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2024年4月26日金曜日

令和五年 冬興帖 第七(川崎果連・花尻万博・眞矢ひろみ・なつはづき・五島高資)

【冬興帖】

川崎果連
枯菊や添木にたよる世でもなし
凍滝や修行の尼僧シースルー
マフラーをぐるぐる巻いて父はクビ
雪隠に雪うち散るや歌舞伎町
尻出すな嗚呼おとうとよ浮寝鳥
小米雪ヤンヤヤンヤの葛西橋
たぶんもう失うものはない氷柱


花尻万博
夕空のどこまで続く毛皮の女優
寒霞静かなキャンプに堰かれている
乙女らよ北風額に流しながら
水仙の通りに延びる川湯かな
炭の音や甘噛む犬と心晒して
やや高く烏が鳴いて雪と知る


眞矢ひろみ
天命を知る凍蝶の文様に
雪おんな真空管のひかりだす
老境のおぼろは楽し枯芙蓉
極月のAIに問うメカの罪
濡衣を着て寒鯉となりしかな


なつはづき
片時雨君の手紙を伏せて置く
さざんかや噂はなんとなく信じ
冬銀河尾を太らせてゆく獣
葉牡丹や唇いじらしく乾き
綿虫や指じんじんとする手紙
雪女虫歯はキスが甘いから
濁音になりきれぬ風石蕗の花


五島高資
幻日にはにかむ冬の旭かな
笑む子より高く枯れたりからすうり
男体山眠る孝明天皇祭
狐火を翼かすめて離陸する
遺されて冬三日月のゆれ止まぬ
凍星の降つては昇る瓦礫かな
寄り添へる命なりけり冬銀河

2024年4月12日金曜日

令和五年 秋興帖 第七/冬興帖 第六(花尻万博・眞矢ひろみ・なつはづき・五島高資・辻村麻乃・網野月を・渡邉美保・望月士郎)

【秋興帖】

花尻万博
囮あり人といふもの集まりゆく
鉄橋と繋がっている栗の木々
自然薯や幾人埋めし紀の山に
最果ての見えると聞きて柘榴頂く
小鳥網透けて野の空四方あり


眞矢ひろみ
月明に波あり夢殿押し開く
生死不二鈴虫はそう哭いている
老いゆくや銀河のわたる心字池
虚仮の世に月下の象として歩む
神迎大きな耳の族が来る


なつはづき
敗戦日蕎麦猪口に蕎麦へばりつく
空耳はわたしの余白桃熟れる
コスモスや薄い背中で無視をする
鈴虫に混じる合鍵捨てる音
檸檬噛む栞を挟みたくない日
人感ライトいちいち光る文化の日
影錆びて釣瓶落しのパレスチナ


五島高資
透く風の時代や色を変へぬ松
龍灯やスンダランドの浮き上がる
月の射す魔術書にある朱筆かな
月草の帰りそびれて咲きにけり
いなびかり硯の海の深さかな


【冬興帖】

辻村麻乃
立冬や歯科医の指のぬるりとす
凩や自転車二台寄り合へり
尾長鴨ぴゆういと鳴きて人去れり
小夜時雨音の垂れては川となる
綿虫を飛ばして見せる友の指
包帯を昔の傷に巻きて冬
冬日向大切さうに犬抱ふ


網野月を
日和中じゃぶじゃぶ池の番鴨
義央忌雪は氷雨に冬桜
落葉籠サンタクロースのやうに負ふ
数へ日や読売新聞販売促進員
冬晴を石のかたちに愉しめる
バッチグーは死語であるかも夕みぞれ
茶を淹れた妻へ蜜柑を転がして


渡邉美保
侘助や首筋ふいに重くなる
暖房のよくきいてゐて待たされて
水仙のもの思うさま横向いて


望月士郎
あまてらす顔をうずめて干蒲団
白息と綿虫まざりわたしたち
小雪降る老いごころとは旅ごころ
雪のあね雪のいもうと雪うさぎ
さよならの「さ」からゆっくりと氷柱

2024年2月9日金曜日

令和五年 夏興帖 第十二(水岩 瞳・前北かおる・川崎果連・五島高資)



