ラベル 小沢麻結 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 小沢麻結 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2026年10月9日金曜日

令和八年 歳旦帖・春興帖第一/令和七年 夏興帖・秋興帖 補遺(鷲津誠次・村山恭子・水岩瞳・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・小沢麻結)

【夏興帖】

鷲津誠次
凡事こそ至難の業やあめんぼう
精悍な眉の遺影や夏座敷
告白の後の沈黙かき氷
麻のれん三日続けてたぬき蕎麦


村山恭子
木を植ゑてわが森とする五月かな
ペディキュアの薔薇を泉にひたしたる
仮の世の旅寝ことさら明易し
花梯梧ラジオの声が途切れたる
二の腕の真白きひとや水中花
鮎食うて明日の泳ぎの達者なる
煩悩を崩すごとくに心太


【秋興帖】

水岩瞳
あの頃の歓喜に触れず敗戦日
鬼灯は居間の灯りになりにけり
かなかなや戻らぬ兵の丸眼鏡
親と子が一つランプに台風来
二人して黙のしあはせ良夜かな
池の端秋の声して振り返る
手紙書く思ひ溢れて夜なべかな


鷲津誠次
機織屋の消えぬ灯りの無月かな
コスモスや輪郭柔く肖像画
泣き言は言わぬ晩年すがれ虫
小鳥来る子の音読の淀みなく


村山恭子
きつぱりとをんな答へる酔芙蓉
秋天に触れつつ登るタワーかな
からころと鬼灯鉢を持ち帰る
川風や踊り納めの下駄の音
たれかれの墓の白菊かれてをり
秋深き四方に水あるむすびの地
びいどろの風や荒野の渡り蝶


【歳旦帖・春興帖】

下坂速穂
葉を踏めばその木のことを年の暮
年忘一人は椅子に正座して
お参りの帰りは梅を探りもし
年始呑めぬ人へもちよと注いで
水温む人の寝癖は愛らしく
いつまでも言葉にならず青き踏む
永き日の鳥影ばかり胸に入る
いつもより明るき五時を燕来る


岬光世
獅子舞の先頭の脚細うなる
如月に閉づる商ひ松納
干支の飴舌に転がす小正月
集ひたる山懐や節分草
涅槃絵を奏でをへたる手を解きぬ
如月や雨見ぬ人の肩濡れて


依光正樹
船べりに大風が来て年用意
竹揺れて土を踏み踏み年詰まる
切手蒐め交換もする年男
狐似の焚火好きなる女かな
すみだ区と書けば春めく隅田川
川に鳥河原に春の帽子かな
歌ひ出でししづかに花を賞でるやうに
雨止んで春の友来る予感かな


依光陽子
書きかけのおろそかの書や冬至梅
くりかへす旋律年の瀬の迫り
事業計画門松の取れたれば
卓の上にものがなしさの鬼の面
彼岸会やドアを開けば鏡ある
姿見の傾きに母はるのひる
春はあけぼの自分の声の離れてゆく
てのひらが腕につながる暮春かな


小沢麻結
初夢にづかづか女三人来る
救助ヘリ雲間より出づ出初式
寒鴉わたし知りませんとそつぽ
  ・
立雛の寄り添ふ如し立子の忌
小一時間探すアドレス春寒し
蒼天へマグマ噴く色花アロエ

2026年9月11日金曜日

令和七年 冬興帖第一(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・花尻万博・小沢麻結・岸本尚毅・前北かおる・白石正人・ふけとしこ)

【冬興帖】

下坂速穂
翁忌や木の葉のやうに集まつて
ひろげれば大きな冬の翼かな
つらなれる光となつて草枯るる
青空の磨き上げたる冬木かな


岬光世
煎餅の色つく間の冬浅し
弱み在る客を呑んだる大熊手
茎の桶ひとつ屋号として高く


依光正樹
人や熊殺せば済むや冬に入る
割つてみし水に色ある大根かな
待たされしこの身を打てば息白し
池の魚痛々しくも霙来る


依光陽子
短日のねぢれて皮の栞紐
冬枯や写真になつて木も人も
成虫越冬この町が好きであり
冬の河声の滑歳旦帖つてゐる次々


花尻万博
既知過ぐる水仙は目を鮮やかに
人の波魚影にまぎれ年の暮
産道の長さいまさら吹雪くとて
うつし世へ手を伸ばしけり浜大根
粕汁やラヂオは説教いとほしむ
夜を越えて果ての入りばな捕鯨船


