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2024年11月15日金曜日

令和六年 秋興帖 第三(岸本尚毅・坂間恒子・ふけとしこ・仲寒蟬)



岸本尚毅
扇風機の風ゆるやかに秋の蠅
ミヒャエルといふ老人や花煙草
表札の無くて人住む穴惑
この町にプロレスが来る草の花
居る蠅のただぼんやりと糸瓜かな
壁白く人の影あり美術展
手の甲を嗅がせて奈良の鹿いとし


坂間恒子
実むらさき声だすものに群鶏図
月光に呼ばれたものから折れる
デユーラーの視線の先の曼珠沙華
心象の岸辺の馬に秋がくる
シャガールの驢馬の声する秋の虹


ふけとしこ
こほろぎや函を出渋る昭和の書
秋の日を針出して死ぬ蜂ありて
月を見て木星を見て雲を見て


仲寒蟬
八百長の疑惑も愉し西瓜割り
秋の蚊といふといへども痒きこと
身上は揺るることなり酔芙蓉
懐柔は無理いきりたつ蟷螂に
蚯蚓鳴く兵馬俑にも聞こゆらむ
人よりも案山子が多いではないか
耳打をされて角力の本番へ

2024年10月18日金曜日

令和六年 夏興帖 第二(神谷波・瀬戸優理子・岸本尚毅・鷲津誠二・坂間恒子)



神谷波
水無月の雨音こきみよき軒端
夕立の後鉾杉の誇らしげ
老夫婦だけとなりたる百日紅
打打発止太陽と熊蝉と
散髪をしてきたばかりらし日傘


瀬戸優理子
チョコミントアイス止まらぬ温暖化
カッペリーニ待つ夏蝶を見失う
昼寝覚プリンはちょうどよい固さ


岸本尚毅
満面に口ある鯉や青あらし
茅の輪くぐる人を水鉄砲で撃つ
這ふもゐる夏蚕の匂ひほのぼのと
味噌汁に海老の頭や雲の峰
罰杯を高くさしあげビアホール
冷房や札に銭のる募金箱
日盛や役所掲ぐる日章旗


鷲津誠二
夕立やいよゝ凛々しき開墾碑
不登校の家にすくつと大向日葵
片ゑくぼ亡き母に似て藍浴衣
うたた寝の駄菓子屋の婆蚊遣り香


坂間恒子
白昼の鶏鳴あがる栗の花
かすかなる馬の嘶き忍冬
黒揚羽一頭ひそむ水琴窟
どこまでも鉄路のひかり夕蜩
ゴ-ギャンの裸足の娘と目が合った

2024年6月28日金曜日

令和六年 歳旦帖 第六/春興帖 第二(花尻万博・早瀬恵子・大井恒行・小野裕三・水岩瞳・中西夕紀・神谷波・坂間恒子・山本敏倖・加藤知子)

【歳旦帖】

花尻万博
角見ゆる枯野の奥に消ゆるまで
佛手柑の働く人にまぎれゆく
降りてくるものをうべなひ夕焚火
外套や父と遊びし納屋に似る
日の暮れのねんねこいつも母を入れ
蜜柑山越えて木の国また清める


早瀬恵子
敲の与次郎ひょいと龍頭(りゅうがしら)
初諷経(はつふぎん)多星人の風立ちぬ
父と母泉殿から初お香


大井恒行
山鳩のふくみ鳴きかや去年今年
結晶は氷雨と書かれ匂う朝
初春の「ああ姉さま」と書く手紙


【春興帖】


小野裕三
前よりも耳の大きな初閻魔
空耳の人集まって春近し
早春の君に蹄のようなもの
棘あるものみな置いてきて雛遊び
人相のはっきりしない蜂の子よ
猫柳たましいならば弄ぶ
夏近しよくもわるくもふしぎな子