水岩 瞳
この更地何がありしや街薄暑
じいばあの涙忘れそ沖縄忌
語り部の語らざること原爆忌
兵ひとり死んでも異常なしの朱夏
この新刊いつか古典に麦の秋


前北かおる(夏潮)
あめんぼの影プードルに少し似て
短髪を緑に染むる真夏かな
ギャラリーのトリコローレのかき氷


川崎 果連
梅干や日の丸の種おやしらず
短夜の陰毛伸びる速さかな
網戸から救いの祈り拡散す
だまされるほうの裏庭七変化
沿道に向日葵つづく引き回し
撃った子をほめてはならぬ木下闇
弁護士ととぼとぼ帰る油照


五島高資
捨て猫のやうに玉苗余りけり
白毫に遠くて近きかたつむり
みちのくへみどりは青となりゆけり
赤富士の余波や雲の這い上る

2023年7月14日金曜日

令和五年 花鳥篇 第一(五島高資・杉山久子・神谷波・ふけとしこ)



五島高資
占ひの館に紛れ込むさくら
那須の水ふくみて天に花杏子
田水張る前に鎮まる真土かな
田を植ゑてより高天原そよぐ
麦秋や空のそこひは戦ぎけり
月影に空き家あります花芭蕉
日高見の光を洩らす雲の峰


杉山久子
チューリップ黒き花粉を花の内
返却日過ぎし本ある薄暑かな
新茶汲む師のなき時間送りつつ


神谷波
春遅々と鳥宿り木を突きけり
鶯のしきりに鳴いて暮れかぬる
いのち全開石段の落椿
いちはつや泣き虫弱虫大丈夫
   

ふけとしこ
鷹の化す鳩かも赤きアイリング
鳥の巣が生中継に写り込む
諸鳥のこゑくぐりきて豆ごはん

2023年6月9日金曜日

令和五年 春興帖 第一/令和四年 冬興帖 補遺(仙田洋子・大井恒行・五島高資・小野裕三・鷲津誠次)

【春興帖】

仙田洋子
春装の一歩大きく踏み出しぬ
自転車の上ゆさゆさと桜かな
夕桜山姥も髪なびかせて
夜桜や母にあやしき血の流れ
夜桜や首吊る縄のぶらぶらと
夜桜やふつふつと血の沸きはじむ
春の水十指を抜いてしづかなり


大井恒行
降るはみな花にはあらずきのこ雲
林檎の花かの痛点に至りけり
水際にかげろう白き花ゆすら


【冬興帖】

五島高資
縄跳びや夕日のあとに誰か入る
水けむる川を見ている遅刻かな
狐火のかなた電気のとどこほる
泣きながら天ぷら揚げる冬茜
シリウスや身ぬちに炎抱きたり


小野裕三
目撃者だけを集めて兎狩
空港に狐火混ざる帰国便
決戦のように並んで冬薔薇
白菜を祝うがごとく抱えけり
赤い陽の赤い毛布の赤い人


鷲津誠次
湯気立てて父母に捧げん私小説
吾子のため童話を紡ぐ冬銀河
大寒の朝湯賑わう介護園
定年まで指折る日々よ川千鳥

2021年4月16日金曜日

令和三年 歳旦帖 第十二(井口時男・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



井口時男
去年今年ゴヤの巨人の一跨ぎ
黒い絵の部屋に聾(みゝし)ひ去年今年
雪嶺はるか後退り行くわが帰郷
雪嶺かゞやくこの現し世へようこそ
マスクの下のカイゼル髭や信田妻
ナルシスの指わなゝくや寒卵
春寒やメールの言葉やゝ尖り


五島高資
若水を赤秀と分かつ島根かな
初富士の穢土を憂ひて空にあり
立ち返る年の孔雀の助走かな
蓬萊や浦に翁の隠れたる
雲間より天見ヶ浦の淑気かな


佐藤りえ
パパイヤの木にパパイヤの初明り
初御空ひむがしへ行くおほみあし
 悼 北川美美
虎と龍従へ空つ風に乗れ


筑紫磐井
年の鐘ひびかぬ夜を迎へけり
人間(ひと)のゐぬ草木世界春や嘉し
「今年逝った人々」が溢れてゐる

2021年3月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第九/令和三年 歳旦帖 第十(小野裕三・飯田冬眞・妹尾健太郎・浜脇不如帰・五島高資・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】


