ラベル 豊里友行 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 豊里友行 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2026年9月25日金曜日

令和七年 冬興帖 第二(神谷 波・田中葉月・加藤知子・曾根毅・山本敏倖・杉山久子・中西夕紀・豊里友行・仙田洋子)



神谷 波
人に影寄りそふてゐる小春かな
山眠り田はかしこまるばかりかな
裸木がぽつんと雲待つ鳥を待つ
年の瀬や降ったり止んだりしつつ暮れ
餅を搗く音やピリオド打つごとく


田中葉月
今今今を咥えたる冬の金魚
やまびこの声うらがへる寒満月
人参や孤心小さくきざみゐて


加藤知子
蓮池を掘るとふ男しぐれない
万葉に遊行女婦の舞う風花
寒月光に晒す大石内蔵助


曾根毅
太陽の沈まぬ夜の傾斜かな
鳥渡る氷河を黒い影渡る
カトマンドゥ夜は臓器のような街


山本敏倖
会釈して凍滝の深さ見上げる
棒パンを撫で切りにする寒月光
忘却がおっこちている枯野かな
寄鍋や昔の顔が煮えている
彫刻やこの枯蓮は明朝体


杉山久子
寒林を行くとき弱音吐きさうに
よく喋る家電三寒四温かな
着ぶくれて黄金のマスクに見入る


中西夕紀
数へ日の欠伸の人とぶつかりぬ
寝る吾に猫の出でゆく布団かな
風止めばそこに立ちゐる雪女
片貝となれば飛ばされ冬うらら
落葉踏むあれは歌つてゐるリズム


豊里友行
我が鉛筆よ星雲のこころざし
咳てぃーちたぁーちみぃーち冬樹の粉砕よ
しんしんと天体をなす消化器系
ひゅうひゅうと肺胞よ珊瑚礁の森
かんかんと蝶カーソルの建築中
煩悩まみれのカフカよ解熱剤
束の間の夢野へ虹の蝸牛


仙田洋子
先生の訃報とともに冬来る
るるるると水湧く音や冬はじめ
漱石忌猫集まつて来たる庭
日直の二人の机冬日差
竹馬の空も大地もぐらぐらと
ちちははの命尽きたり葛湯吹く
葛湯吹きちちははの思ひ出を吹き

2025年11月21日金曜日

令和七年 夏興帖 第四/秋興帖 第二(岸本尚毅・小野裕三・瀬戸優理子・豊里友行・山本敏倖・仲寒蟬)

【夏興帖】

岸本尚毅
材木や流るるごとき蟻の道
風鈴が鳴る老人の食べ残し
山の虫大きく密に網戸かな
臍見せて見られて避暑の娘たち
夕ぐれを人々遊ぶ芋の花
鬼の貌なる空蟬や百合の葉に
夕蟬に家無き人等肌を脱ぐ


小野裕三
未草彼女はきれいに定規を当てる
来た順に人魂埋める夏満月
湖で暮らす一生はたた神
平泳ぎに無駄な動きのありにけり
ラムネ瓶集めて発明クラブかな
予告状めいて広がる夏木立
それからは罠のごとくにバンガロー


瀬戸優理子
鶏がらを潰す日盛の力士
顔の無い父母と逢う昼寝覚
みぞおちにふくるる闇へほうたる来い
こんぷらいあんすありんすどぜう鍋


【秋興帖】

豊里友行
赤とんぼ生きてるだけも丸にする
鎧なり喧嘩した日の松ぼっくり
〆切よ跳び箱の虹をください
歩け歩けの天体ワンちゃんショー
小鳥来る琉球石灰岩の島
木の実ふる空爆の世を棄てちまえ
麦の穂がゲルニカの風を切り取る