小沢麻結
黒ずくめなり一徹の焼鳥屋
眼裏を消えずさつきのは狐火
聖夜劇翼をしかと針と糸


岸本尚毅
枯蔓に下がる古葉や砂がつく
我のもの汝が着たれば褞袍めく
釣り上げしもの枯草に落ちて跳ね
襟巻の人や素十に似てゐたる
冬蠅に肉のやうなる落椿
外套を膝にかけたり部屋暗く
室咲や骨格模型顎ひいて


前北かおる
クリスマスイブのスナックフェニックス
クリニック総出で松を飾るなり
歳晩の河口の雲の明るくて


白石正人
陋屋の鎖のごとき寒さかな
煮え滾るおでん幸徳秋水忌
ぼろ市に皇軍慰問葉書かな
凍光や顏なき列の最後尾


ふけとしこ
煙突の内に声ある十二月
雪晴れや電線保護保護管の黄色
鎖樋雪が雫となり氷柱

2026年1月30日金曜日

令和七年 夏興帖 第九/秋興帖 第七(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・眞矢ひろみ・小沢麻結・花尻万博・林雅樹)

【夏興帖】

下坂速穂
すこし水遊ばせてから水遊び
いうれいは手の甲を見せ夏芝居
小唄ひと節覚えて帰る西日かな
まくなぎや我の放ちしやうにゐる


岬光世
蚊遣火を絶やさず町の油揚
水中花触るることなき風いとふ
人住まぬ町に働き明早し


依光正樹
著莪咲いて森にちひさな泉湧く
朝の樹に来たるもろもろ雲の夏
村に来る鳥を知りたる若葉冷
梅雨の間清々しくて人の服


依光陽子
かの人のおもかげ涼し九輪草
白き夏の白き胡蝶は白き花へ
アトリエの絵具ゴツゴツ空に虹
寿司食うて潮灼けの髪きらきらと


【秋興帖】

眞矢ひろみ
秋高し見えざる手まで見えさうな
振り向けば使徒はまぼろし初紅葉
帰り花狂気は薄く目をひらく
秋天や鶴が亀追ふスタジアム
一行詩蜀黍のひげ絡ませむ


小沢麻結
対岸へ焦がれはばたき秋の蝶
被せ来し筵展ぐや胡麻を打つ
鉦叩一本調子ふと乱れ


花尻万博
懸命はたてがみに出て無月なり
硝子戸の外にいる人彼岸花
稲妻を迎えに戻る下座かな
鳥威かそかに皇居まで届く
ふと母乳零れていたる稲の花
人の列矢印通りつくつくぼふし
流星の泳ぐ手足を忘れけり


林雅樹(澤)
案山子見る鼻の伸びたるピノキオが
石垣の角の崩や秋の昼
カプセルトイ同じやつ出て来て残暑
握手会終はり月夜に観覧車

2026年1月16日金曜日

令和七年 夏興帖 第八/秋興帖 第六(眞矢ひろみ・小沢麻結・花尻万博・林雅樹・渡邉美保・小林かんな・田中葉月・小野裕三)

【夏興帖】

眞矢ひろみ
なめくじり縮みて十万億土かな
蛍火や軌跡はコンマとなりて消ゆ
あぢさゐの毬のへこみといふ重力
翳す手に天日の痛み原爆忌
地獄絵を見てあっさり味の氷菓とす


小沢麻結
真ん中はゴジラ峰雲三兄弟
手のひらに掬ふ湖夏の朝
旱星戦争は降るものならず


花尻万博
暮らしの灯いまだ切なく鯰かな
夜目利ける片手拝みの涼しさよ
麦の香に巡礼粗く伸びにけり
短夜に頭失ふ釘ありぬ
観音の曲線に沿ふ台風圏
なめくじり引用元と別れ来て
折にふれ正気をよぎる蛍かな


林雅樹(澤)
肌脱ぎの婆ァが踊り込んで来た
盆踊最高潮やアパツアパツ
薄羽蜉蝣掌にかざし見せユーチューバー


【秋興帖】

渡邉美保
鰯雲国境まで水汲みに
秋日差し退屈さうな空気入
松ぼくり秋思の靴が蹴ってゐる


小林かんな
身ほとりに夜業の人を呼ぶボタン
朝寒や別の女が血をとりに
鎮痛剤追加UK80’sも
いぼむしり血をとれ左でも右でも
鹿火屋守の銅鑼を聞きたし夜のふけて