小野裕三
プレッシャーに強き青年悴めり
鳰の岸幽霊話ある酒場
オーバーの自由な色で吊るされり


飯田冬眞
寒椿奔馬のごとき運命線
冬の蝶壊るる色を引きずりて
冬木立鏡の国に迷ひこむ
寒木瓜の瘦せて原色のくちびる
寒明の紙は一途なる凶器


妹尾健太郎
妙薬の角狩人の手には無し
にょっぽつりつららのつらのうつらつら
物さがす冬服のどれみふあ
縄跳に時化はじめたる校舎裏
この辺かやや下か大根の首ねっこ


浜脇不如帰
おんらいんしょっぷのシラタキのカラミ
虎河豚はあぶらぎらないフルボディ
「ほんじゃこりゃぁ」Gパン畳む寒夕焼
敗北に得るもの診出す河豚鍋
カピカピが新米ならば缶バッジ
生きて置く要するに意地寒鮃
主イエスの血さらりキッパリ霜柱


五島高資
乗り降りもなくドア閉まるレノンの忌
星空やマスクを取りに帰りたる
飴玉を落として洗ふ寒九かな
寒林や赤色灯の駈け廻る
涸れてなほ夜の病院に水の音


【歳旦帖】

下坂速穂
近況のさても短き雑煮かな
寒紅や江戸の鬼門に棲んで佳き
足音の風のごとしや寒念仏
人去りて人あらはれて露地寒し


岬光世
初凪へ斉しくあらむ願ひ事
切山椒開化の町に商へる
親筆や上寿を記す年賀状


依光正樹
人待つてゐるせはしさに年用意
年の瀬のコートまとつて暑がりで
年の音ひとつひとつの芽が生きて
眺めては灯りがあたり年の花


依光陽子
極月や我が笑ひ声遠のき
見えて来るものを見るべく初旦
星を読む人のことばを仏の座
一月や動かないもの動くもの

2020年12月18日金曜日

令和二年 秋興帖 第七(坂間恒子・仲寒蟬・飯田冬眞・前北かおる・五島高資)



坂間恒子
蝋燭屋の猫が出てゆく曼珠沙華
秋雲のあつまってくる変電所
枯蟷螂ガレのランプに挑みける
駅頭の枕詞なり秋風
シャガールの驢馬の声する秋の虹


仲寒蟬
深閨にあり鈴虫も飼ひ主も
対岸の方がよささう曼殊沙華
向かう三軒猫の出てゐる良夜かな
恐竜の糞の化石や濁り酒
防空壕の蓋を隠せと生身魂
六国史そろへて残る虫の中
萩見事こんなところに植ゑられて


飯田冬眞
秋彼岸正座する者できぬ者
保護色を脱ぎて蟷螂らしくなる
不知火やまだ抜けざりし刺を持つ
電車来るまでコスモスと揺れてゐる
親知らず抜けばどこかに鵙の声


前北かおる(夏潮)
大木に梯子三本櫨ちぎり
野をわたる煙の匂ひ櫨ちぎり
櫨ちぎり髪ごはごはになりにけり


五島高資
追ひかけて土手に濡れたり秋の虹
実朝の矢を探しけり藤袴
金木犀デパート遠くなりにけり
傾いてあめつちを知る茸かな
竹林や銀河の端に風を結ふ
木馬より降りて夕月と帰りけり
水切りの石の消えたる銀河かな

2020年5月1日金曜日

令和二年 春興帖 第七(妹尾健太郎・なつはづき・小林かんな・山本敏倖・水岩瞳・五島高資・青木百舌鳥)



妹尾健太郎
早春の鳶佐和山へ舵をきる
眩しくて何も見えない目張かな
人間で残念連翹きっと香り満つ
春眠に出る点心に多めの酢
気象庁その中に鼻を振る穀雨


なつはづき
洗ってもまた手を洗うシクラメン
春雷や短いカッコ書きで恋
寄せ書きの文字ぎゅうぎゅうにあたたかし
土筆野や水の匂いの過去にいる
かざぐるまライオンすべすべとあくび
鞦韆漕ぐ言葉がいらぬところまで
ハリネズミひっそり針を立て春夜


