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2026年1月30日金曜日

令和七年 夏興帖 第九/秋興帖 第七(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・眞矢ひろみ・小沢麻結・花尻万博・林雅樹)

【夏興帖】

下坂速穂
すこし水遊ばせてから水遊び
いうれいは手の甲を見せ夏芝居
小唄ひと節覚えて帰る西日かな
まくなぎや我の放ちしやうにゐる


岬光世
蚊遣火を絶やさず町の油揚
水中花触るることなき風いとふ
人住まぬ町に働き明早し


依光正樹
著莪咲いて森にちひさな泉湧く
朝の樹に来たるもろもろ雲の夏
村に来る鳥を知りたる若葉冷
梅雨の間清々しくて人の服


依光陽子
かの人のおもかげ涼し九輪草
白き夏の白き胡蝶は白き花へ
アトリエの絵具ゴツゴツ空に虹
寿司食うて潮灼けの髪きらきらと


【秋興帖】

眞矢ひろみ
秋高し見えざる手まで見えさうな
振り向けば使徒はまぼろし初紅葉
帰り花狂気は薄く目をひらく
秋天や鶴が亀追ふスタジアム
一行詩蜀黍のひげ絡ませむ


小沢麻結
対岸へ焦がれはばたき秋の蝶
被せ来し筵展ぐや胡麻を打つ
鉦叩一本調子ふと乱れ


花尻万博
懸命はたてがみに出て無月なり
硝子戸の外にいる人彼岸花
稲妻を迎えに戻る下座かな
鳥威かそかに皇居まで届く
ふと母乳零れていたる稲の花
人の列矢印通りつくつくぼふし
流星の泳ぐ手足を忘れけり


林雅樹(澤)
案山子見る鼻の伸びたるピノキオが
石垣の角の崩や秋の昼
カプセルトイ同じやつ出て来て残暑
握手会終はり月夜に観覧車

2026年1月16日金曜日

令和七年 夏興帖 第八/秋興帖 第六(眞矢ひろみ・小沢麻結・花尻万博・林雅樹・渡邉美保・小林かんな・田中葉月・小野裕三)

【夏興帖】

眞矢ひろみ
なめくじり縮みて十万億土かな
蛍火や軌跡はコンマとなりて消ゆ
あぢさゐの毬のへこみといふ重力
翳す手に天日の痛み原爆忌
地獄絵を見てあっさり味の氷菓とす


小沢麻結
真ん中はゴジラ峰雲三兄弟
手のひらに掬ふ湖夏の朝
旱星戦争は降るものならず


花尻万博
暮らしの灯いまだ切なく鯰かな
夜目利ける片手拝みの涼しさよ
麦の香に巡礼粗く伸びにけり
短夜に頭失ふ釘ありぬ
観音の曲線に沿ふ台風圏
なめくじり引用元と別れ来て
折にふれ正気をよぎる蛍かな


林雅樹(澤)
肌脱ぎの婆ァが踊り込んで来た
盆踊最高潮やアパツアパツ
薄羽蜉蝣掌にかざし見せユーチューバー


【秋興帖】

渡邉美保
鰯雲国境まで水汲みに
秋日差し退屈さうな空気入
松ぼくり秋思の靴が蹴ってゐる


小林かんな
身ほとりに夜業の人を呼ぶボタン
朝寒や別の女が血をとりに
鎮痛剤追加UK80’sも
いぼむしり血をとれ左でも右でも
鹿火屋守の銅鑼を聞きたし夜のふけて


田中葉月
船虫の一族郎党ひきつれて
等間隔に団栗落ちてゐる未来
月の船喫水線をにじませて
箱舟の選ればれしもの秋の虹
ちょい悪のオヤジが好きで秋の蜂


小野裕三
恋とはなぜ落ちるものかと鰯雲
退屈ねって夜の林檎に火をつける
蟋蟀の続篇である飛行場
五代目を名乗る長身小鳥来る
末っ子で演歌が好きで林檎好き

2025年2月14日金曜日

令和六年 秋興帖 第十(小沢麻結・林雅樹)



小沢麻結
雨に酔ひ風に酔ひ酔芙蓉かな
秋蝶の翅重ね風やり過ごし
杉の香の失せぬ間に酌め新走り


林雅樹
乳見せて笑ふ老婆やななかまど
庭掘れば出づる人骨ななかまど
よく出来て案山子やネルのシャツ着たる

2025年1月24日金曜日

令和六年 夏興帖 第十/秋興帖 第九(小沢麻結・林雅樹・辻村麻乃・堀本吟・望月士郎)