田中葉月
船虫の一族郎党ひきつれて
等間隔に団栗落ちてゐる未来
月の船喫水線をにじませて
箱舟の選ればれしもの秋の虹
ちょい悪のオヤジが好きで秋の蜂


小野裕三
恋とはなぜ落ちるものかと鰯雲
退屈ねって夜の林檎に火をつける
蟋蟀の続篇である飛行場
五代目を名乗る長身小鳥来る
末っ子で演歌が好きで林檎好き

2025年8月22日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第八(眞矢ひろみ・村山恭子・冨岡和秀・田中葉月・渡邉美保・小沢麻結)



眞矢ひろみ
樹に残る釘痕深し成木責
飾り歯朶太郎次郎を囃すなり
裏山に龍起つ気配初山河
豆撒いて豆拾い食う孤高かな
うすらひを透いて地霊の閑かなる
若鮎の鰓のくれなゐボルシェビキ
鶴亀の鳴いてリーマン予想かな
別の世の道草遅日使い切る


村山恭子
大人にもとりどりの夢雛あられ
踏青や我が心にも鬼がをり
ゆつくりと雲の流れを追ひて春
初鮒の鱗に虹の色のあり
後出しのじやんけん負けてクローバー
蕉公や去来や美濃の花に酔ひ
ぷかぷかとブリキの金魚春深む


冨岡和秀
ビッグバンその後のいのち白明集
いずこにも花降りそそぐ銀河より
見えざる孤悲 雲の渓間に抱き締める
浅草に早桜咲く永遠の国
ヴェネチアに沸き立つ日々や仮面祭
妖精の森にたたずむ亡命者
よろづ世の朽ち葉舞い散り腐葉の碑
包みより玉(ぎょく)が飛び出す観世音
言の葉は超えて羽ばたく幽明境
幽明境 銀の言の葉超えて咲く


田中葉月
うすらひの孤島となりて離れゆけり
国境は春キルトの針が見つからぬ
蟠りほぐれしところ囀れり
黒鍵の影につまずく花菜風
言霊をさがしに行けば金鳳花
花筏ゆつくり動くムー大陸
春光をほろほろこぼしクロワッサン
からつぽの埴輪みつめる春の闇
山茶花のいたいたしくも奔放で


渡邉美保
歳晩の水撥ねてゐる金盥
無罪放免崖下の波の花
水甕の水位の変はる建国日
臥龍梅這いゆく先の白煙
春愁ひうつぼかづらが揺れるから


小沢麻結
初乗のりんかい線の遅延詫び
恵方道晴れ晴れと風吹きわたり
ぶちまけし破魔矢火を吹くどんどかな
よき風を待ち散りぎはのチューリップ
春風へ翳せば光り飴細工
息つめて引き剝がしをり薄氷

2025年7月5日土曜日

令和六年 冬興帖 第七/令和七年 歳旦帖 第五(眞矢ひろみ・村山恭子・冨岡和秀・田中葉月・渡邉美保・小沢麻結・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】

眞矢ひろみ
雪舟の白のてざわり冬めきぬ
小六月少年老いず逆走す
引きこもる子にせめてもの寒昴
数ヘ日や三度数へて合わぬまま
校庭の白線伸ばす雪女郎


村山恭子
剥き出しの梁の太きや波の花
土砂流れ崩れしままに山眠る
復興てふポスター叩く霰かな
隆起せし道に置かるる慈善鍋
奥能登の仮設住宅注連飾る
数へ日や希望と書きて窓みがく
雲切れし空の青さに冬深む


冨岡和秀
雲のうえ荷風散人 杖を突く
深淵の叫びが谺す仮死幻想
粉雪に白霊まつわる零(ゼロ)夢幻
Yという暗号抱え大河越え
Yの暗号 解けて海峡帰還する
源に玉(ぎょく)を放らば弥勒見え