小林かんな
春の雲ちぎれて犬の駆けてくる
雀の子蛤御門より入る
女性より高き声出るほうれん草
犬の毛に犬の目隠れ春の暮
蝶そして子どもの消える堤かな


山本敏倖
不定時の江戸の鐘音桜散る
墨東の交差点から鳥雲に
山水画に戻りかけてる花の精
遍路笠岐路の地蔵に被せおく
継ぎ繋ぐ津波のようなつつじかな


水岩瞳
麦踏んで思考の坩堝はまりけり
少年に内省の日々苗木市
黒板に晴れの文字あり三月忌
ルビー婚なんて知らずに木の実植う
さくら桜ひとりと孤独は違ひます


五島高資
  東日本大震災から九年を迎えて
手を合はせ蹲ふ浜や風光る
  志村けんさんを悼む
斃れたる身に滞る春の水
春陰や拳でまなこ支へたる
引き急ぐ春の潮こそ光りけれ
目を瞑り額に受けたる春入日
コロナ死とな言ひそ春のかはたれに


青木百舌鳥
遠桜へとつながらず墓地の道
風やみて花ひとつまたひとつ散る
花の山下りて白色灯の花
稲妻のごときフラッシュ花の山

2020年3月27日金曜日

令和二年 春興帖 第二(五島高資・松下カロ・辻村麻乃)



五島高資
羚羊と目の合ふ時つ風光る
春の風邪ナツメ球の灯目に刺さる
牡丹雪湯の沸く音の中にをり
龍天に登りし松の馨りかな
目を閉ぢて春の入り日となりにけり


松下カロ
父の足さがし続けて春炬燵
息をもて銀器曇らす鶴帰る
春炬燵遠く多産の国があり


辻村麻乃
ビル街の古りて社に淡き梅
白加賀の雄蕊を風の撫で回す
これからと連呼する人梅見かな
枝ぶりを褒めて梅見の車椅子
探梅や口を開けたる老婦人
ぷつぷつと蜆先刻の息を吐く
クロッカスはち切れさうな犬連れて

2020年3月13日金曜日

令和元年 秋興帖追補/令和二年 歳旦帖 第十(家登みろく・井口時男・仲 寒蟬・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



家登みろく(森の座)
福達磨 勝ちにゆくにはまだ素く
独り居の豆撒壁を跳ね返る
海老押しのけ蛤開くちからかな


井口時男
ひしめいてスマホかざすも年迎へ
死者たちの書物並べて去年今年
乳の香うつすら人の日のエレベーター


仲 寒蟬
進むべき道は初湯の湯気の奥
一族とともに縮小鏡餅
仕舞湯の湯気の多さも四日かな
電線の見えぬ空なし初景色
ぺたぺたと赤子の触れて鏡餅
どんどの火こぼれしばらく地を焦がす
ミサイルのあと七草粥のニュース


五島高資
初富士や背骨を昇る炎あり
立ち返る山懐や初筑波
初日影とりどりにあり花崗岩


佐藤りえ
歩み越しとりかへばやの去年今年
  今生のいまが倖せ衣被
根性のいまがっついてからみ餅
瑞雲で阿難迦葉を牛蒡抜き


筑紫磐井
子の年の子の国にある御慶かな
先生虎皮下で届く賀状の見覚えなし
さっそうと坊主屏風に消えにけり


【秋興帖】
井口時男
銀河流れよ廃墟も青き水の星
俳諧は死語の波寄る秋の岸
瓦斯燈に秋ともし行く影男
身の秋を泪橋から山谷まで
月蹣跚コンビナートがのたくる
黄落の中を眼病みの独学者
山姥も綴れ刺すかよ冬支度

2018年12月28日金曜日

平成三十年 秋興帖 第十(五島高資・青木百舌鳥・池田澄子・真矢ひろみ・井口時男・筑紫磐井)



五島高資
未完なる防潮堤や蚯蚓鳴く
登高や研修医指導研修会
日は海に面影の立つ出水かな
爪先にふれる水面や紅葉狩
石を積む月の光となりにけり


青木百舌鳥
ががいももあざみも絮の輝かし
秋灯の光背を負ひ陰を負ひ
寺町や寺にありたる紅の菊


池田澄子
古ぶなり風の花野のベンチと我
あの人に触れし風なれ十三夜
秋風や嗚呼とゆるんでゆく眉根
月天心さびしいひとよ落ちてくるな
濁り酒ゆすり未だに干さぬ奴


真矢ひろみ
黄落を川面に映し此岸とす
暁闇の漆紅葉の高貴かな
更けるほど天心ずらす紅葉径
ただ狂へ白膠木紅葉の囃しをり
影もたぬ帚木紅葉ありにけり


井口時男
道化の秋
道化師のはらわたよぢれ柘榴裂け
月に笑ふピエロ0(ゼロ)を累乗し
天高くアルレッキーノの宙返り
台風の眼に与太郎が舞ひ踊る
紅葉狩往きて還らぬ太郎冠者
月青く猪突の騎士に憂ひあり
秋風や王の道化の綱渡り