水岩瞳
節分や鬼にも好かれたきこころ
北窓を開く濁世も久しぶり
地虫出づ此処はかつての駐屯地
我に反骨されど蛙の目借時
つくしんぼ一斉蜂起とまでいかず


中西夕紀
世を閉づる前髪長し卒業す
ももいろの和菓子いただき卒業す
国後の霞見やりて息深し
上気せる顔に手をやり蜃気楼


神谷波
蕗のたうひよこひよこバレンタインデー
はなやかに幕の開きたる春の宵
蕎麦すする鶯の声近すぎる
こつぜんと婆消えゆれる藤の花
よき隣とはムスカリと黄水仙


坂間恒子
引き出しに椿あふれて眠られず
春の蛇回転扉押し行けり
春鴎漁港はあくび噛み殺す
花の雨鏡売りくる夜の透き間
桜蘂降る真夜中の非常口


山本敏倖
陽炎の仮説を崩すかんつおーね
戦艦の腹から蝶の生まれけり
初蝶の波紋はたしか変ロ短調
雪解けの音につまずく囲碁帰り
言の葉以前の言の葉つなぐ飛花落花


加藤知子
春雷や青むか吠えるかなだめるか
純なるもの人身御供として芽吹く 
花冷えの散るまであなた口に詰め
口からは食べぬ桜餅歯痒い
口数でもの言うおのこ春時雨

2023年10月21日土曜日

令和五年 夏興帖 第二(坂間恒子・杉山久子)



坂間恒子
空間の青無花果の受洗のいろ
無花果の葉陰に浮かぶ片えくぼ
白昼の鶏鳴あがる栗の花
昼の月からす揚羽の素手でくる
大仏の背中がひらく棄民の夏


杉山久子
派出所に届きし穴子よく動く
愚痴聴いてやる白玉の芯を噛み
白南風やこすると魔人出る指輪

2022年10月7日金曜日

令和四年 夏興帖 第二(池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月)



池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば


加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ


杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ


坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山


田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる

2022年7月15日金曜日

令和四年 花鳥篇 第一(仙田洋子・山本敏倖・坂間恒子・辻村麻乃)



仙田洋子
藤波が藤波を呼ぶ昼下がり
潮風にこぞりて傾ぐ松の芯
墨堤に座して草餅桜餅
金継のウェッジウッド春深し
とんとんとけふも生きのび雀の子
行く春や駅の手書きの時刻表
炒飯の焦げ目くつきり夏近し


山本敏倖
陰暦に遠近つけるいそぎんちゃく
そう言えばあじさいは複眼である
空蝉や組香薄く残りおり
かっこうの蝦夷訛りを私す
真昼間を垂直にする蜘蛛の糸


坂間恒子
烏瓜の花流謫に似しおもい
山奥の宿の白蛾を追い詰める
少年らの聖歌合唱ほたる飛ぶ
寂しさの真ん中に渦太宰の忌
足裏の湿疹あざやか薔薇繁殖
大仏の背中がひらく夏つばめ
夢のなかまで十薬の花追いかける


辻村麻乃
しやがみこむ人人人の汐干かな
汗の子の目を丸くしてマンボウ来
楽屋出て雨の気配や金亀虫
夏大根頷くだけの夫と食ぶ
雷一閃海の底ひを見しと云ふ
電線の撓むビル間の夕薄暑
老鶯の仕切りに鳴きて湾明くる

2022年4月29日金曜日

令和四年 春興帖 第一(仙田洋子・仲寒蟬・坂間恒子)



仙田洋子
ありたけの椿と唇をふれあはす
見つめられすぎて椿の落ちにけり
うなだれて帰る子供や春夕焼
戦争の好きな人類鳥雲に
桜時雲の行方は知らぬまま
花鳥の声の眩しきほどに降る
好きなだけ大きな声を春の山


仲寒蟬
まだ風呂を出て来ぬといふ受験生
だんまりの二三羽混じり百千鳥
望潮ハワイ年々近づき来
湖からの風まつすぐに雛の市
春昼を行く半分はすでに死者
春愁にベートーヴェンは重すぎる
碩学の朝の日課や目刺焼く


坂間恒子
きさらぎのキリンとキリンすれちがう
モラトリアム同士擦れ合う春の小島
教科書にアンネの隠れ家鳥ぐもり

2022年2月18日金曜日

令和三年冬興帖 第二/令和四年歳旦帖 第二(加藤知子・坂間恒子・辻村麻乃・杉山久子・松下カロ)

