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2022年10月7日金曜日

令和四年 夏興帖 第二(池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月)



池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば


加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ


杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ


坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山


田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる

2021年11月5日金曜日

令和三年 夏興帖 第八(ふけとしこ・林雅樹・家登みろく・小野裕三・池田澄子)



ふけとしこ
かはせみの切手で返す夏見舞
向日葵の丈や線状降水帯
行く夏をウバタマムシの長き擬死


林雅樹(澤)
犬の首輪光り新樹の夜を過ぐる
草いきれすごいマスクを外したら
虫入り放題破れし網戸より


家登みろく
二つ三つ氷菓家路を急がるる
影向の松片蔭といふ御加護
をぢさんはかつて小次郎捕虫網
驟雨去り驟雨のやうに街始動
夏雲潔白行くべき道は知らぬ道


小野裕三
サイダーの溢れ出したる希望かな
こいのぼり方向音痴でも愉快
宵祭本祭とも小雨かな
三伏の白きも黒きも放し飼い
「ぜんぶ嘘」プールサイドに告白す


池田澄子
災害級大雨予報以後涼し
蟬穴に突っ込んでみし指を扨て
蓮つぎつぎひらきおらんと寝返りぬ
夕立の先ずは匂いを先立てて
夏野あぁ光の匂いとはこれか
暗い目という比喩にまた夏は秋
無花果裂く我が生誕の覚えなく

2020年11月6日金曜日

令和二年 秋興帖 第一(大井恒行・辻村麻乃・関根誠子・池田澄子)



大井恒行
ヒトはあらわに顕わに生きる秋コロナ
弱いオトコがまず消えるウイズコロナ
秋青空ウイズコロナウイズ核


辻村麻乃
立秋や家具にハンマー振り下ろす
ティンパニの音加速して秋驟雨
影と云ふ影踏まれたり牛膝
おぢさんの面つけてゐる竈馬
疵のある男に並び芋煮会
大夕焼死んでしまへば話せない
小屋裏の真夜中の月笑ひたり


関根誠子
秋風の傾斜に合わせ蝶の翅
オガサワラシジミ忌と書き破り秋
傷秋のまず三食を正さむか
玉子かけ御飯秋茄子きうと噛み
虫しぐれ手本なき世の星仰ぐ


池田澄子
入口と書いてはあって雨の萩
底紅の紅の嘆きをほっておく
羊羹の陰気な色を十三夜
秋深く物置のあの箱は何
いなつるびしんぱいされていて嬉し

2020年5月22日金曜日

令和二年 花鳥篇 第一(仙田洋子・杉山久子・大井恒行・池田澄子)



仙田洋子
春の宵じゃんけんぽんで負けて死ぬ
鳥帰る十字架運びゆくやうに
春愁の極みに巨象耳を振る
四月馬鹿待たずに逝けり志村けん
桜守野太き声を出しにけり
白鼻芯消えてしまひし花の山
始祖鳥の影よぎりけり春の月


杉山久子
雲梯にぶら下がり見る春の雲
春愁をまぜてタピオカミルクティー
亀鳴くや三千年の禁固刑


大井恒行
鳥よ毎朝悲愴にかわす春の言の葉
花ふぶく日月火水木金金
ゆずり葉のゆくゆくいずれ風の色


池田澄子
家々や春が寒くて かと言って
   浦風の途切れ仔猫が塀の上
べつにいいけど土手のぎしぎし手が届かぬ
二羽ずつの残り鴨かな川長し
豆の花他力本願難しき

2020年1月17日金曜日

令和元年 冬興帖 第三/令和二年 歳旦帖 第二(網野月を・大井恒行・神谷 波・花尻万博・近江文代・なつはづき・林雅樹・曾根 毅・池田澄子)


【冬興帖】

網野月を
どこからがいやどこまでが冬の空
冬の薔薇名の無い毒を潜ませて
霜柱狭い歩幅の大足跡
橋は名を残して霜の遊歩道
マフラーを持て余してる夜店の子
冬の海ないものがある神童忌
バックミラーに絡み付いてる冬の蝶