筑紫磐井
水と日の沸る露をく兜太の里
盆さまざまこの世に生れぬ魂も
  幸彦・義幸
十月の忌日重ねて我ら老ゆ

2018年10月19日金曜日

平成三十年 夏興帖 第十(望月士郎・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



望月士郎
蛍をつまむ指先から弥勒
棺を運ぶ内の一人は蟹を見る
金銭感覚サボテンの花咲いた
空蝉をつまむ異郷につままれる
死後のこと背泳で見た昼の月
描かれてヨットは白い過去となる
写真みなやさしい死体砂日傘


五島高資
岩肌の流れ出してや夏の蝶
年輪に墓碑に出水の刻まるる
滝壺に掬ひて仰ぐ朝日かな
河と川出会ひて滾つ青楓
日は海に面影の立つ出水かな


佐藤りえ
飴ちやんが貰へる賽の河原なら
欲望に服を着せても透けてゐる
膃肭臍蛸擲てる土用波
一艘の小舟を待ちて一輪廻
三姉妹仲良いこともメモつとこ


筑紫磐井
雷鳴豪雨おほへる楷の大樹かな
三越や昔ありにし花氷
七時より開演夏のスタアたち

2018年6月1日金曜日

平成三十年 春興帖 第七(近江文代・渕上信子・花尻万博・浅沼 璞・五島高資)



近江文代
くちびるを薄くレタスを裂いている
遠く来て磯巾着の縞模様
遺影とは三色菫咲くところ
片方の足組んでいる藤の昼
発音の途中浅蜊の口開く


渕上信子
連翹よりも山吹の濃し
百千鳥花殻摘に倦み
花過の月細りゆく日々
もやしの髭根とる夫に蝶
昭和の日安楽死の話
夕ひばり黒点となるまで
春をかなしむ家持のごと


花尻万博
桜貝いちいち波に応へ照る
浸す足持たぬ仏に水温む
何もかも子らに任せる桜烏賊
牛の声鬼の声草摘みにけり
花疲見ている沖の光かな


浅沼璞
時の門ぬければ石だたみ芽吹く
実朝の石の烏帽子の風光る
看板に春雨 東京流れ者


五島高資
沈みたる島と繋がる磯焚火
永日や手のひらに手のひらを置く
方丈の岩屋に空や雪解水
雛の間や川は夕べへ流れけり
右大臣の烏帽子を直す雛の朝
蹲へば雲母さざめく正御影供

2018年3月2日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善(辻村麻乃・曾根毅・月野ぽぽな・五島高資・北川美美・島田牙城・豊里友行・加藤知子・仲寒蟬・神山姫余・佐藤りえ・高山れおな・筑紫磐井)



