の家に色増えてゆく去年今年
亡き人と目の合わぬよう年来る
雑煮から餅のひとつを剥すなり


網野月を
今年から去年へ戻る羽田発
初鶏や通販雑誌の犬の耳
何時もなり一般参賀テレビで見る
雑煮食う平成最後疲れかな
獅子舞に虫歯予防を祈願せり


北川美美
歌骨牌畳の縁に立つ亡霊
歌骨牌千年前の恋の歌
額に入る三橋敏雄歌骨牌


小野裕三
元朝の尻尾の殖えていたりけり
寝る位置に高さそれぞれ寝正月
英米で英語の違い骨正月

2019年5月3日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第八(望月士郎・青木百舌鳥・大井恒行・花尻万博)



望月士郎
ひとり灯して白梟に囲まれる
生前の町にかざはな売り歩く
いつからか書棚の奥に黒海鼠
まどろみのまなぶたふっとめくれ 蝶
春の虹さす指のふと密告者


青木百舌鳥
初国旗小さき車を撫でてをり
二日かな詣でみたれば女陰祀る
風の日となれど三日も晴れの富士
魚食ひの民と生まれて富士の春


大井恒行
水ほろびゆく水の日 木に冬霧
白椿昏れつつはるか山の音
与死の椿十三平成最後の日


花尻万博
夕刊と海岸に出る鼬かな
寒卵光らぬ言葉身の内に
木の国を置き去り恋の 鼫(むささび)よ
神樹らの目覚めぬ夜を狩の宿
白足袋で行きて天草を踏みて
白鳥や湖は光になりきらず

2019年4月26日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第七(ふけとしこ・井口時男・前北かおる・水岩瞳)



ふけとしこ
膝に笙休めて四日暮れにけり
人日や折鶴の息抜くことも
菓子箱の底の金色松も過ぎ


井口時男
雉一声枯野で年を越すつもり
ふるさとは神棚にぎはふ去年今年
あらたまの空蹴り上げて初ゴール


前北かおる(夏潮)
東京に初雪ありて旅に出づ
食卓に余白のありて粥柱
待春の十色に余る千羽鶴


水岩瞳
ふる里や初御空の碧いづくにも
箸二膳目を合はざすに御慶かな
書き込まれらしくなりけり初暦
読初や読み止しの本読み終わる
がらくた市胡散臭さを買初に

2019年4月19日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第六(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
めくりてもめくりても海初暦
初場所や江戸に大火のありしころ
親指の太く大きく初仕事


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
近況も知らずなりたる賀状かな
七日なり清白の丈つつましく
みやげ買ふ繭玉揺るる先なれば


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
去年のこと引き摺つてゐる春著かな
古きこといつまで好きや鳥総松
初場所や裏道ゆけど大通り
いろいろな社を踏みて寒詣


依光陽子(「クンツァイト」)
散らしたる蕾を鈴や初鋏
元朝のかほの映れる蛇口かな
塵芥のをどりまろびや初箒
鶏旦や群青強きねずみもち

2019年4月12日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第五(坂間恒子・田中葉月・木村オサム・乾 草川)



坂間恒子
もっと奧は樹氷林なり初詣
初夢やボタンがひとつ波打ち際
初夢に「地獄の門」のあらわれる
   

田中葉月
福寿草ほんの小さなでき事に
蓬莱やひこうき雲の広ごりて
転生の白いカラスが窓叩く
仏の座ほんのつまらぬものですが
裸木ややはり帰つていくんだね


木村オサム
遠い地球操縦席に鏡餅
福助を空へ向けたるお元日
おほかたは使われぬ脳寝正月
初景色猿がぽつんと土手に立つ
なんとなくいるだけのひと福寿草


乾 草川
なつかしや薺打ちゐる父の家
卒論は「出エジプト記」寒卵
パスカルが呼ぶから枯野越えてゆく
薄氷や子の好きだつた銀食器
煮凝りの闇「馬車道」へ「馬車道」へ
島の春小さな穴へ落ちぬよう
冬枯れや昼餉の箸をパキと割り

