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2021年12月10日金曜日

令和三年 秋興帖 第四(小林かんな・松下カロ・木村オサム・夏木久)



小林かんな
魚津港へ女ぞくぞく稲雀
ひるがえる袂よ月は天心に
翌朝は蜻蛉流す石畳
八山の雨を束ねて鵙高く
山裾はまだ色づかぬ七竈


松下カロ
欲ふかき両のこぶしの烏瓜
烏瓜アンダーライン錯綜し
不在票ちらつくあたり烏瓜


木村オサム
老人の後ろ姿の虫の闇
ほおずきや大きめの服たまに着る
秋の蚊のときどき混ざる円周率
穴まどひ森に死体の多すぎて
冬瓜の放物線がラストシーン


夏木久
黙祷の澄みゆく時を曼珠沙華
銀河辺り密やかに死を解凍す
蛍光色重ね傷付く葡萄の海
白朝顔海の底より忍び足
扇風機それは淋しき銀河船
声明を少し発条ある夜舟ゆく
死体より眼鏡離れて土星の環

2021年10月22日金曜日

令和三年 夏興帖 第六(のどか・夏木久・早瀬恵子・竹岡一郎)



のどか
幼き手にバナナを二丁カウボーイ
山法師の花や老ひたるニュータウン
旅行ガイドの付箋紙の増え秋隣
炎日や厳かにするトーチキス
寝ころびし青芝と息あわせをり


夏木久
寝室へ四角い夜の侵入後
パレード後の夢の広場の蝸牛
アフガンもロレンス在らず並ぶ銃
半畳の案山子の不味い性生活
永遠=銀河の底辺×時間÷2
海溝を回想ゆれて敗戦忌
紅型を魚の形に夜の海流


早瀬恵子
残暑とや吻に屏風を立てるごと
科学と政治ダリアかっと咲き
赤い遺伝子モルモット風人類に
てらてらとふふむ銀なり蛇曼陀羅


竹岡一郎
船溜り箱眼鏡より火があふれ
翡翠とわれ幽谷を遁れゆく
贄の決議が巴里祭の議事堂に
炎帝に医学部昏きまま吞まれ
河原より梯子すずしよ橋へ立て
涙形に鱗融けをり蛇去れば
山蟹の鋏や雨意に紅深み

2021年7月2日金曜日

令和三年 花鳥篇 第一(仙田洋子・曾根 毅・杉山久子・夏木久)



仙田洋子
揚雲雀わたしを空へ招いてよ
少女らの駆けて菜の花蝶と化す
白躑躅ティッシュペーパーのごと溢れ
百千鳥同じ地球を借りてゐる
太古よりつづく大空軒菖蒲
遠くより恋の兆しの日雷
夏河原朝日のやうな夕日かな


曾根 毅
石室の大きな隙間山桜
飛花落花胡麻の風味のランドセル
迎撃や桜と桜の間から


杉山久子
すかんぽのさみしきほどに丈高く
剥きかけのバナナを持つて眠るなよ
ブラウスに葉桜の影ららららら


夏木久
逃水と太陽の影闇市に
難色を避けて余白に逗留す
病院の影に寂れて椅子を待つ
とある星の空蝉ホールのリサイタル
その一語絡め取るには棘棘が
幽霊の中の数人ホームレス
徐は街壁画伯の深層考

2021年4月23日金曜日

令和三年 春興帖 第一(のどか・大井恒行・夏木久)



のどか
寄居虫の手本地球の歩き方
太陽であったおみなよ花ミモザ
“ローランの美女“の吐息や霾晦
さくら餅付喪神なる皿へもり


大井恒行
陰卓というさびしき丘や春隣
軍旗また興亜を祈り花の森
幼年や焦土にありしかの牡丹


夏木久
淘汰して空誂えり紋白蝶
瘡蓋のように瓦礫をあっ菫
銭湯の富士へ太郎は旅立ちぬ
ヴィーナスを視線で縛り付け春宵
執拗に執事が春夜を叩き執着
サヨナラの切手を雨で霞草
墨蹟へ棹差すように花筏