田中葉月
ありつたけの影投げ入れる二月かな
裸木のやあと手をあげ明日が来る
狐火の夢とうつつの擦れあふ


渡邉美保
枯れていくものに雨ふる近松忌
仮の世の枯野に美しきされこうべ
狐火の曲がりし方へついてゆく


小沢麻結
冬シャツのつつめる体躯頼もしき
社会鍋鈍色雲へ喇叭吹き
餌を探る鷹匠と鷹同んなじ眼


【歳旦帖】

下坂速穂
年送る家のおほかた闇にして
初空や悩み消えれば淋しくなり
途中から佳き声の添ふ手毬唄
福といふ色に捌きし鮪かな


岬光世
湾に沿ふ人へ汽笛の御慶かな
スポーツを家族と観たり三が日
艶の佳く御用始の靴揃ふ


依光正樹
一軒の中華料理の年用意
冬青空大きな枝の懸かりけり
炭火にかざす吾の手朱し人の横
煮凝を持つて隣に来りけり


依光陽子
ほつとするひと言が欲し寒椿
松の内煮物の名人が村に
雲と雲つながるやうに書初めす
早起が苦手七草粥の昼

2025年2月14日金曜日

令和六年 秋興帖 第十(小沢麻結・林雅樹)



小沢麻結
雨に酔ひ風に酔ひ酔芙蓉かな
秋蝶の翅重ね風やり過ごし
杉の香の失せぬ間に酌め新走り


林雅樹
乳見せて笑ふ老婆やななかまど
庭掘れば出づる人骨ななかまど
よく出来て案山子やネルのシャツ着たる

2025年1月24日金曜日

令和六年 夏興帖 第十/秋興帖 第九(小沢麻結・林雅樹・辻村麻乃・堀本吟・望月士郎)

【夏興帖】

小沢麻結
誰が手より水面へ置かれ未草
池袋新宿渋谷違ふ夏
毛虫焼く誰も代はつてくれぬから


林雅樹
肛門に回虫半身出て夜涼
舗道に乾び蚯蚓点々書のごとく
プール地獄痴漢魔羅見せ餓鬼は糞る


【秋興帖】

辻村麻乃
息苦しきほどの雲よ秋の雷
失くしたと思うて出会ふ明けの月
長き夜に長き手紙を書きにけり
揺蕩うて淡くなりたる恋螢
笑ひ声溢るる校舎稲の花
彼岸花左岸に土砂のどつさりと
きつちりと壁に沿うたる秋日射


堀本吟
栗もなか窓の汚れにこだわらず
尼君の説明律儀萩の露
柿ひとつふたつ堕ちたりブラックホール


望月士郎
足りない日案山子を数えつつ歩く
鹿すっと立ち霧の中心の音叉
書き直す胡桃を左手に移し
キツネノエフデ月をまあるく塗り残す
離れると聞こえることば蕎麦の花
夕暮が鬼灯さわるさらわれる
眠れない夜のまなうら赤のまま

2024年9月13日金曜日

令和六年 春興帖 第七/歳旦帖 補遺(青木百舌鳥・小沢麻結・渡邉美保・前北かおる・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【春興帖】

青木百舌鳥
神木の宿木まみれなる芽吹き
畦塗機直してをれば烏来る
ルピナスの若葉噴きをる空家かな
闌春の造化忙しや佐久平


小沢麻結
確と見え行きしことなき島うらら
蕗の薹刻むでまかせ口遊み
ペン落とし響く階寒戻り


渡邉美保
墨壺より棟梁の聲春浅し
薄氷を掬いたき日の偏頭痛
春愁やコーンポタージュの黄を解凍
春雷や傘の柄にある鳥の貌


前北かおる
クレーンの垂らせる紐のあたたかく
一丁目一番地てふ春野かな
風吹いてきたる日永の日裏かな


【歳旦帖】

下坂速穂
初芝居昭和の言の葉をかさね
お運びさん足袋うつくしく忙しなく
湯気立てて買はぬお客ににこにこと
福豆や袋に入れて香りたる


岬光世
手を取れば詫びを言ひたり初御空
乗初や往きたき処行く所
あふむけの目を灯したる初景色


依光正樹
水涸れて大きな水の音思ひ
一対の鷺の息して寒きこと
松取れて風が上より降つて来る


依光陽子
松を目に椋の落葉を踏みをりぬ
天鵞絨に揺らぐ枝影冬館
せはしなき自動ドアや日脚伸ぶ

2024年8月23日金曜日

令和六年 春興帖 第六/歳旦帖 補遺(青木百舌鳥・小沢麻結・渡邉美保・前北かおる・高橋比呂子・なつはづき)