山本敏倖
言霊がモノクロになる震災忌
茸飯を届けるボタンを付けている
手のひらに乗っかる虫の音をさがす
単三の灯りが一点真葛原
銀漢に近づくように歩き出す


仲寒蟬
耳掻の先の小鈴や今朝の秋
来月は人手にわたる盆の家
その茸抜けば全山滅ぶべし
調律師いつしか竈馬になる
地虫鳴くこの世黄泉よりおそろしく
鼻筋のきれいな人と新酒酌む
啓示とはたぶん単純からすうり

2025年10月24日金曜日

令和七年 夏興帖 第二/令和六年冬興帖 補遺(仙田洋子・豊里友行・山本敏倖・水岩瞳・浜脇不如帰)

【夏興帖】

仙田洋子
麦笛を吹く子に恋の矢の当たれ
雷兆す千住大橋渡りけり
たつぷりと濡れて朝顔市の鉢
亡き夫のたましひの火か螢飛ぶ
蟻地獄しづかに崩し始めけり
河童忌の万年筆のかすれけり
青春の歳月澱む香水瓶


豊里友行
ダンサーの宇宙の息吹よダリア咲く
桃ふたつ水惑星の水動く
薇ののの字のうねり山描く
大花火ぽんぽんだりあの夢野なり
傾けるサングラスの水平線
ひっぷほっぷのもももももももももも桃
今日、薫る新風は森の妖精


山本敏倖
大仏の掌から出てゆく梅雨の蝶
風鈴の目玉が闇を深くする
水中花ひらたく言えば体温計
別の世へ行く道示す水を打つ
雷雲が広がる将棋を差している


水岩瞳
怖いものなんてなかつた夏帽子
其のなかに樹齢千年青嵐
夏草の真つ只中を廃線路
旧式のそよ風よろし扇風機
ネタニアフとプーチンを撃ち昼寝覚
礼拝堂出入り自由や夏の蝶
うなだれし向日葵にある長き鬱


【冬興帖】

浜脇不如帰
主なるきりすとは蕎麦湯に冷えピタを
焙じ茶にたのしまされて初六日
寒鯛はくさりやすくもルームシェア
故国在るたのしさかみしめる鮃
柚子風呂のゆだん海月の不死身度合
せうが酒それと枕のやはらかさ
十字架の主には掛毛布の痛み

2025年4月25日金曜日

令和六年 冬興帖 第三/令和七年 歳旦帖・春興帖 第一(辻村麻乃・瀬戸優理子・仙田洋子・神谷 波・豊里友行・山本敏倖)

【冬興帖】

辻村麻乃
藻の池に朽ちたる舟の冬日かな
熊手笹ゴールデン街に消えゆけり
人の飲む珈琲匂ふ冬日向
肉まんの暖を分け合ふ高架下
手の余る父のポケット冬麗
こそばゆき白の配列霜柱
どの家も幸せさうな十二月


瀬戸優理子
天然水買って孤独の風邪薬
侘助や廊下の奥は人を断つ
慟哭を散らかすまいとブロッコリー
身の内の余熱をさます冬木立


【歳旦帖・春興帖】

仙田洋子
咆哮やあらたまの闇深々と
広重の空の青さや大旦
暗がりの多き実家の切山椒
集まりて大鷲しづか流氷原
流氷を割りては海を覗き込む
流氷原残照に闇しのびこむ
国後へ流氷すさりゆく夕べ
魚は氷にトランポリンで跳ねる子ら
病室に影のまはれる吊るし雛
野遊やどの子一番早く死ぬ


神谷 波
野に山に月の簪お正月
初晴や順調肺も心臓も
松過ぎの手足遊ばせ湯船かな
野の池の縮緬皺や雲に鳥
ぬばたまの眠りを誘ふ春の闇
愛敬たっぷりのかんばせ土雛
そつと抱き寄せ花冷えの抱き枕


豊里友行
翅ばかり残してショーウィンドウの春
次第しだいに皇軍の電照菊
溢れ出す白い会話のゴジラたち
武器を捨て手を叩こうよ花暦
 Qよ蝌蚪
双手あげ花鶏頭のバレリーナよ
枇杷燈る真空管のランプ色
棘がある言葉のわたし花きりん
唇が捲るチューリップのプライバシー
凸凹人生も光る春野菜


