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2024年10月25日金曜日

令和六年 夏興帖 第三/秋興帖 第一(ふけとしこ・仲寒蟬・豊里友行・曾根毅・大井恒行・仙田洋子)

【夏興帖】

ふけとしこ
垂直に虹立つ草原ならば行く
熱中症警戒アラート鷺白し
雷が近しハシビロコウが立ち


仲寒蟬
呼び捨てにして信長の忌なりけり
バビロンの滅亡に似て牡丹散る
首を振る鳩が許せず夕涼み
扇風機旧知のごとくささやける
兜虫関節痛さうに歩く
賓客は舟にて来たり燕子花
放ちたる金魚ふたたび掬はるる


豊里友行
天体をたぐる音叉の赤ん坊
魚群の民意へ大浦湾の杭
銀河系蠅一点の集中力
天体のワルツが弾む林檎飴
一挙一動の宇宙よ兜虫
PFASの疑念湧く水筒も眼玉
赤子泣く此処は天体オーケストラ


【秋興帖】

曾根毅
青饅の歯に挟まりし運動会
流れ星のイエスが過ぎて鱗と漁夫
青天渺渺火に包まれし鶏頭花


大井恒行
秋灯下多摩蘭坂の古本屋
翳る秋父は何処の雲に鳥
秋鮭の卵こぼして波だてり


仙田洋子
還暦を過ぎをみなへしをとこへし
蕎麦の花淋しきときは声を出し
垂直の虹の切れ端台風過
鳥も子もすでに眠りぬけふの月
眠りゐる鸚哥をつつく良夜かな
年寄の日の年寄の酔つ払ひ
戦争の惑星の空鳥渡る

2024年10月11日金曜日

令和六年 夏興帖 第一(小野裕三・曾根毅・大井恒行・仙田洋子・辻村麻乃)



小野裕三
白靴の昔の形なりにけり
夏の瀬を偽者となり歩くかな
虎の字を名に含ませて夏木立
兄弟子が最後に残る滝見かな
鏡よ鏡昼顔のある生活
親友になれるなれないハンモック
フランスのありとあらゆる夏の旗


曾根毅
欄干に男の集う海月かな
身支度に紛れ込みたる夕蛍
青葉山父の腋から溢れ出し


大井恒行
青芒傷つき抱く昼下がり
火炎なか闇笛草笛祭笛
ひとすじの神に吊られる夏の兵


仙田洋子
夏草やドーベルマンの貌ぬつと
産声に万緑の山目覚めけり
蒼穹に太き虹あり重信忌
言の葉のしづかやはらか月涼し
ひとりには大きすぎたる緑蔭に
ほどほどに離れて鷭と大鷭と
老いながら青蘆原に紛れゆく


辻村麻乃
あめんぼの求婚波を掴みたる
選択の光受けたる蓮の花
いづれかが落つる定めよ柿の花
卯の花腐し他人のやうな一人つ子
病とは白き野にあるハンモック
振り向きて鶴の貌なり半夏雨
合歓の花閉ぢて光を仕舞ひけり

2024年7月26日金曜日

令和六年 春興帖 第五(花尻万博・早瀬恵子・大井恒行・竹岡一郎)



花尻万博
草花に沈みし錨紀伊遍路
隣る世を支ふる芹のひよろひよろと
角隠しきれざるも佳し磯遊び
上る水下る水あり柳なら
落ちる処までおちて人山椿
古道をへて菜の花のもうすぐに
杉挿し木父のこと皆分からずよ


早瀬恵子
容鳥や自惚れコップのエアプランツ
けんけんぱいろとりどりの五月病み
瀬の早みバイリンガルの時を着て


大井恒行
ものの芽の結ぶははるか葛飾区
典雅なる戦将棋や桃の花
白梅の無限のひかり壺頭


竹岡一郎
一夜官女治水の成りし静けさを
要らぬ子は無けれど一夜官女かな
流木の逞しく立つ俊寛忌
名画座おぼろ十五で死んだはずの僕
死後四十五年の吾がいま花人
来し方を照らすが如き春障子
甘南備の谺まろやか木の根明く

