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2026年9月25日金曜日

令和七年 冬興帖 第二(神谷 波・田中葉月・加藤知子・曾根毅・山本敏倖・杉山久子・中西夕紀・豊里友行・仙田洋子)



神谷 波
人に影寄りそふてゐる小春かな
山眠り田はかしこまるばかりかな
裸木がぽつんと雲待つ鳥を待つ
年の瀬や降ったり止んだりしつつ暮れ
餅を搗く音やピリオド打つごとく


田中葉月
今今今を咥えたる冬の金魚
やまびこの声うらがへる寒満月
人参や孤心小さくきざみゐて


加藤知子
蓮池を掘るとふ男しぐれない
万葉に遊行女婦の舞う風花
寒月光に晒す大石内蔵助


曾根毅
太陽の沈まぬ夜の傾斜かな
鳥渡る氷河を黒い影渡る
カトマンドゥ夜は臓器のような街


山本敏倖
会釈して凍滝の深さ見上げる
棒パンを撫で切りにする寒月光
忘却がおっこちている枯野かな
寄鍋や昔の顔が煮えている
彫刻やこの枯蓮は明朝体


杉山久子
寒林を行くとき弱音吐きさうに
よく喋る家電三寒四温かな
着ぶくれて黄金のマスクに見入る


中西夕紀
数へ日の欠伸の人とぶつかりぬ
寝る吾に猫の出でゆく布団かな
風止めばそこに立ちゐる雪女
片貝となれば飛ばされ冬うらら
落葉踏むあれは歌つてゐるリズム


豊里友行
我が鉛筆よ星雲のこころざし
咳てぃーちたぁーちみぃーち冬樹の粉砕よ
しんしんと天体をなす消化器系
ひゅうひゅうと肺胞よ珊瑚礁の森
かんかんと蝶カーソルの建築中
煩悩まみれのカフカよ解熱剤
束の間の夢野へ虹の蝸牛


仙田洋子
先生の訃報とともに冬来る
るるるると水湧く音や冬はじめ
漱石忌猫集まつて来たる庭
日直の二人の机冬日差
竹馬の空も大地もぐらぐらと
ちちははの命尽きたり葛湯吹く
葛湯吹きちちははの思ひ出を吹き

2026年1月16日金曜日

令和七年 夏興帖 第八/秋興帖 第六(眞矢ひろみ・小沢麻結・花尻万博・林雅樹・渡邉美保・小林かんな・田中葉月・小野裕三)

【夏興帖】

眞矢ひろみ
なめくじり縮みて十万億土かな
蛍火や軌跡はコンマとなりて消ゆ
あぢさゐの毬のへこみといふ重力
翳す手に天日の痛み原爆忌
地獄絵を見てあっさり味の氷菓とす


小沢麻結
真ん中はゴジラ峰雲三兄弟
手のひらに掬ふ湖夏の朝
旱星戦争は降るものならず


花尻万博
暮らしの灯いまだ切なく鯰かな
夜目利ける片手拝みの涼しさよ
麦の香に巡礼粗く伸びにけり
短夜に頭失ふ釘ありぬ
観音の曲線に沿ふ台風圏
なめくじり引用元と別れ来て
折にふれ正気をよぎる蛍かな


林雅樹(澤)
肌脱ぎの婆ァが踊り込んで来た
盆踊最高潮やアパツアパツ
薄羽蜉蝣掌にかざし見せユーチューバー


【秋興帖】

渡邉美保
鰯雲国境まで水汲みに
秋日差し退屈さうな空気入
松ぼくり秋思の靴が蹴ってゐる


小林かんな
身ほとりに夜業の人を呼ぶボタン
朝寒や別の女が血をとりに
鎮痛剤追加UK80’sも
いぼむしり血をとれ左でも右でも
鹿火屋守の銅鑼を聞きたし夜のふけて


田中葉月
船虫の一族郎党ひきつれて
等間隔に団栗落ちてゐる未来
月の船喫水線をにじませて
箱舟の選ればれしもの秋の虹
ちょい悪のオヤジが好きで秋の蜂


小野裕三
恋とはなぜ落ちるものかと鰯雲
退屈ねって夜の林檎に火をつける
蟋蟀の続篇である飛行場
五代目を名乗る長身小鳥来る
末っ子で演歌が好きで林檎好き

2026年1月9日金曜日

令和七年 夏興帖 第七/秋興帖 第五(渡邉美保・小林かんな・田中葉月・神谷波・川崎果連・曾根毅)