大井恒行
死後もはるかに木々に雪あり山や海
五明後日(ごあさって)はるばる痩せる冬落暉
花鳥風月おかんなぎまためかんなぎ


神谷 波
裏山にそつと近づく冬三日月
名古屋まで往復切符小春日和
おにぎり買ふ小春日和の名古屋駅
かならず買ふものに束子年の暮
ほっとけないわ数え日の空模様


花尻万博
狼の優し狼知らぬ波に
狼映つてたか小さな小さなテレビ
磯漁の一族として餅搗ける
始まりも途中もあらぬ餅配
鯨割く潮の流れ歌う者らよ
鯨老うなかれ記紀の終はるまで


近江文代
片方の顔が綺麗な落葉焚
忘却の彼方を鶴の凍てており
ピアノごと沈む絨毯ふるさとは
わたくしの男にマスクかけてやる
白鳥の王様になるまで叫ぶ
 

なつはづき
夜の底をまさぐるように兎罠
開戦日衣ばかりの海老天麩羅
凍鶴やうなじが知っている言葉
西遊記の結末知らず冬山河
寒林や耳が時間を食い潰す
冬霧を裂いてはだかの眼でふたり
ブレーキの利かぬ思い出毛布干す


林雅樹(澤)
キスすれば離るゝ頬や冬銀河
日曜の工員寮や花八つ手
巨大なる麺麭工場や銀杏散る
そはそはと動く鸚鵡や日記果つ
腹芸の百面相や年忘れ


【歳旦帖】

曾根 毅
海光の鳥から人に流れけり
春寒し情事のような箸一対
円形に日の射している書斎かな


池田澄子
することのなくもがな去年今年かな
見つめたり喉のぞいたり初鏡
赤ん坊へ変な声出し松の内
初春と思えば初春の遺影
永久に在れ雪の故郷の箱階段

2020年1月10日金曜日

令和元年 冬興帖 第二/令和二年 歳旦帖 第一(小林かんな・池田澄子・辻村麻乃・内村恭子・中村猛虎・夏木久)

明けましておめでとうございます。
昨年から、俳句帖の掲載ペースが落ちており、出来るだけ季節感と合わせるために、複数の季節を同時掲載することとしました。現在夏興帖は終わり、秋興帖と冬興帖の掲載が進んでいますが、まだ当分同時掲載が続くと思います。このような中で恐縮ですが、歳旦帖を開始させていただきます。
このため、掲載が遅れている方、また掲載にあたり秋と冬の掲載の順番が変わっている方から問い合わせを頂いています。BLOG参加者にはご迷惑をおかけいたしますがご宥恕ください。

筑紫磐井


【冬興帖】
小林かんな
太陽の塔へ冬日のモノレール
着ぶくれて亜細亜の百の仮面の前
死者包む装束の紐冬の蝶
小春日のサバニの上に魚籠と櫂
ゆりかごも呪術の品も藁仕事


池田澄子
冬ざくら谷へこぼるるしずけさよ
凍月夜しずかになさい紙袋
膝掛毛布催眠剤を飲むか否か
寒き夜のひとりのお茶の濃すぎたる
雪の気配うしみつどきを寝そびれて


辻村麻乃
鐘島に波の鳴りたる冬夕焼
航跡波うねりてきたる鰤起し
路地裏の路地を迷いて冬花火
一艘の呑まれゆきたる冬紅葉
長瀞に石の積まれて冬うらら
燦燦と擬宝珠に冬陽跳ねゐたる
虚無と云ふ鬼の底這ふ十二月


内村恭子
雪の高野手に手に幣を携へて
寒暁や僧の手が撒く紙の蓮
勤行に凍つる手合はす夜明かな
手を組みて宇宙は遥か息白し
胼の手で修行の僧が運ぶ膳


中村猛虎
唇を這わせて進む大枯野
懐手袂に触るる龍角散
冬の稲妻撃ち抜け心臓はここだ
食パンに入れる刃の音冬に入る
枯野人明日履くための靴磨く
悴んでいても今夜も生きている