山本敏倖
半ドアのこの世に漏れる初明り
餅伸びて大統領への提訴からまる
双六で三つ戻りてラジオ体操
火の鳥が永遠の春連れて来る
たんぽぽのほわいとのいずてきてんかい
どの角も壬生狂言となりにけり

2025年4月5日土曜日

令和六年 冬興帖 第一/令和六年 夏興帖・秋興帖 補遺(仙田洋子・神谷 波・豊里友行・山本敏倖・ふけとしこ・水岩瞳)

【冬興帖】

仙田洋子
書いて消す恋といふ字や雪の窓
湯豆腐やぽつぽつと雨降り始め
ご主人の書斎の好きなかじけ猫
黒猫のよぎつてゆきし紙干場
われらみな手皺に見入る火鉢かな
エプロンで磨き陽の色冬林檎
凍滝や命あるもの許されず


神谷 波
雪女叫びをるらん雪しまく
冬晴の富士を車窓にお弁当
数へ日のエスカレーター派階段派
  母永眠(享年97)
数へ日の死顔何か言ひたさう
節分の灯のぱらぱらと山家かな


豊里友行
凍蝶の軌跡が描く天体よ
風化の螺子を巻く凍蝶の天体
凍蝶は天体の血潮になるか
じたばたと凍蝶の冬が沁み入る
沈澱し出す凍蝶の銀河系
冬陽が洗う凍蝶の煩悩
誕生するね凍蝶の天体よ


山本敏倖
寒椿波はヨハンシュトラウスかな
冬銀河を渡るひとりの紙の舟
切り絵から露地の寒気が漂えり
鯛焼きに見向きもしない盲導犬
返り花どこまでピエロでいるつもり


ふけとしこ
裸木の寄り添ふのみぞ開墾碑
長編のやうやう佳境冬うぐひす
数へ日や天気図に風見ることも


【夏興帖】

水岩瞳
濃あぢさい御国のためと血を流し
大樟の青葉騒バンザイばんざい
忠魂碑に空蝉ひとつ置いてくる
煙草やめ父が愛した水やうかん
白玉やつるんと過ぎる日一日
エンゼルストランペットあの人は来ぬ

【秋興帖】

水岩瞳
八月の投降のビラ今も舞ふ
永久にあれからずつと敗戦日
少年の掌のなかの黙きちばつた
花野ゆく少女の吾に会ひにゆく
木曾のなあ月にとどけと踊り唄
村消えて秋の蛍がゐると言ふ

2024年12月13日金曜日

令和六年 夏興帖 第五/秋興帖 第四(山本敏倖・冨岡和秀・花尻万博・望月士郎・青木百舌鳥・加藤知子・豊里友行・木村オサム・中西夕紀)

【夏興帖】

山本敏倖
六月ははや吊るし人形である
夏座敷居留守の音の尻尾出る
入念に余白を隠す女郎蜘蛛
古事記からくちなわの音盗みおり
中世の木霊を連れし麦の秋


冨岡和秀
弔いの鐘が鳴るなり疫病期
滑空のスキー転んで鳥探し
捉われて身口意(しんくい)放つ手術台


花尻万博
蛇一つ泳がす雲のみだれかな
木苺や熊野kumanoとツーリスト
お花畑ここ城跡と言はれても
Coca-Cola気にはしている道をしへ
100%ブーゲンビレア西日かな
長々と出口を探す木下闇
都合よくクロアゲハさへ味方して


望月士郎
言葉はぐれて夕べ蛍という鎖線
夜店の灯真っ赤なものを舐めている
包帯を濡らさぬように金魚掬う
等分にメロン切るときやや船長
聞き返す二度目は少しかたつむり
蜘蛛の巣の張られて空が神経質
星涼し脊柱そっと管楽器