辻村麻乃
 斑雪山
斑雪まだ聞き足らぬ秩父の子
困民党残せし痕や春社
狼の天を見つめる眼に涙
兜太いま春の武甲に木霊して
斑雪山あれは兜太だつたかもしれぬ


曾根毅
狼の冷たくなりし黒眼鏡
腹出して寝る人間【じんかん】の零余子飯


月野ぽぽな(海程)
天に星地に梅ともし兜太逝く


五島高資
片目にて笑む師のなみだ風光る
永日や手のひらに手のひらを置く
冴え返る利根の流れや巨星墜つ
利根川や冬三日月の残りたる
福島の残雪ゆがむ泪かな


北川美美
海程秩父道場にて兜太氏は旅館側で用意した二つに裁断されたバナナを片手摑みに登場。2015年の春だった。
マラソンや手渡すバナナ半裁に


島田牙城
金子兜太逝くや春星ふくらませ
なほ停まらざるや兜太の三輪車
星の中の星の地球ぞ兜太逝く
兜太の狼敏雄の狼を追へり
然らばとて然らばと言へり兜太逝く


豊里友行
海ほど脈打つ兜太のほうれん草
海ほどの金子兜太の夢野かな


加藤知子
春落暉大先生の掌ありしが
花盛りを待たず人体の別れかな
梅が香やへうと自在のかなたへと


仲寒蟬
どこまでも狼を追ひつづくべし
臍出して立小便を春空から


神山姫余
春一番兜太が鮫に乗ってゆく
天翔る陸の鯨や兜太逝く


佐藤りえ
草の舟乗らうかさうか手を貸さう


高山れおな
さほひめ と つれだつ まかみ ふりむかず


筑紫磐井
北天に架かるあれが
かくも静かに二月の記憶 兜太星



第83回海程秩父俳句道場(2015年4月5日(日)) 写真:北川美美
左より金子兜太・関悦史・筑紫磐井

左より、安西篤・筑紫磐井・金子兜太・関悦史
背後ホワイトボードの句(金子兜太:老人は青年の敵 強き敵 (筑紫磐井))

平成二十九年 冬興帖 第八(中西夕紀・北川美美・西村麒麟・佐藤りえ・筑紫磐井・羽村美和子・浅沼 璞・五島高資・高山れおな)

中西夕紀
細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり


北川美美
柴犬が戻つて来たり枯野より
太陽の赤く絞れる枯野かな
枯野より手を振る人のよく見える


西村麒麟
鯛焼や遊びをせんとたまに思ふ
石多き冬の赤穂を通過中
鳰泳ぐ鳰より別れ来し如く
鳰脚を揃へて沈みけり
着ぶくれてゐる人々や肉を焼く
別嬪でありし日の絵や鴨の宿
一つある円寂の図や初氷


佐藤りえ
釣り人はダム湖の冬日見て帰る
降るまでは雪ぢやなかつたやうな雪
店名の一文字欠けて冬灯
皆死んでちひさくなりぬ寒苺
寝穢くゐつづけ春を待ちやがる


筑紫磐井
君の心は小春のやうに虚子の穴
三階から落ちる老人枯一葉
人格者うさぎおいしく煮てしまふ


羽村美和子
品格に一番遠く海鼠ずき
模倣犯生半可にして枯れ薊
ポインセチア明日は知らない街歩く
水仙花風の誘いに乗りません
達磨落としこつんこつんと山始
表情筋夜ごと鍛えて 鮃
寒牡丹未明に月への船が出る


浅沼 璞
小春まだ元気かと腕にとまるよ
雪ばんば淡くにごりてよろけける


五島高資
鉄パイプ落ちて響ける枯野かな
紙垂光る内はほらほら鳥総松
嵩上げや小石に長き春の影
日は海を離れ蔵王の息白し
金星の残るインフルエンザかな


高山れおな
  自平成二十五癸巳至平成三十戊戌歳旦
癸巳 まきに まく ほねしやうぐわつ の じや の ねむり
甲午 うま と ゆめ はつしのゝめ を かけめぐる
乙未 はつくゝわい ひつじ の かは を わすれず に
  芭蕉寛永二十一年甲申、蕪村享保元年丙申、
  愚生昭和四十三年戊申。
丙申 さるめん を きゝ と つらぬる はつあかね
丁酉 とりのこ を かけて ぎんしやり しやうぐわつ も
戊戌 は を むいて まかみ ましら の ぎよけい かな
同  しゆくき とも かれいしう とも いへば いへる

【編集者注:6年分の歳旦帖なので冬興帖の末尾に入れました】

2017年9月22日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第四(渡邉美保・渕上信子・五島高資・坂間恒子・前北かおる・辻村麻乃)



渡邉美保
地ビールや黄昏どきの鶏の皮
あめゆあります三条油小路町
乱反射して川面より夏深む


渕上信子
かたつむり足跡の銀色
薔薇薔薇苑を食みだして咲く
孳尾みしままに蟬乾きをり
蠅集る死に近づけば増え
紙魚は太りぬ『野火』に『俘虜記』に
真面目になれば八月は無季
夏帽子鸚哥が「アホンダラ!」


五島高資
みどりから青へみちのく深まれり
五次元の寄せるみぎはや時計草
明星の微笑み返す蓮の花
夏草や貨車は傾きつつ曲がる
舟虫を散らせし人の影となる
富士山の艫綱を解く夕焼かな
筑波嶺やムー大陸の青岬


