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2022年2月11日金曜日

令和三年冬興帖 第一/令和四年歳旦帖 第一(飯田冬眞・仙田洋子・神谷波・小林かんな・加藤知子)


【冬興帖】
飯田冬眞
洗っても落ちぬ傷あり冬来たる
時雨忌や渡るべき橋あといくつ
冬の水一篇の詩に立ちすくむ
殴られてまた殴られて帰り花
極月や家族写真も燃えるゴミ
ここからが旅のはじまり白き息
今日の日を忘るるための日記買ふ


仙田洋子
折紙の鶴のぽつんと開戦日
冬田道どさりと犬の死骸あり
スターリンの肉声を聞く寒さかな
招福の猫かも知れず竈猫
惑星のごと柚子浮かぶ柚子湯かな
降誕祭星々の馳せ参じたる
亡骸は亡骸のまま寒に入る


神谷波
椎の木のまつさきに暮れ冬めきぬ
タンポポのほんわかほんわか狂ひ咲く
姿無き人の耳打日向ぼこ
枯野来し手先足先無影灯
心しかと閉ぢ短日の無影灯


小林かんな
ひとたばの花光州の朝霧へ
三島の忌熱い茶碗が盆の上
ジョニー待つ二時間冬の鴎たち
暖炉向く安楽椅子とリボルバー
餅うんと伸ばす蟄居の三年目



【歳旦帖】
仙田洋子
鳳凰も龍も飛びゆく初日かな
初社恋の神籤を引きに来し
鏡餅大いなる罅はしりけり
淑気満つ字体も古き神谷バー
酒の名のどれもうれしき初句会
駅伝のたすき真白き淑気かな
玉の緒のひたくれなゐに弓始


神谷波
数へ日の虹のアーチの下に墓
初めての日の降りそそぐ雪の嵩
 三重の名酒 「作(ざく)」
あらたまの年の喉越しふわと「作」
人参の麗々しくも三が日
引立て役の膾金団お正月


加藤知子
眩しくて見えない闇を迎春
初詣清め給えは中くらいで
初夢へ右折するなら入れません
初夢の蝶の憂いはギンギラ銀

2022年2月4日金曜日

令和三年 秋興帖 第十一(飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井)



飯田冬眞
ことごとく闇の供物や流燈会
歪みても戻る治癒力踊の輪
かさぶたのどこかが濡れて鵙の贄
剣もたぬ身やさいかちの実を垂らす
捨案山子裏地に龍の刺繍秘め
釜めしの蓋に貼り付く夜寒かな
身にしむや郵便受けにガムテープ


佐藤りえ
いやにしづかに物理の神は後の月
やや寒くロリポップ嚙むふつうの子
登高やあれが富士よと云ひつのり


筑紫磐井
菊薫る菩薩 前衛なかりけり
月夜野のあぶら屋に似て非なる怪(くわい)
宇井博士 遠く白いは秋の道

2021年9月17日金曜日

令和三年 夏興帖 第一(なつはづき・堀本吟・飯田冬眞・青木百舌鳥・杉山久子)



なつはづき
あの言葉この言葉夏野から持ち帰る
辰雄忌や驢馬柔らかく風にいる
カタカナが舌にもつれて梅雨寒し
夕虹や心が透けそうなドレス
炎帝がみっしり席を埋め五輪
裸足から幼さ消える片思い
のうぜんか会釈のように日差し揺れ


堀本吟
長い触手がゆるゆる水母水くさし
炎天のマスク脱ぐまいエチケット
歩道橋犬とマスクをして夫人
朝顔や水道工事の穴だらけ


飯田冬眞
憲法記念日池にはびこる外来種
修司の忌澤田和弥のいない夜
夏の星宿のタオルを首にかけ
語り継ぐ革命前夜ジャスミンよ
朝帰り月下美人を置き去りに


青木百舌鳥(夏潮)
花あふち木蔭に風を招じけり
バナナ撮る足を揃へて裸婦のやうに
畳まれて記憶小さし梅雨籠り
夏草の花ののんどを擦る葉も


杉山久子
蜘蛛黒く太りたる嵌め殺し窓
剽窃のしづかな蠅として集る
マスクよしっ滅菌シートよしっ晩夏

2021年8月27日金曜日

令和三年 花鳥篇 第九(なつはづき・竹岡一郎・堀本吟・飯田冬眞・青木百舌鳥・水岩 瞳)