夏木久
小春日へ箸落としましたねあなた
歓談をしつつお昼を雪達磨
非難甘受冬へ脚立を立てかけて
裏窓や朝日の当たる駅その他
出口だと?そいつは冬の入口だ
金継や偶に傷口べろつと舐め
さうだらう南瓜の返事はNOだらう


【歳旦帖】
辻村麻乃
おでんから引いては足して銀の匙
冬花火上がりで山の定まりぬ
五千頭の龍冬天を睨みをり
足裏より凍突き上ぐる大伽藍
礫岩層十指に余る初御空

2019年5月31日金曜日

令和元年 春興帖 第二(杉山久子・辻村麻乃・乾草川・池田澄子)



杉山久子
春昼や小屋に混み合ふ鶏の脚
御中の御の字ゆるぶ目借時
永き日の百円ショップに迷ひをり


辻村麻乃
春の雷
春の雷程よく濡れてアスファルト
柳人の美しきブラウス春の雷
春の雷河童がついてきたやうな
片瞼上げて男の春の雷
春雷の女の頸光りたる
春雷の駅に飛び込む女学生


乾草川
生来の火群滅びず薔薇・アリア
魂のどの睡蓮に宿らうか
シャガールの鬱巡り来ぬ蝶となり
大地焼き締めたる備前アンタレス


池田澄子
よく晴れて桜葉が出て平成尽
改元のファミレスで逢いマンゴージュレ
直方体の水に和蘭獅子頭
命令に背かぬ犬と青嵐
青あらし和気藹々の烏どち

2019年1月11日金曜日

平成三十年 冬興帖 第一(池田澄子・曾根 毅・山本敏倖・仙田洋子)



池田澄子
こがらしのときおり渡り夜の青空
拭くまえの眼鏡に寒く息を吐く
黄粉餅悪い夢見の後引きぬ
ポインセチアあの人むかし若かった
愛を注ぐとは葉を全て落とす蔦


曾根 毅
数え日の大鷲にして穀潰し
家族葬から白みゆく霜柱
青く固し蜜柑の尻に指を入れ


山本敏倖
絶壁の活断層に冬の蝶
白亜紀へ階降りて冬眠す
初霜やまだら模様の仮面劇
御柱の樹齢を洗う寒月光
燻製の甲骨文字に冬籠る


仙田洋子
熊手市混みて社のこぢんまり
熊手売る侘しき裏を見せず売る
大熊手店の裏にもびつしりと
消防車しづかに去つてゆきにけり
落葉道ひろびろとあることのよき
羽子板にふれず羽子板市を去る
羽子板市点る一夜の夢のごと

2018年12月28日金曜日

平成三十年 秋興帖 第十(五島高資・青木百舌鳥・池田澄子・真矢ひろみ・井口時男・筑紫磐井)



五島高資
未完なる防潮堤や蚯蚓鳴く
登高や研修医指導研修会
日は海に面影の立つ出水かな
爪先にふれる水面や紅葉狩
石を積む月の光となりにけり


青木百舌鳥
ががいももあざみも絮の輝かし
秋灯の光背を負ひ陰を負ひ
寺町や寺にありたる紅の菊


池田澄子
古ぶなり風の花野のベンチと我
あの人に触れし風なれ十三夜
秋風や嗚呼とゆるんでゆく眉根
月天心さびしいひとよ落ちてくるな
濁り酒ゆすり未だに干さぬ奴


真矢ひろみ
黄落を川面に映し此岸とす
暁闇の漆紅葉の高貴かな
更けるほど天心ずらす紅葉径
ただ狂へ白膠木紅葉の囃しをり
影もたぬ帚木紅葉ありにけり


井口時男
道化の秋
道化師のはらわたよぢれ柘榴裂け
月に笑ふピエロ0(ゼロ)を累乗し
天高くアルレッキーノの宙返り
台風の眼に与太郎が舞ひ踊る
紅葉狩往きて還らぬ太郎冠者
月青く猪突の騎士に憂ひあり
秋風や王の道化の綱渡り


筑紫磐井
水と日の沸る露をく兜太の里
盆さまざまこの世に生れぬ魂も
  幸彦・義幸
十月の忌日重ねて我ら老ゆ

2018年10月5日金曜日

平成三十年 夏興帖 第八(小沢麻結・椿屋実梛・林雅樹・池田澄子・浅沼 璞)