2021年2月19日金曜日

令和二年 冬興帖 第五/令和三年 歳旦帖 第五(青木百舌鳥・松下カロ・井口時男・堀本 吟・望月士郎・夏木久・小沢麻結・ふけとしこ)

【冬興帖】

青木百舌鳥
立冬の丘を星糞踏みのぼる
一の酉石段濡るるほどに雨
一団の一人一人が熊手買ふ
リサイクルきものショップにマスク買ふ


松下カロ
爪を噛む青い氷柱を見たあとで
小さな氷柱か兵士の襟章は
休演のオペラハウスは大氷柱


井口時男
父あらば白寿霜月初雪草
憂國忌父よ白寿の二等兵
憂國忌父よ白寿の「ハラショ・ラポータ」
いつからの晩年小春日の三日目
鉄骨の森に迷ひて蝶冷ゆる
踊子の手足かじかみ白鳥来
雪の猟犬の肛門大開き


堀本 吟
初雪や雑木林の鴉二羽
白息の嬰児(やや)はかぐわし乳臭し
熱帯に交尾りて花のごとき臀


望月士郎
夜焚火に燃えてめくれる私小説
やぶこうじ母を忘れた耳飾り
兎抱くとくんとくん純情す
十二月七日、九日みみぶくろ
湯たんぽのたぷんと不審船がくる


【歳旦帖】

夏木久
竜宮へ寄らぬ便とは宝船
コロナ籠の夜色楼臺雪萬家
縄文は何の縄かと初御空


小沢麻結
箱根駅伝仰ぐ眼の捉へしは何
初乗やきら頼もしきボンネット
寒菊の後ろ姿を見るなかれ


青木百舌鳥
粛として疫病のなかの初詣
ターレーを下りし初荷のゆくへかな
初荷来て氷まみれの荷捌所
眩しみていよいよ丸し初雀


ふけとしこ
正月のインコが塩をつつく音
はつはるを岩合さんの猫が跳ぶ
繭玉や下駄の見事に裏返り

2021年2月12日金曜日

令和二年 冬興帖 第四/令和三年 歳旦帖 第四(渡邉美保・渕上信子・木村オサム・夏木久・小沢麻結)

【冬興帖】

渡邉美保
うつむいてゐてはわからぬ冬椿
凍蝶の翅のざらつき波の音
渦潮の底山幸彦と凍蝶と


渕上信子
越冬の覚悟の蜘蛛か十二月
柚子風呂にいつまで遊んでゐるつもり
小さき駅小さきクリスマス・ツリー
今年聖樹飾らぬ家の主のこと
さまざまのこと思ひだし書く賀状


木村オサム
冬ざれや豹の時空を飛び交ふ樹
寒卵思惟仏として光り出す
枇杷の花詩の熟すまで引き籠る
百年間寝技かけられたまま枯野
一本の電信柱だった冬


夏木久
走りなさい豆腐の縁を墓場まで
狐火が君は来ないと唆す
玉稿を残し月光北帰行
冬蝶の竟の震えに零れる塩
どの死にも枯野被され眠らされ
強面の神のお強請りの山茶花
寒月の漆器の蔭を妊る影


小沢麻結
花八手ウルトラマン立つ如く塔
ぽつねんとバス待つ仕事納かな
月仰ぐ仕事納の行き帰り


【歳旦帖】

渡邉美保
リュウグウの遥へ御慶海幸彦
晩白柚ひとなでしたる歳の神
青竹を削る太箸ややいびつ


渕上信子
鶏旦やみな新鮮な無精卵
女郎蜘蛛あつぱれ生きて年越しぬ
初箒休みて暫し立ち話
朝床に雪掻の声夢うつつ
春風や耳はあつても馬の如


木村オサム
初明り円空仏ののどぼとけ
独楽はじく面壁僧の尻
神経と結びつきたる福笑い
ふるまひの電子音めく御慶かな
ゆっくりと眼帯外す初山河

2020年12月4日金曜日

令和二年 秋興帖 第五(夏木久・加藤知子・望月士郎・岸本尚毅・林雅樹)