なつはづき
青鬼を泣かせてしまうバレンタイン
春の雪触れたい唇を探す
末黒野の微かに匂う夜深し
寄居虫や手なずけられる闇ひとつ
シュレッダーごうごう桜散り始む
四月馬鹿腹話術師の長まつげ
寝袋の耳だけ冴えて遅桜


竹岡一郎
宇宙卵つつめる花もありぬべし
沈丁花ほとに薫らせ暴君たり
はるうれひ昭和硝子の星の紋
澄みゆけり虹煮る姉のひとりごと
有刺鉄線灼くる禁忌のペンチを手に
糸巻回る空蝉めくれ裏返る
ぐつちやぐちや麺麭とケーキと巴里祭


堀本吟
急坂をまろぶまさかの蟻地獄
紫陽花の路地の三方行き止まり
紫陽花は見知らぬ路地に核のごとし
密かにもあわき水母に刺されたり
白い蛾がどこかの星と戦争中


飯田冬眞
鰊空後ろの山に狐憑き
遥かなる千島樺太蜃気楼
山伏の影を離れず春の蝶
蝦夷の蚕屋熊の爪痕深々と
事故現場囀だけが残りたる
点滴の刻む祈りや春の虹


青木百舌鳥(夏潮)
何もない青空があり雉の声
猫うららうなじ搔くとき片目あき
クレソンは咲き小魚は跳ねつづけ
白玉やリビングにあるお仏壇


水岩 瞳
ポスト迄なれど浅黄の春ショール
あの時のわたし許せぬ飛花落花
朧夜や赤鉛筆の好きな○
大学のチャペルは涼し黙涼し
地下鉄のカーブの軋み手にダリア

2021年4月9日金曜日

令和三年 歳旦帖 第十一(中村猛虎・小野裕三・飯田冬眞)



中村猛虎
初詣やっぱり僕は日本の子
トーストの飛び出し損ね女正月
テーブルにイヌの骨壷年の暮れ
金箔のこぼれて加賀の祝箸
ウーバーイーツの銀輪光る年の暮
リセットすスマートフォンの初神籤


小野裕三
棒読みのような書き初め飾るかな
ストリップ劇場にある宝船
手毬唄町より橋の大きかり


飯田冬眞
鉄塔の奥に初富士構へたる
へその緒の函に金文字初雀
ともに来てばらばらに去る嫁が君

2021年3月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第九/令和三年 歳旦帖 第十(小野裕三・飯田冬眞・妹尾健太郎・浜脇不如帰・五島高資・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】


小野裕三
プレッシャーに強き青年悴めり
鳰の岸幽霊話ある酒場
オーバーの自由な色で吊るされり


飯田冬眞
寒椿奔馬のごとき運命線
冬の蝶壊るる色を引きずりて
冬木立鏡の国に迷ひこむ
寒木瓜の瘦せて原色のくちびる
寒明の紙は一途なる凶器


妹尾健太郎
妙薬の角狩人の手には無し
にょっぽつりつららのつらのうつらつら
物さがす冬服のどれみふあ
縄跳に時化はじめたる校舎裏
この辺かやや下か大根の首ねっこ


浜脇不如帰
おんらいんしょっぷのシラタキのカラミ
虎河豚はあぶらぎらないフルボディ
「ほんじゃこりゃぁ」Gパン畳む寒夕焼
敗北に得るもの診出す河豚鍋
カピカピが新米ならば缶バッジ
生きて置く要するに意地寒鮃
主イエスの血さらりキッパリ霜柱