【歳旦帖】

青木百舌鳥
大年の昼の湯舟をあふれしむ
をぢさんの俳句会なり賀詞交はす
初句会とて担ぎ来し古酒のあり


小沢麻結
お飾の藁の香れる初湯かな
弾み落つる黄身追ひ白身寒卵
ポインセチア一番幸せさうは誰


渡邉美保
爪立てて賀状の龍のやさしき眼
お降りや窓越しに見る三輪車
瓦礫から瓦礫へ人日の虹あえか


前北かおる
年をとこやうやく起こし福沸
負けん気のなくて長兄かるた取る
幕開きて磯の松原初芝居


【春興帖】

高橋比呂子
記憶みな生者なりしか雪の原
きさらぎの行李きえて山毛欅林
水文學なふたりんの玉座かな
風葬の子守歌かな忘れ水
虎屋から夜の梅とて明けにけり


なつはづき
西遊記みたいな雲とゆく日永
かざぐるま風のことばの真似をして
マニキュアが空っぽになる花疲れ
躑躅燃ゆブエノスアイレスは正午
腕と腕絡めてさびし春の蜘蛛
荷を解いて四月の日差しから慣れる
酔っ払い風船買って帰るかな

2024年3月29日金曜日

令和五年 秋興帖 第六/冬興帖 第五(網野月を・渡邉美保・望月士郎・川崎果連・小沢麻結・木村オサム・岸本尚毅・前北かおる・豊里友行)

【秋興帖】

網野月を
新涼や湯屋の鏡に己が肉
つくつくしくつくつほうしをしいくつ
仲良しの肖てない姉妹王瓜
生贄を祀る獣や月の雨
捨案山子への字の滲む眉と口
地雷原を縦横無尽秋の蟻
月鈴子ワインボトルの空となり


渡邉美保
重なりてくれなゐ昏き葉鶏頭
軽トラを揺らし猪横たへる
草の絮ふわり言葉になる途中


望月士郎
8月の8をひねって0とする
鶏頭の赤や昔のニュータウン
たぶん後から作った記憶アキアカネ
うさぎりんごこの町月の肌ざわり
まだ文字にならない夜長インク壺
はららごや地球は人にやさしくない
霧の町地図をひらけば人体図


川崎果連
竹伐るや槍の元締め好々爺
月光や仮面夫婦のご懐妊
身中の穴という穴秋の風
地団駄のとどろく国や木守柿
遺言と遺書のうらはら秋刀魚焼く
秋遍路ダンプカーから落ちる石
案内を終了します桐一葉



【冬興帖】

小沢麻結
白波のうち寄する如白鳥来
殺気消し大鷹ひそむ青天井
焼芋搔く頃合の枝焼べ残し


木村オサム
電話ボックスに籠る老人文化の日
銀杏落葉少し余分に金借りる
マラソンのところどころにある炬燵
アルペジオ奏法のごと師走かな
葱刻む時間の消える日に備え


岸本尚毅
釣堀を守りて小春の昼餉かな
飛ぶ鷗大きく白く冬の雨
暖房の皆眠くなる窓に川
常磐木の枝押しくべし焚火かな
煮凝の飯にとろけて汝と我
粕汁の具やきらきらと粕まみれ
WELCOMEと書きたる札や冬ざるる


前北かおる(夏潮)
小春日のババロア色の団地かな
冬菊や老のカラオケひもすがら
この団地よりも長生き日向ぼこ


豊里友行
玉葱炒めのプチ哲学を堪能する
葡萄食う一粒ごとのプライバシー
プチトマト七粒分の朝の不調
人体の闇は震源地球抱く
光のシャワーの瓦礫浮く閑さよ
落花の眼が見返す私の晩年
何万回の素振りで春一番

2024年3月16日土曜日

令和五年 秋興帖 第四/冬興帖 第三(曾根毅・小沢麻結・木村オサム・大井恒行・神谷 波・ふけとしこ・冨岡和秀・鷲津誠次)