【夏興帖】

渡邉美保
弟の抽斗に棲む青蜥蜴
うつぼかづらの中の涼しき水溜
青唐辛子焼いてひと日の暮れにけり


小林かんな
日焼して現地の人と同じ卓
蓮の花中古のホンダなお走る
扇風機奥の施術の台も吹く
施術師の話す片言デンファーレ
夜光虫日に日に慣れて車中泊


田中葉月
躓けばやぶ蚊の声もつまづきぬ
孤島といふ波音はるか蟻地獄
それ以上言うとトマトになっちゃうよ
炎昼の何処から来る白き羽根


【秋興帖】

神谷波
名ばかりの立秋箸をあたらしく
いとしげに抱かれて西瓜やつてくる
40℃超のここいら案山子うなだれ
弾丸と見まがふ揚羽金木犀
野分後ピカソ・シャガール・龍三郎
はやばやと雲隠れして今日の月


川崎果連
穴惑リベラルというオルゴール
銃声にあきつのとなめ外れけり
終思ふと兵隊さんのおかげとか
新宿の立ちんぼの父稲を刈る
国民に上級下級秋深し


曾根毅
黒髪の艶やかなりし秋の雲
街路樹の有刺鉄線台風裡
英霊の犇めき合っている稲穂

2025年8月22日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第八(眞矢ひろみ・村山恭子・冨岡和秀・田中葉月・渡邉美保・小沢麻結)



眞矢ひろみ
樹に残る釘痕深し成木責
飾り歯朶太郎次郎を囃すなり
裏山に龍起つ気配初山河
豆撒いて豆拾い食う孤高かな
うすらひを透いて地霊の閑かなる
若鮎の鰓のくれなゐボルシェビキ
鶴亀の鳴いてリーマン予想かな
別の世の道草遅日使い切る


村山恭子
大人にもとりどりの夢雛あられ
踏青や我が心にも鬼がをり
ゆつくりと雲の流れを追ひて春
初鮒の鱗に虹の色のあり
後出しのじやんけん負けてクローバー
蕉公や去来や美濃の花に酔ひ
ぷかぷかとブリキの金魚春深む


冨岡和秀
ビッグバンその後のいのち白明集
いずこにも花降りそそぐ銀河より
見えざる孤悲 雲の渓間に抱き締める
浅草に早桜咲く永遠の国
ヴェネチアに沸き立つ日々や仮面祭
妖精の森にたたずむ亡命者
よろづ世の朽ち葉舞い散り腐葉の碑
包みより玉(ぎょく)が飛び出す観世音
言の葉は超えて羽ばたく幽明境
幽明境 銀の言の葉超えて咲く


田中葉月
うすらひの孤島となりて離れゆけり
国境は春キルトの針が見つからぬ
蟠りほぐれしところ囀れり
黒鍵の影につまずく花菜風
言霊をさがしに行けば金鳳花
花筏ゆつくり動くムー大陸
春光をほろほろこぼしクロワッサン
からつぽの埴輪みつめる春の闇
山茶花のいたいたしくも奔放で


渡邉美保
歳晩の水撥ねてゐる金盥
無罪放免崖下の波の花
水甕の水位の変はる建国日
臥龍梅這いゆく先の白煙
春愁ひうつぼかづらが揺れるから


小沢麻結
初乗のりんかい線の遅延詫び
恵方道晴れ晴れと風吹きわたり
ぶちまけし破魔矢火を吹くどんどかな
よき風を待ち散りぎはのチューリップ
春風へ翳せば光り飴細工
息つめて引き剝がしをり薄氷

2025年7月5日土曜日

令和六年 冬興帖 第七/令和七年 歳旦帖 第五(眞矢ひろみ・村山恭子・冨岡和秀・田中葉月・渡邉美保・小沢麻結・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】

眞矢ひろみ
雪舟の白のてざわり冬めきぬ
小六月少年老いず逆走す
引きこもる子にせめてもの寒昴
数ヘ日や三度数へて合わぬまま
校庭の白線伸ばす雪女郎


村山恭子
剥き出しの梁の太きや波の花
土砂流れ崩れしままに山眠る
復興てふポスター叩く霰かな
隆起せし道に置かるる慈善鍋
奥能登の仮設住宅注連飾る
数へ日や希望と書きて窓みがく
雲切れし空の青さに冬深む