【夏興帖】

小沢麻結
誰が手より水面へ置かれ未草
池袋新宿渋谷違ふ夏
毛虫焼く誰も代はつてくれぬから


林雅樹
肛門に回虫半身出て夜涼
舗道に乾び蚯蚓点々書のごとく
プール地獄痴漢魔羅見せ餓鬼は糞る


【秋興帖】

辻村麻乃
息苦しきほどの雲よ秋の雷
失くしたと思うて出会ふ明けの月
長き夜に長き手紙を書きにけり
揺蕩うて淡くなりたる恋螢
笑ひ声溢るる校舎稲の花
彼岸花左岸に土砂のどつさりと
きつちりと壁に沿うたる秋日射


堀本吟
栗もなか窓の汚れにこだわらず
尼君の説明律儀萩の露
柿ひとつふたつ堕ちたりブラックホール


望月士郎
足りない日案山子を数えつつ歩く
鹿すっと立ち霧の中心の音叉
書き直す胡桃を左手に移し
キツネノエフデ月をまあるく塗り残す
離れると聞こえることば蕎麦の花
夕暮が鬼灯さわるさらわれる
眠れない夜のまなうら赤のまま

2023年12月16日土曜日

令和五年 夏興帖 第八(高橋比呂子・鷲津誠次・林雅樹)



高橋比呂子
始原(アルケー)として多色刷りなり河口
炎昼のつれなき影や始原とす
晩夏かな塒の烏よ葡萄牙(ぽるとがる)
旅人の喪失早熟のはまなす
紅い手鞠突いている睡蓮(ひつじぐさ)
みちのくの青葉違えず磊々峡
復興海岸岩壁津波高記夏果


鷲津誠次
手鏡に貧しき素顔桜桃忌
梅雨晴れ間家裁駆けゆくハイヒール
海の日や吾子の歯磨き念入りに
しばらくは会えぬ片恋夏休み
落雷やふいに鳴り止む黒電話
父の島に慟哭めくや油蝉


林雅樹(澤)
蛇の這ひ出づる空家の解体に
ブクオフに寄りて帰らむ夏の暮
汗ばつかかいてんじやねえちやんと舐めろ

2023年5月26日金曜日

令和四年 冬興帖 補遺/令和五年 歳旦帖 第八(林雅樹・水岩 瞳・下坂速穂・岬光世・筑紫磐井)

【歳旦帖】

林雅樹(澤)
初日さす川に浸かれる倒木に
ふにやふにやの摩羅折り入るゝ姫始
級友の娘が巫女や初詣


水岩 瞳
初暦絶景三百六十五
初御籤末吉上等待ち人来る
初鏡変えたコスメの効果どう


下坂速穂
松立てて小さな駅の賑はへる
似た人の後を君ゆく寒詣
拳玉を母へ買ひつつ初薬師
戸が噛んでをりし福豆見つけたる


岬光世
会ふことの無からむ人よ賀状愛づ
輪飾を抜けて天空金の鶴
語らひは山から山へ初霞


【冬興帖】

筑紫磐井
真っ黒な蟹赤くする周富徳
嘘つきメニュー 人魚の温スープ
白鳥の王子・王女やむつみ合ふ

2023年5月12日金曜日

令和四年 冬興帖 第七/令和五年 歳旦帖 第六(ふけとしこ・岸本尚毅・渡邉美保・青木百舌鳥・眞矢ひろみ・林雅樹・木村オサム)

【冬興帖】

ふけとしこ
通行量調査二枚の膝毛布
ウエハースに律儀な格子年詰まる
かく小さき歩幅に年を越しにけり


岸本尚毅
木賊折れ小春ひねもす鉦叩
草の絮くはへ小春の蟻がゆく
枯芝が剥げ土が剥げ石が見え
冬の日や指をひらいてあたたかく
冬の蠅砥石に翅を光らせて
明滅の周期正しく聖樹あり
その人の影その人の寒き耳