青木百舌鳥(夏潮)
老鶯が四五羽それぞれ癖もありて
鶏糞が匂ひ夏葱畑かな
銭蔵に千両箱は無く涼し
高原やトマト棄てつつ販ぎつつ


加藤知子
崖墜ちし汝れ美しとふ梅雨の蝶
今年竹の切り口に憑く金剛鈴
滝の上の水落つ捨身飼虎のごと
揚羽蝶守護霊のごとひらひらす
死者の家蜥蜴が走る朝帰り


【秋興帖】

豊里友行
鰯雲あふれる愛の言霊よ
稲光レベルの属国コンセント
銀河系の回廊なり螽斯
いのちをもやしている戦火のまなこ
でで虫の敬老会の父と母
ブルーシートのあと桃太郎の誕生
原爆と戦争展の鰯雲


木村オサム
シャンプーの香りの美僧秋の昼
波平の一本を抜く龍田姫
あきらかに人間寄りな桃潰す
簡単に口割るスパイ猫じゃらし
凶作の地から古本掘り出さむ


中西夕紀
海を背に昔酒場の蔦紅葉
とんばうや海につながり湖暗し
秋燕やバスの待ちゐる外国船
あけび持つ小山君てふ迷子かな
赤い羽根つけて木陰に待つ演者

2024年10月25日金曜日

令和六年 夏興帖 第三/秋興帖 第一(ふけとしこ・仲寒蟬・豊里友行・曾根毅・大井恒行・仙田洋子)

【夏興帖】

ふけとしこ
垂直に虹立つ草原ならば行く
熱中症警戒アラート鷺白し
雷が近しハシビロコウが立ち


仲寒蟬
呼び捨てにして信長の忌なりけり
バビロンの滅亡に似て牡丹散る
首を振る鳩が許せず夕涼み
扇風機旧知のごとくささやける
兜虫関節痛さうに歩く
賓客は舟にて来たり燕子花
放ちたる金魚ふたたび掬はるる


豊里友行
天体をたぐる音叉の赤ん坊
魚群の民意へ大浦湾の杭
銀河系蠅一点の集中力
天体のワルツが弾む林檎飴
一挙一動の宇宙よ兜虫
PFASの疑念湧く水筒も眼玉
赤子泣く此処は天体オーケストラ


【秋興帖】

曾根毅
青饅の歯に挟まりし運動会
流れ星のイエスが過ぎて鱗と漁夫
青天渺渺火に包まれし鶏頭花


大井恒行
秋灯下多摩蘭坂の古本屋
翳る秋父は何処の雲に鳥
秋鮭の卵こぼして波だてり


仙田洋子
還暦を過ぎをみなへしをとこへし
蕎麦の花淋しきときは声を出し
垂直の虹の切れ端台風過
鳥も子もすでに眠りぬけふの月
眠りゐる鸚哥をつつく良夜かな
年寄の日の年寄の酔つ払ひ
戦争の惑星の空鳥渡る

2024年6月21日金曜日

令和六年 歳旦帖 第五/春興帖 第一(眞矢ひろみ・望月士郎・曾根毅・辻村麻乃・豊里友行・川崎果連・仲寒蟬・仙田洋子)

【歳旦帖】


眞矢ひろみ
読初やちょい寝の夢に初音ミク
恋歌留多笑う小町のアニメ顔
五臓六腑の生命ゆらぎぬ七草粥


望月士郎
着ぐるみを新しくしてお正月
一月のお面は一番上の棚
初日記いきなりピカソふとムンク
大根炊くにんげんという無期懲役
酢海鼠は「すまない」に似てる


曾根毅
追い越して鳥から明るくなる鳥へ
夕餉まで悠々と寝ている小雨
褐色の馬沈みゆく巨大太陽


【春興帖】


辻村麻乃
のつぽりと富士の頭や春の空
おにぎりを小さく握り春に入る
花曇ビルの谷間にビルの街
手から手へゆつくり渡す染め卵
第三紀の海触洞穴抜けて春
ポケットに父と繋ぐ手あたたかし
手首より呪咀のごとくや春光


