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2016年6月3日金曜日

平成二十八年春興帖 第十二 (小林苑を・筑紫磐井・北川美美)




小林苑を
肩に上着を陽炎の町に着く 
死んだ兵士に石鹸玉飛んでゐる
青空の見えてバケツに霞草



筑紫磐井
歳旦のある春興の本意かな
春分のしづかな君と僕の生活
アパートで晩春しつつ女ひとり



北川美美
わたくしにわたくし帰る花は葉に
春塵にバスは消えゆくラストシーン


2016年5月27日金曜日

平成二十八年春興帖 第十一 (浅沼 璞・竹岡一郎・水岩瞳・夏木久)


浅沼 璞
駅うらゝ義和団のことなど話し
あふのけのシンディーローパー花万朶
桜湯のシンディーローパーまたゝける
かのワイングラスにひたる桜貝



竹岡一郎
役(えき)として弥生を病める丸太かな
亀よりも低き看経して狙撃
透けてから雛市巡る母子あり
折檻が接吻が鳴り抱卵期
断崖へ光あわだつ花衣
セーラー服黝ければ六阿弥陀
星間を耕す鍬の余韻かな



水岩瞳
ひらひらりこれを私の初蝶とす
梅が香や幾たびも吸ひまたも吸ふ
蒲公英や舗道の隙間埋め尽くし 
麒麟の子はにんげん不思議 花ミモザ
永き日のタカアシガニの一歩か



夏木久
戦場を消す啓蟄の未明かな
私といふ刑場のあり冬すみれ
谿多きカレーライスや調印式
ジャズを聴き眠る入江の魚や貝
議事堂の春の影なりウロボロス
春は曙あなたは最早夜汽車じやない
パセリ探しスカボロフェアーへ春ゆけり


2016年5月20日金曜日

平成二十八年春興帖 第十 (五島高資・川嶋健佑・羽村 美和子・西村麒麟・田代夏緒・小林かんな)



五島高資
日に向かふ竜の背中や春の暮
竜天に大倭日高見国
なゐふりて直毘神や春の朝
ゆれ止まぬ筑紫の春の夜明けかな
花に寝て天に近づく瀬音かな



川嶋健佑(船団の会、鯱の会、つくえの部屋)
暁に集まってくる春の鯱
日本の暁に飛び出す春の鯱
憂き嘆き喘ぎ雄叫び春の鯱
十五番街のつくえの部屋へ東風
やがて東風吹き抜けて午後部屋の午後
のんびりとつくえの部屋に春の塵




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
風二月哲学をする詩人の背
梅真白夜の一隅動きだす
古典抄引っ掛かりたがる山椒の芽
花あしび馬が通ると声を出し
みちのくの風のまだらを紋黄蝶




西村麒麟
蛇穴を出てゑがかれてゐたりけり
米国のビールが淡し涅槃西風
貝寄風や外で飲むならハイネケン
春宵やダーツを投げてみるも下手
鱒の顔口を開けても閉ざしても




田代夏緒
チューリップ百回呼べば芽を出しぬ
突風に介錯されしチューリップ
ちゅーりっぷ甘え上手といふ技巧




小林かんな
建築の丘せり出して春の空
溶接の面ふり向かず朝桜
帽子屋の起伏いろいろ春深し


2016年5月13日金曜日

平成二十八年春興帖 第九 (花尻万博・関根誠子・田中葉月・仲 寒蟬・山本敏倖・小沢麻結)



花尻万博
褶曲は蒲公英入れず思い出す
木の国の電波の中を木の芽時
病無き四畳半の薊かな
桐の箱スイートピーも汝が為に



関根誠子(寒雷・や・つうの会・炎環)
漕いで漕いで郵便配達夫は蝶に
春風やもう洟が出て洟が出て
咲くよりも散る花が好き旅が好き
夕がすみ果てしなくなる糸の先
散る桜あとはしいんとなる吉野