【秋興帖】

曾根毅
雨上がりの電気を愛す茸かな
青く固し蜜柑の尻に指を入れ
古着屋の四隅は唇の冷たさ


小沢麻結
水底の倒木古りぬ初紅葉
秋明菊真白神懸りたるかに
実玫瑰海遠くして湖の風


木村オサム
ペイペイでさっと支払っても残暑
王将の裏側は無地終戦日
秋の蚊と團十郎のやぶにらみ
浮世絵の顏にすげ替え月の宴
丸善に檸檬を置きし指香る


【冬興帖】

大井恒行
クリスマスマスクの中の実母散
愛別離苦 賽の目の一が時雨れる
ふくいくと暮れ火事跡の牡丹かな


神谷 波
水あやしあやし紙漉く手首かな
目覚めればしるしばかりの初雪が
 待ったなしの地球
善哉を食べてワタシハチキウジン
快晴の冬至はやぶさ2煎餅
冬服をびしつとあやしげな話


ふけとしこ
井戸水のほのと温しよ留守詣
覇者となる少年メリークリスマス
冬眠の蛇の鱗の擦れる音


冨岡和秀
地獄門アリの大群吸い込まれ
約束せよ死んではならぬ希死念慮
梵字書く美少女の美は透徹す
流刑地の透明びとよカフカ狂
愛のヒト無限を思う敬虔派


鷲津誠次
表札の剥がれし隣家村時雨
あつさりと婚期の過ぎて花八手
老詩人歩幅高らか落ち葉道
夕暮れの大根畑の白光り
トロッコの軋み緩やか年詰まる

2023年11月17日金曜日

令和五年 夏興帖 第六(小沢麻結・浅沼 璞・望月士郎・曾根 毅)



小沢麻結
男振りなり飛魚の流線形
海酸漿鳴らしたく浜去りがたく
黒塗りの車止まりぬ鮎の宿


浅沼 璞
歓声のかすかに届く夏座敷
絵簾のはためいてゐる不在かな
隙間から笑ひ返してくる裸
蟻の巣に群がるかゆみ上腕に
壁一面苔ぎりぎりに車体かな
兜虫うごくを素手でもち帰る
噴水の奥で懺悔をしてゐたり


望月士郎
にんげんの流れるプール昼の月
心臓は四部屋リビングに金魚
はんざきのまなうら飛行船がくる
火取虫あの世の片隅にこの世
転生の途中夜店をかいま見る


曾根 毅
どうしても傾いてくる冷房車
血管の浮き上がりたる青葉山
花菖蒲脚の先から消えかかり

2023年8月25日金曜日

令和五年 春興帖 第七/花鳥篇 第六(鷲津誠次・下坂速穂・岬光世・中村猛虎・渡邉美保・なつはづき・小沢麻結)

【春興帖】

鷲津誠次
新調の杖を褒め合い若菜風
嬰児のおなら大きく春の川
花の雲城趾へ急ぐ園児の列
あつけなく兄との和解花の夜
逝く春や畳屋の灯の薄明かり


下坂速穂
子も孫も亡き人に似て風光る
うららかな人形町の絵地図かな
くしやくしやの千円草餅と替へむ
少し降りては囀に振り返る


岬光世
四五枚の若葉のフォークソングかな
葉は花の肌となりぬ桜餅
間引きたる花の大きさ夏近し

【花鳥篇】

中村猛虎
梅一輪シュプレヒコールの声に揺れ
花冷えや赤ちゃんポストにブザー音
鳳仙花バリウム重き紙コップ
新宿の桜の花に麻酔弾
軒先で鯉飼う村の花の雨
醍醐桜隠岐の島へと散りゆかむ
倶利伽羅紋紋生まれ変われば蕗の薹


渡邉美保
永き日の水面を川鵜滑りくる
黄薔薇咲きクラリネットのよく響く
ビー玉が描く軌跡や夏燕


なつはづき
十薬や傘を閉じられないふたり
海鳴りは父 額の花が咲いたよ
息湿らせ埋めた金魚と語り合う
ドラキュラの淋しき背中花ざくろ
濡れ縁に呼吸めく風明易し
ベランダは男の孤島紫煙吐く
吸血鬼じみた夜あり夏痩せす


小沢麻結
桜蘂降る校庭の砂乾び
春の夜や母の眠りを守りゐて
どくだみや明るみつつも雨雫

2023年8月18日金曜日

令和五年 春興帖 第六/花鳥篇 第五(渡邉美保・なつはづき・小沢麻結・堀本吟・眞矢ひろみ・望月士郎・曾根 毅・岸本尚毅)

