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2020年11月27日金曜日

令和二年 秋興帖 第四/令和二年夏興帖補遺(網野月を・竹岡一郎・木村オサム・堀本 吟)



網野月を
夏の果て山々己の場に聳ゆ
秋七日願いは無くも光あり
三方に揃いの茶碗天の川
三日月を目指して急ぐ親からす
月光や鳥獣戯画を写し取る
後の月猿は悲しい顔をする
秋の日や猫とグリコのポーズして


堀本 吟
銀漢や黒覆面のお友達 
朝顔のずぶぬれとなり午後の配信
ぼたぼたとマスクは唄う曼珠沙華
ばあちゃんの祥月命日曼珠沙華


竹岡一郎
銀河測るに良き広場だが爆破
月浴びて笄(かうがい)蛭(びる)再生の阿鼻
万博も隣る団地も蔦に融く
土蜘蛛の憑代として雁を聴く
待宵は三味かすかなる廃旅館
銀漢をよぎる翼を権現と
梳く髪の蛇となるまで月の蝕


木村オサム
百年は誤差よと秋の鳩時計
砂時計割れて砂漠の出る秋思
鉦叩柱時計を裏返す
時間から遅れ団栗転がりぬ
一瞬と永遠同じ草の花


【夏興帖追加】
堀本 吟
斑猫やルビコンわたる心こそ
供物すくなし磨崖仏に蚊の痛し
おもいだす父の殯の百日紅

2020年10月30日金曜日

令和二年 夏興帖 第十三(小野裕三・佐藤りえ・筑紫磐井)



小野裕三(海原・豆の木)
蜘蛛の巣に架かる幽霊みな透明
礼拝も口づけもなき薄暑かな
自転車の荷台に置かれパイナップル
浜木綿やヒッチハイクの二人組
岬へと当てずっぽうの径灼ける


佐藤りえ
水菓子に文添へてある映画かな
夏河にイルカの群れのやうな雲
猫のよぶこゑ 素手でさはつて良いものか


筑紫磐井
夏座敷妻がまる見えだから不安
少女s(複数形)脱いで 蛾となったり 蝶となったり
君が飲む私の溶けたソーダ水

2020年10月23日金曜日

令和二年 夏興帖 第十二(川嶋ぱんだ・中村猛虎)



川嶋ぱんだ(樹色、つくえの部屋)
水眼鏡してアクリルの向こう側
峰雲が分厚く白くピアノ弾く
虹がでるまでまちぼうけ白い雲
薫風が吹いて午後から椅子だらけ
捨て積まれゆく文春の紙魚だらけ
横たわる頭を蛞蝓がわたる
天井を煙草の煙這う蜈蚣


中村猛虎
一畳に足りぬ棺桶道おしえ
姿見の中で口開く原爆忌
中年の肉のはみ出す虫籠窓
カフカ読み終えれば足下の出水
爆発してこその爆弾草いきれ

2020年10月16日金曜日

令和二年 夏興帖 第十一(松浦麗久・高橋美弥子・姫子松一樹・菊池洋勝)



松浦麗久(いつき組、樹色)
夏空の青さに音符溶け出して
メロディーが光り始める夏の浜
この夏は優しさ取り戻せない夏
雲の峰希望を歌い続けたい


高橋美弥子(樹色)
高速の朝空まぶし袋掛
ペディキュアのはじけて青い夏の星
抽斗の奥の百円梅雨の月
ねむの花若き役者の逝く空や


姫子松一樹(青垣、関西俳句会「ふらここ」、樹色)
レガースのひたと吸ひ付く夏の昼
赤鱏を干せば現る人の顔
アロハシャツ着れば陽気に思はれる
サイダーに呼吸乱れてゐるこども
子鯰の腹に透けたる蚯蚓かな


菊池洋勝(樹色)
ダンボールベッド組み立つ初夏の風
甚平に着ける変身ベルトかな
リトマス試験紙の滲む夕焼かな

2020年10月9日金曜日

令和二年 夏興帖 第十(依光正樹・依光陽子)



依光正樹
大輪の花やしづかにものを書き
涼しさや手狭暮しに花ひとつ
蟬の色わづかに堅き晩夏かな
手を添へて鉄砲百合の趣きも


依光陽子
晴子忌の切実に散る花びらよ
ちちははに会へぬ日日草二色
風が吹く付箋のやうに外寝人
作庭の要の石や蟬時雨

2020年10月2日金曜日

令和二年 夏興帖 第九(水岩 瞳・のどか・下坂速穂・岬光世)