小沢麻結
鰻重待つ仕事鞄を傍らに
南風微睡みてなほ日は高き
三四郎こゝろ読み継ぐ日焼して


椿屋実梛
座禅後の脚のしびれやばつたんこ
十薬はいつも寂びたる闇背負ふ
妖精が扇をひらき合歓の花
陰に咲き夕日のちから花岩菲


林雅樹(澤)
空蝉を集めてひとり遊びかな
窓枠を担ひ人行く西日中
江戸つ子の意気ぞ蚯蚓の踊り食ひ
啄木忌書庫の机の灯せる
新緑の樹海に入りて戻らざる


池田澄子
暑し「硫黄島」をGoogleで検索中
風鈴の窓や開けたり細めたり
水饅頭亡き先生を自慢して
幸せそう苧殻の中に居る煙
寝たあとの耳を慕いてアナタは蚊


浅沼 璞
畳の目こすりこすりて青大将
寝返りのSの字蛇とふれてゐる
雑草の蛇をすすつてゐるところ

2018年3月9日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善・弐(加藤知子・小沢麻結・竹岡一郎・小野裕三・早瀬恵子・杉山久子・神谷 波・真矢ひろみ・水岩瞳・渕上信子・池田澄子・中山奈々・木村オサム・浅沼 璞)



加藤知子
【訂正】
春落暉大先生の掌ありしが


小沢麻結
芽吹山秩父音頭の七七五
春疾風駄目出しの声なほ耳に
春の土なつかし荒凡夫とほし


竹岡一郎
智慧の夜や眉間は春の焚火照り
立春の巌が国家視てゐたり
大兵のぬくき手や飢ゑ刻まれし
初蝶を非業の島へ送り給ふ
狼に常世の萌のはてしなく


小野裕三
兜太なき春孤島も斜面も青くあり


早瀬恵子
梅咲いて骨太のひかり瞑するや
やあやあやあ梅の空には兜太あり


杉山久子
おおかみとともに行きたる野の青し


神谷 波
庭の雪解けしばかりに兜太逝く
獺祭に鮫ひきつれてゆく兜太


真矢ひろみ
20年ほど前に、或る会に遅参した兜太を某俳人が厳しく叱責した際、「やあ失敬、失敬 年のせいかトイレが近くなり・・」と全く意に介する素振りなく、その茶目っ気ぶりに唖然とする

「やあ失敬」とおぼろ月夜を後にせり
春泥や秩父の民の還りたる
青鮫がゐる白梅に明くる朝


水岩瞳
「戦争の影が・・」と兜太の年賀状
遥かなるこの春愁や兜太無し
大神になつて蛍をつけにけり


渕上信子
庭中の梅の盛りや兜太の訃
逝かれけり白い花みんな咲いてよ
春の夜の遠火事視るは老いひとり


池田澄子
秩父鉄道添いの去年の桜よあぁ
梅散りぬ秩父音頭をもう一度
    

中山奈々
兜太さんが亡くなったからといって、俳句人口の平均年齢が下がる訳じゃないのだけど、一気にみんな赤子のようになってしまった。

兜太忌は二月蜆の黒々と
蜆汁翁死すればみな赤子
献杯の酒安すぎてごめんなさい


木村オサム
おおかみが無骨な岩に立っていた
どの本能膨らまそうか枝垂梅
青き踏む九百二年後の兜太


浅沼 璞
火事一つ蛍一つをならべゆく


2018年2月9日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第五(ふけとしこ・花尻万博・田中葉月・渡邉美保・飯田冬眞・池田澄子)



ふけとしこ
鉋屑貰ひ焚火の始まりぬ
冬木立園長室の帽子掛け
寒晴を暴れん坊の神が行く
広き葉を打つや走るや玉霰


花尻万博
狩の犬眠りぬ星の音を連れ
波が波呼んでウツボの漁盛り
夜に続く紺緩みけり温室の花
息白く遠く歩めりいつか子も
生きている寒鮒の息確かかな
沖の馬寒星の中嘶(いなな)かず