【冬興帖】

加藤知子
神さびの白菜二枚剥ぐ守り
年の瀬の葬にしぐれず白い骨
冬の木の瘤はあらわに胸の音
サーカスを追いかけ手振る落葉樹
三階の偶然あわい冬すみれ


坂間恒子
蜂の巣のころがりきたる軽さかな
チェーホフのかもめ着水冬の沼
大枯れ野風呂桶捨てに来る男
ストーブの炎に巣箱のような厨子
裸木となりて大きな御神木


辻村麻乃
団栗の止まるを知らぬ奥の院
切株に腰掛け拾ふ木の実かな
目庇に勇者のごとき冬日射す
武甲山水の記憶の凍りつく
国神の銀杏黄葉降り注ぐ
寒鯉の群れて光や放生池
どの人も五体投地や床紅葉


杉山久子
放られし黒き塊へ粉雪
肉・皮・毛振り分けられて雪の上
腸を展げて雪の上真赤


【歳旦帖】

坂間恒子
流行語大賞「ジェンダー平等」も
御神木の根方歳旦の雪の声
実南天なかを祝詞のあがりけり
白息をかけ厄除け玉砕く
プリンはあまい新春レストラン


辻村麻乃
かむながら蒼き光芒大枯野
凩や真夜の底ひを掬うては
天井の穴に目のあり嫁が君
歳晩や老女のカートごろごろと
羽子板や大笑ひより打ち返す
訪ねたる袋小路や鳥総松
あらたまの磨崖仏より光落つ


松下カロ
鶴となる朝のシャワーに目をあけて
折鶴と鶴の間に夜の川
二羽の鶴影をかさねてゐたるのみ

2021年11月19日金曜日

令和三年 秋興帖 第一(仙田洋子・渕上信子・妹尾健太郎・坂間恒子)



仙田洋子
うさぎ小屋のにほひのむつと休暇明
ちちははの家の昏さや葛の花
チェンバロの音やんでをり秋の昼
空瓶で殴るせつなさ秋の浜
秋の蟬土蔵に罅のはしりけり
秋暑し墓地分譲の旗残る
踏切のかんかん鳴るや秋の暮


渕上信子
女郎花テレビ会議の背景に
秋の雷「昭和史」はいまB29
その花を想ひ出しつゝ石榴の実
コロナ禍や墓参叶はぬ今日子規忌
監督の名はMuscat美味しさう
彼岸花盛りを過ぎて鳶高し
長き夜の手紙の末尾with love


妹尾健太郎
旅ゆけば柿が鈴なり遠州路
打つ時を虚空へ飛ばす添水かな
藪枯何の倉庫か聞いたよな
いつからと思う時から虫の時
昼を君と何にもかむらない紫苑と


坂間恒子
曼珠沙華鉱毒事件おわらない
野牡丹の真昼を走る亀裂かな
夕暮れの鶴一羽いる違い棚

2021年10月1日金曜日

令和三年 夏興帖 第三(加藤知子・仲寒蟬・網野月を・岸本尚毅・坂間恒子)



加藤知子
新緑を絞めた手明日は浦安
はつ夏の天使の羽はみゅうと鳴く
江戸川水門無痛分娩痛のあり
前面に女陰あらわが五月晴
青葡萄シーラ・ナ・ギグの宿りかな


仲寒蟬
空中に鳥静止させ青嵐
門柱に薔薇を這はせて魔女の家
葛切を加筆されたる壁のメニュー
裏口の水桶に酒登山小屋
中洲に鵜鳴くほどに月昇りゆく
背泳ぎの雲呼び寄せてをりにけり
両足を海へ突つ込み虹くつきり


網野月を
性別は別せぬものに星祀る
天皇が頭を下げて秋めきぬ
平和とは油絵の餅か玉葱
ひしゃげた奴が元気な馬に瓜と茄子
手踊の外輪をそつと抜けにけり
寒蟬や外灯一つ幽霊に
テレビの中のつづくの文字や法師蟬


岸本尚毅
紫陽花が頭の如く暗がりに
来ては去る人に雨だれ虎が雨
黒雲のしづかに蟬のなきつづけ
墓原や空蟬草に墓石に
梵妻の粉もてつくるソーダ水
明易や見えて色なき家具調度
避暑の町淋しやアーティチョーク枯れ