2024年6月28日金曜日

令和六年 歳旦帖 第六/春興帖 第二(花尻万博・早瀬恵子・大井恒行・小野裕三・水岩瞳・中西夕紀・神谷波・坂間恒子・山本敏倖・加藤知子)

【歳旦帖】

花尻万博
角見ゆる枯野の奥に消ゆるまで
佛手柑の働く人にまぎれゆく
降りてくるものをうべなひ夕焚火
外套や父と遊びし納屋に似る
日の暮れのねんねこいつも母を入れ
蜜柑山越えて木の国また清める


早瀬恵子
敲の与次郎ひょいと龍頭(りゅうがしら)
初諷経(はつふぎん)多星人の風立ちぬ
父と母泉殿から初お香


大井恒行
山鳩のふくみ鳴きかや去年今年
結晶は氷雨と書かれ匂う朝
初春の「ああ姉さま」と書く手紙


【春興帖】


小野裕三
前よりも耳の大きな初閻魔
空耳の人集まって春近し
早春の君に蹄のようなもの
棘あるものみな置いてきて雛遊び
人相のはっきりしない蜂の子よ
猫柳たましいならば弄ぶ
夏近しよくもわるくもふしぎな子


水岩瞳
節分や鬼にも好かれたきこころ
北窓を開く濁世も久しぶり
地虫出づ此処はかつての駐屯地
我に反骨されど蛙の目借時
つくしんぼ一斉蜂起とまでいかず


中西夕紀
世を閉づる前髪長し卒業す
ももいろの和菓子いただき卒業す
国後の霞見やりて息深し
上気せる顔に手をやり蜃気楼


神谷波
蕗のたうひよこひよこバレンタインデー
はなやかに幕の開きたる春の宵
蕎麦すする鶯の声近すぎる
こつぜんと婆消えゆれる藤の花
よき隣とはムスカリと黄水仙


坂間恒子
引き出しに椿あふれて眠られず
春の蛇回転扉押し行けり
春鴎漁港はあくび噛み殺す
花の雨鏡売りくる夜の透き間
桜蘂降る真夜中の非常口


山本敏倖
陽炎の仮説を崩すかんつおーね
戦艦の腹から蝶の生まれけり
初蝶の波紋はたしか変ロ短調
雪解けの音につまずく囲碁帰り
言の葉以前の言の葉つなぐ飛花落花


加藤知子
春雷や青むか吠えるかなだめるか
純なるもの人身御供として芽吹く 
花冷えの散るまであなた口に詰め
口からは食べぬ桜餅歯痒い
口数でもの言うおのこ春時雨

2024年3月16日土曜日

令和五年 秋興帖 第四/冬興帖 第三(曾根毅・小沢麻結・木村オサム・大井恒行・神谷 波・ふけとしこ・冨岡和秀・鷲津誠次)

【秋興帖】

曾根毅
雨上がりの電気を愛す茸かな
青く固し蜜柑の尻に指を入れ
古着屋の四隅は唇の冷たさ


小沢麻結
水底の倒木古りぬ初紅葉
秋明菊真白神懸りたるかに
実玫瑰海遠くして湖の風


木村オサム
ペイペイでさっと支払っても残暑
王将の裏側は無地終戦日
秋の蚊と團十郎のやぶにらみ
浮世絵の顏にすげ替え月の宴
丸善に檸檬を置きし指香る


【冬興帖】

大井恒行
クリスマスマスクの中の実母散
愛別離苦 賽の目の一が時雨れる
ふくいくと暮れ火事跡の牡丹かな


神谷 波
水あやしあやし紙漉く手首かな
目覚めればしるしばかりの初雪が
 待ったなしの地球
善哉を食べてワタシハチキウジン
快晴の冬至はやぶさ2煎餅
冬服をびしつとあやしげな話


