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2024年3月8日金曜日

令和五年 秋興帖 第三/冬興帖 第二(冨岡和秀・鷲津誠次・浅沼 璞・仙田洋子・水岩瞳・仲寒蟬・関根誠子・瀬戸優理子)

【秋興帖】

冨岡和秀
病むおんな智恵子抄を愛読す
詩の極意 ウニオ・ミスティカへの架橋
晩年を純潔にする天の磁力
亜大陸 古インドの智慧を召喚す


鷲津誠次
秋茄子や身籠りし子の眉長く
懲りもせず母の文来てすがれ虫
夕鶲いつもの古里の風緩く
月光につぶやく夫の肩黒子
碁敵の似合ふ五分刈り草紅葉


浅沼 璞
それぞれの傘輝かす野分あと
瓶底の砂までとどく曼珠沙華
ましら酒髭の先まで雫して
秋の蚊の痒みを踝に歩く
月白の恥づかしければ笑ふなり
場違ひの空気に蜻蛉来てとまる
鉄塔の尖端霧に現るる


仙田洋子
生温き薬罐のお茶や敗戦日
みどりごも老婆となりぬ敗戦日
獺祭忌偉人と呼ばれ親不孝
行年の数字うすれし墓洗ふ
お日様のどすんとありぬ村祭
近寄ると見えて椋鳥去りにけり
秋濤や独りの長き影法師


水岩瞳
月を待つ黒田杏子を書き留めて
月祀るどの子も光りの中に居よ
入ると出る数の合はない大花野
誰にでも非はあるものよ烏瓜
有の実と言つてみたとてなしはなし

【冬興帖】

仲寒蟬
むささびや夜空に宇宙ステーション
上海へつながる海よ冬あたたか
少しづつ骨ずれてゆく毛布の中
風花や山を睨んでハンニバル
無人機攻撃横切つて神の旅
ラグビーの泥人形が立ち上がる
鎮痛剤より鯛焼の方が効く


関根誠子
花伝書を閉づ北風を深く吸ふ
舞ふ落葉大合唱となりにけり
雪催ひ遠くの町に肩すくめ
捨てばちのど演歌ひと節年用意
賀状書く生きて在ること小前提


瀬戸優理子
凍空のくちびるを焼くカレーうどん
音楽性違う木枯らしのようだ
研究に疲れた博士ジンベイザメ
後悔を素手でさわるな軒氷柱

2024年2月17日土曜日

令和五年 秋興帖 第一(竹岡一郎・山本敏倖・杉山久子・仲寒蟬・関根誠子)



竹岡一郎
生身魂八方の数珠煩いと
舌鋒を受け流したる扇置く
夜郎自大牛飲馬食長夜舌禍
愛しく踊れ独り善がりのあはれさを
剣戟を踊りし魂も喰へば淡し
干され攣る若き傲りへ鵙高音
わざはひの恋文を焼く紅葉かな


山本敏倖
音写そして竹の春から離脱する
新蕎麦や土蔵造りの店構え
空間をねじりて紅葉黒潮へ
木の実落つ一光年の代名詞
十一月むろん丹後丹後かな


杉山久子
小鳥来る遺影の母はふつくらと
相席の赤子笑はす柿日和
露の世や紙は言葉を受けとめて


仲寒蟬
遠縁の人踊り出す盆の家
風船葛陰気なる仕舞屋に
洋梨へ明るくしたるランプの灯
南にも北にも火山稲の花
秋灯や本屋素通りするは恥
蟋蟀と蟋蟀会ふを奇遇といふ
芒一本抜いて夕日を通しけり


関根誠子
独り居の友の嗄れ声秋暑云ふ
日暮里と書けば秋立つ心地して
秋の水飲んでは語尾をうすめをり
新蕎麦や門なき方の店に入り
母さんてふ誰かを温くする仕事

2022年12月23日金曜日

令和四年 夏興帖 第十/令和四年 秋興帖 第一(筑紫磐井・浅沼 璞・のどか・関根誠子)



筑紫磐井
蚊帳釣りしラジオの時代ありしかな
バルサンに一家離散の夏来る
浪花節流れて夕立後の夕餉


【秋興帖】
浅沼 璞
汗マスク盆栽ブライアン・イーノ
抗菌の回転のドア遠くなる
新走り手長足長マスクして
印相にウイルスふやし給ふかな
 ――義父コロナにて身罷る(短連句)
留守テルの秋うらゝかに消ゆと云ふ
 三日月の端こぼす灰寄せ