豊里友行
鮮やかな桜色の看護士さん
もくもくと捥ぐ点滴の大西日
術中の我よ宇宙オペラごらん
目醒めがちな我を見守る鮫の陣
さくらさくらさくらさくら麻酔覚め
術後ベッドの震源心音の闇
桜咲く此処から源氏物語


川崎果連
立ちんぼの職務質問おぼろかな
囀や名通訳の二枚舌
重力は時空の歪み半仙戯
蛤やカスタネットは歌わない
さそわれる徹夜の工事シネラリア
投票という立ちくらみ飛花落花
ぼくたちがどう生きようと山笑う


仲寒蟬
春雷や武者震ひするトラクター
春の夢放送禁止すれすれの
春宵や猫の時間と人の時間
野火走る鳥より獣より迅く
火炎瓶にもなる椿一輪挿し
傘といふ野暮置いて出る花の雨
蜜蜂や全長見ゆる野辺送り


仙田洋子
  一周忌
この先に恋もうあらず夜の梅
箱を出し雛ぼんやりしてゐたる
人の世をあきらめ顔の雛かな
ひとつこぼれぱらぱらこぼれ雛あられ
星のみなつめたき彼岸桜かな
色濃きは恋情の濃き桜かな
しわがれし声で応へぬ桜守

2024年5月25日土曜日

令和六年 歳旦帖 第一(辻村麻乃・豊里友行・川崎果連・仲寒蟬・仙田洋子)



辻村麻乃
夢の淵素粒子となる初旭
ぽつぺんや闇より息を吹き入るる
襟巻に埋もれて眠る終列車
時々は豆も混ぢりて春の雪
春の雪すすはや都心の立ち往生
線路より歩道に漏るる冬日差
権八の恨めしと鳴く寒鴉


豊里友行
追突の身体は積木恐竜だ
プチトマト七粒分の朝の不調
鯨はこっちにおいで天秤の体
葡萄食う一粒ごとのプライバシー
恐竜の骨組み拒む初興(はちうく)し
勝牛の綱は蜂起の島うねる
新春の羽搏き洗濯物を干す


川崎果連
影踏みは遊女の遊び初日の出
嫁が君お一人様が石投げる
独楽廻し父は今年も左巻き
双六のあがってからの無聊かな
血縁の濃きは帰りぬ七日粥
死はときを選ばぬものよ米こぼす
初鏡賞味期限の切れるまで


仲寒蟬
椀底に礁のごとく雑煮餅
初詣普段着のまま里の神
国にも家にも鏡餅にも罅
郵便の赤が横切る初景色
初風呂へ去年の湿布を貼つたまま
たちまちに初日の写メの来る来る来る
成人の日のパンプスに道ゆづる


仙田洋子
金剛力士かつと目開く初日かな
お降りや何処へも行かぬよろしさよ
松過のけふも太陽うるはしく
小正月ぽかぽかと空ありにけり
左義長や名もなき星もかがやける
餅花の星々のごとまはりをり
初句会終りし空の暮れきらず

2024年3月29日金曜日

令和五年 秋興帖 第六/冬興帖 第五(網野月を・渡邉美保・望月士郎・川崎果連・小沢麻結・木村オサム・岸本尚毅・前北かおる・豊里友行)

【秋興帖】

網野月を
新涼や湯屋の鏡に己が肉
つくつくしくつくつほうしをしいくつ
仲良しの肖てない姉妹王瓜
生贄を祀る獣や月の雨
捨案山子への字の滲む眉と口
地雷原を縦横無尽秋の蟻
月鈴子ワインボトルの空となり


渡邉美保
重なりてくれなゐ昏き葉鶏頭
軽トラを揺らし猪横たへる
草の絮ふわり言葉になる途中


望月士郎
8月の8をひねって0とする
鶏頭の赤や昔のニュータウン
たぶん後から作った記憶アキアカネ
うさぎりんごこの町月の肌ざわり
まだ文字にならない夜長インク壺
はららごや地球は人にやさしくない
霧の町地図をひらけば人体図