ふけとしこ
井戸水のほのと温しよ留守詣
覇者となる少年メリークリスマス
冬眠の蛇の鱗の擦れる音


冨岡和秀
地獄門アリの大群吸い込まれ
約束せよ死んではならぬ希死念慮
梵字書く美少女の美は透徹す
流刑地の透明びとよカフカ狂
愛のヒト無限を思う敬虔派


鷲津誠次
表札の剥がれし隣家村時雨
あつさりと婚期の過ぎて花八手
老詩人歩幅高らか落ち葉道
夕暮れの大根畑の白光り
トロッコの軋み緩やか年詰まる

2024年2月23日金曜日

令和五年 秋興帖第二/冬興帖第一(瀬戸優理子・大井恒行・神谷波・ふけとしこ・竹岡一郎・山本敏倖・杉山久子)

【秋興帖】

瀬戸優理子
秋暑し衣抜け出す海老フライ
長き夜のさみしいスマホ同期する
十六夜の軋みはじめる半月板
無花果を割る手黒魔術のように


大井恒行
千の風に紅葉流しの降れるかな
神隠し角を曲がれば紅葉の街
にっぽんの大きななやみ水の秋


神谷 波
緑色のマニキュアの客野分後
犬しやなりしやなり金木犀香る
鳥渡る石の鳥居の前をパトカー
鳴神のしどろもどろの十三夜


ふけとしこ
天深し青松虫の声が降り
秋高し粥に棗や枸杞の実や
蚊母樹を見上げて秋の雲眩し


【冬興帖】

竹岡一郎
聖夜まで亜麻布負うて歩む驢馬
すき焼や肉貪るもわが老いたる
塵と化す涙がいつか吹雪くとは
マネキンか廃工場のふきたふれ
恋文の甁積む橇のまどかなる
蕪村忌の地平は天と睦みけり
大鷲が雲の獄裂き破りけり


山本敏倖
青女来る門塀にある鳥の跡
積み木崩れて綿虫の世に帰る
道化師の脚注にあるおでん酒
極月や秒針音が追ってくる
喪中ハガキ来る枯野から昔から


杉山久子
風花の空へ仔犬と乗るリフト
日向ぼこふと君は癌サバイバー
師を送り母を送りし年詰まる

2023年6月9日金曜日

令和五年 春興帖 第一/令和四年 冬興帖 補遺(仙田洋子・大井恒行・五島高資・小野裕三・鷲津誠次)

【春興帖】

仙田洋子
春装の一歩大きく踏み出しぬ
自転車の上ゆさゆさと桜かな
夕桜山姥も髪なびかせて
夜桜や母にあやしき血の流れ
夜桜や首吊る縄のぶらぶらと
夜桜やふつふつと血の沸きはじむ
春の水十指を抜いてしづかなり


大井恒行
降るはみな花にはあらずきのこ雲
林檎の花かの痛点に至りけり
水際にかげろう白き花ゆすら


【冬興帖】

五島高資
縄跳びや夕日のあとに誰か入る
水けむる川を見ている遅刻かな
狐火のかなた電気のとどこほる
泣きながら天ぷら揚げる冬茜
シリウスや身ぬちに炎抱きたり


小野裕三
目撃者だけを集めて兎狩
空港に狐火混ざる帰国便
決戦のように並んで冬薔薇
白菜を祝うがごとく抱えけり
赤い陽の赤い毛布の赤い人


鷲津誠次
湯気立てて父母に捧げん私小説
吾子のため童話を紡ぐ冬銀河
大寒の朝湯賑わう介護園
定年まで指折る日々よ川千鳥

2023年4月21日金曜日

令和四年 冬興帖第五/令和五年 歳旦帖第四(浅沼 璞・曾根 毅・家登みろく・望月士郎・山本敏倖・大井恒行・田中葉月・なつはづき)

【冬興帖】

浅沼 璞
立冬の一本たらぬ蛸の脚
参拝の先客ひとり小春かな
冬もみぢ眉間に音のしてゐたり
さかしまの鯨が肺の奥にゐる
乾鮭の北斎に似る面構
身長の伸びる感じの霜を踏む
ふり返る枯葉の道も日の光


