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2026年1月16日金曜日

令和七年 夏興帖 第八/秋興帖 第六(眞矢ひろみ・小沢麻結・花尻万博・林雅樹・渡邉美保・小林かんな・田中葉月・小野裕三)

【夏興帖】

眞矢ひろみ
なめくじり縮みて十万億土かな
蛍火や軌跡はコンマとなりて消ゆ
あぢさゐの毬のへこみといふ重力
翳す手に天日の痛み原爆忌
地獄絵を見てあっさり味の氷菓とす


小沢麻結
真ん中はゴジラ峰雲三兄弟
手のひらに掬ふ湖夏の朝
旱星戦争は降るものならず


花尻万博
暮らしの灯いまだ切なく鯰かな
夜目利ける片手拝みの涼しさよ
麦の香に巡礼粗く伸びにけり
短夜に頭失ふ釘ありぬ
観音の曲線に沿ふ台風圏
なめくじり引用元と別れ来て
折にふれ正気をよぎる蛍かな


林雅樹(澤)
肌脱ぎの婆ァが踊り込んで来た
盆踊最高潮やアパツアパツ
薄羽蜉蝣掌にかざし見せユーチューバー


【秋興帖】

渡邉美保
鰯雲国境まで水汲みに
秋日差し退屈さうな空気入
松ぼくり秋思の靴が蹴ってゐる


小林かんな
身ほとりに夜業の人を呼ぶボタン
朝寒や別の女が血をとりに
鎮痛剤追加UK80’sも
いぼむしり血をとれ左でも右でも
鹿火屋守の銅鑼を聞きたし夜のふけて


田中葉月
船虫の一族郎党ひきつれて
等間隔に団栗落ちてゐる未来
月の船喫水線をにじませて
箱舟の選ればれしもの秋の虹
ちょい悪のオヤジが好きで秋の蜂


小野裕三
恋とはなぜ落ちるものかと鰯雲
退屈ねって夜の林檎に火をつける
蟋蟀の続篇である飛行場
五代目を名乗る長身小鳥来る
末っ子で演歌が好きで林檎好き

2025年11月21日金曜日

令和七年 夏興帖 第四/秋興帖 第二(岸本尚毅・小野裕三・瀬戸優理子・豊里友行・山本敏倖・仲寒蟬)

【夏興帖】

岸本尚毅
材木や流るるごとき蟻の道
風鈴が鳴る老人の食べ残し
山の虫大きく密に網戸かな
臍見せて見られて避暑の娘たち
夕ぐれを人々遊ぶ芋の花
鬼の貌なる空蟬や百合の葉に
夕蟬に家無き人等肌を脱ぐ


小野裕三
未草彼女はきれいに定規を当てる
来た順に人魂埋める夏満月
湖で暮らす一生はたた神
平泳ぎに無駄な動きのありにけり
ラムネ瓶集めて発明クラブかな
予告状めいて広がる夏木立
それからは罠のごとくにバンガロー


瀬戸優理子
鶏がらを潰す日盛の力士
顔の無い父母と逢う昼寝覚
みぞおちにふくるる闇へほうたる来い
こんぷらいあんすありんすどぜう鍋


【秋興帖】

豊里友行
赤とんぼ生きてるだけも丸にする
鎧なり喧嘩した日の松ぼっくり
〆切よ跳び箱の虹をください
歩け歩けの天体ワンちゃんショー
小鳥来る琉球石灰岩の島
木の実ふる空爆の世を棄てちまえ
麦の穂がゲルニカの風を切り取る


山本敏倖
言霊がモノクロになる震災忌
茸飯を届けるボタンを付けている
手のひらに乗っかる虫の音をさがす
単三の灯りが一点真葛原
銀漢に近づくように歩き出す


仲寒蟬
耳掻の先の小鈴や今朝の秋
来月は人手にわたる盆の家
その茸抜けば全山滅ぶべし
調律師いつしか竈馬になる
地虫鳴くこの世黄泉よりおそろしく
鼻筋のきれいな人と新酒酌む
啓示とはたぶん単純からすうり

2025年5月9日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第二(ふけとしこ・加藤知子・杉山久子・小野裕三)



ふけとしこ
あらたまの出窓に壜の蒼透けて
年新た琉球硝子のデカンタも
正月の火棚の端にのぞくもの
     ・
芹を摘む渡りの沼といふ水辺
切株に斜めの裂け目春霰
春闌けて地下に大きな舞妓の絵


加藤知子
日の丸を立てぬ酸っぱさお元日
矢の淑気玉依姫の妊活は
寝正月キソウテンガイと化す流れ
人日のパソコン夫が消えた椅子
矢面はマリアの青衣春隣
心筋の狂れて小躍り二月尽
白梅の真白きにごり乳溢れ
啓蟄や渡台の父のロマンとは
停戦の合意決裂花粉症
無条件降伏なんかたんかよたか