水岩 瞳
廃校の足踏みオルガンアマリリス
わたくしも並んでそよぐ夏木立
七夕竹終息の文字ここかしこ
捩花の選ぶ右巻き左巻き
混沌が混濁となる泉かな


のどか
月下美人魔女と契約した証
ミルク飲み人形にもと天花粉
前世での爵位隠してゐる飛蝗


下坂速穂
蛸はいつより海に棲む壺に眠る
其処な者毒消売か酒飲みか
蛸が壺出でゆくほどの月明り


岬光世
初夏や女庭師の道具入
内にある水音立てて葛桜
花束を簡単服の腕へ受く

2020年9月25日金曜日

令和二年 夏興帖 第八(なつはづき・渡邉美保・前北かおる・浜脇不如帰)



なつはづき
青葉騒悲しいときは歯を磨く
風鈴や誰かの思い出にわたし
日雷荷台に剥き出しのギター
急に真顔ボートを揺らすひとことに
途中からハミングになるソーダ水
叶わないくちづけが浮く金魚玉
水中花ベッドの下という魔界


渡邉美保
葉桜のトンネルつひに抜けられず
鰺割きの欠けし切つ先晩夏光
川岸の流木を蟻走りゆく


前北かおる(夏潮)
二の腕をさはりにくる子早桃むく
コンビニのかち割り氷首にあて
地下の扉をひらけばごつた返す夏


浜脇不如帰
「じゅうじか」や百割引の鉄火巻
陽子にはまるでふれずに海水浴
打水や青信号で白いトコ
人力車いわしみず足す男梅
雲海は宙が自ら諦めた
むらさきの充つるイケイケ作り舟
梅雨茸は星をそこまで謳わずも

2020年9月18日金曜日

令和二年 夏興帖 第七(真矢ひろみ・田中葉月・花尻万博・仲寒蟬)



真矢ひろみ
タブーなる宴もたけなわ夏の月
俳句っぽい五七音字と夕端居
ひかがみと素数の陰の涼しさよ
西日よりはみ出る馬の真闇かな
あゝ会いに来てくれたんだほうたるよ


田中葉月
 転居
短夜や隠れん坊のかくれをり
白鷺は西に十字を切つて行く
青胡桃とても大事な話など
空蝉に笛遠ざかる豆腐売り
海月浮く言葉足らずと言はれても


花尻万博
蝶舞ひて蝶の静けさお花畑
西日受け帽子の箱と目眩せり
蛇の腹縮みて四肢にあくがれつ
乱れ建つ門煙らする花氷


仲寒蟬
電線をたどれば海へ夏燕
平積みの箱敷きつめて麦の秋
ワイン庫の黴うつくしく午下り
燕子花水行く方へ人も行く
何ものとつかぬ足跡泉の辺
箱庭の海鉛筆を灯台に
ウェブ会議かすかに風鈴の音が

2020年9月11日金曜日

令和二年 夏興帖 第六(妹尾健太郎・椿屋実梛・井口時男・ふけとしこ)



妹尾健太郎
風薫る脚立に立ったりしなくても
大小の対象のない烏賊泳ぐ
河童忌の銘々皿を銘銘洗う
其は回想シーンから入り来る凌霄花
後ろ頭に生涯浮かぶかの蝙蝠


椿屋実梛
五月雨や静かな曲を好みをり
歩ききてマスクの中は滝の汗
子どもらに思ひ出のない夏となり
鶴瓶落とし政府の愚策底のなし


井口時男
病葉やゲルニカに散る馬の首
青黴やルドンの目玉が闇に咲く
マスク流るゝムンクの橋の梅雨夕焼
ラスコーの闇の赤牛跳ねて夏
喪服脱ぐピカソの女夜の蟬
口寄せたまへば青白きかな夜の百合
こをろこをろと海かき混ぜよホヤ熱死


ふけとしこ
急坂や揚羽と同じ風をゆく
滴りに息継ぐ役行者かな
火の国の出自を言うて冷し酒

2020年9月4日金曜日

令和二年 夏興帖 第五(木村オサム・林雅樹・小林かんな・岸本尚毅)



木村オサム
熟睡の脳の彩りところてん
ため息で膨らましたる蛇の殻
目薬をさして金魚の眼を思ふ
うなだれる神父クルスに羽抜鶏
向日葵を一つ残してシェルターへ


林雅樹(澤)
一向に鳴らぬ風鈴コロナ欝
ステイホームゴキブリを飼ひはじめました
へこみたるガードレールや夏休み
金魚釣る暗き屋内釣堀に
かまつてちよかまつてちよ首筋に汗


小林かんな
昆布刈る父は舳先に子は艫に
林蔵の歩いた大地てんとむし
オホーツクと叫ぶ先陣雪渓を
泉へのこみち白樺ダケカンバ
蝦夷富士のてっぺん見えてハンカチ干す


岸本尚毅
咲いてゐる薔薇あざやかに草いきれ
軍艦の入り来る港花氷
病葉や整然として芝淋し
富める祖父やさしき父や避暑たのし
鏡台の横なる避暑の男かな
七夕のものゆさゆさと風の中
蜻蛉飛ぶ頃となりつつ薔薇園も