のどか
秋へログインハートの雲のQR
「サクマ式ドロップ」の缶木の実鳴る
「ポトフ」とのメモのある鍋夜食とる
ぶだう酒や「メインディッシュは山鴫」と
山頭火忌の人恋ひしさや破れ障子
山頭火忌や美姫の声聞く歓楽街
山頭火忌一合の酒尽きにけり
   

関根誠子
盆用意まずベランダを丸く掃き
香具師ら去り蒼ずむ杜の夜空かな
扇風機も秋墨色の風流し
たこ焼酒場に昼のにぎわひ狗尾草
山粧ふ牛に生まれし破戒僧

2022年10月28日金曜日

令和四年 夏興帖 第五(瀬戸優理子・浅沼 璞・関根誠子)



瀬戸優理子
リラの風整列拒む詩のことば
人見知り泡もてあそぶ天使魚
人形の臍の穴押す夕涼み
首強く突っ込む夏シャツの青年
十薬や我に残れる根暗の根


浅沼 璞
カルミアの一つ一つに目が入る
猫背にて健康サンダル健康です
サンダルのなき勝手口風ぬけて
三角形ばかりで山小屋を作る
山小屋の節穴の目を動かしぬ
夕焼を呼び上げにけり立行司
笹飾り吹かれて右へ右へかな


関根誠子
若葉風わたしイルカになつてゐる
刈り跡を鋭くめぐり夏の蝶
里山やゆつくり蝿に留まらるる
夏至南風(カーチーベー)沖縄はオキナワを忘れない
弁当売りにやつと日影のめぐり来し

2022年1月14日金曜日

令和三年 秋興帖 第八(井口時男・小野裕三・関根誠子・田中葉月)



井口時男
ひぐらしの鳴かぬ国なり自爆テロ
胃袋へ黒蔦が這ふ今朝の秋
身を宙に吊つて南瓜の蔓太し
マスクして金木犀の花を過ぎ
匍匐して花野に斃れ帰らざる
鬼柚子がごつごつとあるでんとある
肩先に月尖らせて少年は


小野裕三
のど自慢すぐに退場野分晴れ
しゃあしゃあと案山子となっていたりけり
台風の色蹴散らして進みけり
逆さまに生き物吊るす秋彼岸
啄木鳥やきれいさっぱり失恋す


関根誠子
鉄を組む男等ひかる野分晴
朽葉まじりに蟬の死の簡単なこと
秋酒場毒飲むやうに微笑んで
駅裏は落書の通ねこじゃらし
秋の空宇宙の色の混ざりをり


田中葉月
つくづくひとりつくづく水草紅葉かな
六道の辻に誘ふ蛍草
秋蝶や疵に届かぬ舌なんて
月光や一角獣をさがしゆく
嬰児と鏡のあはひレモン置く

2020年11月6日金曜日

令和二年 秋興帖 第一(大井恒行・辻村麻乃・関根誠子・池田澄子)



大井恒行
ヒトはあらわに顕わに生きる秋コロナ
弱いオトコがまず消えるウイズコロナ
秋青空ウイズコロナウイズ核


辻村麻乃
立秋や家具にハンマー振り下ろす
ティンパニの音加速して秋驟雨
影と云ふ影踏まれたり牛膝
おぢさんの面つけてゐる竈馬
疵のある男に並び芋煮会
大夕焼死んでしまへば話せない
小屋裏の真夜中の月笑ひたり


関根誠子
秋風の傾斜に合わせ蝶の翅
オガサワラシジミ忌と書き破り秋
傷秋のまず三食を正さむか
玉子かけ御飯秋茄子きうと噛み
虫しぐれ手本なき世の星仰ぐ


池田澄子
入口と書いてはあって雨の萩
底紅の紅の嘆きをほっておく
羊羹の陰気な色を十三夜
秋深く物置のあの箱は何
いなつるびしんぱいされていて嬉し

2017年6月9日金曜日

平成二十九年 春興帖 第八(羽村美和子・渕上信子・関根誠子・岸本尚毅・小野裕三・山本敏倖・五島高資)



羽村美和子(「豈」「WA」「連衆」)
啓蟄のアラビア文字が笑いだす
花辛夷空は剥落し続けて
風葬の風のはじまり根白草
ヒヤシンス す・さす・しむとは使役
沈丁花どこまで香りか秘密か