夏木久
檸檬転げる道なりの港町
透明になりゆく鳥を月光樹
踊り場を行き交う後遺症残り
ⅠCUの医者も患者も夜長へと
聞き漏らす釣瓶落しの深層考
闇を切り天の川原を走る人
然も然も地球は棺漂流す


加藤知子
眠れずに眠る男へ花灯籠
星月夜に向けてエプロンをほどく
木をゆするうそ寒の芯つかむまで


望月士郎
みずうみの空耳ミソラ秋澄むや
狗尾草母と哀しくくすぐりあう
キリン絶滅ガラスのビルに映る月
秋そっと自分の影を踏むあそび
霧の町やさしい象とすれちがう


岸本尚毅
木の上に雲現れし良夜かな
山光るほどの良夜のほととぎす
銀漢に羽蟻もすこし飛ぶ夜かな
秋晴や草丈高き外来種
鬼蔦を引いて柿とる女かな
秋晴や駅の北口広々と
つながつて長き白波雁渡し


林雅樹(澤)
劇終はり舞台に血糊秋の暮
新酒酌みコロナパーティーたけなはぞ
覚えとけよ月のない夜もあるからな
秋暑しバリウム呑んですぐげつぷ
ひつじ田に立小便をする男

2020年8月28日金曜日

令和二年 夏興帖 第四(山本敏倖・夏木久・松下カロ・小沢麻結)



山本 敏倖
烏揚羽天の香具山越えて来る
こっくりさんと密談をする木下闇
箱庭の十三番地冠水す
陰影の無限大描く蔦青し
ピンヒール底の高さに積乱雲


夏木久
解禁の昨夜の夢は薔薇の棘
心臓のリズム乱して花は葉に
荒梅雨へ重機のアーム水の星
青梅雨へ白いカートがドアを出る
ぐるぐるの針金の先今日も雨
耳鳴りへ硝子の檸檬抛り込む
空蝉を覗き夜警は黙り込む


松下カロ
噴水のてつぺん眠る女の子
ハンカチに何か包んで大事さう
仰向けば疵うつくしき青りんご


小沢麻結
草茂る鉄条網は錆び歪み
半日を風に晒して蓮の花
水打つやシンシアの歌口ずさみ

2020年5月29日金曜日

令和二年 春興帖 第十/花鳥篇 第二(岸本尚毅・佐藤りえ・筑紫磐井・加藤知子・夏木久・神谷 波)

【春興帖】

岸本尚毅
春よ来いウイルス来るな猫は来い
風に乗る足湯の湯気や梅の花
てらてらと胸の木目や涅槃像
涅槃図の眠たさうなる釈迦を見る
日に障子熱くなりつつ地虫出づ
太宰にも沈丁花にも飽きにけり
串団子もちて日永をどこまでも


佐藤りえ
ころばせてころがるままにうららかに
花の旅窓を眺めてゐるばかり
とりどりのマカロン選るも春仕事
猫の仔と坂の途中の教会へ
朧夜のあなたがひっこぬくターン


筑紫磐井
大いなるマスクに隠す悪事かな
大胆な水着を選ぶ磯巾着
遠い日の子規の日記の桜餅


【花鳥篇】

加藤知子
初蝶来羊水ゆるるカルデエラ
すかあとの裾半乾き走り梅雨
手に余るなお捕まえる蛍の死
ピンク本開いて夏野通り過ぐ


岸本尚毅
永き日の日本堂といふ菓子屋
陽炎が高々とこれみんな墓
チユーリツプ「コーポ幸」幸あれと
蝦の尾のひつかかりつつ蜷の道
姫女苑ぐらぐらとして茎硬く
青き空甘茶に暗く映りをり
鍋底のやうなる春の雲を見る


夏木久
花解体デルタの街の猫車
淘汰せし蝶を摘んで病棟へ
10階に水際の波五月雨の病院
海暮れて見舞へぬ五月病ひかな
春菊の残菊をいただく晩春をいただく
銭湯の富士からセザンヌの裸婦
風薫り策を弄してしまひけり