渡邉美保
裸木の奥に湖光りけり
邪推するポインセチアの恋のこと
仏手柑や一つ一つの裏事情


青木百舌鳥(夏潮)
けら叩く音のときをり障子堀
沢涸れてクレソン青き水汲場
一本の武鯛を以て釣納め
折りたたみバケツを濯ぎ釣納め


眞矢ひろみ
黒傘をたたむ柔肌憂国忌
霜柱ゴジラとなりて踏み鳴らす
山の子の青き水洟畏ろしき
階層に「せかい」とルビす枯芙蓉
冬麗やダイオウイカの哀しき眼


林雅樹(澤)
教会の壁のみ残る焚火かな
燻れる焚火の薪湖に投ず
東急本店屋上植込の枯れて


【歳旦帖】

木村オサム
何もかも昔となりて寝正月
生まれ出た時が最良寝正月
寝正月駱駝が部屋の隅で待つ
空へ行く足跡見えて寝正月
あっさりと世界は消えり寝正月

2023年2月17日金曜日

令和四年 秋興帖 第六(眞矢ひろみ・林雅樹・加藤知子・花尻万博)



眞矢ひろみ
逆光の芒野ねじの音すなり
国葬の先へさきへと秋ともし
山の秋千年待つも帰らない
影をみな朱隈のなかへ秋の暮
体育の日の言ひ様が歪なる


林雅樹(澤)
議員会館前喚く人ゐて銀杏臭ッ
柿干してありタコ足のハンガーに
夜糞るはせつなし竃馬もゐて


加藤知子
匿名が叱られ青蜜柑剥かれ
秋澄むや紅き器をカルデラといふ
桃吹くよう地雷踏むよう逝く女
青い骨白い骨へと照る紅葉
極私的林檎は桃と合体せむ


花尻万博
猪垣に集ふ子よ尻柔らかに
波幾つ鹿を巻き入れ枯木灘
舟に差す母のコスモス濡れ通し
唐辛子掴む子の手に何か灯る
直線に村過ぎ木の国の鹿よ
烏瓜過熟かおしやべりの過ぎ

2022年12月2日金曜日

令和四年 夏興帖 第七(林雅樹・花尻万博・水岩 瞳・眞矢ひろみ・竹岡一郎)



林雅樹(澤)
アロハシャツ買ふしまむらの安売に
夏草の茂り売地の札も隠れ
海水浴にはしやぐ心中前の家族


花尻万博
鉄屑に鉄屑商に西日照る
蜘蛛垂らす咎か海より深き沼
猫の目よプールの形の子どもらよ
父母をみな汲みつくす昼蛍
寂しがり屋西瓜の皮をすぐ流し
人寄せる仏八方草いきれ


水岩 瞳
黄帽子の集団渡る川薄暑
黒日傘黒薔薇抱いて焉んぞ
聖五月そびら伸ばして母のこと
巻き戻す身投げ映像沖縄忌
煮て焼いて蒸してレンジの夏料理
幽霊よりやはり人間恐ろしき


眞矢ひろみ
燐寸擦れば七色灯る道をしえ
空蝉に小石を入れて巫女が吹く
大夕焼万象膨らむ気配かな


竹岡一郎
青年頑な怨府の梅雨を艮へ
蛸焼が絶縁状をまろび灼く
喝采に執して喜雨を渇くとは
誘蛾灯声無き嗤ひ照らしをり
蔑しつつ怒りつつ饐え崩えゆくか
忘恩を熱砂の城に憐れむな
見殺しの我が眼ひらくを夕焼染む

2022年9月2日金曜日

令和四年 花鳥篇 第六(妹尾健太郎・松下カロ・小沢麻結・林雅樹・竹岡一郎)



妹尾健太郎
引っこ抜く涙の乱舞かつお潮
麦秋の濃尾三川瞬く間
髪洗う真下音する大江戸線
指なめて風向きを見る子蟷螂
妹の方がわんぱく今年竹


松下カロ
紫陽花はのけぞる誰か過ぎるたび
白波を小さな蛇と思ふなり
洗面器凸凹あれば明易し


小沢麻結
生若布スパークリングワイン買ひ
さくらさくらかの日昨日のやう今も
瑠璃蜥蜴瑠璃躍らせて転び逃げ


林雅樹(澤)
遊民となりて一年夕桜
露出狂神出鬼没囀れる
地割れへとビルも若葉の街路樹も


竹岡一郎
悲の蟬や瞋恚に焦げし背にとまる
夏書重ねてわが妄執を見殺すまで
怨府こそ白蓮咲(わら)ふ音とどろく
川床に招かん書淫なだめんと
翡翠に魚めぐまるるほど無聊
山盛り素麵無常の如し平らげる
雹止まず人魚も姉も泣くを知らず

2022年4月22日金曜日

令和四年 歳旦帖 第十一(林雅樹・水岩瞳・佐藤りえ・筑紫磐井)