五島高資
乗り降りもなくドア閉まるレノンの忌
星空やマスクを取りに帰りたる
飴玉を落として洗ふ寒九かな
寒林や赤色灯の駈け廻る
涸れてなほ夜の病院に水の音


【歳旦帖】

下坂速穂
近況のさても短き雑煮かな
寒紅や江戸の鬼門に棲んで佳き
足音の風のごとしや寒念仏
人去りて人あらはれて露地寒し


岬光世
初凪へ斉しくあらむ願ひ事
切山椒開化の町に商へる
親筆や上寿を記す年賀状


依光正樹
人待つてゐるせはしさに年用意
年の瀬のコートまとつて暑がりで
年の音ひとつひとつの芽が生きて
眺めては灯りがあたり年の花


依光陽子
極月や我が笑ひ声遠のき
見えて来るものを見るべく初旦
星を読む人のことばを仏の座
一月や動かないもの動くもの

2020年12月18日金曜日

令和二年 秋興帖 第七(坂間恒子・仲寒蟬・飯田冬眞・前北かおる・五島高資)



坂間恒子
蝋燭屋の猫が出てゆく曼珠沙華
秋雲のあつまってくる変電所
枯蟷螂ガレのランプに挑みける
駅頭の枕詞なり秋風
シャガールの驢馬の声する秋の虹


仲寒蟬
深閨にあり鈴虫も飼ひ主も
対岸の方がよささう曼殊沙華
向かう三軒猫の出てゐる良夜かな
恐竜の糞の化石や濁り酒
防空壕の蓋を隠せと生身魂
六国史そろへて残る虫の中
萩見事こんなところに植ゑられて


飯田冬眞
秋彼岸正座する者できぬ者
保護色を脱ぎて蟷螂らしくなる
不知火やまだ抜けざりし刺を持つ
電車来るまでコスモスと揺れてゐる
親知らず抜けばどこかに鵙の声


前北かおる(夏潮)
大木に梯子三本櫨ちぎり
野をわたる煙の匂ひ櫨ちぎり
櫨ちぎり髪ごはごはになりにけり


五島高資
追ひかけて土手に濡れたり秋の虹
実朝の矢を探しけり藤袴
金木犀デパート遠くなりにけり
傾いてあめつちを知る茸かな
竹林や銀河の端に風を結ふ
木馬より降りて夕月と帰りけり
水切りの石の消えたる銀河かな

2020年5月8日金曜日

令和二年 春興帖 第八(飯田冬眞 ・小沢麻結・坂間恒子・網野月を・井口時男・中村猛虎)



飯田冬眞
臘梅や含羞の色訥訥(とつとつ)と
あくびして虚無を身に飼ふ恋の猫
愛の日のわが影乾き始めをり


小沢麻結
夜開く花に似て雲春立ちぬ
輪を半歩外れ立ちたり新社員
ポケットから洗濯挟み姫女菀


坂間恒子
イスラエルヘ帰る人あり朝桜
朝桜ほどよきところ梯子かな
はっきりしないのが勝か李の花


網野月を
薄氷あの子に踏まれるまで待って
出目金は遠い親戚ムツゴロウ
言葉遣いの知らない人と花疲れ
膝替えは兄弟弟子や弥生果つ
西東忌吾は孫弟子でありにけり
遅日の象師の面影を追っている
祈るとは諦めぬこと染卵


井口時男
春風やクラリモンドは自転車で
シャボン玉子らと子雀跳ねやすし
天地の開けておたまじやくしかな
我や悪相雪柳の花扱き取る
ウイルスの春ひつそりとケバブ売
春の雪はだらまだらに世界病む
惜しみなく無人の街の夕桜


中村猛虎
三椏のどの道行けどフラクタル
花の下抱き寄せようか押し倒そうか
卒業歌終えて少年のジハード
菜の花の濃厚接触しているか
春の夜の発音できぬあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

2020年2月7日金曜日

令和元年 冬興帖 第六/令和二年 歳旦帖 第五(木村オサム・ふけとしこ・真矢ひろみ・前北かおる・佐藤りえ・筑紫磐井・飯田冬眞・竹岡一郎・妹尾健太郎・神谷波)