冨岡和秀
雲のうえ荷風散人 杖を突く
深淵の叫びが谺す仮死幻想
粉雪に白霊まつわる零(ゼロ)夢幻
Yという暗号抱え大河越え
Yの暗号 解けて海峡帰還する
源に玉(ぎょく)を放らば弥勒見え


田中葉月
ありつたけの影投げ入れる二月かな
裸木のやあと手をあげ明日が来る
狐火の夢とうつつの擦れあふ


渡邉美保
枯れていくものに雨ふる近松忌
仮の世の枯野に美しきされこうべ
狐火の曲がりし方へついてゆく


小沢麻結
冬シャツのつつめる体躯頼もしき
社会鍋鈍色雲へ喇叭吹き
餌を探る鷹匠と鷹同んなじ眼


【歳旦帖】

下坂速穂
年送る家のおほかた闇にして
初空や悩み消えれば淋しくなり
途中から佳き声の添ふ手毬唄
福といふ色に捌きし鮪かな


岬光世
湾に沿ふ人へ汽笛の御慶かな
スポーツを家族と観たり三が日
艶の佳く御用始の靴揃ふ


依光正樹
一軒の中華料理の年用意
冬青空大きな枝の懸かりけり
炭火にかざす吾の手朱し人の横
煮凝を持つて隣に来りけり


依光陽子
ほつとするひと言が欲し寒椿
松の内煮物の名人が村に
雲と雲つながるやうに書初めす
早起が苦手七草粥の昼

2023年4月21日金曜日

令和四年 冬興帖第五/令和五年 歳旦帖第四(浅沼 璞・曾根 毅・家登みろく・望月士郎・山本敏倖・大井恒行・田中葉月・なつはづき)

【冬興帖】

浅沼 璞
立冬の一本たらぬ蛸の脚
参拝の先客ひとり小春かな
冬もみぢ眉間に音のしてゐたり
さかしまの鯨が肺の奥にゐる
乾鮭の北斎に似る面構
身長の伸びる感じの霜を踏む
ふり返る枯葉の道も日の光


曾根 毅
豊饒の蔭の湿りの藪柑子
荒涼と赤い毛布の重なりぬ
寒暁の扉に自重ありぬべし


家登みろく
風花に赤子抱くやう荷を抱いて
耳当や母の掌のごと声のごと
ストーブに髪ますますの濡れ羽色
教へ子のごとく湯の柚子遠し近し
一日のいのち本望雪だるま


望月士郎
綿虫とわたくし混ざりわたしたち
開戦日日の丸という赤い穴
失ったピースに嵌める冬の蝶
冬の虹消えそらいろの置手紙
雨は雪にちいさな骨はピッコロに
冬の葬みんな小さな兎憑き
絵本閉じれば象は二つに折れ寒夜


【歳旦帖】

山本敏倖
大旦人間正しく運ばれる
門松や本卦還りの頃の月
初詣どのわたくしを連れ出すか
切処(きれっと)のちらり初日の羽根の先
運勢や船のごとくに餅伸びる


大井恒行
手びねりの兎の白さ眼の男
愛ありて兎跳びなる不思議かな
じゅうにがつくにうたつきる山河かな


田中葉月
独楽回る宇宙にはない西東
真二つに白菜わるる寂光土
恥じらひのはじまりゐたり冬木の芽
あらたかな山ふところや冬の鵙
山茶花や兎にも角にも白湯をのむ


なつはづき
宝船イスカンダルから帰還せり
初夢や自分をオレという天使
松過や箱の四隅の粉砂糖

2023年4月14日金曜日

令和四年 冬興帖第四/令和五年 歳旦帖第三(山本敏倖・大井恒行・田中葉月・小林かんな・なつはづき・中村猛虎・辻村麻乃・松下カロ)

【冬興帖】

山本敏倖
風花の羽化する街を過りけり
路地奥の華構の屋根や冬銀河
墨汁の遠浅活かし海鼠描く
寒月はまよねーずの匂いダダ
雪原へ誤植のような杖の跡


大井恒行
指笛にふり向く冬の戻り橋
コウガンモコウガンザイモ冬ハジメ
大王(おおきみ)の他生の縁や山に入る


田中葉月
セーター脱ぐ見知らぬ影をおくやうに
ゆるびゆく骨の音あり冬銀河
うまさうな赤子の寝息冬紅葉
振り向けば冬の木漏れ日ついてくる
雪女系図の余白見つめをり


小林かんな
冬うらら低い神籤は山羊が食う
靴提げて見入る曼荼羅白障子
冬の菊不動明王顔昏く
火の焚かれ法衣の渡る長廊下
毛氈の果てて綿虫とどこおる


なつはづき
オムレツのしわしわになる神の留守
冬もみじ呼吸のたびに揺れる傘
赤ワイン一杯ほどの帰り花
裸木や言葉が硬く着地する
暗がりに匂い置き去りにし兎
わびすけや髪の毛しおしおと眠る
霜の声結び目硬き黒ネクタイ