神谷 波
去りがたきうぐひすの声柿若葉
国中が暗澹たるに柿若葉
そのうちに雨は上がるさ柿若葉

2020年3月20日金曜日

令和二年 春興帖 第一(仙田洋子・曾根 毅・夏木久)



仙田洋子
春の鹿地軸のやうに傾けり
超新星爆発無音梅白し
梅白しわが細胞も新しく
雛人形みな正面を向く怖さ
カルメンの踏みつけてゆく落椿
影あれば影に佇み桜かな
永遠を追ひかけ雲雀揚がりけり


曾根 毅
瓦礫より赤い毛布を掴み出す
死んだ人らの拍手のようにかぎろい
春めくや坂の時間が長くなり


夏木久
春立ちて入るか出るかの手がノブに
コンタクトその涙目を鳥帰る
行旅死の百円ライター春燈
立春や隙間に水を流し込み
永眠は家出するやう大人しく
箸置きに山背のこと大和のこと
ノートには戯画も寺もの記憶あり

2020年2月14日金曜日

令和元年秋興帖・冬興帖追補/令和二年歳旦帖 第六(早瀬恵子・夏木久・中西夕紀・岸本尚毅・菊池洋勝・高橋美弥子・川嶋ぱんだ・青木百舌鳥)

【歳旦帖】
早瀬恵子
新(にい)霞白き羽毛の俳句舞う
嫁が君か君は嫁かとかしこまれ
新年や庚子の産声高らかに
チューと鳴く千五百秋(ちいほあき)なるお正月


夏木久
明星に馬車繋ぎあり初御空
パソコンの上を暫らく初埃
この夜を軽く着てゆく初厠
初風は厠窓より素つ気なく
初笑すべて昨夜の舌禍にて
ぼくの基地私が爆破す初夢
海鳴りと惑ふ耳鳴り初明星


中西夕紀
口中に舌のごろつと年つまる
休みをる脳へも響け除夜の鐘
大奥のごと羽子板の姫並ぶ
鳥のこゑ虫の翅音や淑気満つ
太鼓打つ役を頂き弓始め


岸本尚毅
煤逃やあてを酢モツの二合半
手に達磨下げて現れ札納
老いの屠蘇まなこつむりて吸ふやうに
日を経つつ出水の跡や初景色
夕翳りしながら破魔矢また売れて
破魔矢売る巫女の齢を問ふまじく
留守の家居留守の家や松も過ぎ

【秋興帖】
菊池洋勝
天高し牛の拒める荷台かな
盗まれた下着並ぶや秋の色
試し書きする筆ペンや冬支度


高橋美弥子(夜守派)
紅葉且つ散れりベビーカーの双子
ふるへる手岬の野路菊の揺るる
芋洗ふ吾が腸の黒かりき


川嶋ぱんだ(夜守派)
人生はがんばらないと秋がくる
秋空に打つ音階のない木魚
掃けば掃くほどに銀杏の石畳

【冬興帖】
菊池洋勝(無所属)
入院の手続き済むや冬の月
年惜しむつけ置き洗う溲瓶かな
喰積の何でも噛める歯を磨く


高橋美弥子(夜守派)
夫も吾も猫も嘔吐す十二月
木々は眠りぬ湖面は真冬みなぎらせ
水面てふスクリーン美し冬の薔薇


川嶋ぱんだ(夜守派)
改札を出れば広場や落葉焚
老人を射殺野原の日は短か
銃声が心に響き雪の声
目薬を落とし怠惰な冬の海
鼻に穴 炭焼小屋は施錠せず
赤い海とうとう青くなる冬至


青木百舌鳥
稲荷社にあぶらげ人に散黄葉
降る雪のバスの窓打つときに鋭し
子の頰のみるみる赤し餅を搗く
食堂のからくり時計年つまる

2020年1月10日金曜日

令和元年 冬興帖 第二/令和二年 歳旦帖 第一(小林かんな・池田澄子・辻村麻乃・内村恭子・中村猛虎・夏木久)