【冬興帖】

木村オサム
全身に刻むハングル冬日向
小春日のロシア民族大移動
モアイ像のまなこの窪み日短
日向ぼこビルマのチェスの仏たち
シベリアの飢餓のざらつき寒卵


ふけとしこ
深草の少将へ散る冬紅葉
三椏の蕾欲しがる雪をんな
妖精の棲みつきさうな木にも雪


真矢ひろみ
餅白く罅深くして冬季鬱
石蕗何ぞ己が照らしに引きこもる
一月や竹の切り口気にかかる
日を掬い虚空に透かす寒の水
野に消えし寒茜いま新宿に


前北かおる
中社前中谷旅館雪を踏む
雪踏に随身門の遥かなる
寒造滝の如くに水注ぎ


佐藤りえ
たゞ冬のお菓子売場に迷子なる
猫の子のやうに子供が泣く師走
地味な花買つてクリスマスを往けり


筑紫磐井
壺の中に雪降る如く酒醸す
サンヨウチュウの化石に火花ありといへり
雪山を爵位のごとく頂けり
辰巳湯に小銭の如き柚子の数
人間(ひと)は永遠(とは)に争ふ されどクリスマス
いつもどこかで戦場のごと雪が降る
ゼームスは小春のごとく無期懲役


【歳旦帖】

飯田冬眞
去年今年鱗の色の変はりゆく
寒波来る不揃ひの歯をむき出しに
初凪や原子炉の火を飼ひ殺す
湾ひとつほのと明るし寒桜
寒釣や銀貨は魚の口より出


竹岡一郎
稲積むや旅に雨垂とはに聴く
ぽつぺんに漁港の皺の深みけり
書初に「鏖」とは優しい子
白みけり傀儡から抜く魂(たま)しなる
羽子板の押絵の顔としてあたし
西窓や傀儡こまかく解体す
辻につく手毬いきなり石と化す


妹尾健太郎
貫禄もまあ中くらい年男
 ゲゲゲにおけるバイプレイヤー
初夢に食べられかけていたのかも


真矢ひろみ
御鏡の罅の深きを覗く児よ
ぱたぱたとスマホを閉じぬ御慶かな
御降りの溪一筋となりて消ゆ


木村オサム
葬儀屋に積まれし柩年明ける
元日のしづかな紐を揺らしをり
坊主だけ抜き出してみるお元日
踏切の音はたと止む三日かな
静脈に流れるけむり寝正月


神谷 波
全身を洗ひをへれば除夜の鐘
見て見てといはんばかりの初日かな
富士山に雲のちよつかい五日かな

2020年1月31日金曜日

令和元年 冬興帖 第五/令和二年 歳旦帖 第四(仲寒蟬・小野裕三・渡邉美保・望月士郎・飯田冬眞・早瀬恵子・浅沼 璞・渕上信子・松下カロ・加藤知子・関悦史)

【冬興帖】

仲寒蟬
冬耕や是より東武田領
焼藷屋魔人のごとく湯気の中
海苔焙る手の皺と海苔交互に見る
阿吽なるあくびとくさめひと部屋に
山襞のやけにくつきり室の花
小春日や母の繰り言ひたすら聞く
討入の日の錆びつきし蝶番


小野裕三
エジソンの瞳の青き文化の日
飼いならすように寒紅引きにけり
先回りして狐火に囁けり
それぞれに前のめりなる聖歌隊
牛飼いと牛飼いの子の聖夜かな


渡邉美保
極月やメタセコイアの金茶降る
遅刻者の火事を見てきし貌であり
子狐の灯す狐火仄白く


望月士郎
月凍てて少女水銀体温計
ふっと風花そっと帰り花きっと
柩の窓こんなにきれい寒銀河
行きすぎて平目を買って戻りすぎ
白息の白犬がゆく年の果て


飯田冬眞
神の留守漏刻の夜の狂ひ出す
かさぶたの色持つ廃車冬夕焼
茶の花や寝所をともす灯の低く
夕暮は風の要塞枇杷の花
冬の鵙銀鼠の空かきむしる
打消しで始まる人と根深汁
冬の月流沙河に詩の崩れゆく