渕上信子
スカイツリーの土筆の空よ
玻璃戸のむかう二月輝く
恋猫のごと恋せしことも
花冷に来て御座なりのハグ
逃水のさき蕪村すたすた
終末時計すすむ春昼
入社式挨拶はAI


関根誠子
春昼やウメノキゴケの密かなる
真砂女大師ホワイトデーをわたくしす
花を待つ心くさめとなりにけり
花曇とろり渦巻く池の面
飛花落花大声あげてゐる虚空


岸本尚毅
漂ふが如き寒さや蝌蚪を見る
春雨の今日いくたびの雨あがり
雨ながらものの芽遠く見ゆるかな
あたたかや石をへだてて違ふ苔
白木蓮眺めて辛夷なつかしく
梅ほどの白さの花を初桜
花は過ぎ新川崎の駅も古り


小野裕三
春に目眩む沖に客船都市に愛
サーカス団つやつや並ぶ木の芽雨
紋章の麗らかなれば町に住む


山本敏倖(山河代表・豈)
連翹の左心房なら別冊
花びらを踏まないように調律す
感触は海市一の糸からまる
天球の一片に挿す黄水仙
蛇行してこの世に辿り着くつつじ


五島高資
蛇口から水のふくらむ二月かな
涅槃図を洩れたる影を拾ひけり
腹の底から吐ききつて二月尽
朝へ出る道のうねりや竹の秋
水を送るのみの橋あり春の雨
爪先を回してゐたり春の闇
槌音の木霊や霞む室根山

2017年1月13日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第四 (夏木久・関根誠子・池田澄子・仲寒蟬・青木百舌鳥・坂間恒子・中村猛虎)





夏木久
君は言ふ「あの時もこんな月だった」と
案山子叫ぶみんなが傘を指してゐる
花野柄ウラを返せば大枯野
原因は工事現場の隙間風
冬の蝶茶托使ふか使はぬか
難民がゐて路地裏に猫がゐて
思ひ出はモノクロームでも夢はカラー




関根誠子
ライ麦畑にだあれもゐない小春風
中央分離帯の若木も落葉時
遺伝子非組替豆乳着膨れて
捨て頃を過ぎたる木偶と棚が冬
鏡に映す逆さ睫毛や開戦日
内蔵助に合はす泣き真似年用意




池田澄子
かろがろと傾き枯れの葦よ光るな
人類に玄関の戸の結露あり
オムレツと隣る冬菜と光の中
遠くから来てくださった髪に雪
何鳥か此処よ此処よと春隣




仲寒蟬
冷やかに判捺すことも仕事のうち
増毛剤そこそこ売れて神の留守
綿虫に全速力といふことあり
いつもいつも南を向いてゐる北風
風花に草原の香の混じりをり
刃を入れて目覚めさせたる冬林檎
星雲を連れて白鳥来たりけり





青木百舌鳥 
雪曇り遠山が無くなにか無く
大綿の綿を曳きゆく虫小さ
船降りて冬の日向にすこし揺れ
岬山の木々を透かせて初明り




坂間恒子
鵙高音思考の断片染色す
冬の鳥ふたつの島の目配せす
柩出るとき皇帝ダリアに風







中村猛虎(なかむらたけとら)1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。
妹が冬眠用の穴を掘る
クリスマスヒトの背骨の彎曲す
掃除機の掃除している小春かな
時雨るや机で削る頭蓋骨
冬すみれ死にたくなったらロイヤルホスト
除夜の鐘合間に離婚届書く

小春日や退屈そうなふくらはぎ




2016年9月30日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第四 (木村オサム・青木百舌鳥・関根誠子・小野裕三)



木村オサム(「玄鳥」)
蝉時雨よりの円形脱毛症
ほとんどの昼出目金に食われけり
どちらかというとプールの隅にいた
日に一度花氷着く無人島
虫の夜に放ちて残ることばが




青木百舌鳥(「夏潮」)
術もなく呑まれ涼しき雲の中
軒となく木瓜に楓に氷旗
空掻いて落ち逃げてゆく蜥蜴かな
保留地の草ばうばうにペチュニアが
釣堀の準備中なるもぢりかな
近づけば樹々に塞がれ遠花火
親切で無知で花火の警備員





関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会所属)
茶を点ててこころ励ます夕蓮
廻し読む恩師の手紙夜の秋
唄ひつつ匣へいなづまをしまふ




小野裕三(海程・豆の木)
大人ばかりぞろ目のように入梅す
熟考の頭潜っていく大暑
騎馬像を成し遂げている日照りかな
卓球部員揃えば薄い虹に澄む
向日葵咲く絶対の地下へ大東京