中村猛虎(なかむらたけとら)
回天や海鼠を切れば水溢る
右靴から左の靴へ時雨けり
白息の駆け込んでくる山手線
凩の途方に暮れる土踏まず
寒波来る羽生善治の勝ちし夜に
風花やビクター犬の踊り出す
アマテラスではない君よ着膨れて

【歳旦帖】

辻村麻乃
人々の集ひて寒きルミナリエ
富士塚の上の人にも御慶かな
赤子らの交互に夜泣四日かな
ベビーカー登りきつたる初景色
鉄塔の脇照らしたる初日差
大氷柱誰の罪かと問ふやうに
西からの邪視を避けよと雪兎


松下カロ
寒林のただ一枝に触れて去り
不機嫌な清少納言着ぶくれて
一月一日真青な雪が降る

2022年10月7日金曜日

令和四年 夏興帖 第二(池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月)



池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば


加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ


杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ


坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山


田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる

2022年3月11日金曜日

令和三年 冬興帖第五/令和四年 歳旦帖第五(網野月を・田中葉月・なつはづき・浜脇不如帰・木村オサム・山本敏倖)

【冬興帖】

網野月を
寄り竹の中の緑や冬はじめ
長濤忌黒のドレスに青差しを
オーボエの音に隊を組み白鳥来
姫熊手鯛は金魚に飾り櫛
出来映えは上の下ほどのシュトーレン
大鵬もゴヂラもクリスマスツリー
泥つきの葱を読売新聞紙


田中葉月
冬夕焼ゆつくり拒むレクイエム
裸木や影なきものを走らせて
野水仙あなたの横顔すてきです
まあだだよ枯野に星のかくれをり


なつはづき
冬の薔薇反旗しまったままでいる
寒波来る影を持たない稚魚の群れ
この鍵が短刀になる十二月
猫脚の椅子ぐらぐらと三島の忌
おでん酒回想いつも殴り書き
ポインセチアぽんとコルクの抜ける音
スカイツリー見上げ白菜重くなる
寒雷やおんなは猫を捨てにゆく


浜脇不如帰
十字架やえんがわ迄に味広き
その西は起立しかなし寒鮃
垂涎を来すヤキトリウォッチング
悴んで未だ固かるアルフォート
鱶や虫歯には挫けず波に泣く


木村オサム
消えさうな顔に囲まれ大くさめ
道化師の中は枯木のかたちです
冬の虹見えて埴輪の変声期
葱抜いてみても境涯変わらざる
相席の人に早梅教えられ


【歳旦帖】

山本敏倖
元旦の硝子のような空気かな
鏡花まで明治の路地を破魔矢行く
手のひらの生命線へ射す初日
若水や過去を開いてぬり絵する
鏡餅は時限爆弾でありけり


網野月を
斛斗雲孫と語らふ三が日
駅名に無き新浦和福笑ひ
浦和にも夜霧へ礼を言ふ奴が
寒卵コンツアーボトル握りしめ
美美の忌やひもかわ少しやわらかめ
心臓のあたりの痛み浮寝鳥
水騒にだんだん慣れて日向ぼこ


田中葉月
去年今年エッシャーの階段にゐて
掛け軸の虎の目うごく初明かり
栴檀の大樹言祝ぐ福寿草
一月の漁火ゆかしシュガーロード


なつはづき
こんなにも我が名うつくし年賀状
はつはるや猫喜ばす羽織紐
電話出る初鏡から飛び出して
ホームからはみ出し止まる宝船
独楽の紐借りて男を縛りけり

2021年3月12日金曜日

令和二年 冬興帖 第七/令和三年 歳旦帖 第八(岸本尚毅・浅沼 璞・眞矢ひろみ・加藤知子・水岩瞳・下坂速穂・田中葉月・林雅樹)