曾根 毅
豊饒の蔭の湿りの藪柑子
荒涼と赤い毛布の重なりぬ
寒暁の扉に自重ありぬべし


家登みろく
風花に赤子抱くやう荷を抱いて
耳当や母の掌のごと声のごと
ストーブに髪ますますの濡れ羽色
教へ子のごとく湯の柚子遠し近し
一日のいのち本望雪だるま


望月士郎
綿虫とわたくし混ざりわたしたち
開戦日日の丸という赤い穴
失ったピースに嵌める冬の蝶
冬の虹消えそらいろの置手紙
雨は雪にちいさな骨はピッコロに
冬の葬みんな小さな兎憑き
絵本閉じれば象は二つに折れ寒夜


【歳旦帖】

山本敏倖
大旦人間正しく運ばれる
門松や本卦還りの頃の月
初詣どのわたくしを連れ出すか
切処(きれっと)のちらり初日の羽根の先
運勢や船のごとくに餅伸びる


大井恒行
手びねりの兎の白さ眼の男
愛ありて兎跳びなる不思議かな
じゅうにがつくにうたつきる山河かな


田中葉月
独楽回る宇宙にはない西東
真二つに白菜わるる寂光土
恥じらひのはじまりゐたり冬木の芽
あらたかな山ふところや冬の鵙
山茶花や兎にも角にも白湯をのむ


なつはづき
宝船イスカンダルから帰還せり
初夢や自分をオレという天使
松過や箱の四隅の粉砂糖

2023年4月14日金曜日

令和四年 冬興帖第四/令和五年 歳旦帖第三(山本敏倖・大井恒行・田中葉月・小林かんな・なつはづき・中村猛虎・辻村麻乃・松下カロ)

【冬興帖】

山本敏倖
風花の羽化する街を過りけり
路地奥の華構の屋根や冬銀河
墨汁の遠浅活かし海鼠描く
寒月はまよねーずの匂いダダ
雪原へ誤植のような杖の跡


大井恒行
指笛にふり向く冬の戻り橋
コウガンモコウガンザイモ冬ハジメ
大王(おおきみ)の他生の縁や山に入る


田中葉月
セーター脱ぐ見知らぬ影をおくやうに
ゆるびゆく骨の音あり冬銀河
うまさうな赤子の寝息冬紅葉
振り向けば冬の木漏れ日ついてくる
雪女系図の余白見つめをり


小林かんな
冬うらら低い神籤は山羊が食う
靴提げて見入る曼荼羅白障子
冬の菊不動明王顔昏く
火の焚かれ法衣の渡る長廊下
毛氈の果てて綿虫とどこおる


なつはづき
オムレツのしわしわになる神の留守
冬もみじ呼吸のたびに揺れる傘
赤ワイン一杯ほどの帰り花
裸木や言葉が硬く着地する
暗がりに匂い置き去りにし兎
わびすけや髪の毛しおしおと眠る
霜の声結び目硬き黒ネクタイ


中村猛虎(なかむらたけとら)
回天や海鼠を切れば水溢る
右靴から左の靴へ時雨けり
白息の駆け込んでくる山手線
凩の途方に暮れる土踏まず
寒波来る羽生善治の勝ちし夜に
風花やビクター犬の踊り出す
アマテラスではない君よ着膨れて

【歳旦帖】

辻村麻乃
人々の集ひて寒きルミナリエ
富士塚の上の人にも御慶かな
赤子らの交互に夜泣四日かな
ベビーカー登りきつたる初景色
鉄塔の脇照らしたる初日差
大氷柱誰の罪かと問ふやうに
西からの邪視を避けよと雪兎


松下カロ
寒林のただ一枝に触れて去り
不機嫌な清少納言着ぶくれて
一月一日真青な雪が降る

2023年1月20日金曜日

令和四年 秋興帖 第三(仙田洋子・大井恒行・辻村麻乃)



