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2020年12月25日金曜日

令和二年 秋興帖 第八(田中葉月・中村猛虎・小沢麻結・渡邉美保・なつはづき)



田中葉月
月光や放せとせがむ千羽鶴
レモン置く吾がたましひに向かひ合ふ
カンナ燃ゆいく時代かがありまして
木犀に呼び止められてしまひけり
ぬばたまの玉兎を探す夫の貌


中村猛虎
幽霊の寿命の尽きて秋の草
蓑虫の全集中の呼吸かな
血痕を辿れば白き曼珠沙華
芙蓉咲く蘇我入鹿の首塚に
式神を飛ばせば揺れる秋桜
稲光乳房はもっと下にある


小沢麻結
猿酒や花のかんばせはや染まり
雅男の丹精のこれ秋茄子
墓原の足下を洗ひ秋の潮


渡邉美保
行先は知らないと言ふ葛の花
半透明の付箋になりし秋の蝶
火恋し郵便バイク素通りし


なつはづき
秋桜や聞こえるようにひとり言
きりたんぽの穴から覗く永田町
鵙日和すっぴんで書くラブレター
秋葉原尺取虫の席がない
団栗をひとつずつ捨て夜に入る
火の恋し生ハム透けるほど薄く
冬隣手紙破って捨てる山羊

2019年2月22日金曜日

平成三十年 冬興帖 第七(辻村麻乃・木村オサム・渡邉美保・ふけとしこ・水岩 瞳)



辻村麻乃
冬天に百軒長屋の胴間声
軒下に忘れられたる冬日向
脈拍の小太鼓となる師走かな
銘仙の滑らかなる肌鐘氷る
車椅子冬の金魚の真正面
空耳に母の呼吸や虎落笛
角巻を脱ぎて狐のやうな人


木村オサム
長崎の墓地に聖樹を立てにゆく
石投げて当たった人とクリスマス
どことなく心拍数の多い河豚
0と1だけが転がる大枯野
冬眠は或るバラードの作り方


渡邉美保
裸木となりて木の瘤賑々し
時々は横座りして一葉忌
木枯一号キューピーを横抱きに


ふけとしこ
さてどうする二つ貰ひし竜の玉
知らぬ町知らぬ川の名冬木立
年の瀬や豆浸けて水平らなる


水岩 瞳
しやぶしやぶと今年丸ごと年の暮
また夫の締めは沢庵茶漬かな
着ぶくれてどんな署名もお断り
水仙や束ねて捩じり皿に立て
高層の窓に消えゆく雪の精

2017年2月17日金曜日

平成二十九年 歳旦帖 第一 (夏木久・網野月を・坂間恒子・渡辺美保・神谷波)




夏木久
水揺らす花は異色の出家かな
初蝶やすでに伴天連追放令
投函せる旅の終りや冬燈
影さえも家引き払ひ福笑ひ
音楽も刺客も辻には誰も居ず
原子炉をながめて卵かけごはん
バス停に影伸び過ぎてまた乗れず




網野月を
天皇誕生日日本一の晴れ男
クリぼっちカボチャ祭は好かったな
あなたのこと気になり出して去年今年
アールデコの門扉門柱淑気満つ
初運転おいでおいでのコンチクショウ
読初や天金濡れて滲み出す
腰蒲団柄のポケモン語り出す



坂間恒子
注連飾おろしてのちを喪に服す
年賀欠礼胡蝶蘭に水を遣る
初詣天狗の下駄の暗がりに




渡辺美保
一陽来復阿蘇より届く晩白柚
くるみ餅三つ花びら餅五つ
また上手く結べぬリボン福寿草



神谷波
あまりにも穏やかすぎるお元日
太古から変はらぬ夕日鏡餅
わが古稀を信じられないごまめかな




2017年1月20日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第五 (渡邉美保・椿屋実梛・佐藤りえ・豊里友行・石童庵・田中葉月・陽 美保子)




渡邉美保
冬に入る超絶技巧練習曲
冬紅葉武田刀剣武具の店
落葉期地下水脈は音たてて




椿屋実梛
思ひ出す職の遍歴十二月
  芝浦埠頭
冬の灯を集めてゐたる埠頭かな
訣れ来て幽かに欠けし寒の月
日輪が微笑たたへて小春の日
車輛から車輛を抜けて師走かな
冬うらら茶屋の暖簾をくぐりをり
年の瀬やビルの向かふに富士の影




佐藤りえ
貨物船帆船うなじ冬の浜
心臓も狐色かよ野を駆つて
冬ざれや四人姉妹の姉の数
寒の空ごめんと打つて三字分
梟の隣に見ゆる世界かな




豊里友行
〈冬とは云えども沖縄の冬は十度を切ることが稀なので、そこにある風土と季節をおおらかに詠む〉
好き好き好き好き芒の隙間風
水平線畳んで絞める金屏風
戀人は銀河のように濡れている
∞の釈迦の瞼貝割菜
椎茸茹で山頭火もうふふふふ
林檎剥く強がりな嘘なんて嫌
独身のパセリしゃきしゃき感が好き




石童庵
悩ましき極夜ホテルの彫刻群
男でも女でもなく虎落笛
性別は「その他」に✓冬ホテル
不機嫌なまま数へ日の一つ減る
冬の庭穴を曝せど土竜留守
七賢の不毛な議論年は逝く
熱燗や語れば聞いてくれる女将(ママ)



田中葉月

したたかに無心でありぬ冬すみれ
貧乏神たたき出されし干し布団
あめつちの神は気紛れ野紺菊
牛の舌長すぎですか冬の虹
土産とて残照つつむ神の旅




陽 美保子(「泉」同人)

冬深し諸橋轍次の虫眼鏡
寒月や行くに径に由らずの語
菊枯れて日本は漢字文化圏





2016年10月14日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第六 (飯田冬眞・仲 寒蟬・渡辺美保・早瀬恵子)





飯田冬眞(豈・未来図)
旅に来て鏡持たざる涼しさよ
朝顔市サックスの音も紛れ込み
葉柳や地震一陣の水脈崩し
短冊に何の足跡かつぱ橋
麦茶煮る薬缶の底が抜けるまで
青山椒父に幾度も名を問はれ
旅果てて髪洗ふ妻見てをりぬ
売られたる牛の行く末鵙日和
満塁の走者一掃冬支度




仲 寒蟬
青空へ溶け出してゐる海月かな
白玉に餡の少なき日なりけり
あまつさへ関取西日差す電車
それらしき婆ゐてこその滝見茶屋
蝉の木となり電柱の若返る
数減つて色濃くなりぬ赤とんぼ
鈴虫のまぐはひ済んでまだ鳴くか
楼蘭とうごくくちびる鰯雲
ヴァイオリン並べ売られし無月かな
シェイクスピア没後四百年の渡り鳥




渡辺美保
蜥蜴過ぎパチリと割れし貝釦
山からの風を聴く椅子百日紅
拭き上げし食器触れ合ふ夜の秋
ゆく夏の工作の糊半乾き
枝垂れ槐の枝の内なる秋の声
薄荷味口に広ごる厄日かな
ちよつとちよつと顔を貸してと青瓢
目眩靴擦れ水際の草の花




早瀬恵子
涼しげな思想まくらに谷(やつ)の客
新宿の金魚の刺青エイチ・ツー・オー
辛口の鱧の天ざる江戸の音
仏間よりホンキートンクの秋彼岸
朝茶事の斗々屋(ととや)茶碗や涼新た
犬よりも大きな猫の秋ごころ