【冬興帖】

岸本尚毅
波立てて遊ぶ我居る柚子湯かな
陽気なるもの冬雲とアドバルーン
霜柱舐めたる如くつややかに
冬晴の雲の曳かれてゆく如く
何淋しとてにほどりの淋しさは
子供らはひねもす墓地に落葉蹴る
もの買へばサンタクロースお辞儀して


浅沼 璞
鹿の顔に似た人もゐて牡丹雪
排水のほそぼそ氷る山羊の舌
永遠に笑窪はマスクしてゐたる


眞矢ひろみ
世の果にただ佇つちから寒昴
あゝ皆んなここにいたんだ枯木立
彼の世より生前葬の寒牡丹
水鳥はその水影に溢れをり
東京湾に鮫真白き腹見せり


加藤知子
尊きは致死量の青ふゆ空の
冬の陽をこばむひとだまには目薬
ひとだまや冷たき恋に触れてみる
雪獄の総監室へひとだま燦


水岩瞳
絶版といふも冬めくもののうち
喜怒哀楽すべて眼に込め白マスク
十二月八日塩つぱい握りめし
一撃す今年傘寿の牡蠣割女
毛糸編む行きつ戻りつして未来


下坂速穂
梟や古地図と古地図見比べて
水涸れて木に真直な影が沿ひ
風の色日の色雨色の落葉
伐られたる木が残る木へ雪降らす


【歳旦帖】

田中葉月
吉原のお栄の眼差し遠い火事
黒豆や肩までつかつてコロナ風呂
くれぐれも御自愛ください芹なづな
去年今年流れる砂のごとくあり


林雅樹(澤)
家人呼べど応へぬ鏡餅に罅
『ヴィルヘルム・マイステルの遍歴時代』読み始む
初売りの商店街琴の音流れ人はをらず
 

岸本尚毅
雲高く浮かび裏白よく吹かれ
薔薇園に薔薇の落葉や初雀
初鴉頭小さく飛び去れる
窓大きく開けて初荷の運転手
青き空つづく長途を初荷かな
幹部諸氏マスク大きく初句会
初場所の腹をゆたかに仕切りけり

2021年2月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第六/令和三年 歳旦帖 第六(なつはづき・前北かおる・田中葉月・林雅樹・松下カロ・堀本 吟・望月士郎)

【冬興帖】

なつはづき
はつふゆや風のことばを手話にする
しぐるるや寝相の悪いゴムホース
アルコール度数が違う冬の薔薇
握力を緩め狐火と踊る
原っぱを空っぽにして夕焚火
クリスマスのっぺらぼうに鳴る音叉
お仕置き部屋にしまわれている聖樹かな


前北かおる(夏潮)
洛中に句碑ひとつなき貞徳忌
おでん食ふ男の腰にコルセット
父ひとり子ひとりポインセチア置く


田中葉月
はぐるるを覚悟の千鳥焼きまんじゅう
海鼠喰ふいく時代かがありまして
異郷の鬼となるも良し冬桜
後の世はすずなすずしろ星を飼ふ


林雅樹(澤)
議員会館地下道から地下鉄駅に出て寒し
枯芝に三脚置くや測量士
木枯をしのぐやブルーシート張り


【歳旦帖】

松下カロ
初夢に見知らぬ橋のかかりけり
車からホテル玄関まで吹雪
三ヶ日朱の縦糸を抜く遊び


堀本 吟
追い抜けよ年の獣が青き踏む
見続けて独楽止むとすぐ嬰児が泣く
万両を活けたが招待状は来ず
亡父母の干支を数えて戦後に還る
人日や皇女の愛のすこやかに


望月士郎
ちょうろぎは雪兎には使わない
魂を一つてんてん手毬かな
昭和とは畳の上のカーペット
剥製のうさぎのひとみ遠く火事
日こぼれて水鳥の浮くちがう場所

2020年12月25日金曜日

令和二年 秋興帖 第八(田中葉月・中村猛虎・小沢麻結・渡邉美保・なつはづき)



田中葉月
月光や放せとせがむ千羽鶴
レモン置く吾がたましひに向かひ合ふ
カンナ燃ゆいく時代かがありまして
木犀に呼び止められてしまひけり
ぬばたまの玉兎を探す夫の貌


中村猛虎
幽霊の寿命の尽きて秋の草
蓑虫の全集中の呼吸かな
血痕を辿れば白き曼珠沙華
芙蓉咲く蘇我入鹿の首塚に
式神を飛ばせば揺れる秋桜
稲光乳房はもっと下にある