早瀬恵子
雪だるまワンツー天下の園デビュー
アカペラのドッペルカノンにペチカ燃ゆ
大年のウィンク・ウィン明日また


【歳旦帖】


浅沼 璞
天井は嫁が君かやかたかたと
  ころがる棒へさす初茜
花と月あまねく描く筆致にて


渕上信子
嫁が君研究棟の夜
徹夜明なる初日眩しき
差し入れ嬉し喰積にハム
挨拶するや春着の秘書と
破魔矢ぶらさげ友の来訪
年賀のメール豪州は夏
D論仕上げ人日の空


松下カロ
ホフマンスタール黒豆煮えるまで
冬薔薇リルケ寡黙で貧血で
オクタビオ・パス新年はフリーパス


望月士郎
魂をひとつてんてん手毬かな
ちょうろぎは雪兎には使わない
はらからの集いはららご食べている


加藤知子
初夢の女体掘り出す土器須恵器
塩抜きの足りぬ数の子ピノコのP
参考に頬の赤らむ寒の菊


関悦史
初日さす糞尿五輪の税責めの
子(ね)や読初西村寿行『滅びの笛』
アストルフォを語られてをり初電話
元日の国道の辺の供花を見たり
「男の娘かるた」全画像拾ふ二日かな
五十億年先の初日を待ちながら

2019年12月27日金曜日

令和元年 夏興帖 第八/秋興帖 第六(早瀬恵子・佐藤りえ・筑紫磐井・青木百舌鳥・岸本尚毅・田中葉月・堀本吟・飯田冬眞・花尻万博・望月士郎・中西夕紀)


【夏興帖】

早瀬恵子
薩摩殿鹹(しおから)き夢のなか
吟行の友あり切株は海星形
七色の直球でくる削り氷(ひ)は


佐藤りえ
蟇鳴いて眉間を揉んでゐるところ
クロールの抜き手に爪の朱の夏よ
花栗に日暮れて廻る風車


筑紫磐井
一人では行くなと葛の山揺るる
汗垂らす昨日のシンポジウムの敵
滴りて相馬先生の山河かな
日本一まづい蕎麦屋に端居する


【秋興帖】
青木百舌鳥(夏潮)
立秋の雲の高さを駅頭に
白き家二棟建ちたる秋の風
蟷螂を仏のごとく掌に
西五百キロに颱風田のうねる
稲刈りて浅間の風の寒からず


岸本尚毅
白つぽき残暑の扇買ひにけり
盆花のマーガレツトは田舎めき
出し投げを二たび三たびよき相撲
八つ頭京の着だふれあほらしや
窓に壁に秋風淋しレモネード
ぐにやぐにやと月へ歩いてゆく男
ひとすぢの砧の罅の柄に及ぶ


田中葉月
生まれたての水の匂ひを天の川
秋蛍となりの部屋にいたなんて
さまざまなもの駆けぬける秋桜
ペースメーカー星河の岸を歩いてる
悪相な月光もあり石の上
虫の闇だまつていたら溺れるわ


堀本吟
    森
柵閉ざし紅葉けんらん汚染地区
おめかずら柔(にこ)し甘たし種つつむ
虫すだく闇の弾力量りつつ
息ぐるし森のきのこの木をまたぐ
風に愛あるか鬼の子抱きあやし


飯田冬眞
妖怪門抜ければ秋の塔ひとつ
触角のかけらをもらふ十三夜
木犀や香りの舌の伸びてきし
台風の目の中にゐるもぐら塚
神あまた名を持ち給ひ大根蒔く
この村に消されし名あり秋祭
鷹柱岬の雲を手繰り寄せ


花尻万博
強引な星月夜まだ生きてる母よ
星月夜知らぬ存ぜぬ客船は
蓑虫の垂れて供養の光る午後
終はりなき稲光国の気配する
色鳥を追はぬ金色の手前かな
なにかしらかくすてのひらあおりんごも


望月士郎
桃は桃に触れて間にある鏡
架空の町の地図描くあそび秋の蝶
うつくしく秋刀魚の骨に叱られる
硝子のキリン貰った記憶月の駅
卵生の眠りや夜の鱗雲


中西夕紀
わが猫に通ひどころや牛膝
北斎も来しこの町の栗おこは
松茸にあらねど松の茸かな
ひと呑みの蛙を忘れ穴惑ひ
名を忘れれば先生と呼び芋煮会

2019年11月8日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第一・秋興帖 第一(坂間恒子・飯田冬眞・大井恒行)