田中葉月
風花す銀紙ほどのやさしさに
寒月光ゆめくひ人のすんでをり
シャングリラ底から覗く銀狐
冬眠やチョコレートの箱満員で
父母の遺影はいらぬ牡丹雪
うたいたい歌うたへない水仙花


渡邉美保
槍鉋並び金物市小春
空中都市めきてビル浮く渇水期
燐寸より生まるる火影憂国忌


飯田冬眞
雪吊や張りつめてゐる尿検査
開戦日ふさがりかけた傷ひらく
葉牡丹の小部屋よ桂信子の忌
冬うらら孔雀に影を踏まれゆく
ぼんやりとバスを見てゐる冬休
白鳥やこの首どこに畳もうか
どら焼きを鞄につめて春支度


池田澄子
雪しずく日は造作なく西へ西へ
吹雪く夜の水族館の水母どちよ
これぞ朴落葉なるぞと朴落葉
スカパ!光に男ぴかぴか疲れて冬
返り花どの道だれも居なくなる

2017年10月20日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第八(北川美美・山本敏倖・佐藤りえ・筑紫磐井・網野月を・池田澄子)



北川美美
透きとほる氷やはらか緑の夜
八月のながき汀(みぎわ)をひたあるく
飴色に眠るしかなし蝉の殻


山本敏倖
  ポンチ絵
炎帝のポンチ絵とてもイ音便
聖戦やどくだみの香と細菌と
夕立に裏おもてある西銀座
あめんぼうついに立つことなかりけり
海月が来るまでバスは平方根


佐藤りえ
ミルクティーミルクプリンに混ぜて夏
茄子持つて地震速報見てゐたる
 Voyager1 Voyager2 讃
1号を追つて2号も別銀河
うるはしき地球忘れてしまひけり


筑紫磐井
圏外に妻の秘中の秘の避暑行
倒錯の意識がくづれ明け易し
水だけで生きる覚悟の老人たち


網野月を
免許証に別人の顔道おしえ
ボルダリングすれば守宮の心かな
GよG来世はきっとカブトムシ
空色の海海色の空夏一つ
土用鰻火災報知器点いたまま
夏果てて掴む乳房に故郷を
板襖越しの人声麦こがし


池田澄子
藻の花や愛は水溶性ならん
台風一過骨付き肉がとろ火の上
階段で家人に会いぬ遠花火
宵まつり彼の世のものを混ぜて吊り
君が代という代ありけり夜這星

2017年7月14日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第三(池田澄子・堀本 吟・山本敏倖・岸本尚毅・夏木久・中西夕紀・渕上信子)



池田澄子
しあわせやミモザに空の深ければ
欠席が一人も居ない桐の花
五月ゆく付箋の色を使い分け
阿部定も初夏の夜風にあぁと云ったか
御代わりや欅若葉の見える席
嬉しいか心細いか揚雲雀
原始女性は夏の太陽光疲れ


堀本 吟
六・一五樺美智子が死にました
密談のはし季語がないけむり茸
閣僚のトップてだあれ黴の花


山本敏倖(山河代表・豈)
夏蝶をりくるーとする三角紙
くちなわの眼より一山落ちにけり
六月のまじっくみらーにあるしこり
泳げど泳げど人間を出られない
古事記から紙魚の出てくる手暗がり


岸本尚毅
春の灯はざらつく壁を照らすなり
日あるを見て森閑と春深し
藤の蔓花ぶら下げて風に高く
柏餅貴男のやうにベタベタと
老いて棲む人々躑躅咲く町に
豆の花咲き老人に曜日なし
夜は楽し胡麻粒ほどの守宮の眼

【紹介文・近況】
一九六一年生。「天為」「秀」同人。


夏木久
滑舌は山笑ふほど躓けり
真青野へ今日も言葉を放牧す
春ゆくや夏を横取りしてしまひ
筒抜けの現のことを抜け抜けと
花火揚ぐ昼の酒屋の暗がりへ
白鱚の衣の破れ気にかかる
阿と吽の隙へ蛍を神妙に