小沢麻結
猿酒や花のかんばせはや染まり
雅男の丹精のこれ秋茄子
墓原の足下を洗ひ秋の潮


渡邉美保
行先は知らないと言ふ葛の花
半透明の付箋になりし秋の蝶
火恋し郵便バイク素通りし


なつはづき
秋桜や聞こえるようにひとり言
きりたんぽの穴から覗く永田町
鵙日和すっぴんで書くラブレター
秋葉原尺取虫の席がない
団栗をひとつずつ捨て夜に入る
火の恋し生ハム透けるほど薄く
冬隣手紙破って捨てる山羊

2020年9月18日金曜日

令和二年 夏興帖 第七(真矢ひろみ・田中葉月・花尻万博・仲寒蟬)



真矢ひろみ
タブーなる宴もたけなわ夏の月
俳句っぽい五七音字と夕端居
ひかがみと素数の陰の涼しさよ
西日よりはみ出る馬の真闇かな
あゝ会いに来てくれたんだほうたるよ


田中葉月
 転居
短夜や隠れん坊のかくれをり
白鷺は西に十字を切つて行く
青胡桃とても大事な話など
空蝉に笛遠ざかる豆腐売り
海月浮く言葉足らずと言はれても


花尻万博
蝶舞ひて蝶の静けさお花畑
西日受け帽子の箱と目眩せり
蛇の腹縮みて四肢にあくがれつ
乱れ建つ門煙らする花氷


仲寒蟬
電線をたどれば海へ夏燕
平積みの箱敷きつめて麦の秋
ワイン庫の黴うつくしく午下り
燕子花水行く方へ人も行く
何ものとつかぬ足跡泉の辺
箱庭の海鉛筆を灯台に
ウェブ会議かすかに風鈴の音が

2019年12月27日金曜日

令和元年 夏興帖 第八/秋興帖 第六(早瀬恵子・佐藤りえ・筑紫磐井・青木百舌鳥・岸本尚毅・田中葉月・堀本吟・飯田冬眞・花尻万博・望月士郎・中西夕紀)


【夏興帖】

早瀬恵子
薩摩殿鹹(しおから)き夢のなか
吟行の友あり切株は海星形
七色の直球でくる削り氷(ひ)は


佐藤りえ
蟇鳴いて眉間を揉んでゐるところ
クロールの抜き手に爪の朱の夏よ
花栗に日暮れて廻る風車


筑紫磐井
一人では行くなと葛の山揺るる
汗垂らす昨日のシンポジウムの敵
滴りて相馬先生の山河かな
日本一まづい蕎麦屋に端居する


【秋興帖】
青木百舌鳥(夏潮)
立秋の雲の高さを駅頭に
白き家二棟建ちたる秋の風
蟷螂を仏のごとく掌に
西五百キロに颱風田のうねる
稲刈りて浅間の風の寒からず


岸本尚毅
白つぽき残暑の扇買ひにけり
盆花のマーガレツトは田舎めき
出し投げを二たび三たびよき相撲
八つ頭京の着だふれあほらしや
窓に壁に秋風淋しレモネード
ぐにやぐにやと月へ歩いてゆく男
ひとすぢの砧の罅の柄に及ぶ


田中葉月
生まれたての水の匂ひを天の川
秋蛍となりの部屋にいたなんて
さまざまなもの駆けぬける秋桜
ペースメーカー星河の岸を歩いてる
悪相な月光もあり石の上
虫の闇だまつていたら溺れるわ


堀本吟
    森
柵閉ざし紅葉けんらん汚染地区
おめかずら柔(にこ)し甘たし種つつむ
虫すだく闇の弾力量りつつ
息ぐるし森のきのこの木をまたぐ
風に愛あるか鬼の子抱きあやし


飯田冬眞
妖怪門抜ければ秋の塔ひとつ
触角のかけらをもらふ十三夜
木犀や香りの舌の伸びてきし
台風の目の中にゐるもぐら塚
神あまた名を持ち給ひ大根蒔く
この村に消されし名あり秋祭
鷹柱岬の雲を手繰り寄せ


花尻万博
強引な星月夜まだ生きてる母よ
星月夜知らぬ存ぜぬ客船は
蓑虫の垂れて供養の光る午後
終はりなき稲光国の気配する
色鳥を追はぬ金色の手前かな
なにかしらかくすてのひらあおりんごも