杉山久子
七種粥吹き令和はや七年目
鳥帰るみな俯ける列車内
春の川渡りて友の来る日あり


小野裕三
早見表の隅々までも淑気かな
白い目も黒い目もある初芝居
数学的素養羨ましき雨水
魂を抜く仕草にてぶらんこ揺らす
雪割草僕はあなたの指がほしい
日本の音のきらきら遍路道
正解のように湖沈丁花

2025年4月11日金曜日

令和六年 冬興帖 第二(鷲津誠次・加藤知子・杉山久子・小野裕三)



鷲津誠次
家計簿に亡母の俳句や冬銀河
冬帽子なで肩丸め喫煙所
寒柝や認知の父の寝息濃く
路地裏の老犬呻く霜夜かな
腰低き青年庭師冬紅葉
朝霜や警笛強き三輌車
晩婚の子のなき卓やおでん酒


加藤知子
寝る前の水仙香るキラークイーン
狐火におそわれダイナマイトの仕掛け
冬満月ママァーとはなんだかなあ
寒九雨死者が挨拶に来て困る
喪の家の姐御のように寒牡丹


杉山久子
光る眼の六つ狸の親子らし
鳩白く囲われてゐる寒さかな
一陽来復一輪挿しの淡き影


小野裕三
似顔絵に見つめられたる初冬かな
兄弟の同じ角度で冬に入る
形よき白鳥ばかり眠りだす
ときおりは音符噴き出す鯨かな
魂の抜けたあとにて悴めり
カーディガン団体行動苦手です
斎場に行方の知れぬコートかな

2024年10月11日金曜日

令和六年 夏興帖 第一(小野裕三・曾根毅・大井恒行・仙田洋子・辻村麻乃)



小野裕三
白靴の昔の形なりにけり
夏の瀬を偽者となり歩くかな
虎の字を名に含ませて夏木立
兄弟子が最後に残る滝見かな
鏡よ鏡昼顔のある生活
親友になれるなれないハンモック
フランスのありとあらゆる夏の旗


曾根毅
欄干に男の集う海月かな
身支度に紛れ込みたる夕蛍
青葉山父の腋から溢れ出し


大井恒行
青芒傷つき抱く昼下がり
火炎なか闇笛草笛祭笛
ひとすじの神に吊られる夏の兵


仙田洋子
夏草やドーベルマンの貌ぬつと
産声に万緑の山目覚めけり
蒼穹に太き虹あり重信忌
言の葉のしづかやはらか月涼し
ひとりには大きすぎたる緑蔭に
ほどほどに離れて鷭と大鷭と
老いながら青蘆原に紛れゆく


辻村麻乃
あめんぼの求婚波を掴みたる
選択の光受けたる蓮の花
いづれかが落つる定めよ柿の花
卯の花腐し他人のやうな一人つ子
病とは白き野にあるハンモック
振り向きて鶴の貌なり半夏雨
合歓の花閉ぢて光を仕舞ひけり

2024年6月28日金曜日

令和六年 歳旦帖 第六/春興帖 第二(花尻万博・早瀬恵子・大井恒行・小野裕三・水岩瞳・中西夕紀・神谷波・坂間恒子・山本敏倖・加藤知子)

【歳旦帖】

花尻万博
角見ゆる枯野の奥に消ゆるまで
佛手柑の働く人にまぎれゆく
降りてくるものをうべなひ夕焚火
外套や父と遊びし納屋に似る
日の暮れのねんねこいつも母を入れ
蜜柑山越えて木の国また清める


早瀬恵子
敲の与次郎ひょいと龍頭(りゅうがしら)
初諷経(はつふぎん)多星人の風立ちぬ
父と母泉殿から初お香


大井恒行
山鳩のふくみ鳴きかや去年今年
結晶は氷雨と書かれ匂う朝
初春の「ああ姉さま」と書く手紙


【春興帖】


小野裕三
前よりも耳の大きな初閻魔
空耳の人集まって春近し
早春の君に蹄のようなもの
棘あるものみな置いてきて雛遊び
人相のはっきりしない蜂の子よ
猫柳たましいならば弄ぶ
夏近しよくもわるくもふしぎな子