坂間恒子
虹ふたえ額田王袖をふる
青芒風の言葉を研いでいる
夏薔薇(そうび)拒食症の眼とも
仙人掌を捨てし日のことはくらやみ
黒揚羽柩の蓋をあけにくる

2021年7月16日金曜日

令和三年 花鳥篇 第三(坂間恒子・中村猛虎・木村オサム)



坂間恒子
からすうりの花サックス咆哮す
黒揚羽ダリの時計にふれるかな
フラメンコダンサー手拍子立葵
阿修羅像の片鱗しめす宵待草
倒木に五匹の子亀暗くいる
    

中村猛虎
 監視
揚雲雀追いかけていく縄梯子
深呼吸して細胞に木の芽吹く
高速道にもんどり打ちて山桜
囀りに踝まで埋まる
パソコンの全てにカメラ花の冷え
菜の花の非常ボタンに届かざる
チューリップ君のどこにも翳がない


木村オサム
梅日和片手だけ出す箱男
本を読む人の手を見る花の昼
囀りや疲れた影が先に浮く
陽に透かすリポビタンD麦の秋
若作りしてさくらんぼもらひけり

2021年4月30日金曜日

令和三年 春興帖 第二(仲寒蟬・曾根毅・坂間恒子・岸本尚毅)



仲寒蟬
「ほ」と口を開くるかたちに梅の花
補助輪はづれ春風となりにけり
戦さなどやめて草餅でも食はう
たんぽぽの途切れしところ船着場
雲すこし混ぜて編まれし春帽子
ふらここや天より取つて来し楽譜
蠅生まる幻想交響曲の鐘


曾根毅
ガーベラをときどき眺め受験生
花粉症首から黄ばみはじめたる
花粉症受話器に耳を当てながら


坂間恒子
海桐の実手に切り傷のある景色
ほうぼうの尾鰭の戦ぎかの子の忌
大仏の背中がひらく惜春


岸本尚毅
春立ちし海や日暮に間のありて
子供泣く三人官女冷然と
なつかしき粉よ欠片よ雛あられ
春や昔の春ならぬ我が吹出物
埋もれてゐる団栗や地虫出づ
砂白く流れし跡や春の雨
磯巾着保育士は髪かきあげて

2021年1月29日金曜日

令和二年 冬興帖 第二/令和三年 歳旦帖 第二(坂間恒子・曾根 毅・仙田洋子・仲寒蟬・杉山久子・山本敏倖・竹岡一郎・小林かんな)

【冬興帖】

坂間恒子
熊手立つ旧街道の金物屋
天平の十二神将除夜の鐘
表札は夫婦別姓注連飾る
裸木にあまたの触手水かげろう
冬カモメ投網のように移動する


曾根 毅
青黒き舌の裏側流氷来る
誕生の光を纏い冬の瀧
狼の匂い生木の匂いかな


仙田洋子
綿虫の突然ゐなくなる日暮
小春日の峠天使の降るところ
嘴に少年の血や百合鷗
 奥飛騨クマ牧場 二句
寝転んで餌欲しと熊手を挙げぬ
芸をする熊をあはれと思はずや
切り結ぶ相手はをのこ寒稽古
雪女涙こぼせばまたふぶく


仲寒蟬
人だますやうには見えず狸の目
まだ誰か待つてをるらし夕時雨
一羽覚めやがて水鳥みな目覚む
風呂敷の四隅より枯すすみけり
隣より釘抜き借りて神の留守
梟の目に寄り道の一部始終
冬ざれやしらじらとして石切場


【歳旦帖】

杉山久子
フリースの人ばかりなり初電車
初吟行リュックサックの鈴鳴らし
餅花の下うたたねの女の子


山本敏倖
生き物の輪郭作る淑気かな
三界双六顔を忘れて二歩戻る
BLACKブラックというガムを噛む元旦
初日から黒い涙のこぼれけり
にんげんの見えぬ間を縫い独楽疾る