中西夕紀
沈めあるペットボトルや子供の日
肩口にのぞくタトゥーや瀧飛沫
ぺらぺらもざらざらも紙夏蝶過ぐ
額てかる撞球場の夏灯

【紹介文・近況】
略歴 昭和28年、東京生れ。昭和56年作句開始。「岳」「鷹」「晨」を経て、平成20年「都市」創刊主宰。句集「都市」「さねさし」「朝涼」共著「相馬遷子ー佐久の星」
俳句は今では生活の一部になっている。だから惰性にならないよう、マンネリにならないよう、良い環境を作ることが大切と思う。それは、田畑の土壌作りに似ている。良い作物(俳句、文章)を作るために、何をするべきか常に考えている。しかし、あれこれやって、みな途中といった感じである。


渕上信子
銀器を磨く卯の花腐し
遺言のごと薔薇開く朝
蜚蠊団子「元祖!半なま」
無賃乗車に成功の汗
エリカ・ジョングと同じ香水
誤植の酷さメメ水母ほど
熱帯夜豚の耳噛んでる

2017年5月12日金曜日

平成二十九年 春興帖 第四 (仙田洋子・木村オサム・小林かんな・池田澄子)



仙田洋子
哭くことを許されず鳥帰りけり
てふてふのこぼす涙のごときもの
たらちねの春眠にして永眠す
春時雨母逝きし日の終りけり
死にたての母よ桜が咲きました
うららかや母の永眠はじまりて
花万朶母を焼くことおそろしく



木村オサム(「玄鳥」)
囀らぬ鳥から先に巣立ちをり
チューリップ天使が酒を注ぎに来る
蝌蚪の紐散りぬ聖母の生あくび
春眠や水切り石の沈むとき
口中に夜桜見えて家出せり



小林かんな
春の昼迷子のインコ名はリリイ
シラウオとシロウオは別ココロセヨ
胴体を出て脚二本清順忌
春灯君二度付けをするなかれ
記入欄よりこぼれ出す雪柳



池田澄子
生まれていて未だ死ななくて迎春花
アネモネを活けて砂糖はひかえずに
空気清いか桜の花花の隙間
風ふっと途絶え柳の芽の可愛い
野よ川よ花よ人よと雨が降る
共謀罪とや散る花に嗚呼と言うな
惜春やパレットも絵具の白も汚れ

2017年3月24日金曜日

 平成二十九年 歳旦帖 第六 (小沢麻結・池田澄子・陽美保子・内村恭子・小野裕三)



小沢麻結
踏まれたるより光初め霜柱
けんちんの大鍋煮ゆる初閻魔
初不動火の粉火柱湧き上がり


池田澄子
二人して寒しと月を斜め上
ひかり眩しく愛は煩く返り花
蓮根の穴の空気を解放す
馬車馬の昔ありけり雪へ雪
ぼたんゆき神よ父よと口に出さず


陽美保子(「泉」同人)
骰子の一の目の出る淑気かな
絵双六京の名所に休みけり
絵双六狂歌を詠めと言はれても


内村恭子 (天為同人)
青空を忘れがちなり年用意
羽子板市異国の王女描かれて
数へ日や神保町に山支度
大きからむ洪積世の初日の出
次々とピザ焼き上がる四日かな


小野裕三(海程・豆の木)
頭骨標本日陰に連なり大晦日
宝舟遠来しんじつ笑うは誰
骨董市に王様の首冬木立




2017年1月13日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第四 (夏木久・関根誠子・池田澄子・仲寒蟬・青木百舌鳥・坂間恒子・中村猛虎)





夏木久
君は言ふ「あの時もこんな月だった」と
案山子叫ぶみんなが傘を指してゐる
花野柄ウラを返せば大枯野
原因は工事現場の隙間風
冬の蝶茶托使ふか使はぬか
難民がゐて路地裏に猫がゐて
思ひ出はモノクロームでも夢はカラー




関根誠子
ライ麦畑にだあれもゐない小春風
中央分離帯の若木も落葉時
遺伝子非組替豆乳着膨れて
捨て頃を過ぎたる木偶と棚が冬
鏡に映す逆さ睫毛や開戦日
内蔵助に合はす泣き真似年用意