●夏興帖・秋興帖
【花鳥篇】が長びいているうちにすっかり晩秋となりました。応急の措置として、【夏興帖】と【秋興帖】を合わせて掲載することにさせて頂きます。これからお送りいただく方は、【夏興帖】又は【秋興帖】と書いて(もちろん両方出していただいて結構です)お送りください。掲載も、(【花鳥篇追補】と)【夏興帖】・【秋興帖】を併行して掲載させていただきます。
今後の予定としては、12月には【冬興帖】も開始し、季節に追いつきたいと思います。
「俳句新空間」第12号には、令和元年中の句をすべて上げたいものと思っております。
よろしくご協力ください。


【花鳥篇追補】
坂間恒子
鬱の日のうつにプールの匂いする
コンパスは兵士の遺品藤は実に
剥製の雉子の見つめる祭壇座


【夏興帖】
飯田冬眞
竹の花うつろなる節かさね咲く
胸中に星座を蔵し鹿の子百合
蛇苺イヴに見つかる前に踏む
革命は老人のもの青林檎
老眼に翠巒のひだ迫りくる
器とは窮屈なもの水羊羹
脱いでなほリュックの痕の汗を負ひ


【秋興帖】
大井恒行
自画像の涙さあれが風の秋
「あゝ」と泣き「嗚呼」と叫べる鸚鵡かな
私年号に「福徳元年」秋めく多摩
水引の赤を結びて移る風
わがうしろうばわれやすき風の秋

2019年10月4日金曜日

令和元年 花鳥篇 第七(飯田冬眞・ふけとしこ・加藤知子・前北かおる)



飯田冬眞
水となる骨を納めに桃の花
表札は先代のまま蝦夷桜
羊の毛刈る牧童の青ッ洟
ぼうたんや崩るる音を秘め白し
螢籠まだみぬ吾子の魂連れて
老鶯や溶岩ラバを踏み行くカルデラ湖
郭公の声よおにぎりつぶれたり


ふけとしこ
ひよどりの巣のあるらしき庭に立ち
青柿や西の一間を墨客に
青蜂の取り合うてゐる韮の花


加藤知子
滴りて戦後生まれは甘く跳ぶ
沙羅落花夢は食べたか消えたのか
刺青着て二人称なり大暑なり
天気晴朗馬を冷やしにいくは誰


前北かおる(夏潮)
暗幕の裏地は緑風薫る
あぢさゐの頃のゆりのき通りかな
洗濯機三回分の五月晴

2019年7月19日金曜日

令和元年 春興帖 第九(羽村美和子・小野裕三・山本敏倖・仲寒蟬・飯田冬眞)



羽村美和子
時代という名のあとさきを春嵐
かしこかしこ春あけぼのの標本木
花の夜の深みに沈む目安箱
留守居して満開の花に攻め込まれ
行く春の美貌の石をふところに


小野裕三
ウェールズ地方に雨のある立春
古書店に明かり立ち込め春朧
春浅き紐をきしりと結びけり
清潔な校舎春雨は寡黙な雨
どこもかしこも水面並べて春行けり


山本敏倖
冴え返る手のひらにあるマチュピチュ
風光る縄文土器の破片かな
水底のモネの色揺れ蝶生まる
花冷えや鱗びっしり通せんぼ
陽炎の第二関節調教す


仲寒蟬
色塗つてやれば回りぬ風車
裏の砂透けてゐたりし桜貝
鞦韆のまだ揺れてゐる夜の闇
山の端に雲の混み合ふ仏生会
遠目にもクレソンの沢輝ける
わが影の外へ散りゆく蝌蚪の群れ
高原を来て春星の名を知らず


飯田冬眞
パイプ椅子たたみ終へれば春休み
封鎖せし町よ酸葉の赤き揺れ
どら焼きの歯ざはり八十八夜かな
問ひかけて飲み込むことば蜷の道
石楠花の白に囲まれ喉渇く
ざうざうと罪を負ひたり熊谷草
背伸びして覗く巣箱よ朝な朝な