【歳旦帖】

林雅樹(澤)
田向ふの家に客来る二日かな
がうがうと川の堰鳴る二日かな
手斧始建築関係者挨拶


水岩瞳
モーニングAで始まる四日かな
破魔矢の鈴鳴らして行くや肩車
田づくりの命クルミと絡み合ふ


佐藤りえ
画布延べて木枠を乗せる去年今年
ささくれし廊下のむかふ初湯あり
ゲンセンカンに初刷りが五年分


筑紫磐井
初鴉・初鴉・初鴉・初かけろ
ひめはじめおとこはじめもありぬべし
叔母さまは坊主めくりが大好きで

2022年4月8日金曜日

令和三年 冬興帖第九/令和四年 歳旦帖第九(林雅樹・水岩瞳・佐藤りえ・筑紫磐井・浅沼 璞・眞矢ひろみ・下坂速穂・岬光世)

【冬興帖】

林雅樹(澤)
ブラックホールに吸はれ寒星減りゆける
アイドルカレンダーお渡し会の列にあり
マスクして私綺麗と問ふなかれ
行き会ひしコロナの精や聖夜(イブ)の街
枯蓮の悄然として日本かな


水岩瞳
まやかしの団結のありブロッコリー
星の子と手羽先食べる聖夜かな
山眠る懐紙小さく折りたたみ
バケツだけあつて此処です雪達磨
鬼やらひ鬼に妻いて子だくさん


佐藤りえ
なめて世を慰めてゐるしぐれかな
葛に喉ごくりと鳴らす近松忌
主はきませり韜晦室の暗夜にも


筑紫磐井
ひと時雨あとで花やぐ美美の忌
何もなくてもこの一月の星凄し
滅亡の狼 兜太・敏雄も我も詠む


【歳旦帖】

浅沼 璞
初日さす褥や虎の大あくび
初夢の色はだんだん宙に浮く
双六の無重力めく入歯かな


眞矢ひろみ
初風の欠片となって走りけり
笑初してパスワード思い出す
大笑の死顔を練る初鏡
うつし世にながらふは意地手酌屠蘇
初句会妖人奇人税務員


下坂速穂
何処よりも樹下の明るし初雀
輪飾りの昔も今も鳩の街
夜更かしをして早起きの足袋を履く
辰巳の名露地に残して松過ぎぬ


岬光世
天平の調べ降り来る淑気かな
三味の音と女礼者へ出す珈琲
黒塀の店おほき坂餅の花

2022年1月28日金曜日

令和三年 秋興帖 第十(家登みろく・林雅樹・水岩 瞳・竹岡一郎)



家登みろく
愛称で呼び合ふ故老秋夕焼
秋澄むや猫ことごとく眠る昼
霧いまだ遠しと見るに霧の中
鱗雲遅々時の気の人いきれ
鬼灯や歌詞おぼろげに子守唄


林雅樹(澤)
秋の野に現れ脳味噌のない男
不知火を見る脳味噌のない男
竃馬夜の便意の切なしよ


水岩 瞳
西鶴忌浮き世憂き世のなかにゐて
長き首の上に置きたる秋の顔
草は実に人間何に変はりゆく
貼り紙の閉店します零れ萩
秋の夜のメールほんならまた明日


竹岡一郎
不可視の空襲盆の陶酔電磁波の
円滑に進む屠殺も豊の秋
児を攫ひ匿ふ化鳥へと鳴子
金風にくすしら己が口を縫ふ
偉いらしくリモート画面では雁瘡
看護婦嗚咽冷えた薬瓶取り落とし
救急車タイヤ摩耗の長夜奏

2021年11月5日金曜日

令和三年 夏興帖 第八(ふけとしこ・林雅樹・家登みろく・小野裕三・池田澄子)



ふけとしこ
かはせみの切手で返す夏見舞
向日葵の丈や線状降水帯
行く夏をウバタマムシの長き擬死


林雅樹(澤)
犬の首輪光り新樹の夜を過ぐる
草いきれすごいマスクを外したら
虫入り放題破れし網戸より


家登みろく
二つ三つ氷菓家路を急がるる
影向の松片蔭といふ御加護
をぢさんはかつて小次郎捕虫網
驟雨去り驟雨のやうに街始動
夏雲潔白行くべき道は知らぬ道


小野裕三
サイダーの溢れ出したる希望かな
こいのぼり方向音痴でも愉快
宵祭本祭とも小雨かな
三伏の白きも黒きも放し飼い
「ぜんぶ嘘」プールサイドに告白す


池田澄子
災害級大雨予報以後涼し
蟬穴に突っ込んでみし指を扨て
蓮つぎつぎひらきおらんと寝返りぬ
夕立の先ずは匂いを先立てて
夏野あぁ光の匂いとはこれか
暗い目という比喩にまた夏は秋
無花果裂く我が生誕の覚えなく