池田澄子
かろがろと傾き枯れの葦よ光るな
人類に玄関の戸の結露あり
オムレツと隣る冬菜と光の中
遠くから来てくださった髪に雪
何鳥か此処よ此処よと春隣




仲寒蟬
冷やかに判捺すことも仕事のうち
増毛剤そこそこ売れて神の留守
綿虫に全速力といふことあり
いつもいつも南を向いてゐる北風
風花に草原の香の混じりをり
刃を入れて目覚めさせたる冬林檎
星雲を連れて白鳥来たりけり





青木百舌鳥 
雪曇り遠山が無くなにか無く
大綿の綿を曳きゆく虫小さ
船降りて冬の日向にすこし揺れ
岬山の木々を透かせて初明り




坂間恒子
鵙高音思考の断片染色す
冬の鳥ふたつの島の目配せす
柩出るとき皇帝ダリアに風







中村猛虎(なかむらたけとら)1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。
妹が冬眠用の穴を掘る
クリスマスヒトの背骨の彎曲す
掃除機の掃除している小春かな
時雨るや机で削る頭蓋骨
冬すみれ死にたくなったらロイヤルホスト
除夜の鐘合間に離婚届書く

小春日や退屈そうなふくらはぎ




2016年9月9日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第一 (網野月を・小林苑を・池田澄子・夏木久)



網野月を
口口口しか見えないツバメの子
口よりも声の大きな燕の子
時鳥アルゴリズムの老いを啼く
老鶯やハスキーヴォイスの谷渡り
羽抜鳥見て見ぬ振りの与ひょうかな
電球の中の渦巻き夏祓
右回り左回りの茅の輪かな
しゃも鍋でもビールがうがい薬なら


小林苑を
幽霊が映画館から出て行かぬ
夏休み投げては戻るブーメラン
交通量調査の人の麦わら帽
よく曲がる胡瓜だ友達にならう
夜の蝉ぷつと強制終了す


池田 澄子
遠方へ行きたしと居る籐寝椅子
万緑や子等の声ご飯粒みたい
空々しく空あり夏の満月あり
そしてこうして忘れ忘られ涼しさよ
夕顔や気持ち隠しておく努力


夏木久
漏電や昼寝の梯子より落下
この星の水のオペラを蓮の花
皆がみな孤独であればこそ蛍
炎昼や牛タン塩焼き五百円
蔓引けば砂に晩夏の摩れし音
きりかぶへきつつききつつきりかへす
気に入らず月と海月を並べ換ふ
舟を抱き月を舫ひて懐妊す
秋蝶がピアノの渕を浮き沈む
秋風へ積極的な神社かな



2016年5月6日金曜日

平成二十八年春興帖 第八 (陽 美保子・石童庵・池田澄子・坂間恒子)



陽 美保子(「泉」同人)
青空に雪掲げゐる古巣かな
啓蟄の食ひ汚したる口ひとつ
雪割りの音に公案解けにけり



石童庵
幹にサルノコシカケさくら古木咲く
血脈を離れ法脈花は葉に
ふきのたう純愛なのにゲス呼ばはり



池田澄子
鬼は外外なら星も見えるでしょう
わたくしの髪が好きらし春一番
昇りゆく春の樹液のこころもち
前をゆく人の小声の歌も春
三鬼忌の猫が引っ掻く木の根っこ 
 


坂間恒子
菠薐草どこかで世界が裏返る
蕗の薹虚子の系譜のねむらない
蝮蛇草ほそるばかりの脊柱管






2015年9月18日金曜日

平成二十七年秋興帖 第一 (杉山久子・池田澄子・青山茂根)






杉山久子
新涼やかがやきて立つプルトップ
前世より秋日の射せる食器棚
マンホール図面ひろげる星月夜




池田澄子
星仰ぐ頭は重し敗戦日
遠来の洋梨を見て嗅いで置く
雨月かな覚えられない名の花も
月に雲かかるを君のせいにする
秋のくれ亡先生はえらかった





青山茂根
群衆の渦巻く夜の一葉かな
花さふらんるふらん蹂躙の轍
爆撃の遠き夜学にゐて眠る