川崎果連
竹伐るや槍の元締め好々爺
月光や仮面夫婦のご懐妊
身中の穴という穴秋の風
地団駄のとどろく国や木守柿
遺言と遺書のうらはら秋刀魚焼く
秋遍路ダンプカーから落ちる石
案内を終了します桐一葉



【冬興帖】

小沢麻結
白波のうち寄する如白鳥来
殺気消し大鷹ひそむ青天井
焼芋搔く頃合の枝焼べ残し


木村オサム
電話ボックスに籠る老人文化の日
銀杏落葉少し余分に金借りる
マラソンのところどころにある炬燵
アルペジオ奏法のごと師走かな
葱刻む時間の消える日に備え


岸本尚毅
釣堀を守りて小春の昼餉かな
飛ぶ鷗大きく白く冬の雨
暖房の皆眠くなる窓に川
常磐木の枝押しくべし焚火かな
煮凝の飯にとろけて汝と我
粕汁の具やきらきらと粕まみれ
WELCOMEと書きたる札や冬ざるる


前北かおる(夏潮)
小春日のババロア色の団地かな
冬菊や老のカラオケひもすがら
この団地よりも長生き日向ぼこ


豊里友行
玉葱炒めのプチ哲学を堪能する
葡萄食う一粒ごとのプライバシー
プチトマト七粒分の朝の不調
人体の闇は震源地球抱く
光のシャワーの瓦礫浮く閑さよ
落花の眼が見返す私の晩年
何万回の素振りで春一番

2024年3月22日金曜日

令和五年 秋興帖 第五/冬興帖 第四(岸本尚毅・前北かおる・豊里友行・辻村麻乃 ・浅沼 璞・仙田洋子・水岩瞳・曾根毅・松下カロ)

【秋興帖】

岸本尚毅
小さき子遊ぶばかりや野分めく
或る秋の或る一族の写真かな
秋の雲この町少しどぶ臭き
秋の灯や鼻の穴ある招き猫
どの脚となく月明の座頭虫
秋扇や亀に右脚左脚
人遅々と歩むや穭伸びそよぎ


前北かおる(夏潮)
人形のかたちに萩の括られて
三度燃え再興されず花芒
石垣に突きあたりたる秋の暮


豊里友行
花きりん喜びだけの愛憎よ
きらきらと魚骨が踊る秋の海
緑が走る蟋蟀のオーケストラ
茶を沸かす今日も薬缶は宇宙船
十五夜が染み入る蟋蟀の翅よ
枯れる花は焔の鮫の遊泳
脇役を買って出るのは花きりん


辻村麻乃
やんはりと空気揉みたる風の盆
律の風左舷に能登の海遙か
咲く前の素直な茎や彼岸花
吊橋に凭れ大きな秋の冷え
十六夜に身を任せたる占ひ師
汽笛てふ身に沁むものや河原風
木の実落つかつてサーカス来たる地に


【冬興帖】

浅沼 璞
スナックの開かずのドアの冬日かな
矢の跡を自慢の宿の古暦
谷底や縄跳の縄流れつく
冬の陽の湯船に光る人になる
月凍てて機械めきたる声ててて
真向かひて冬日のしぶきたる岬
紺碧の海を四温へ張りわたす


仙田洋子
病む鳥の見る大空や冬はじめ
掌に病む鳥つつみ冬の暮
もの燃ゆる匂ひなつかし冬の暮
手袋に指つぎつぎと入りにけり
日向より掃き始めたる煤払
就中ぺたりぺたりと冬の鷺
鳴き声の短きもよし冬の鳥