竹岡一郎
内戦の年賀切手を未来へ貼る
廃墟屋上屠蘇酌む餐を暴動下
死をかろく白く演じて木偶二体
春著一群地下道を出て広ごれり
山川のまろさかなしむ雑煮かな
嫁が君家なき者についてゆく
蓬莱や吉野暮れれば火の音のみ


小林かんな
縫始パジャマの腰のゴムゆるく
餅食いたし餅目の前にあり遠し
三口使って母の最後の祝い箸
生姜湯よつくづく母の旋毛見て
傘寿の父傘寿の母を入れる初湯

2020年12月18日金曜日

令和二年 秋興帖 第七(坂間恒子・仲寒蟬・飯田冬眞・前北かおる・五島高資)



坂間恒子
蝋燭屋の猫が出てゆく曼珠沙華
秋雲のあつまってくる変電所
枯蟷螂ガレのランプに挑みける
駅頭の枕詞なり秋風
シャガールの驢馬の声する秋の虹


仲寒蟬
深閨にあり鈴虫も飼ひ主も
対岸の方がよささう曼殊沙華
向かう三軒猫の出てゐる良夜かな
恐竜の糞の化石や濁り酒
防空壕の蓋を隠せと生身魂
六国史そろへて残る虫の中
萩見事こんなところに植ゑられて


飯田冬眞
秋彼岸正座する者できぬ者
保護色を脱ぎて蟷螂らしくなる
不知火やまだ抜けざりし刺を持つ
電車来るまでコスモスと揺れてゐる
親知らず抜けばどこかに鵙の声


前北かおる(夏潮)
大木に梯子三本櫨ちぎり
野をわたる煙の匂ひ櫨ちぎり
櫨ちぎり髪ごはごはになりにけり


五島高資
追ひかけて土手に濡れたり秋の虹
実朝の矢を探しけり藤袴
金木犀デパート遠くなりにけり
傾いてあめつちを知る茸かな
竹林や銀河の端に風を結ふ
木馬より降りて夕月と帰りけり
水切りの石の消えたる銀河かな

2020年5月8日金曜日

令和二年 春興帖 第八(飯田冬眞 ・小沢麻結・坂間恒子・網野月を・井口時男・中村猛虎)



飯田冬眞
臘梅や含羞の色訥訥(とつとつ)と
あくびして虚無を身に飼ふ恋の猫
愛の日のわが影乾き始めをり


小沢麻結
夜開く花に似て雲春立ちぬ
輪を半歩外れ立ちたり新社員
ポケットから洗濯挟み姫女菀


坂間恒子
イスラエルヘ帰る人あり朝桜
朝桜ほどよきところ梯子かな
はっきりしないのが勝か李の花


網野月を
薄氷あの子に踏まれるまで待って
出目金は遠い親戚ムツゴロウ
言葉遣いの知らない人と花疲れ
膝替えは兄弟弟子や弥生果つ
西東忌吾は孫弟子でありにけり
遅日の象師の面影を追っている
祈るとは諦めぬこと染卵


井口時男
春風やクラリモンドは自転車で
シャボン玉子らと子雀跳ねやすし
天地の開けておたまじやくしかな
我や悪相雪柳の花扱き取る
ウイルスの春ひつそりとケバブ売
春の雪はだらまだらに世界病む
惜しみなく無人の街の夕桜


中村猛虎
三椏のどの道行けどフラクタル
花の下抱き寄せようか押し倒そうか
卒業歌終えて少年のジハード
菜の花の濃厚接触しているか
春の夜の発音できぬあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

2020年1月24日金曜日

令和元年 冬興帖 第四/令和二年 歳旦帖 第三(岸本尚毅・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・竹岡一郎・妹尾健太郎・坂間恒子・大井恒行・仙田洋子・山本敏倖・堀本 吟)

【冬興帖】
岸本尚毅
団栗と蜷と見分けて冬の水
ひつぱられ今川焼は湯気漏らす
玉子酒なまぐさければなぐさまず
数へ日や昼のカラオケ野に聞こえ
永久に留守冬の風鈴ぶら下げて
風よりも小鳥に揺れて枯るるもの