望月士郎
桃は桃に触れて間にある鏡
架空の町の地図描くあそび秋の蝶
うつくしく秋刀魚の骨に叱られる
硝子のキリン貰った記憶月の駅
卵生の眠りや夜の鱗雲


中西夕紀
わが猫に通ひどころや牛膝
北斎も来しこの町の栗おこは
松茸にあらねど松の茸かな
ひと呑みの蛙を忘れ穴惑ひ
名を忘れれば先生と呼び芋煮会

2019年12月13日金曜日

令和元年 夏興帖 第六(浅沼 璞・林雅樹・北川美美・青木百舌鳥・岸本尚毅・田中葉月・堀本 吟・花尻万博・井口時男・渡邉美保)



浅沼 璞
ねむたげなまなこ降りくる花あふち
ポットからそゝぐ父の日の無言
階段のぢつと動かぬ更衣
冷房のスカートは腰ほそくなる
日本の目鼻だちして欠き氷


林雅樹(澤)
池に浮く子供の靴や蝉しぐれ
うんこちよつと出ちやつた花火きれいだな
キューピーの波に漂ふ驟雨かな


北川美美
喧嘩するためのトマトを山積みに
血のごとくトマト煮詰めてゐるところ
赤赤とY子弔うトマトかな


青木百舌鳥(夏潮)
きらきらと化繊の綾や明易き
夏山や鍬つかふ音の乾びたる
日曜の会議へ歩く祭町
懐メロにグッピーの舞ふ喫茶室


岸本尚毅
笑ひをる顔の若あゆ新茶汲む
安物の水鉄砲のうすみどり
三才や回つてみせて素つ裸
避暑の人寒しと云うて犬を抱く
空蟬は雌日芝の葉を固く抱く
ラムネ飲む女とラムネ売る男
夏帽子振ればジブリの映画めく


田中葉月
美しき雨つれて来よ道をしへ
眠れないああ眠れない蟇蛙
禁断のくだものを食べはんざきに
ふあの雨音またずれてゐるバルコニー
蝉時雨こんなに軽い本音かな


堀本 吟
季のみだれ
季のみだれ四通八達蟻の旅
ねむの花金魚からまた金魚生れ
けもの道わけいっても雲の峰


花尻万博
問い掛けの途中昼寝始まり
守宮の尾疾走までは夢境
花茣蓙を阿保程敷いて病み直す
羽蟻に強き反芻ありにけり
陸の魚に潮近付けぬ朝は曇り


井口時男
沢水ひかりころがる百の青胡桃
火の文身水の文身都市雷雨
夏の夜をこれ天山の雪の酒
  *「楢山節考」のモデルの村で。三句
夕焼の早桶沢へ七曲り
晩夏晩景矍鑠として山畠
老農に志あり夏逝くも


渡邉美保
水音に誘われて入る木下闇
折紙のピアノ鳴りだす大西日
沼杉の気根膨らむ半夏雨

2019年6月7日金曜日

令和元年 春興帖 第三(田中葉月・大井恒行・岸本尚毅・ふけとしこ)



田中葉月
桃色のわんこのお腹春深し
春陰のまた残りたるパンの耳
てふてふや湖面をわたる風になる
春の月どんぶらこつこどんぶらこ
押印のまたも傾く葱坊主


大井恒行
空・草木・海・風こだま連帯す
春北風の影となりたる鳥ばかり
山葵田の風こそ令和四月尽く


岸本尚毅
海霞むはるかに靴のやうな舟
春の日や下向く犬に石が照り
供華古び樒の花の咲いてをり
メーデーが来るビルに棲む老人に
カルデラや鶯鳴いて雲湧いて
カルデラの蝶々の今はるかなり
うつくしき母にもたれて日永の子


ふけとしこ
一坪で足りる商ひ遅日なる
熱々のドリアへ匙を花の雨
たんぽぽのうしろよ鬼の隠れしは

2019年4月12日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第五(坂間恒子・田中葉月・木村オサム・乾 草川)



坂間恒子
もっと奧は樹氷林なり初詣
初夢やボタンがひとつ波打ち際
初夢に「地獄の門」のあらわれる
   

田中葉月
福寿草ほんの小さなでき事に
蓬莱やひこうき雲の広ごりて
転生の白いカラスが窓叩く
仏の座ほんのつまらぬものですが
裸木ややはり帰つていくんだね


木村オサム
遠い地球操縦席に鏡餅
福助を空へ向けたるお元日
おほかたは使われぬ脳寝正月
初景色猿がぽつんと土手に立つ
なんとなくいるだけのひと福寿草


乾 草川
なつかしや薺打ちゐる父の家
卒論は「出エジプト記」寒卵
パスカルが呼ぶから枯野越えてゆく
薄氷や子の好きだつた銀食器
煮凝りの闇「馬車道」へ「馬車道」へ
島の春小さな穴へ落ちぬよう
冬枯れや昼餉の箸をパキと割り