明けましておめでとうございます。
昨年から、俳句帖の掲載ペースが落ちており、出来るだけ季節感と合わせるために、複数の季節を同時掲載することとしました。現在夏興帖は終わり、秋興帖と冬興帖の掲載が進んでいますが、まだ当分同時掲載が続くと思います。このような中で恐縮ですが、歳旦帖を開始させていただきます。
このため、掲載が遅れている方、また掲載にあたり秋と冬の掲載の順番が変わっている方から問い合わせを頂いています。BLOG参加者にはご迷惑をおかけいたしますがご宥恕ください。

筑紫磐井


【冬興帖】
小林かんな
太陽の塔へ冬日のモノレール
着ぶくれて亜細亜の百の仮面の前
死者包む装束の紐冬の蝶
小春日のサバニの上に魚籠と櫂
ゆりかごも呪術の品も藁仕事


池田澄子
冬ざくら谷へこぼるるしずけさよ
凍月夜しずかになさい紙袋
膝掛毛布催眠剤を飲むか否か
寒き夜のひとりのお茶の濃すぎたる
雪の気配うしみつどきを寝そびれて


辻村麻乃
鐘島に波の鳴りたる冬夕焼
航跡波うねりてきたる鰤起し
路地裏の路地を迷いて冬花火
一艘の呑まれゆきたる冬紅葉
長瀞に石の積まれて冬うらら
燦燦と擬宝珠に冬陽跳ねゐたる
虚無と云ふ鬼の底這ふ十二月


内村恭子
雪の高野手に手に幣を携へて
寒暁や僧の手が撒く紙の蓮
勤行に凍つる手合はす夜明かな
手を組みて宇宙は遥か息白し
胼の手で修行の僧が運ぶ膳


中村猛虎
唇を這わせて進む大枯野
懐手袂に触るる龍角散
冬の稲妻撃ち抜け心臓はここだ
食パンに入れる刃の音冬に入る
枯野人明日履くための靴磨く
悴んでいても今夜も生きている


夏木久
小春日へ箸落としましたねあなた
歓談をしつつお昼を雪達磨
非難甘受冬へ脚立を立てかけて
裏窓や朝日の当たる駅その他
出口だと?そいつは冬の入口だ
金継や偶に傷口べろつと舐め
さうだらう南瓜の返事はNOだらう


【歳旦帖】
辻村麻乃
おでんから引いては足して銀の匙
冬花火上がりで山の定まりぬ
五千頭の龍冬天を睨みをり
足裏より凍突き上ぐる大伽藍
礫岩層十指に余る初御空

2019年11月15日金曜日

令和元年 夏興帖 第二・秋興帖 第二(夏木久・山本敏倖・望月士郎・曾根 毅・辻村麻乃・仙田洋子)



【夏興帖】
夏木久
この坂は上りか下りかはイソップ
向日葵に黒子或ひは空似とも
間違ひは偶々月の無人駅
膨大な夜の片隅の腕枕
星月夜死後より椅子は徐に
明易し夢からの電話待つてゐて
裏窓をさも嬉しげに飛ぶドローン


山本敏倖
10Bの金釘文字の暑さかな
六月の通奏低音あるかでぃあ
古代史の律令に穴紙魚走る
油蝉稲荷の裏の古代杉
水打って記憶の路地と路地繫ぐ


望月士郎
毛虫焼くときもしずかな薬指
うす塩の空蝉カウチポテト族
黙祷のくびすじ夏蝶のつまさき
八月六日ふりむく街のみな双子
空席にハンカチのあり広島忌


【秋興帖】
曾根 毅
露けしや苦しまぎれに抱きたる
紙おむつ穿き替えてから秋刀魚焼く
慰めにあらず日暮れの木守柿


辻村麻乃
駅前が海になりたる台風禍
二代目は無口な店主貴船菊
鰯雲遠き街より暮れなずむ
山は我我は山なる野分あと
頭からがぶりと秋刀魚喰らひたる


仙田洋子
トス高く上がりし空を秋燕
飛べさうもなき字の重さ蟿螽は
こほろぎの雌こほろぎの雄を踏み
   明治神宮 四句
おほかたは莟のままの菊花展
菊花展もう飽きてゐる男の子
奉納の菊や明治の世を思ふ
奉納の懸崖菊の古びざる