下坂速穂
コンビニの人とは話すマスクかな
猫に髯人に髭あり根深汁
冬の木に人に未完の物語


岬光世
狭き路地狭くかたづけお酉さま
足首の若きを廻し日向ぼこ
立ちしまま枯野の中に水を飲む


依光正樹
冬ざれを行けば秋桜子と波郷
朝ごとの露に親しき帰り花
淋しくもなくて独りの帰り花
あとついて歩くてふこと耳袋


依光陽子
水鳥のこころ水なき街をゆき
刈萱の枯れて谷中の咖喱店
小春日やなんぼでもよしと値つけて
翌る年ひらく莟よ冬構


竹岡一郎
木菟の羽搏きに護符搔き分くる
狩る我は水鏡にも映らない
大き胃を割けば熊あり半ば溶け
僧形や霜置く牙を踏みしめて
大鷲や目玉くわへて聖山へ
黒帝が声無き口を開き切る
熊の掌を煮て弦月は三日月に


妹尾健太郎
時空間もつ湯湯婆の内と外
火事場から場を移したら馬鹿力
九重の天守の上の冬菫
温恩怨をんなの音を雪女
片手鍋より煮凝り滑り出す宇宙


【歳旦帖】
坂間恒子
数え日のロダンの首を思いけり
黒ジャージの少年かたまる大晦日
羊飼いの少年初夢はひつじ


大井恒行
嫁が君つぼうちねんてんアンパンマン
われ子年ねんてんは猿アンパンマン
初日かな知恵ある鳥を慰まず


仙田洋子
いそいそと羽子板市をひとめぐり
朝より羽子板市のよく濡るる
遊び女の売らるる如し羽子板市
吉徳の小さき店や年の市
柚子風呂の匂ひどの家からとなく
新玉やくろがねの如隅田川
東の空をまづ見て二日かな


山本敏倖
水平の世を水平に除夜の鐘
大年や水の器を用意する
広島への道のりにあるお雑煮
人類の戦なき世を読初む
嫁が君次の客間で婚の声


堀本 吟
子ねずみの初齧りかな宇宙卵
家猫をいじり窮鼠と気づかせぬ
駆けおりてゆくバベルの塔鼠算
かがようて篝火草のまたひらく
ヒヤシンス耳奥に声のとどくまで

2019年12月6日金曜日

令和元年 夏興帖 第五/秋興帖 第五(山本敏倖・神谷 波・木村オサム・坂間恒子・浅沼 璞・林雅樹・北川美美・ふけとしこ)

夏興帖

山本敏倖
草木染め夏の銀河で濯ぎおり
透析の力を借りて濃紫陽花
箱眼鏡たましいの色見つけたり
万緑の遺骨のような乳母車
夜の秋明日には消える舟を編む


神谷 波
蝉の殻あつめて忘れ脱ぎ散らかし
館涼しそこのけそこのけ撞木鮫
いやらしいまで張り付いて汗のシャツ
イケメンに髪切つてもらひ青田風


木村オサム
真夜も目を開ける令和の羽抜鶏
翼竜の骨の曲線更衣
柩無き金魚のための平方根
仏蘭西語に男女の区別かたつむり
ぐにゃぐにゃの樹をまっすぐに蝉時雨


坂間恒子
炎天へ自己確認の手形押す
夕顔は源氏の扇にのっており
薔薇園のはてあり裸婦の横たわる


秋興帖

浅沼 璞
ネクタイをゆるめる首の夜長かな
むかれたる種なし葡萄ふるへたる
無理じひの握手よろしく鰯雲
頂上で絶え絶えの鯖雲ありき
両手なら飛べた空かも明治節


林雅樹(澤)
秋晴や尿もて崩す砂の城
山の端のアドバルーンや稲を干す
下痢すれば出づる涙や竈馬


北川美美
山に霧ワインセラーに石の門
虚子たぶんやはらかからむ秋の空
秋風や犬がよろこぶ牛の骨


ふけとしこ
秋天や鳶が掴みそこねし杭
台風が来る枳殻が棘磨く
蛇穴に入る窯番が菓子を割る
頬杖のをとこに松は色変へず
黄昏をくれなゐ帯びて鰯の目
菊の香やもう息をせぬ髭を剃り

