松浦麗久(いつき組、樹色)
夏空の青さに音符溶け出して
メロディーが光り始める夏の浜
この夏は優しさ取り戻せない夏
雲の峰希望を歌い続けたい
高橋美弥子(樹色)
高速の朝空まぶし袋掛
ペディキュアのはじけて青い夏の星
抽斗の奥の百円梅雨の月
ねむの花若き役者の逝く空や
姫子松一樹(青垣、関西俳句会「ふらここ」、樹色)
レガースのひたと吸ひ付く夏の昼
赤鱏を干せば現る人の顔
アロハシャツ着れば陽気に思はれる
サイダーに呼吸乱れてゐるこども
子鯰の腹に透けたる蚯蚓かな
菊池洋勝(樹色)
ダンボールベッド組み立つ初夏の風
甚平に着ける変身ベルトかな
リトマス試験紙の滲む夕焼かな
高橋美弥子(樹色)
下萌や産直市に人あふれ
春暁の悪夢を獏に食はせたし
春の月ラピスラズリを握りしむ
バタールを十回囓んで春時雨
春ショール三越前の閑散と
菊池洋勝(樹色)
石鹸玉飛べるソーシャルディスタンス
憲法記念日のテレビ会議かな
渋谷駅展望台へ蟻の道
川嶋ぱんだ(樹色、夜守派)
食パンの穴に足長蜂の穴
つばくらめきて向日葵の群のなか
夕立の溢れて沈下橋怒濤
夏蝶がどんどん増える無菌室
蛇口錆びれば蜈蚣這い触れられず
家登みろく
ほむら立つ日の出の中や伊勢詣
人が人厭ふ春なり疫病来
風見鶏ぐるぐるときのけの春を
忍ぶれど恋の鼻歌チューリップ
南風待つ紙飛行機は芝の上に
【歳旦帖】
早瀬恵子
新霞白き羽毛の俳句舞う
嫁が君か君は嫁かとかしこまれ
新年や庚子の産声高らかに
チューと鳴く千五百秋なるお正月
夏木久
明星に馬車繋ぎあり初御空
パソコンの上を暫らく初埃
この夜を軽く着てゆく初厠
初風は厠窓より素つ気なく
初笑すべて昨夜の舌禍にて
ぼくの基地私が爆破す初夢
海鳴りと惑ふ耳鳴り初明星
中西夕紀
口中に舌のごろつと年つまる
休みをる脳へも響け除夜の鐘
大奥のごと羽子板の姫並ぶ
鳥のこゑ虫の翅音や淑気満つ
太鼓打つ役を頂き弓始め
岸本尚毅
煤逃やあてを酢モツの二合半
手に達磨下げて現れ札納
老いの屠蘇まなこつむりて吸ふやうに
日を経つつ出水の跡や初景色
夕翳りしながら破魔矢また売れて
破魔矢売る巫女の齢を問ふまじく
留守の家居留守の家や松も過ぎ
【秋興帖】
菊池洋勝
天高し牛の拒める荷台かな
盗まれた下着並ぶや秋の色
試し書きする筆ペンや冬支度
高橋美弥子(夜守派)
紅葉且つ散れりベビーカーの双子
ふるへる手岬の野路菊の揺るる
芋洗ふ吾が腸の黒かりき
川嶋ぱんだ(夜守派)
人生はがんばらないと秋がくる
秋空に打つ音階のない木魚
掃けば掃くほどに銀杏の石畳
【冬興帖】
菊池洋勝(無所属)
入院の手続き済むや冬の月
年惜しむつけ置き洗う溲瓶かな
喰積の何でも噛める歯を磨く
高橋美弥子(夜守派)
夫も吾も猫も嘔吐す十二月
木々は眠りぬ湖面は真冬みなぎらせ
水面てふスクリーン美し冬の薔薇
川嶋ぱんだ(夜守派)
改札を出れば広場や落葉焚
老人を射殺野原の日は短か
銃声が心に響き雪の声
目薬を落とし怠惰な冬の海
鼻に穴 炭焼小屋は施錠せず
赤い海とうとう青くなる冬至
青木百舌鳥
稲荷社にあぶらげ人に散黄葉
降る雪のバスの窓打つときに鋭し
子の頰のみるみる赤し餅を搗く
食堂のからくり時計年つまる
水岩瞳
花種を蒔きて明日が信じらる
丸盆に干菓子なけれど新茶かな
強がつてみて雨ボート裏返す
中元はいつも花染め三輪素麺
ものごとの価値の変遷バナナかな
菊池洋勝
風青し背を向けている握り飯
自販機を開けたる鍵や風薫る
通院の予約の日かな青葉雨
下ろしたら戻せぬ箱や夏の初め
手習いの新元号や夏来る
紫陽花や会釈を返す対向車
絵日記の余る頁や夏休
内橋可奈子(夜守派)
今日を終え冷蔵庫から角砂糖
春はるよ張られて腹を触られて
蝶蝶はすてき保護者も来るけれど
それみんな放下してもうすぐ夏休
カキゴオリ刺さらぬ白い白い匙
犬と猫いっしょに走る万緑へ
高橋美弥子(夜守派)
朝ざくら一膳ほどの粥炊けり
褥瘡の軟膏匂ふ日のさくら
自傷痕の微熱あかあか桜散る
火取虫ネイルのラメの飛び散りぬ
夜間飛行フットレストの跣なり
川嶋健佑(つくえの部屋、夜守派)
万緑の牛を林道へと放つ
トンネルは滴るところどころから
絶望の底で蹴伸びをして泳ぐ
葡萄狩る八時を五分過ぎるごと
夜の秋の砂漠に自動販売機