2019年3月29日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第三(飯田冬眞・辻村麻乃・夏木久・杉山久子)



飯田冬眞
パック酒くしゃりとつぶし初日の出
初筑波祈る角度は鋭角に
鼻歌の優しきうねり初御空
骨密度減りゆく母よなづな打つ
福耳を揺らす作務衣や喧嘩独楽
放浪の芙美子の庭に福寿草
たたかれて猛る火もありどんど焼


辻村麻乃
無骨なる若者鯛焼に並ぶ
色色な野菜の星や白シチュー
羽子板市邪鬼も悪鬼も叩かれず
歳晩や道で荷物を出す女
梳初や背後に誰かゐるやうな
幣揺るる工事現場の初茜
椅子の背にコート掛けたるサンルーム


夏木久
寄せて返す波打ち際の室内楽
  飛び乗りし夜行ソナタの淋しさよ
かみしものすけるかみしもすけるかみ
かくかくしかじかかみしものかみしたもゆる
はらきりしこおにたびらこほとけのざ
脳裡の月光ソナタより水の漏れ
ペン先に圧加はりぬ春の夜


杉山久子
初旅や左足よりはじめたる
牛日の既読スルーを眺めをり
何にでも「平成最後」餠伸びる

2019年1月18日金曜日

平成三十年 冬興帖 第二(岸本尚毅・神谷波・松下カロ・飯田冬眞)



岸本尚毅
ばらばらに行く時雨雲しぐれつつ
短日や欠伸の如きムンクの絵
冬の雲なべて大きくこの庭に
経を読み孔雀を飼へる冬の山
冬蠅の身幅広くて石平ら
冬の川映れるものに夜が来て
くちばしの見えぬ向きなる寒鴉


神谷 波
コスモスの枯れて竜巻注意報
さざんくわの散るやところにより豪雨
石段を影が勇んで小春日和
水鳥の寄り添つてゐる日暮かな
寒夕焼エプロンの紐きつちりと


松下カロ
ふりむけばふりむいてをり白鳥も
白鳥へ雪 つれないといふ言葉
群れて争ふ 最果ての白鳥も


飯田冬眞
着ぶくれやぶつかつて来る夜の色
山茶花の戻れぬ白さ変声期
胸中の獅子飼ひ馴らし寒オリオン
切株の衛星として冬たんぽぽ
卵黄をつるりと飲んで一茶の忌
蒼ざめし馬は枯野の眼となりぬ
渡来仏湯ざめしさうな背中して

2018年12月7日金曜日

平成三十年 秋興帖 第七(飯田冬眞・望月士郎・中村猛虎・下坂速穂・岬光世)



飯田冬眞
眉寄せて銭の穴みる星月夜
鮭小屋の遠き海鳴り賽を振る
殉教の火を知る島の踊唄
むらさきは放浪の色葛の花
指回すとんぼの首の落つるまで
いつまでも指を折る癖鶏頭花
死ぬときは奥歯噛みしめ富有柿


望月士郎
投函の小鳥の名前をもう一度
忘却の日時計として案山子立つ
萩こぼれ文学館に死後の私語
銀漢や少女回転体となる
爪を切る音して月光のトルソー
秋思四角ときおり月の内接す
林檎剥くしずかに南回帰線


中村猛虎
棺桶の小窓の中の鰯雲
右利きの案山子が圧倒的多数
省略の効き過ぎている秋の水
桃を剥く背中にたくさんの釦
月天心胎児は逆さまに眠る
三合を過ぎて秋思の丸くなる
秋燕やシャッター商店街にTENGA


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
水澄みて亡くしたる鳥数知れず
どの色も揃へし羽の花野かな
舟と舟さ揺らぐ後の更衣


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
大鈴の古び小鈴のまろぶ秋
剃髪のこころや白き曼殊沙華
秋の木を降りて賢き雀かな

2018年9月7日金曜日

平成三十年 夏興帖 第四(加藤知子・夏木久・飯田冬眞・田中葉月・渡邊美保)