2019年11月29日金曜日

令和元年 夏興帖 第四/秋興帖 第四(仙田洋子・小野裕三・松下カロ・仲寒蟬・神谷波・杉山久子・木村オサム・坂間恒子)

【夏興帖】
仙田洋子
りんりんとベル鳴りにけり夏旺ん
おとろへし女にたかる藪蚊かな
草むしるたびに小さき蟻の湧き
   沖縄 四句
太陽のどつとふくらむ暑さかな
恋疲れしてはプールの底を見る
酒漬けの飯匙倩かつと口ひらきけり
星空に溺るるごとしハンモック


小野裕三
夏の人体空を飛ぶのも仕事です
海見えて「海」と声上げバス暑し
貴石売られゆくを眺める端居かな
悪魔には尖った尻尾夏の雨


松下カロ
噴水の向うに他郷ありにけり
レース編むマリーアントワネットの髪で
ひまはりと影を重ねて抱き合ふ


仲寒蟬
そんな人簡単服で会ふほどの
超新星爆発優曇華そよぎけり
真向ひに髭面座るところてん
青嵐山の向かうを子は知らず
食ふものも食はるるものも泉へと
蠅叩大凡人といふ境地
コンビニに列をなしたる祭足袋


【秋興帖】
神谷波
朝顔や瓜坊兄弟回れ右
青瓢夕陽が夕陽らしくなる
しんがりをあひつとめます法師蝉
留守番に芭蕉のさやぐ軒端かな
いつもどほり隣家に明かり十六夜
哀願調猫の鳴き声釣瓶落とし


杉山久子
関取の躰へ伸びる無数の手
銀杏を踏みし肉球匂ひけり
ライバルの菊をまづ見る品評会


木村オサム
短命の家系かまきり仁王立ち
脇腹のぜい肉つまむ蚯蚓鳴く
電磁波をしばし忘れて虫時雨
天高しジャブは打ったらすぐ戻す
平和とは桃の産毛を思ふこと


坂間恒子
秋刀魚の骨きれいにはずす外科医かな
漁港の秋原稿用紙燃え上がる
銀木犀その奧疾走オートバイ

2019年11月8日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第一・秋興帖 第一(坂間恒子・飯田冬眞・大井恒行)

●夏興帖・秋興帖
【花鳥篇】が長びいているうちにすっかり晩秋となりました。応急の措置として、【夏興帖】と【秋興帖】を合わせて掲載することにさせて頂きます。これからお送りいただく方は、【夏興帖】又は【秋興帖】と書いて(もちろん両方出していただいて結構です)お送りください。掲載も、(【花鳥篇追補】と)【夏興帖】・【秋興帖】を併行して掲載させていただきます。
今後の予定としては、12月には【冬興帖】も開始し、季節に追いつきたいと思います。
「俳句新空間」第12号には、令和元年中の句をすべて上げたいものと思っております。
よろしくご協力ください。


【花鳥篇追補】
坂間恒子
鬱の日のうつにプールの匂いする
コンパスは兵士の遺品藤は実に
剥製の雉子の見つめる祭壇座


【夏興帖】
飯田冬眞
竹の花うつろなる節かさね咲く
胸中に星座を蔵し鹿の子百合
蛇苺イヴに見つかる前に踏む
革命は老人のもの青林檎
老眼に翠巒のひだ迫りくる
器とは窮屈なもの水羊羹
脱いでなほリュックの痕の汗を負ひ


【秋興帖】
大井恒行
自画像の涙さあれが風の秋
「あゝ」と泣き「嗚呼」と叫べる鸚鵡かな
私年号に「福徳元年」秋めく多摩
水引の赤を結びて移る風
わがうしろうばわれやすき風の秋

2019年6月14日金曜日

令和元年 春興帖 第四(前北かおる・坂間恒子)



前北かおる(夏潮)
春の蠅ぷいと失せたる日なたかな
春昼の千住あたりのガスタンク
お見合ひによき日楓の花の紅


坂間恒子
緑立つ令和の空気壜に詰め
松の芯「令和」墨書の払いかな
令和なり茹で筍を子に送る