仙田洋子
雨の日のまだいとけなき蕎麦の花
はたはたを追ひてはたはた飛びにけり
稲塚に当てし背中のあたたかく
ふるさとの上がり框の冷やかに
新豆腐ゆふべの空を雲流れ
十三夜遊郭跡の細き路
秋の川水泡の上へ水泡浮き


大井恒行
生き残る罪のようなる暮の秋
死に憑ける秋意とならん桂の樹
泉番水澄み空澄み山河澄み
秋天のそと胸に吸う青き風


辻村麻乃
鷹渡る古き商家の福瓦
翳りては紅葉且つ散る書院窓
一心に句帳を覗く秋日傘
多羅葉に刻まれてゐる秋日差
ボーイスカウトに囲まるる駅冬隣
沼底に銅眠るらし龍の玉
椋鳥のげえるげえると鳴き交はす

2022年9月30日金曜日

令和四年 夏興帖 第一(早瀬恵子・辻村麻乃・大井恒行・仙田洋子)



早瀬恵子
山高帽バイセクシュアルな薔薇の棘
スペイン語の愛称は「ガタ」夏の猫
エポックを愛せよ鱧の俳句バー
蔓は西に遠回りしてクレマチス


辻村麻乃
 耳鳴
隧道の壁を殴りて梅雨に入る
風雲児連れて来らるる滝の前
胎内にシャーリラといふ木下闇
大ぶりの葉より大暑の風貰ふ
リンパ液揺れ蝸牛管まで蝉時雨
立葵立つる音まで嫌になり
自転車に置き忘れたる竹婦人


大井恒行
影の夏天地に被曝あらしめるな
眼には眼を 願いはるかや魂祭
重信房子白い小さな鶴折ると


仙田洋子
押し寄する貌・貌・貌や油照
原宿の赤ゆるぎなき氷水
祭の子おほきな人とぶつかりぬ
山車過ぎてまた天丼を食べ始む
人逝きてほろほろのうぜんかずらかな
どしや降りの一茎高き蓮の花
白扇の空を招いてゐる如し

2021年10月15日金曜日

令和三年 夏興帖 第五(大井恒行・鷲津誠次・山本敏倖・水岩 瞳)



大井恒行
紫陽花や忘れ上手は生き上手
夏空を眺め体中が痛い
葉月この五彩の雲に風に乗れ


鷲津誠次
鷺草や旧街道の投句箱
整備士の昼餉だんまり蝉時雨
朝涼やゲートボールの高笑ひ
男子寮の解体始む西日濃し


山本 敏倖
生前へ揚羽の後をついていく
ひまわりのトルテ二等辺三角形
感情は展覧会の弱冷房
油蝉廃車置場の出口かな
噴水の規則性のない楕円


水岩 瞳
黴の世や見えぬ黴ふく何処をふく
ワクチンの是非のもやもや髪洗ふ
開脚も逆立ちもせぬ素足かな
オリンピック中止すべきとキャベツ抱き
金メダル幾つ取つても黴の国
蚊を叩く快感は血をともなへり

2021年4月23日金曜日

令和三年 春興帖 第一(のどか・大井恒行・夏木久)



のどか
寄居虫の手本地球の歩き方
太陽であったおみなよ花ミモザ
“ローランの美女“の吐息や霾晦
さくら餅付喪神なる皿へもり


大井恒行
陰卓というさびしき丘や春隣
軍旗また興亜を祈り花の森
幼年や焦土にありしかの牡丹


夏木久
淘汰して空誂えり紋白蝶
瘡蓋のように瓦礫をあっ菫
銭湯の富士へ太郎は旅立ちぬ
ヴィーナスを視線で縛り付け春宵
執拗に執事が春夜を叩き執着
サヨナラの切手を雨で霞草
墨蹟へ棹差すように花筏

2021年3月19日金曜日

令和二年 冬興帖 第八/令和三年 歳旦帖 第九(岬光世・依光正樹・依光陽子・花尻万博・大井恒行・中村猛虎・浅沼 璞・眞矢ひろみ・水岩瞳)