2019年2月1日金曜日

平成三十年 冬興帖 第四(望月士郎・前北かおる・小野裕三・仲寒蟬・田中葉月)



望月士郎
まぼろしの象の重力ふっと冬
サーカスの爪先がくる霜夜かな
少女笑えば歯列矯正開戦日
駅頭に落ちてる顔のないマスク
手首から先が狐で隠れて泣く


前北かおる(夏潮)
望月のあくるあしたの小春かな
合掌をとけば小春の日ざしかな
皿よりもナンの大きな小春かな


小野裕三
山眠る夜へと綴る筆記体
処刑場跡の広さに落葉踏む
王冠を観る人群れて冬館
黒人の息ひとつあり氷橋
クラスメートひとりひとりに冬の聖書


仲寒蟬
パンタグラフ折り畳まれて神の留守
冬あたたか会へば笑顔になれる人
風呂吹に透けて昭和の町明り
欠航の朝を塩鮭噛む他なく
山脈を浮かべるための冬青空
狐火を追ふともなしに岬まで
星ぜんぶ呑む勢ひや年忘


田中葉月
白鳥や仮面かしら魔女かしら
本能のかたまりごろり冬林檎
天狼星帰つてこないブーメラン
転生の手触りやさし冬の壺
バス降りる冬の銀河の真つ只中

2018年11月23日金曜日

平成三十年 秋興帖 第五(田中葉月・網野月を・堀本吟・前北かおる・乾 草川)



田中葉月
音楽室くるり出て行く処暑の猫
この秋思約分すればオンザロック
水底に火の匂ひ秋の響灘
陽気すぎる空につまづく鰯雲
桔梗の方向おんちヒトオンチ


網野月を
小春日や間延びしている踏切音
陽の赤い家族日和の大花野
目を閉じ深く吸う白い風日和
中庭の子らの歓声そぞろ寒
もも売りの達筆一函參千円
三十年年上女房の冬帽子
蛇笏忌や虫歯のいない甲斐の国


堀本吟
ツユクサ
立秋や底から濁る湖の水
石像を胡散臭しと鰯雲
秋風裡さらさらとヘアアーチスト


前北かおる(夏潮)
新米の担ぎこまれし三和土かな
コンバイン操る写真今年米
箸置に箸を揃へて今年米


乾 草川
星光を蔵して桃の眠りゆく
鉦叩前頭葉を酒が攻む
笑ひつつ花野を神は発つだらう
抽斗に流星飼ふてゐる歩荷
新藁の香が境界父の国
ショパン火に焼べては秋のビールかな
釣瓶落し翁恋ひしと石の哭く

2018年9月7日金曜日

平成三十年 夏興帖 第四(加藤知子・夏木久・飯田冬眞・田中葉月・渡邊美保)



加藤知子(「We」「豈」「連衆」)
金魚また死ぬ時計逆まわり
上下する死刑執行日の花火
しばらくは腰のあたりの百合花粉


夏木久
空蝉のやうなその影灯を点し
ホームラン叫ぶラジオや敗戦忌
確執の晩夏輪護謨で束ね放置
土砂降りを営業中です酒屋「虹」
八月や昭和の電話鳴り止まず
にくづきの悪き月齢の臓器移植
黒板の余白へ永久に灰の降る


飯田冬眞
豆腐屋の三和土( たたき )がらんと夏の雲
トマト熟る転勤族の黒き目に
残り香の微かな痛み遠き雷
六道の辻にたたずむ毛虫かな
念力の少年スプーン曲げし夏
ひたひたとデンデラ野より夜盗虫
水を汲む骨を抜かれし浴衣着て


田中葉月
夏の山二十歳のバス停塗りかへる
洪水やいまだ造花の咲きしまま
病葉にのこるくれなゐくるりくら
青柿や雲に聞いたか聞こへたか
生きてゐるただそれだけの螢


渡邊美保
明易の蟇掛け軸に戻りたる
かたつむり琵琶湖一周してきたる
黙々と塩振る男南風
西瓜食ぶ幽霊の役引き受けて