坂間恒子
炎天の地を擦る縄のあそびかな
闇よりもさきに夕顔となっており
踝にきく夕顔の息遣い


前北かおる(夏潮)
夜の秋火の衰へを見守りて
段ボール燃やしキャンプの朝かな
朝蝉やよろしくぬるき露天風呂


辻村麻乃
緊縛の観音転がる夏の果
パードレの如き男と夏の山
腕中にぐるり湿布の金魚売
一匹の一匹を追ふ金魚かな
手際良き夜店の香具師や手に黒子

2017年8月25日金曜日

【花鳥篇特別版】金原まさ子さん追善(秦夕美・佐藤りえ・筑紫磐井)/花鳥篇 第九(五島高資)



秦夕美
絵はがきの文字思ひをり梅雨の星



佐藤りえ
鶏頭の裳裾ひるがへして遊行



筑紫磐井
穏やかな晩年はなし叩けば蚊




花鳥篇 第九(五島高資)

五島高資
蛇口から水のふくらむ二月かな
雛の間を川は夕べへ流れけり
日の本の日やみちのくの春の海
朝へ出る道のうねりや竹の秋
水を送るのみの橋あり春の雨
爪先を回してゐたり春の闇
田水張る高天原のけむりかな

2017年6月9日金曜日

平成二十九年 春興帖 第八(羽村美和子・渕上信子・関根誠子・岸本尚毅・小野裕三・山本敏倖・五島高資)



羽村美和子(「豈」「WA」「連衆」)
啓蟄のアラビア文字が笑いだす
花辛夷空は剥落し続けて
風葬の風のはじまり根白草
ヒヤシンス す・さす・しむとは使役
沈丁花どこまで香りか秘密か


渕上信子
スカイツリーの土筆の空よ
玻璃戸のむかう二月輝く
恋猫のごと恋せしことも
花冷に来て御座なりのハグ
逃水のさき蕪村すたすた
終末時計すすむ春昼
入社式挨拶はAI


関根誠子
春昼やウメノキゴケの密かなる
真砂女大師ホワイトデーをわたくしす
花を待つ心くさめとなりにけり
花曇とろり渦巻く池の面
飛花落花大声あげてゐる虚空


岸本尚毅
漂ふが如き寒さや蝌蚪を見る
春雨の今日いくたびの雨あがり
雨ながらものの芽遠く見ゆるかな
あたたかや石をへだてて違ふ苔
白木蓮眺めて辛夷なつかしく
梅ほどの白さの花を初桜
花は過ぎ新川崎の駅も古り


小野裕三
春に目眩む沖に客船都市に愛
サーカス団つやつや並ぶ木の芽雨
紋章の麗らかなれば町に住む


山本敏倖(山河代表・豈)
連翹の左心房なら別冊
花びらを踏まないように調律す
感触は海市一の糸からまる
天球の一片に挿す黄水仙
蛇行してこの世に辿り着くつつじ


五島高資
蛇口から水のふくらむ二月かな
涅槃図を洩れたる影を拾ひけり
腹の底から吐ききつて二月尽
朝へ出る道のうねりや竹の秋
水を送るのみの橋あり春の雨
爪先を回してゐたり春の闇
槌音の木霊や霞む室根山

2017年2月24日金曜日

平成二十九年 歳旦帖 第二 (仙田洋子・ふけとしこ・五島高資・堀本吟・渕上信子)



仙田洋子
初晴や引つかき傷のやうに鳥
なつかしき人と分け合ふごまめかな
戒名はいらぬと父の初日記
獅子舞の恥ぢらふやうに退りけり
押し合ふもこの世のならひ初戎
鏡割星の生まるる方を向き
餅花の匂ふがごとく揺れにけり



ふけとしこ
七日粥献血年齢すでに過ぎ
雪折れの枝よづきづき痛むだらう
梟が面付け替へてゐるところ



五島高資
日を入れる船溜りかな初昔
淑気満つ宇津保舟なる月の影
金星へ抜ける道あり鬼火焚



堀本 吟
歳旦三物 
歳旦の大河こよなき景色かな
 愛(めぐ)しき春着橋の殷賑   
夢に遭ふ蝶をわが身と呼ばすらん 

 
渕上信子
短句(有季定形)
万年床にひとり鶏旦
二日隣家の犬に挨拶
三日の船に男逞し
「春駒」は書初をはみ出し
五日はや普通の顔ばかり