【冬興帖】

岬光世
手袋の達者に紐を結び終へ
雪曇蟹のととのふ昼の競り
使はざる日日しんしんと年惜しむ


依光正樹
冬霞駆けていきたき道なれど
御降りのひとりぽつんとしてゐたる
あの人が月を指さし冬はじめ
立冬のはじめましてといふ声と


依光陽子
息を吸ふそのとき雪の気配して
頭に寄する波もありける千鳥かな
君はもう君の言葉となりて冬
冬美しき羽で美美忌と空に記す


花尻万博
猪を食めば流れる音ありぬ
字引より不確かな鮟鱇の灯よ
一束の魂を嗅ぎ出す猟の犬
寒鯉や夢の続きのつまらなさ
透かし絵に時折り刺さる枯木かな
室の花その首垂るる色あるや


大井恒行
茫洋と煮る大根やキー・ファクター
氷り晴れのとめどなき午後青い昼
国防ややがて明るき鳥に寒


中村猛虎
食堂に口が並んでいて寒し
積み上げしドラム缶より冬の月
存在のR指定の海鼠切る
非常口に十二月八日の抜け殻
風呂吹の湯気の向こうの都市封鎖
立山連峰背負いて拾う海鼠かな
冬ざれのざの音にある不誠実


【歳旦帖】

浅沼 璞
のびやかに育てて切るや雑煮餅
うし年や餅咀嚼して横坐り
牛肉の部位もばらばら福笑
手遅れといふ遅れなり初電車
ぽつぺんの右の鼓膜を小人かな


眞矢ひろみ
元日の日をおしのけて朝刊来
若菜摘む陰に生る根を探しつつ
初風呂の初潜りかな頭一列


水岩瞳
この星の神は寄り添ひ年を越す
去年今年貫く棒やコロナの禍
空いちまいあれば希望の大旦
初春や顔あげてゐる陶の牛
名も体もめでたきものよ福寿草

2020年11月6日金曜日

令和二年 秋興帖 第一(大井恒行・辻村麻乃・関根誠子・池田澄子)



大井恒行
ヒトはあらわに顕わに生きる秋コロナ
弱いオトコがまず消えるウイズコロナ
秋青空ウイズコロナウイズ核


辻村麻乃
立秋や家具にハンマー振り下ろす
ティンパニの音加速して秋驟雨
影と云ふ影踏まれたり牛膝
おぢさんの面つけてゐる竈馬
疵のある男に並び芋煮会
大夕焼死んでしまへば話せない
小屋裏の真夜中の月笑ひたり


関根誠子
秋風の傾斜に合わせ蝶の翅
オガサワラシジミ忌と書き破り秋
傷秋のまず三食を正さむか
玉子かけ御飯秋茄子きうと噛み
虫しぐれ手本なき世の星仰ぐ


池田澄子
入口と書いてはあって雨の萩
底紅の紅の嘆きをほっておく
羊羹の陰気な色を十三夜
秋深く物置のあの箱は何
いなつるびしんぱいされていて嬉し

2020年5月22日金曜日

令和二年 花鳥篇 第一(仙田洋子・杉山久子・大井恒行・池田澄子)



仙田洋子
春の宵じゃんけんぽんで負けて死ぬ
鳥帰る十字架運びゆくやうに
春愁の極みに巨象耳を振る
四月馬鹿待たずに逝けり志村けん
桜守野太き声を出しにけり
白鼻芯消えてしまひし花の山
始祖鳥の影よぎりけり春の月


杉山久子
雲梯にぶら下がり見る春の雲
春愁をまぜてタピオカミルクティー
亀鳴くや三千年の禁固刑


大井恒行
鳥よ毎朝悲愴にかわす春の言の葉
花ふぶく日月火水木金金
ゆずり葉のゆくゆくいずれ風の色


池田澄子
家々や春が寒くて かと言って
   浦風の途切れ仔猫が塀の上
べつにいいけど土手のぎしぎし手が届かぬ
二羽ずつの残り鴨かな川長し
豆の花他力本願難しき

2020年1月24日金曜日

令和元年 冬興帖 第四/令和二年 歳旦帖 第三(岸本尚毅・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・竹岡一郎・妹尾健太郎・坂間恒子・大井恒行・仙田洋子・山本敏倖・堀本 吟)