田中葉月
川底のゆるゆる逃げる春愁
あのときのあなたでしたかアネモネは
石段の石の吐息は蓬色
喝采はサーカスの中 落椿   
あれは夢だつたと言つてたんぽぽへ



仲 寒蟬
風の出てそれらしくなる花馬酔木
春眠しいくつ電車を乗り換へても
我を見る春暮の鏡裏返す
他ならぬここが海市か大東京
マトリョーシカ最後に春の闇のこる




山本敏倖(豈・山河)
きさらぎの外へ火宅の相聞歌
感触は陽炎ほどの甘味料
まっすぐに花の国境点描画
三月のあんばらんすのあんぶれら
一片の春の雪にもある重さ




小沢麻結
 薄紙に書かれし事件春灯下
永き日やむかし水母は骨を持ち
春の蠅丸ノ内線銀座駅





2016年5月6日金曜日

平成二十八年春興帖 第八 (陽 美保子・石童庵・池田澄子・坂間恒子)



陽 美保子(「泉」同人)
青空に雪掲げゐる古巣かな
啓蟄の食ひ汚したる口ひとつ
雪割りの音に公案解けにけり



石童庵
幹にサルノコシカケさくら古木咲く
血脈を離れ法脈花は葉に
ふきのたう純愛なのにゲス呼ばはり



池田澄子
鬼は外外なら星も見えるでしょう
わたくしの髪が好きらし春一番
昇りゆく春の樹液のこころもち
前をゆく人の小声の歌も春
三鬼忌の猫が引っ掻く木の根っこ 
 


坂間恒子
菠薐草どこかで世界が裏返る
蕗の薹虚子の系譜のねむらない
蝮蛇草ほそるばかりの脊柱管






2016年4月29日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第五 (小沢麻結・堀本 吟)



小沢麻結
ひとことを幾度さらひ卒業式
卒業や今一度部室へ回り
仲良くもなきが肩抱き卒業式




堀本 吟
桜咲き上級生は去りにけり
卒業やパイプの椅子と鉄パイプ
革ジャンを制服に替え卒業す
さびしいな友達がなく職がなく
卒業シーズン終わって薔薇が半額に
卒業の式あっけなしチューリップ
にっぽんの票田として卒業生
人生に卒業は無し死はあれど
日月に終わりはないが卒業す
亡父(ちち)曰く亡母(あれ)はいまだに女学生

平成二十八年春興帖 第七 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
鳴き交はしたき鳥もなき彼岸かな
佐保姫やけふより月の下弦なる
人間と大樹は晴れて穀雨かな



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
啓蟄の赤らんでゐる埴輪かな
種床や起きる起きると夢の中
ゆるやかに靴音止みぬ初桜



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
苗札やこの双葉には光さし
手が冷えてほの明るさの初桜
古草に木の花いくつひらきたる



依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
そのうへをこころたゆたひ蜷の道
摘まんとす土筆ありけり指のはら
花粉とばし尽せし土筆つひに鳴る





2016年4月22日金曜日

平成二十八年春興帖 第六 (ふけとしこ・望月士郎・佐藤りえ・真矢ひろみ)



ふけとしこ
たこやきの箱の汗かく春一番
起き抜けの水に放して三月菜
囀りの散つて隅々まで青空



望月士郎 (「海程」所属)
左手は右手で洗う多喜二の忌
貝寄風や胎児に耳のできあがる
ブランコを漕ぎつつ奴隷船のこと
牛乳の表面張力春満月
人形抱いて海市に向う船着場



佐藤りえ
渡されて犬にほひたつうらら哉
痰壺を眺めて春の日の暮らし
アイシングクッキー天竺までの地図
首すぢの空気穴から春の塵
睫なき菩薩のまなこ彼岸西風



真矢ひろみ 
春曙光二度寝の夢に妣の坐す
大ぶりの霊を輪切りに長閑なり
碧天は御霊に狭し揚雲雀

2016年4月15日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第三  (真崎一恵・とこうわらび・曾根 毅・前北かおる)



真崎一恵((    )俳句会)
第二ボタン外し胸張り顔しかめ
春の雨希望の緑空高く
人波を撫でて帰った春の夕
ポケットの中に鍵なし春浅し
卒業の日に友の数倍増す




とこうわらび((    )俳句会)
学生の皮をはぎ取る春一番
雪解けや別れの日まであと一歩
学び舎の新陳代謝春来たる
卒業や取り残されたパイプ椅子
桜咲き何事もなく時の過ぐ




曾根 毅(「LOTUS」同人)
納屋の土筆卒業の日は寝て過ごし





前北かおる
一堂に再び会し卒業す
十二年歌ひし校歌卒業す
卒業のエスカレーター自動ドア





平成二十八年春興帖 第五 (もてきまり・青木百舌鳥・林雅樹・早瀬恵子)