2019年8月30日金曜日

令和元年 花鳥篇 第二(杉山久子・渕上信子・夏木久)



杉山久子
白髪の美しき遺影や鳥雲に
木漏れ日の記憶匂へる夏帽子
終電に空ける予祝の缶ビール


渕上信子
老いうぐひすの物狂めき
蟻にあなたに雨の休日
兜太論茹小豆甘すぎ
被爆ピアノを聴く熱帯夜
夏帽子振向くや別人
夜食のあとの指舐めて「さて!」
歩み出す厄日の団子虫


夏木久
炎昼を影の干乾びゆくボレロ
顔役になれず朝顔朝茶漬
峰雲の麓総州九十九里
雨脚が伸びて曼陀羅図の小火へ
器より銀河へしずく水の星
向日葵の所属七三一部隊
王子さま忌の夜の飛行機雲へ

2019年5月23日木曜日

令和元年 春興帖 第一(仙田洋子・松下カロ・曾根毅・夏木久)



仙田洋子
白梅のうしろ大きな山のあり
戦争のあとは紅梅ばかり咲く
祈るほかすべなき我ら鳥雲に
真つ先に帰つてゆきし新社員
猫の子ら眠りゐて三連音符
たんぽぽは小さき太陽踏までゆく
たんぽぽの絮吹きあます子供かな


松下カロ
敵なくて苺にミルクたつぷりと
地球なほ回るひばりの卵乗せ
秒針もオタマジャクシも帰らざる


曾根毅
昏昏と舟沈みゆく雪柳
つちぐもり次々に核廃棄物
情交のはじめにありし藤の房


夏木久
椿落ち白磁の皿を泳ぎをり
其処からは闇と知りつつ花筏
アルバムの文字は朧を踊りだす
トライアルに出来ぬ現世や鳥雲に
保守的な廊下の奥や凝視しやる
夏立つ他何の匂ひも立たず門
描き直す犀棲む森の風景画

2019年3月29日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第三(飯田冬眞・辻村麻乃・夏木久・杉山久子)



飯田冬眞
パック酒くしゃりとつぶし初日の出
初筑波祈る角度は鋭角に
鼻歌の優しきうねり初御空
骨密度減りゆく母よなづな打つ
福耳を揺らす作務衣や喧嘩独楽
放浪の芙美子の庭に福寿草
たたかれて猛る火もありどんど焼


辻村麻乃
無骨なる若者鯛焼に並ぶ
色色な野菜の星や白シチュー
羽子板市邪鬼も悪鬼も叩かれず
歳晩や道で荷物を出す女
梳初や背後に誰かゐるやうな
幣揺るる工事現場の初茜
椅子の背にコート掛けたるサンルーム


夏木久
寄せて返す波打ち際の室内楽
  飛び乗りし夜行ソナタの淋しさよ
かみしものすけるかみしもすけるかみ
かくかくしかじかかみしものかみしたもゆる
はらきりしこおにたびらこほとけのざ
脳裡の月光ソナタより水の漏れ
ペン先に圧加はりぬ春の夜


杉山久子
初旅や左足よりはじめたる
牛日の既読スルーを眺めをり
何にでも「平成最後」餠伸びる

2019年1月25日金曜日

平成三十年 冬興帖 第三(加藤知子・林雅樹・北川美美・杉山久子・夏木久)



加藤知子
小春日の鳥語おおきく旋回し
寒卵われば少女の黄泉がえり
猪の眼のかなしむときのアドバルン


林雅樹
溶接の火花や雪の降り始む
ストーブの匂ふ名画座のロビー
待ち伏せてポインセチアを突出しぬ
河豚鍋やストッキングの蹠が好き
鱈鍋に煮ゆるたらちやんあちゆいでちゆ