2019年4月5日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第四(小沢麻結・真矢ひろみ・浅沼 璞・渡邉美保)



小沢麻結
初詣心にかかりつつ病めり
初笑父奪はるるとも知らで
小豆粥待たずに父は逝きにけり


真矢ひろみ
福沸ケトルに映る鬼笑ひ
スマホみな閉じゆく音といふ淑気
箱庭に夜御降りは柵の外


浅沼 璞
《歳旦三つ物》
ゐのしゝの歳旦発句帖に候
 雑煮の餅もそこばくの汁
月咲きて花はのぼりて微笑みて


渡邉美保
お降りや月光菩薩の指の先
猫にツナ缶父にちょろぎの酒肴かな
人日のコーンスープのとろみかな

2019年3月29日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第三(飯田冬眞・辻村麻乃・夏木久・杉山久子)



飯田冬眞
パック酒くしゃりとつぶし初日の出
初筑波祈る角度は鋭角に
鼻歌の優しきうねり初御空
骨密度減りゆく母よなづな打つ
福耳を揺らす作務衣や喧嘩独楽
放浪の芙美子の庭に福寿草
たたかれて猛る火もありどんど焼


辻村麻乃
無骨なる若者鯛焼に並ぶ
色色な野菜の星や白シチュー
羽子板市邪鬼も悪鬼も叩かれず
歳晩や道で荷物を出す女
梳初や背後に誰かゐるやうな
幣揺るる工事現場の初茜
椅子の背にコート掛けたるサンルーム


夏木久
寄せて返す波打ち際の室内楽
  飛び乗りし夜行ソナタの淋しさよ
かみしものすけるかみしもすけるかみ
かくかくしかじかかみしものかみしたもゆる
はらきりしこおにたびらこほとけのざ
脳裡の月光ソナタより水の漏れ
ペン先に圧加はりぬ春の夜


杉山久子
初旅や左足よりはじめたる
牛日の既読スルーを眺めをり
何にでも「平成最後」餠伸びる

2019年3月22日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第二(仙田洋子・神谷 波・岸本尚毅・堀本 吟)



仙田洋子
社あるたびに拝みて明の春
ちちははもちちははを恋ひ雑煮かな
初鳩の噛みつきあつてゐるところ
何といふ鳥の足跡初渚
春着の子宝のごとく膝に乗せ
舞ふ獅子の口に突つ込むチョコレート
初大黒風に押されて詣でけり


神谷 波
泥のやうな眠りから覚め千代の春
無風快晴で始まる今年かな
大粒の赤子の涙初日受く
いつになく部屋がすつきり鏡餅
西暦より元号似合ふ鏡餅


岸本尚毅
今の世にポチといふ犬お元日
あたたかに猫に蚤ゐるお元日
我の云ふことに我のみ初笑
初笑腰巾着として笑ふ
お屋敷の裏の日陰の初鴉
初霞通天閣に子を泣かせ
初東風や田舎稲荷に供へもの


堀本 吟
除夜の鐘一打大本義幸哭く
     ・
凧生きてきましたこの死にざま
福寿草わが事なくて今日は過ぐ
七草や陛下もっとも人として
     ・
松過ぎの服脱いでみるリアリズム

2019年3月15日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第一(山本敏倖・曾根 毅・松下カロ・小野裕三)



山本敏倖(山河・豈)
初日の出ふつうの色に染まりけり
写らない父母と撮る初参り
伊勢海老の尻尾が有頂天を突く
けんか独楽刃向かいし者なびく者
鏡餅大器晩成型である


曾根 毅
元日を急ぐ信号機も影も
鹿威しより氷柱とも狂気とも
松の枝先雪嶺のざわざわと


松下カロ
わが恵方彼方に銀の埃立ち
うつくしき足指映り初鏡
真青である淋しさの松へ雪


小野裕三
寝る位置に高さそれぞれ寝正月
元朝の尻尾の殖えていたりけり
英米で英語の違い骨正月