もてきまり
啓蟄は身を切るごとしひきこもる
死んだのよあなたと私花の宿
偽の死の枕二つや沈丁花




青木百舌鳥
水道の遅日の船の往き来かな
また汐吹貝(しほふき)白牌引きし心地なり
浅蜊掘る止めどきさがしはじめをり
雨音に余儀なく目覚め春嵐
捕へたる蟹も加へて浅蜊汁
浅蜊汁明るき色の砂残る




林雅樹 (「澤」同人)
寂しき街へ佐保姫乳首からビーム
化粧品売場はいつも春みたい
下着つけマネキン首のなき遅日
スカイツリー傾く桜満開に
サテュロスの女を攫ひゆく春野




早瀬恵子 
さくら美人さくら美(うま)しや国の暁(あ)け
催花雨やTOKYO・KYOTOかんばせに
花代と仏門の線香もえ咲かる


2016年4月8日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第二 (川嶋ぱんだ・天野大)



川嶋ぱんだ ((    )俳句会、船団の会)
学籍がなくなるという春近し
別れというほどでもなくて卒業す
門出というほどでもなくて卒業す
それぞれにスーツの第二ボタンかな
それぞれの角度から見る桜かな
それぞれの水のその後の桜咲く



天野大 ((    )俳句会)
風光る川の流れの速きこと
砂時計ひっくり返すつくしんぼ
引き出しの第二ボタンに口づけを





平成二十八年春興帖 第四 (前北かおる・神谷波・網野月を)



前北かおる
草の青俄かに濃ゆし犬ふぐり
けらけらと空き缶転げ風光る
初桜老いて口数多からず



神谷波
はつさくを山ほど剝いて煮て朧
たんぽぽの絮そつと乗る夜風かな
大振りの白椿には曇天こそ



網野月を
春光や櫓の上の高層ビル
松禄を抜け出して食う穴子焼
イマカツの香りを余所に春の街
五代目を襲名興行花だより
雪姫の落花や風の春ならば
青柳の夕風の先煉瓦亭
髪匂う滲むネオンの春の宵






2016年4月1日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第一 (杉山久子)





杉山久子 
卒業の朝の真白きマグカップ
卒業す音楽室の窓鳴らし
雲追うてゆく雲のあり卒業歌



平成二十八年春興帖 第三 (内村恭子・小野裕三)



内村恭子 (天為同人)
春の雷キメラマウスに耳新た
いもりの尾また生えてくる春闌けて
春宵の丘にクローン羊たち
シナプスのつながつてゆく春隣
春の虹映す再生角膜に




小野裕三(海程・豆の木)
大玉を持ち歩きけり島朧
尖塔を学び終えたる春の客船
正餐に猿も鳶も魚島も




2016年3月25日金曜日

平成二十八年春興帖 第二( 曾根 毅・木村オサム・渡邉美保)



曾根 毅(「LOTUS」同人)
澄みきっている春水の傷口めく
竹林を来て春昼となっており
いのちまだ生臭くありつばくらめ




木村オサム(「玄鳥」)
曼荼羅の押し寄せてくる雪解川
啓蟄や黙って頬を差し出しぬ
透明な蝶の飛び交う試着室
春雷や向う三軒印度人
泳げないのに朧夜に駆り出さる



渡邉美保
春一番きのふのままに木のベンチ
ドーナツのやうな木の瘤風光る
満天星の芽だちに触るる手の冷た
雉鳩の羽根片びらき雛荒し
笑ふやうな鳥の鳴き声抱卵期


2016年3月18日金曜日

平成二十八年春興帖 第一 (仙田洋子・仲田陽子・杉山久子)




仙田洋子
とほくまで車かがやく梅見月
梅林や地べたに坐ることのよき
鳥影の日ごとに増ゆる梅の花
夢の中まで白梅のびつしりと
白梅に抱かれつめたくなつてきし
ほんのりと酔ひ紅梅のつもりなる
母と子と坐る地べたや梅の花



仲田陽子
花辛夷薄目を開けて眠りたる
蜜を吸う鳥の瞼や梅三分
筆先は囀りを聞き分けている
メビウスの輪から出られずシクラメン
養花天枕の中は白き羽根




杉山久子 
桜湯に透きてかさなる花のいろ
春の日に鸚鵡返しの人とゐる
足跡のとぎれしところ春の海