【春興帖】

渡邉美保
住吉の風吹き上ぐる松の芯
海光のまぶしさをゆく鰆船
キャベツ山盛り食事処の幟立て


なつはづき
一筆箋にたった一行落雲雀
パレットから逃げ出している涅槃西風
桜蕊降るや表札出せぬ恋
鍵盤に春が毀れてます 教授
春の蜘蛛話し足りない夜の嵩
ヒヤシンスつま先つんと触れて恋
姉さんの部屋の死角にいそぎんちゃく


小沢麻結
持ち帰り上履き捨つる為の春
予報より降り初め速き春の雪
遠ければ良いのではなく柳絮とぶ


堀本吟
妻たちのうわさ根も葉も迎春花
陽炎の塀はぼろぼろ廃校舎
逃げ水や電光ニュースを先送る


眞矢ひろみ
かげろふやサムトの婆の野に出れば
独酌や独活の歯ざわり当てとして
復活祭神の笑顔をググる夜


【花鳥篇】

望月士郎
人ひとひら桜ひとひら小さな駅
はんざきのまなうら飛行船がくる
くちなしが私を嗅いでいる夜風
悩みごと抱えています金魚鉢
夜店の灯舌先で触る親知らず


曾根 毅
桃の花僧のかたちを整えて
裁かれることなく老いぬ白牡丹
灰色の夜は人肌の桜蘂

岸本尚毅
マーガレットはサイダーの壜にさす
道逸れて来たる男女に浮巣あり
小さめの沈み加減の浮巣かな
子を孕む井守や腹を藻に擦りて
雨の墓尺取虫は濡れながら
かたつむり花屋花の香鬱々と
大いなる赤き日除に肉を売る

2023年2月3日金曜日

令和四年 秋興帖 第四(岸本尚毅・神谷波・山本敏倖・ふけとしこ・小林かんな・小沢麻結)



岸本尚毅
盆過やぽんぽんと咲く秋の花
稲の花まみれの稲の匂ひかな
初あらし弁才天に蛇もつれ
広々として点々と桔梗かな
秋晴のただ明るくて駐車場
わが枝豆一つぶ飛んで失せにけり
秋の風雲はうごかず蝶とんで


神谷波
砂浜に珊瑚貝殻白い秋
いつか消える足跡秋の浜昼顔
 田中一村画
画布に閉じ込め鶏頭の充実
柚子百余顆採りて搾れば寒さ急
  

山本敏倖
丑三つの露地深くするきりぎりす
わたくしを編み込んでいる文化の日
音のない軍靴を連れて鰯雲
またしてもうしろの秋の蝶逃がす
鯖雲の色は即物的である


ふけとしこ
細やかな雨よ芙蓉の花が透け
萩は実に手摺の錆が袖口に
こんな日はきつと檀の実の爆ぜる
砧槌罅の中まで日のとどき
金色に蛹の透けて暮の秋


小林かんな
木を植えて木の実が落ちるここは駅
すすき葦いずれも屋根に戴く草
柿生って村人はみな芝居の座
道行へ口笛のとぶ鵙日和
ゆらり風秋蚕の夢でなら会える


小沢麻結
明日語る夜長カクテルはドリーム
タップする指先遠く星流れ
秋晴やビラ絶妙にちんどん屋

2022年10月21日金曜日

令和四年 夏興帖 第四(小沢麻結・小野裕三・曾根 毅・岸本尚毅)



小沢麻結
打水や濡れていきいき足の指
揚羽蝶見返す暇に見失ふ
ぐんと寄る峰雲初めての乗馬


小野裕三
傷心に虹と名づける選択肢
靴多き体操教師午睡かな
ゼリーとゼリー運ばれてくる食堂車
麻服を着て見殺しにしていたり
誰もかも歯並びのよき浴衣かな
観音に立ち姿ある雲の峰
噴水を待つ間のオーデコロンかな


曾根 毅
瀧迅し我の時間と異なれり
蛇苺人間の皮垂れ始め
肖像画青葉の闇に委ねられ


岸本尚毅
海光ることさへ暑き港かな
冷房のロビーに浮輪提げて待つ
戦隊のレツドを名乗る日焼の子
昼のことふとなつかしき夜釣かな
手で落す夏の落葉や作り滝
草のやうに薔薇が咲きをり避暑の日々
裏山に仙人草やうなぎ焼く