【冬興帖】
岸本尚毅
団栗と蜷と見分けて冬の水
ひつぱられ今川焼は湯気漏らす
玉子酒なまぐさければなぐさまず
数へ日や昼のカラオケ野に聞こえ
永久に留守冬の風鈴ぶら下げて
風よりも小鳥に揺れて枯るるもの


下坂速穂
コンビニの人とは話すマスクかな
猫に髯人に髭あり根深汁
冬の木に人に未完の物語


岬光世
狭き路地狭くかたづけお酉さま
足首の若きを廻し日向ぼこ
立ちしまま枯野の中に水を飲む


依光正樹
冬ざれを行けば秋桜子と波郷
朝ごとの露に親しき帰り花
淋しくもなくて独りの帰り花
あとついて歩くてふこと耳袋


依光陽子
水鳥のこころ水なき街をゆき
刈萱の枯れて谷中の咖喱店
小春日やなんぼでもよしと値つけて
翌る年ひらく莟よ冬構


竹岡一郎
木菟の羽搏きに護符搔き分くる
狩る我は水鏡にも映らない
大き胃を割けば熊あり半ば溶け
僧形や霜置く牙を踏みしめて
大鷲や目玉くわへて聖山へ
黒帝が声無き口を開き切る
熊の掌を煮て弦月は三日月に


妹尾健太郎
時空間もつ湯湯婆の内と外
火事場から場を移したら馬鹿力
九重の天守の上の冬菫
温恩怨をんなの音を雪女
片手鍋より煮凝り滑り出す宇宙


【歳旦帖】
坂間恒子
数え日のロダンの首を思いけり
黒ジャージの少年かたまる大晦日
羊飼いの少年初夢はひつじ


大井恒行
嫁が君つぼうちねんてんアンパンマン
われ子年ねんてんは猿アンパンマン
初日かな知恵ある鳥を慰まず


仙田洋子
いそいそと羽子板市をひとめぐり
朝より羽子板市のよく濡るる
遊び女の売らるる如し羽子板市
吉徳の小さき店や年の市
柚子風呂の匂ひどの家からとなく
新玉やくろがねの如隅田川
東の空をまづ見て二日かな


山本敏倖
水平の世を水平に除夜の鐘
大年や水の器を用意する
広島への道のりにあるお雑煮
人類の戦なき世を読初む
嫁が君次の客間で婚の声


堀本 吟
子ねずみの初齧りかな宇宙卵
家猫をいじり窮鼠と気づかせぬ
駆けおりてゆくバベルの塔鼠算
かがようて篝火草のまたひらく
ヒヤシンス耳奥に声のとどくまで

2020年1月17日金曜日

令和元年 冬興帖 第三/令和二年 歳旦帖 第二(網野月を・大井恒行・神谷 波・花尻万博・近江文代・なつはづき・林雅樹・曾根 毅・池田澄子)


【冬興帖】

網野月を
どこからがいやどこまでが冬の空
冬の薔薇名の無い毒を潜ませて
霜柱狭い歩幅の大足跡
橋は名を残して霜の遊歩道
マフラーを持て余してる夜店の子
冬の海ないものがある神童忌
バックミラーに絡み付いてる冬の蝶


大井恒行
死後もはるかに木々に雪あり山や海
五明後日(ごあさって)はるばる痩せる冬落暉
花鳥風月おかんなぎまためかんなぎ


神谷 波
裏山にそつと近づく冬三日月
名古屋まで往復切符小春日和
おにぎり買ふ小春日和の名古屋駅
かならず買ふものに束子年の暮
ほっとけないわ数え日の空模様


花尻万博
狼の優し狼知らぬ波に
狼映つてたか小さな小さなテレビ
磯漁の一族として餅搗ける
始まりも途中もあらぬ餅配
鯨割く潮の流れ歌う者らよ
鯨老うなかれ記紀の終はるまで