2020年8月28日金曜日

令和二年 夏興帖 第四(山本敏倖・夏木久・松下カロ・小沢麻結)



山本 敏倖
烏揚羽天の香具山越えて来る
こっくりさんと密談をする木下闇
箱庭の十三番地冠水す
陰影の無限大描く蔦青し
ピンヒール底の高さに積乱雲


夏木久
解禁の昨夜の夢は薔薇の棘
心臓のリズム乱して花は葉に
荒梅雨へ重機のアーム水の星
青梅雨へ白いカートがドアを出る
ぐるぐるの針金の先今日も雨
耳鳴りへ硝子の檸檬抛り込む
空蝉を覗き夜警は黙り込む


松下カロ
噴水のてつぺん眠る女の子
ハンカチに何か包んで大事さう
仰向けば疵うつくしき青りんご


小沢麻結
草茂る鉄条網は錆び歪み
半日を風に晒して蓮の花
水打つやシンシアの歌口ずさみ

2020年8月21日金曜日

令和二年 夏興帖 第三/花鳥篇 追補(神谷 波・杉山久子・曾根 毅・竹岡一郎・小沢麻結)



神谷 波
梅は黄熟なす術のなき病
合歓咲くや末期の涙拭いてやる
命終の頬撫でのうぜんの花落ちる
心なしか遺影に愁ひ百合香る


杉山久子
菩薩見て不動明王見てラムネ
耳朶に今宵くちなしほどの冷え
風音やキャンプ終ひのハーブティー


曾根 毅
花菖蒲脚の先から消えかかり
雨音か瀬音か我か五月闇
計算の片手間に蠅叩きけり


竹岡一郎
包丁に水噴く海鞘はさへづりたい
海鞘の殻剝く安けく滅びたい彼奴のも
わが死肉の部位は蛆に喰はせてわが行く
沢蟹の群踏まざれば進み得ず
息を吐くたび睡蓮のひらく音
咬み狂ふ赤蟻の巣は雨充つる
すつぽんに花街劫暑羽根みどろ


【花鳥篇】
小沢麻結
みづうみの眠れるままに公魚釣
縄文土器出土の在所桃の花
花過ぎの人来ぬ土曜見学会

2020年8月14日金曜日

令和二年 夏興帖 第二(青木百舌鳥・加藤知子・望月士郎)



青木百舌鳥
風ありて旱河原に靡くなし
明易し鶏卵おのづから光る
地の雨にずしりと太き茅の輪かな
みあかしに蜘蛛つたひをる糸見えず
灰釉のあをき溜りへ冷やつこ


加藤知子
晴子忌や捨てねばならぬお菓子箱
ぽうと立つ蓮の蕾よ食えないお嬢
なめくじらきょうの白地図黒く冷ゆ
馬の目の濡れて道連れ半夏生
血太りの藪蚊を叩く僥倖


望月士郎
蛍狩背中の黒子さわられる
眠れないさかさのさかな梅雨の月
転生のまずは一旦みずくらげ
手花火に黒いキリンがやってくる
哀しみと金魚掬いは鰓呼吸

2020年8月7日金曜日

令和二年 夏興帖 第一/花鳥篇 追補(仙田洋子・辻村麻乃・渕上信子・妹尾健太郎)



仙田洋子
金魚藻のただよふのみのゆふべかな
葉桜の葉擦れに呪詛の紛れ込む
茅花流し空しらじらと明けてきし
シャンパングラス薔薇の花びらもてふさぐ
夕薄暑魚跳ね上がる高さかな
生ビールさびしさにまた乾杯す
    七月十六日
仮幻忌のうすむらさきのゆふべかな


辻村麻乃
ここにゐるここにゐるよとほたるとぶ
夕焼けて見知らぬ家族の会話かな
草いきれ疲れの出たる手を繋ぐ
家だけの故郷を捨て大夕焼
不具合の多き一日や凌霄花
浴槽の藻と広ごりて髪洗ふ
一人居やアイスコーヒーてぃんと鳴る


渕上信子
夏来る人類皆マスク
スマホを濡らすあぢさゐの雨
火蛾掃くや恋の跡累々
夕合歓の花けむりのごとし
花氷褒め方ほめられて
出刃包丁を研げば郭公
嗚呼すてゝこのこんなをとこと


【花鳥篇 追補】
妹尾健太郎
指で土落とすだけ野蒜すぐ齧る
目の目立つ面目のない落し角
ちょっとちくっとしますよ草餅
しゃがまねど微かに匂う春の土
海苔掻に崖あり一発波かぶり