加藤知子(「We」「豈」「連衆」)
金魚また死ぬ時計逆まわり
上下する死刑執行日の花火
しばらくは腰のあたりの百合花粉


夏木久
空蝉のやうなその影灯を点し
ホームラン叫ぶラジオや敗戦忌
確執の晩夏輪護謨で束ね放置
土砂降りを営業中です酒屋「虹」
八月や昭和の電話鳴り止まず
にくづきの悪き月齢の臓器移植
黒板の余白へ永久に灰の降る


飯田冬眞
豆腐屋の三和土( たたき )がらんと夏の雲
トマト熟る転勤族の黒き目に
残り香の微かな痛み遠き雷
六道の辻にたたずむ毛虫かな
念力の少年スプーン曲げし夏
ひたひたとデンデラ野より夜盗虫
水を汲む骨を抜かれし浴衣着て


田中葉月
夏の山二十歳のバス停塗りかへる
洪水やいまだ造花の咲きしまま
病葉にのこるくれなゐくるりくら
青柿や雲に聞いたか聞こへたか
生きてゐるただそれだけの螢


渡邊美保
明易の蟇掛け軸に戻りたる
かたつむり琵琶湖一周してきたる
黙々と塩振る男南風
西瓜食ぶ幽霊の役引き受けて

2018年8月10日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第八(青木百舌鳥・井口時男・花尻万博・小野裕三・飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井)



青木百舌鳥(夏潮)
土砂降に乱るる岸に乗つ込める
初蚊来ぬ見違へるほどよく弾む
外房やアボカドライス生ビール
むく犬の和毛の艶や樫若葉


井口時男
蛇七態
ぞわぞわと青血泡立ち穴を出る
ひなげしを灯しおくぐるる溶けるまで
ウロボロス腹のあたりが膨れたる
お日がらようてお身がらようて皮を脱ぐ
つるみ合ふ鱗蜿々合歓の花
水うねり文身ぬめり虹二重
朽ち縄さみし白身の肌はそつと締め


花尻万博
美しき鴨居に垂れる鮎の宿
人死ぬ間花虻濡れてしまひけり
日の入りの陽射し返さず桐の花
母屋みな国の繋がる初蚊かな
鬼の子の足軟らかき代田かな
蠛蠓やさつきから鬼見当たらず


小野裕三
園児らはさあっと引き上げ桜の実
大皿に海の仲間を並べ初夏
出陣のごとき守宮の現れり
幸運な世界に移る雨蛙
おきあがりこぼしも並ぶ舟料理


飯田冬眞
たんぽぽの絮吹きだまる議事堂前
三叉路に顔なき地蔵蝶生るる
蛙合戦策略のなき後ろ脚
のど飴を片頬に寄せ春惜しむ
夏の鳥ヒエログリフは左向き
手の中に火の付きさうな杏の実
俳号も偽名のひとつ鰻喰む


佐藤りえ
HERMESの旗も五月の風の中
夏来たる鋏を研いでゐるうちに
夏暁の夢にてひらく哲学書
とむらひにひとつ氷をふふませて
かたはらの猫に聞かせる夜来香


筑紫磐井
きつと梅雨兜太を偲ぶ会の告知
濃あぢさゐ八百屋お七の墓隠す
御町内のゴミを集めて五月来る

2018年5月18日金曜日

平成三十年 春興帖 第五(林雅樹・ふけとしこ・小沢麻結・飯田冬眞 )



林雅樹
飛び降りて涅槃で待つや沖雅也
春浅し塩素の匂ひしてキッチン
雛の間に翁媼と来て交る
踏青や俳人どもは屁で会話
臓物のバケツに光る日永かな


ふけとしこ
草の芽や大道芸の輪の飛んで
ベーコンとマッシュルームと春愁と
保養所といふも廃墟に松の芯


小沢麻結
春立つや林道へギア切り換へて
ぶらんこを離れぶらんこもう忘れ
チューリップ心開くにまだ少し


飯田冬眞
末黒野や風のかたちに焼け残る
焼野原大股で逝く兜太かな
去る者は去りささやかな土筆かな
振り向けば影のほかなき遅日かな
春雷や神の戻らぬ井戸を掘る