近江文代
片方の顔が綺麗な落葉焚
忘却の彼方を鶴の凍てており
ピアノごと沈む絨毯ふるさとは
わたくしの男にマスクかけてやる
白鳥の王様になるまで叫ぶ
 

なつはづき
夜の底をまさぐるように兎罠
開戦日衣ばかりの海老天麩羅
凍鶴やうなじが知っている言葉
西遊記の結末知らず冬山河
寒林や耳が時間を食い潰す
冬霧を裂いてはだかの眼でふたり
ブレーキの利かぬ思い出毛布干す


林雅樹(澤)
キスすれば離るゝ頬や冬銀河
日曜の工員寮や花八つ手
巨大なる麺麭工場や銀杏散る
そはそはと動く鸚鵡や日記果つ
腹芸の百面相や年忘れ


【歳旦帖】

曾根 毅
海光の鳥から人に流れけり
春寒し情事のような箸一対
円形に日の射している書斎かな


池田澄子
することのなくもがな去年今年かな
見つめたり喉のぞいたり初鏡
赤ん坊へ変な声出し松の内
初春と思えば初春の遺影
永久に在れ雪の故郷の箱階段

2019年11月8日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第一・秋興帖 第一(坂間恒子・飯田冬眞・大井恒行)

●夏興帖・秋興帖
【花鳥篇】が長びいているうちにすっかり晩秋となりました。応急の措置として、【夏興帖】と【秋興帖】を合わせて掲載することにさせて頂きます。これからお送りいただく方は、【夏興帖】又は【秋興帖】と書いて(もちろん両方出していただいて結構です)お送りください。掲載も、(【花鳥篇追補】と)【夏興帖】・【秋興帖】を併行して掲載させていただきます。
今後の予定としては、12月には【冬興帖】も開始し、季節に追いつきたいと思います。
「俳句新空間」第12号には、令和元年中の句をすべて上げたいものと思っております。
よろしくご協力ください。


【花鳥篇追補】
坂間恒子
鬱の日のうつにプールの匂いする
コンパスは兵士の遺品藤は実に
剥製の雉子の見つめる祭壇座


【夏興帖】
飯田冬眞
竹の花うつろなる節かさね咲く
胸中に星座を蔵し鹿の子百合
蛇苺イヴに見つかる前に踏む
革命は老人のもの青林檎
老眼に翠巒のひだ迫りくる
器とは窮屈なもの水羊羹
脱いでなほリュックの痕の汗を負ひ


【秋興帖】
大井恒行
自画像の涙さあれが風の秋
「あゝ」と泣き「嗚呼」と叫べる鸚鵡かな
私年号に「福徳元年」秋めく多摩
水引の赤を結びて移る風
わがうしろうばわれやすき風の秋

2019年6月7日金曜日

令和元年 春興帖 第三(田中葉月・大井恒行・岸本尚毅・ふけとしこ)



田中葉月
桃色のわんこのお腹春深し
春陰のまた残りたるパンの耳
てふてふや湖面をわたる風になる
春の月どんぶらこつこどんぶらこ
押印のまたも傾く葱坊主


大井恒行
空・草木・海・風こだま連帯す
春北風の影となりたる鳥ばかり
山葵田の風こそ令和四月尽く


岸本尚毅
海霞むはるかに靴のやうな舟
春の日や下向く犬に石が照り
供華古び樒の花の咲いてをり
メーデーが来るビルに棲む老人に
カルデラや鶯鳴いて雲湧いて
カルデラの蝶々の今はるかなり
うつくしき母にもたれて日永の子


ふけとしこ
一坪で足りる商ひ遅日なる
熱々のドリアへ匙を花の雨
たんぽぽのうしろよ鬼の隠れしは