2021年8月6日金曜日

令和三年 花鳥篇 第六(林雅樹・前北かおる・小沢麻結)



林雅樹(澤)
桜散る世界残酷物語
緑道を夜通し歩く躑躅かな
新緑の樹海にずつと呼ばれてゐる


前北かおる(夏潮)
葉桜や昭和のままの西武バス
新緑の径に山門細身なる
万緑や雪国のごと屋根厚く


小沢麻結
春日傘引き寄す風と行きたがる
砂粒を払ひもう見ず春の海
青葉風興行中止の立札に

2021年6月18日金曜日

令和三年 春興帖 第八(林雅樹・渡邉美保・浅沼 璞・水岩 瞳・下坂速穂・岬光世)



林雅樹(澤)
形式的辞職願や夕桜
チューリップ濃し退職の花束に
あたたかや傘にさえぎらるゝ視界


渡邉美保
梅林を通り過ぎたる鈴の音
霾や厠に古き世界地図
街灯に造花めきたる花水木


浅沼 璞
梅林の折れ線つつがなくグラフ
日を舌に感じてをりぬ石鹸玉
さきに敷く春の布団をひろびろと
みんなしてたらりとすごす花きぶし
花散るを通りがかりの空にみる
よろこびの急坂にして百千鳥
ほの暗き藤が廊下をたれてゐた


水岩 瞳
いつどこで誰が何して建国日
此処までと堪へきれずに亀の鳴く
四月馬鹿続く此の国何がホント
石投げて壊す片片春の水
雑草も芥ものんで花躑躅


下坂速穂
帰りたる葉ずれの中にゐし鳥も
人見知りする掌に田螺かな
空き部屋の多きアパート柳の芽
Bar閉ぢてその奥に棲む干鱈かな


岬光世
野遊びやうとまれてゐて駈くる風
根菜のゑくぼを洗ふ春の水
本を読む背や春潮の太平洋

2021年3月12日金曜日

令和二年 冬興帖 第七/令和三年 歳旦帖 第八(岸本尚毅・浅沼 璞・眞矢ひろみ・加藤知子・水岩瞳・下坂速穂・田中葉月・林雅樹)

【冬興帖】

岸本尚毅
波立てて遊ぶ我居る柚子湯かな
陽気なるもの冬雲とアドバルーン
霜柱舐めたる如くつややかに
冬晴の雲の曳かれてゆく如く
何淋しとてにほどりの淋しさは
子供らはひねもす墓地に落葉蹴る
もの買へばサンタクロースお辞儀して


浅沼 璞
鹿の顔に似た人もゐて牡丹雪
排水のほそぼそ氷る山羊の舌
永遠に笑窪はマスクしてゐたる


眞矢ひろみ
世の果にただ佇つちから寒昴
あゝ皆んなここにいたんだ枯木立
彼の世より生前葬の寒牡丹
水鳥はその水影に溢れをり
東京湾に鮫真白き腹見せり


加藤知子
尊きは致死量の青ふゆ空の
冬の陽をこばむひとだまには目薬
ひとだまや冷たき恋に触れてみる
雪獄の総監室へひとだま燦


水岩瞳
絶版といふも冬めくもののうち
喜怒哀楽すべて眼に込め白マスク
十二月八日塩つぱい握りめし
一撃す今年傘寿の牡蠣割女
毛糸編む行きつ戻りつして未来


下坂速穂
梟や古地図と古地図見比べて
水涸れて木に真直な影が沿ひ
風の色日の色雨色の落葉
伐られたる木が残る木へ雪降らす


【歳旦帖】

田中葉月
吉原のお栄の眼差し遠い火事
黒豆や肩までつかつてコロナ風呂
くれぐれも御自愛ください芹なづな
去年今年流れる砂のごとくあり


林雅樹(澤)
家人呼べど応へぬ鏡餅に罅
『ヴィルヘルム・マイステルの遍歴時代』読み始む
初売りの商店街琴の音流れ人はをらず
 

岸本尚毅
雲高く浮かび裏白よく吹かれ
薔薇園に薔薇の落葉や初雀
初鴉頭小さく飛び去れる
窓大きく開けて初荷の運転手
青き空つづく長途を初荷かな
幹部諸氏マスク大きく初句会
初場所の腹をゆたかに仕切りけり