水岩瞳
ユダヤの子ガザの子生きよ寒昴
口紅のワインレッドを買ふ小春
膝に置くサガンに冬日とどきけり
龍の絵の虎屋やうかん歳暮かな
賀状書くお元気ですかばかりなり


曾根毅
北風や馬柵のつづきの犀の角
十二月八日の虎に見られおり
鬣はひかりを統べてクリスマス


松下カロ
かの朝の氷柱の甘さ忘られず
バレリーナ片足失くす氷柱かな
ゆふぐれの氷柱うすくれなゐに折れ

2024年1月26日金曜日

令和五年 夏興帖 第十一(豊里友行・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



豊里友行
恐竜が吼え出す酷暑の地下鉄
旅人とおもう魚群の青葉闇
砂浴び雀の東京群像よ
ガーベラの一輪挿しの日本晴れ
とてもちいさな祭囃子の蕾
とりあえず浜松町の鰻重よ
雲海は神の食卓そらの旅


下坂速穂
人去りて葉音ばかりの夏館
紫陽花や手紙のやうに本を開き
変はらぬ町のどこかが変はり冷し汁
下駄でも買うて帰りたき西日かな


岬光世
夏野への手動扉を開け広ぐ
見上ぐれば知りたるかほの夏の草
青き嶺雲に遅れて吾も行く


依光正樹
声がはりしたる不思議に夏の海
花鉢にいくつも出会ふ日傘かな
子の通ふ公園を見に夜の秋
ゆふがたの匂ひのしたる潮干狩


依光陽子
蜥蜴ゐる石のしづかを思ひけり
いつぽんの線で鳴きけり牛蛙
るりしじみ秋へ秋へと誘ふは
夏の水町のいろいろ映しつつ

2018年3月2日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善(辻村麻乃・曾根毅・月野ぽぽな・五島高資・北川美美・島田牙城・豊里友行・加藤知子・仲寒蟬・神山姫余・佐藤りえ・高山れおな・筑紫磐井)



辻村麻乃
 斑雪山
斑雪まだ聞き足らぬ秩父の子
困民党残せし痕や春社
狼の天を見つめる眼に涙
兜太いま春の武甲に木霊して
斑雪山あれは兜太だつたかもしれぬ


曾根毅
狼の冷たくなりし黒眼鏡
腹出して寝る人間【じんかん】の零余子飯


月野ぽぽな(海程)
天に星地に梅ともし兜太逝く


五島高資
片目にて笑む師のなみだ風光る
永日や手のひらに手のひらを置く
冴え返る利根の流れや巨星墜つ
利根川や冬三日月の残りたる
福島の残雪ゆがむ泪かな


北川美美
海程秩父道場にて兜太氏は旅館側で用意した二つに裁断されたバナナを片手摑みに登場。2015年の春だった。
マラソンや手渡すバナナ半裁に


島田牙城
金子兜太逝くや春星ふくらませ
なほ停まらざるや兜太の三輪車
星の中の星の地球ぞ兜太逝く
兜太の狼敏雄の狼を追へり
然らばとて然らばと言へり兜太逝く


豊里友行
海ほど脈打つ兜太のほうれん草
海ほどの金子兜太の夢野かな


加藤知子
春落暉大先生の掌ありしが
花盛りを待たず人体の別れかな
梅が香やへうと自在のかなたへと


仲寒蟬
どこまでも狼を追ひつづくべし
臍出して立小便を春空から


神山姫余
春一番兜太が鮫に乗ってゆく
天翔る陸の鯨や兜太逝く


佐藤りえ
草の舟乗らうかさうか手を貸さう


高山れおな
さほひめ と つれだつ まかみ ふりむかず


筑紫磐井
北天に架かるあれが
かくも静かに二月の記憶 兜太星



第83回海程秩父俳句道場(2015年4月5日(日)) 写真:北川美美
左より金子兜太・関悦史・筑紫磐井

左より、安西篤・筑紫磐井・金子兜太・関悦史
背後ホワイトボードの句(金子兜太:老人は青年の敵 強き敵 (筑紫磐井))