北川美美
地図になき城跡をゆく十二月
手に星や梯子を昇る十二月
新しき看板の立つ十二月


杉山久子
十二月八日盥の底に傷
くちびるに消ゆるコトノハ昼の雪
着ぶくれて番号順に並びをり


夏木久
オーロラをと笑みを零す冬菫
死者生者ドリンクバーに屯せる
ボヘミアから手土産さげて花八手
地下室の井戸に写れる地下の灯よ
引継ぎは湯湯婆のことのみ保安室
踏切のことを畳めばロダンの忌
色々な印象くらべ枯芭蕉

2018年11月9日金曜日

平成三十年 秋興帖 第三(山本敏倖・ふけとしこ・夏木久・曾根毅・小林かんな)



山本敏倖
菊日和客の一人をもてあます
細戈千足国(くわほこのちだるくに)なり秋二日
鳥兜この能面はゆるいと見る
いにしえの剣の舞や蔦紅葉
晩年や紅葉の夜を腑分けする


ふけとしこ
畦に立つ長き腕組み秋の蝶
草虱あの山も名を持つはずよ
花布を銀鼠色に後の月


夏木 久
長い夜を殴り倒して遮断機降ろす
秋灯を点けてこの街抉じ開けり
安易にも葱をばら撒く会議室
鯖缶開け空缶にして秋の海へ
高圧的な客の居座る電気店
立秋や更地の隅に病める雲
星宿を探し疲れて破芭蕉


曾根 毅
鬼灯の内に骨やら髪の毛やら
破蓮神仏もまた破れたり
軌道から逸れし蜻蛉は匂うなり


小林かんな
秋澄めり32個のスープ缶
龍淵に沈みぬ愛はゴミ箱に
東京の鋼の蜘蛛へ毛糸編む
秋夕焼絵筆を放す象の鼻
月明り恋人の顔描き直す

2018年9月7日金曜日

平成三十年 夏興帖 第四(加藤知子・夏木久・飯田冬眞・田中葉月・渡邊美保)



加藤知子(「We」「豈」「連衆」)
金魚また死ぬ時計逆まわり
上下する死刑執行日の花火
しばらくは腰のあたりの百合花粉


夏木久
空蝉のやうなその影灯を点し
ホームラン叫ぶラジオや敗戦忌
確執の晩夏輪護謨で束ね放置
土砂降りを営業中です酒屋「虹」
八月や昭和の電話鳴り止まず
にくづきの悪き月齢の臓器移植
黒板の余白へ永久に灰の降る


飯田冬眞
豆腐屋の三和土( たたき )がらんと夏の雲
トマト熟る転勤族の黒き目に
残り香の微かな痛み遠き雷
六道の辻にたたずむ毛虫かな
念力の少年スプーン曲げし夏
ひたひたとデンデラ野より夜盗虫
水を汲む骨を抜かれし浴衣着て


田中葉月
夏の山二十歳のバス停塗りかへる
洪水やいまだ造花の咲きしまま
病葉にのこるくれなゐくるりくら
青柿や雲に聞いたか聞こへたか
生きてゐるただそれだけの螢


渡邊美保
明易の蟇掛け軸に戻りたる
かたつむり琵琶湖一周してきたる
黙々と塩振る男南風
西瓜食ぶ幽霊の役引き受けて

2018年6月29日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第二( 椿屋実梛・夏木久・杉山久子・小沢麻結)



椿屋実梛
春まけてバーカウンターに一人ゐる
龍天へとほくの空にヘリの音
桜前線どこの桜を観にいくか
教会の桜明るき日曜日
残業のあとかろやかに夜桜へ


夏木久
九電の灯は煌煌と五月闇
空蝉を覗いてみたが警備員
写生の手は休み休みに花は葉に
精一杯火を吹き消す涙のバースデイ
形程よく恥毛剃られり夏の巴里
水中花愛に言葉は不要かな
10ルクス程に記憶を初蛍


杉山久子
黙示録記されしのち蠅生まる
早苗田となるしろがねの雲宿し
黒南風や蜷局巻きては解きては


小沢麻結
永遠の若さは呪ひ薔薇廻らせ
萵苣刈りぬ乳迸る先へ先へ
裏山の緑蔭秘密基地として