2021年2月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第六/令和三年 歳旦帖 第六(なつはづき・前北かおる・田中葉月・林雅樹・松下カロ・堀本 吟・望月士郎)

【冬興帖】

なつはづき
はつふゆや風のことばを手話にする
しぐるるや寝相の悪いゴムホース
アルコール度数が違う冬の薔薇
握力を緩め狐火と踊る
原っぱを空っぽにして夕焚火
クリスマスのっぺらぼうに鳴る音叉
お仕置き部屋にしまわれている聖樹かな


前北かおる(夏潮)
洛中に句碑ひとつなき貞徳忌
おでん食ふ男の腰にコルセット
父ひとり子ひとりポインセチア置く


田中葉月
はぐるるを覚悟の千鳥焼きまんじゅう
海鼠喰ふいく時代かがありまして
異郷の鬼となるも良し冬桜
後の世はすずなすずしろ星を飼ふ


林雅樹(澤)
議員会館地下道から地下鉄駅に出て寒し
枯芝に三脚置くや測量士
木枯をしのぐやブルーシート張り


【歳旦帖】

松下カロ
初夢に見知らぬ橋のかかりけり
車からホテル玄関まで吹雪
三ヶ日朱の縦糸を抜く遊び


堀本 吟
追い抜けよ年の獣が青き踏む
見続けて独楽止むとすぐ嬰児が泣く
万両を活けたが招待状は来ず
亡父母の干支を数えて戦後に還る
人日や皇女の愛のすこやかに


望月士郎
ちょうろぎは雪兎には使わない
魂を一つてんてん手毬かな
昭和とは畳の上のカーペット
剥製のうさぎのひとみ遠く火事
日こぼれて水鳥の浮くちがう場所

2020年12月4日金曜日

令和二年 秋興帖 第五(夏木久・加藤知子・望月士郎・岸本尚毅・林雅樹)



夏木久
檸檬転げる道なりの港町
透明になりゆく鳥を月光樹
踊り場を行き交う後遺症残り
ⅠCUの医者も患者も夜長へと
聞き漏らす釣瓶落しの深層考
闇を切り天の川原を走る人
然も然も地球は棺漂流す


加藤知子
眠れずに眠る男へ花灯籠
星月夜に向けてエプロンをほどく
木をゆするうそ寒の芯つかむまで


望月士郎
みずうみの空耳ミソラ秋澄むや
狗尾草母と哀しくくすぐりあう
キリン絶滅ガラスのビルに映る月
秋そっと自分の影を踏むあそび
霧の町やさしい象とすれちがう


岸本尚毅
木の上に雲現れし良夜かな
山光るほどの良夜のほととぎす
銀漢に羽蟻もすこし飛ぶ夜かな
秋晴や草丈高き外来種
鬼蔦を引いて柿とる女かな
秋晴や駅の北口広々と
つながつて長き白波雁渡し


林雅樹(澤)
劇終はり舞台に血糊秋の暮
新酒酌みコロナパーティーたけなはぞ
覚えとけよ月のない夜もあるからな
秋暑しバリウム呑んですぐげつぷ
ひつじ田に立小便をする男

2020年9月4日金曜日

令和二年 夏興帖 第五(木村オサム・林雅樹・小林かんな・岸本尚毅)



木村オサム
熟睡の脳の彩りところてん
ため息で膨らましたる蛇の殻
目薬をさして金魚の眼を思ふ
うなだれる神父クルスに羽抜鶏
向日葵を一つ残してシェルターへ


林雅樹(澤)
一向に鳴らぬ風鈴コロナ欝
ステイホームゴキブリを飼ひはじめました
へこみたるガードレールや夏休み
金魚釣る暗き屋内釣堀に
かまつてちよかまつてちよ首筋に汗


小林かんな
昆布刈る父は舳先に子は艫に
林蔵の歩いた大地てんとむし
オホーツクと叫ぶ先陣雪渓を
泉へのこみち白樺ダケカンバ
蝦夷富士のてっぺん見えてハンカチ干す


岸本尚毅
咲いてゐる薔薇あざやかに草いきれ
軍艦の入り来る港花氷
病葉や整然として芝淋し
富める祖父やさしき父や避暑たのし
鏡台の横なる避暑の男かな
七夕のものゆさゆさと風の中
蜻蛉飛ぶ頃となりつつ薔薇園も