2016年9月2日金曜日

平成二十八年花鳥篇 追補 (関根誠子・飯田冬眞)



関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
ざんざ降りその日椿は地獄絵に
うぐひすや葛をひいたるよな食後
緑陰を分け合ひ私・ハト・すずめ




飯田冬眞(豈、未来図)
半紙にも縦目横目や鳥帰る
理科室の標本覗く揚羽蝶
貝塚は満腹の跡早稲の花
楮の実の赫赫と生れ縄文居
目を伏せよ武器庫に黒き薔薇は散る






2016年5月13日金曜日

平成二十八年春興帖 第九 (花尻万博・関根誠子・田中葉月・仲 寒蟬・山本敏倖・小沢麻結)



花尻万博
褶曲は蒲公英入れず思い出す
木の国の電波の中を木の芽時
病無き四畳半の薊かな
桐の箱スイートピーも汝が為に



関根誠子(寒雷・や・つうの会・炎環)
漕いで漕いで郵便配達夫は蝶に
春風やもう洟が出て洟が出て
咲くよりも散る花が好き旅が好き
夕がすみ果てしなくなる糸の先
散る桜あとはしいんとなる吉野



田中葉月
川底のゆるゆる逃げる春愁
あのときのあなたでしたかアネモネは
石段の石の吐息は蓬色
喝采はサーカスの中 落椿   
あれは夢だつたと言つてたんぽぽへ



仲 寒蟬
風の出てそれらしくなる花馬酔木
春眠しいくつ電車を乗り換へても
我を見る春暮の鏡裏返す
他ならぬここが海市か大東京
マトリョーシカ最後に春の闇のこる




山本敏倖(豈・山河)
きさらぎの外へ火宅の相聞歌
感触は陽炎ほどの甘味料
まっすぐに花の国境点描画
三月のあんばらんすのあんぶれら
一片の春の雪にもある重さ




小沢麻結
 薄紙に書かれし事件春灯下
永き日やむかし水母は骨を持ち
春の蠅丸ノ内線銀座駅





2015年10月23日金曜日

平成二十七年秋興帖 第六 (もてきまり・木村オサム・仲田陽子・月野ぽぽな・関根誠子・ななかまど・真崎一恵・とこうわらび・川嶋ぱんだ)



もてきまり
前の世の情事の余韻萩こぼれ
鬼なれば骨盤で漕ぐすすき原
逝くまでは次頁つづく野分かな



木村オサム(「玄鳥」)
目の前の烏瓜より説得す
飲み忘れた薬飛び出す鳳仙花
ニュートンの林檎売り物にはならず
聖骸布開いて芋の類出す
鼻孔より通じる永遠の芒原




仲田陽子
紙ヤスリかけても良夜凹凸す
小鳥来る致死の絵具を使いきり
鵙鳴くや足ばかり描くクロッキー
流星の捨てられている裏出口
ひと昔前を行くなり猫じゃらし





月野ぽぽな(「海程」)
水よりも水音澄みわたる夕べ
土にある戦の記憶曼珠沙華
うつしき引っ掻き傷よ流星は




関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
百日がもう了るのね百日紅
椿の実すこし歯を見せ行き違ふ
体内のしづかな秋を胃カメラは




ななかまど((   )俳句会)
満月を香ばしく焼く日曜日
武庫川に月見団子の降る心地
鉄棒をぐるりと回って星月夜
玻璃戸上り桔梗の花の開く音
栗飯の粒柔らかく片想い
平皿に檸檬潰れて死んでいる



真崎一恵 ((   )俳句会)
秋風や底意地悪いクロワッサン
秋の川靴に魚の棲んでをり
左手に小説右手には秋気
蚯蚓鳴く後ろで叫ぶ洗濯機
いつだって梅酒ばかりね蚯蚓鳴く
名月や肌荒れ気味の顔周り
秋茄子の顔を思い出して電話



とこうわらび ((   )俳句会)
送り火に送られゆくや夜の道
葡萄の実皮むくひまも待ちきれず
食卓に堂々と立つむかご飯
雨のたび一歩遠のく残暑かな
コスモスの波に揺れたるわが心



川嶋ぱんだ ((   )俳句会、船団の会)
初紅葉椅子よりながい君の脚
手をつなぐときは静かな秋の夜
路地裏を通って帰る月見かな
言うことを聞けよ十六夜まで待てよ
紅葉且つ散ってあなたを抱きしめる