2022年9月2日金曜日

令和四年 花鳥篇 第六(妹尾健太郎・松下カロ・小沢麻結・林雅樹・竹岡一郎)



妹尾健太郎
引っこ抜く涙の乱舞かつお潮
麦秋の濃尾三川瞬く間
髪洗う真下音する大江戸線
指なめて風向きを見る子蟷螂
妹の方がわんぱく今年竹


松下カロ
紫陽花はのけぞる誰か過ぎるたび
白波を小さな蛇と思ふなり
洗面器凸凹あれば明易し


小沢麻結
生若布スパークリングワイン買ひ
さくらさくらかの日昨日のやう今も
瑠璃蜥蜴瑠璃躍らせて転び逃げ


林雅樹(澤)
遊民となりて一年夕桜
露出狂神出鬼没囀れる
地割れへとビルも若葉の街路樹も


竹岡一郎
悲の蟬や瞋恚に焦げし背にとまる
夏書重ねてわが妄執を見殺すまで
怨府こそ白蓮咲(わら)ふ音とどろく
川床に招かん書淫なだめんと
翡翠に魚めぐまるるほど無聊
山盛り素麵無常の如し平らげる
雹止まず人魚も姉も泣くを知らず

2022年6月17日金曜日

令和四年 春興帖 第八(堀本吟・高橋修宏・小沢麻結・浅沼 璞)



堀本吟
みどりの日シルバーワークへ通うらん
万能のおむすびの味春ならん
侵攻や海市も的になるならん


高橋修宏
一列の戦車の終わり見えず春
春昼の微塵となりしかみがみよ
花よ鳥よ消えてしまった子どもたちよ
来るはずのなき姉を待つチューリップ
恋猫を追うや性別など捨てて
春の風邪やがては蝶となる話
蝶に問う道の終わりのその先を


小沢麻結
車捨て歩み行くなり春の雪
世を探る二股の舌蜥蜴出づ
おばさんは転居土筆は伸び放題


浅沼 璞
まだそこに救急車ある蝶の昼
弁当も雲もあまりて春の丘
中腰の人ばかりくる沈丁花
裏門を平たくぬけて卒業す
濡れながら人見おろせる柳かな
片栗の皆すなほなり反り返る
手放しの手話で咲かせる花みづき

2022年3月25日金曜日

令和三年 冬興帖第七/令和四年 歳旦帖第七(小野裕三・渡邉美保・曾根 毅・鷲津誠次・浅沼 璞・眞矢ひろみ・望月士郎・小沢麻結・前北かおる)

【冬興帖】

小野裕三
新雪の方程式を解きにけり
続篇のようにヤクルト置いて冬
水仙をまんなかとする都市計画
抽斗に隠されていく百合鴎
冬菜みな手傷を負っていたりけり


渡邉美保
冬麗の海底にある山と谷
白き鳥集まる河口寒に入る
冬薔薇一輪しんと日を待てり


曾根 毅
昼更けて寒の椿を潜りけり
読む力まだ衰えず冬の庭
ゴールドジムから寒い東京湾望む


鷲津誠次
霙打つ小駅に朽ちし伝言板
ひとり言好きな家系やかいつぶり
冬夕焼転校生はまた転校


浅沼 璞
凩が廃車を鳴らす渚かな
名盤のジャケットあまた北塞ぐ
空腹のしやつくり凩だよ俺は
赤々と目か降る雪に紛れをる
血の跡をくねくねさせてしまふ狩
寒紅やてかるきしめんの表面
甍へと雪とぎれなく風にのり


眞矢ひろみ
来し方は行く末のさき帰り花
極寒の魚骨ぶつ切る疱瘡痕
人参の色淡くなる都会かな
冬の空はぐれる鷗見てゐたり
枯蓮の水出しきって水の中


【歳旦帖】

望月士郎
てのひらでさわるあしうら去年今年
初句会シャーペンの中小さなバネ
元日やシンメトリーに鼻をかむ


小沢麻結
かまくらの天は雪染むベニヤ板
千歳を手から手巡り歌かるた
初仕事指すらすらとパスワード


前北かおる(夏潮)
綱曳の綱のとぐろに餅を撒き
綱曳の綱のべられて雪の町
綱曳の綱に跳びのる丸坊主


小野裕三
あとがきのごとく始める新日記
ヨーヨーの跳ね上がりたる淑気かな