2017年1月20日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第五 (渡邉美保・椿屋実梛・佐藤りえ・豊里友行・石童庵・田中葉月・陽 美保子)




渡邉美保
冬に入る超絶技巧練習曲
冬紅葉武田刀剣武具の店
落葉期地下水脈は音たてて




椿屋実梛
思ひ出す職の遍歴十二月
  芝浦埠頭
冬の灯を集めてゐたる埠頭かな
訣れ来て幽かに欠けし寒の月
日輪が微笑たたへて小春の日
車輛から車輛を抜けて師走かな
冬うらら茶屋の暖簾をくぐりをり
年の瀬やビルの向かふに富士の影




佐藤りえ
貨物船帆船うなじ冬の浜
心臓も狐色かよ野を駆つて
冬ざれや四人姉妹の姉の数
寒の空ごめんと打つて三字分
梟の隣に見ゆる世界かな




豊里友行
〈冬とは云えども沖縄の冬は十度を切ることが稀なので、そこにある風土と季節をおおらかに詠む〉
好き好き好き好き芒の隙間風
水平線畳んで絞める金屏風
戀人は銀河のように濡れている
∞の釈迦の瞼貝割菜
椎茸茹で山頭火もうふふふふ
林檎剥く強がりな嘘なんて嫌
独身のパセリしゃきしゃき感が好き




石童庵
悩ましき極夜ホテルの彫刻群
男でも女でもなく虎落笛
性別は「その他」に✓冬ホテル
不機嫌なまま数へ日の一つ減る
冬の庭穴を曝せど土竜留守
七賢の不毛な議論年は逝く
熱燗や語れば聞いてくれる女将(ママ)



田中葉月

したたかに無心でありぬ冬すみれ
貧乏神たたき出されし干し布団
あめつちの神は気紛れ野紺菊
牛の舌長すぎですか冬の虹
土産とて残照つつむ神の旅




陽 美保子(「泉」同人)

冬深し諸橋轍次の虫眼鏡
寒月や行くに径に由らずの語
菊枯れて日本は漢字文化圏





2015年11月6日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (下楠絵里・田中葉月・豊里友行・水岩瞳・羽村 美和子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下楠絵里(「ふらここ」)
台本の端に折り目や鰯雲
やはらかく変はる表情草の花
老蝶を追ひぬ真白の衣装にて
秋澄むや楽屋を発つときの呼吸
独唱の指先満月に触るる
照明のなかのしづけさ文化の日
舞台いま木材となる暮の秋



田中葉月
海苔巻きにまいてみやうか花野風
みどり児のおくるみ真白あけびの実
白桃や刃先にエロスほとばしる




豊里友行
花火咲くじょうずに島を切り売りて
空高く積み木の沖縄大和口(ウチナーヤマトグチ)
西陽射す白蛇と化すアスファルト
売りません幾度曲がれど石敢當(イシガントウ)
ジャスコになっちゃった少年の水平線
海を売り舟より花札の落ち葉
散る花火苔のむすまで埋立地




水岩瞳
ゼロ戦は飛ぶ八月の海の底
とこしなへ鬼が隠れし薄原
愚痴その他月光仮面のおじさんに
まだ無月女将掲げる紙の月
ややこしき吾に辟易とはの秋




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
秋うらら休日倶楽部に十返舎一九
木犀の香の渦巻いて銀河系
真夜中の胎動一つ烏瓜
貧しさのこんなに背高泡立草




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
風の音音楽の音秋の音
おもなみと云ひ間違へて秋風に
けふの風に遊びのありし冬仕度




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
姿よき人来る頃やくわりんの実
火恋し椅子の丸みを撫でてゐる
うちとけて栗飯のある談義かな




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
色鳥や歩いて二人だけの径
手にのせてうれしき木の実降りにけり
初紅葉きのふの傘の汚れしまま




依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
ひろびろとかなしき虫の原に佇つ
其と見れば秋の芝なり匂ひ立つ
朱を点じては暗がりへ尉鶲