水岩瞳
節分や鬼にも好かれたきこころ
北窓を開く濁世も久しぶり
地虫出づ此処はかつての駐屯地
我に反骨されど蛙の目借時
つくしんぼ一斉蜂起とまでいかず


中西夕紀
世を閉づる前髪長し卒業す
ももいろの和菓子いただき卒業す
国後の霞見やりて息深し
上気せる顔に手をやり蜃気楼


神谷波
蕗のたうひよこひよこバレンタインデー
はなやかに幕の開きたる春の宵
蕎麦すする鶯の声近すぎる
こつぜんと婆消えゆれる藤の花
よき隣とはムスカリと黄水仙


坂間恒子
引き出しに椿あふれて眠られず
春の蛇回転扉押し行けり
春鴎漁港はあくび噛み殺す
花の雨鏡売りくる夜の透き間
桜蘂降る真夜中の非常口


山本敏倖
陽炎の仮説を崩すかんつおーね
戦艦の腹から蝶の生まれけり
初蝶の波紋はたしか変ロ短調
雪解けの音につまずく囲碁帰り
言の葉以前の言の葉つなぐ飛花落花


加藤知子
春雷や青むか吠えるかなだめるか
純なるもの人身御供として芽吹く 
花冷えの散るまであなた口に詰め
口からは食べぬ桜餅歯痒い
口数でもの言うおのこ春時雨

2024年5月31日金曜日

令和六年 歳旦帖 第二/令和五年 秋興帖 補遺(小野裕三・水岩瞳・神谷波・早瀬恵子・浜脇不如帰)

【歳旦帖】

小野裕三
麺類の看板続く小正月


水岩瞳
元旦や揺れて机の下に入る
二つの神籤いいとこ取りする辰の年
二日はや隣りの坊のバイク音
胡桃入りのごまめまだある五日かな
図書館に十代の句集春隣


神谷波
まんまるの月数へ日の窓ごとに
元日の暮れかかる頃家揺れる
吹きとんでしまふ正月気分かな


【秋興帖】

早瀬恵子
長き夜の脳内パズルかけめぐる
降りみ降らずみアナーキーな秋
点滴と酸素の母じゃ澄み渡る


浜脇不如帰
あかるくは月と椛と基督の肩
ほつるるはできれば秋分の日でも
双肩がちきゆうをわかるむししぐれ
右肩を失くしたやうに瀑したり
馬肥えてやつと雲の上を語る
月の砂齧る6番アイアンに
地にいちど転がりし柿かも基督

2024年5月17日金曜日

令和五年 秋興帖 第八/冬興帖 第八(小野裕三・佐藤りえ・筑紫磐井)

【秋興帖】

小野裕三
臆病な貨車十月の石運ぶ
銀杏紅葉家に番犬法に番人
金木犀に助太刀されていたりけり
技師ひとり冷えていくなり始発駅
曼珠沙華予知夢の中に並びけり


佐藤りえ
糸瓜殿夕顔殿に日の高し
ガブリエル・ミカエル神の汲む新酒


筑紫磐井
八百政が秋のかたちのものひさぐ


【冬興帖】

小野裕三
片恋をもう隠さずに石蕗の花
人影が人影として飲む葛湯
冬薔薇女の名前欲しがりぬ
錯覚の消えぬ枯薗ありにけり
梟の部首を集めていたりけり
泣かぬように冬の金魚が翻る


佐藤りえ
そらで書く地図にか黒き冬の川
風邪の日眼鏡になにも見せない日


筑紫磐井
戦後史も昭和史も時雨けり

2023年8月12日土曜日

令和五年 春興帖 第五/花鳥篇 第四(望月士郎・浅沼璞・曾根毅・岸本尚毅・中村猛虎・花尻万博・小野裕三・松下カロ

【春興帖】

望月士郎
金箔に息をふーっと春薄暮
胸びれに尾ひれの触れて春の宵
うれしくてスイートピーのぐるぐる巻き
入学式ちりめんじゃこの中に蛸
耳にきて風少し巻く糸繰草


浅沼 璞
梅ちらりほらり背中をかく道具
看板を枝つきぬけて桜かな
薄氷の眼鏡の縁をこする音
蒜の臀部の皮を剥きだしぬ
小柄にて春闌の土手塗りたくる
春雨のチラシの猫の迷子かな
霾ると恐竜の鼾になりぬ


曾根 毅
春疾風木像の顔二つに割れ
松の枝先雪嶺のざわざわと
春めくや坂の時間が長くなり


岸本尚毅
漫談が出て寄席楽し春の蠅
うち眺め白きところは茅花かな
頭上やや澄みて遠くの霞みをり
土の上に墓ある雀隠れかな
松の芯引き傾けて葛若葉
水深きところ舟ゆく柳絮かな
春惜しむ土人形の西行と


中村猛虎
ハンドバッグに入りきらない春愁
ぶらんこに酔う年頃になりました
春泥の中より救急救命士
恋の猫監視カメラを横切れる
下萌や卵子凍結する女
卒業証書丸めたままの三元号
海馬より始む啓蟄鬱きざす


花尻万博
菜の花に入りゆく眼菜の花に
濡れている水黒々と鹿尾菜干す
遠霞む人工林の祓ひかな
菩薩らの半眼永久に豆の花
けむりぐさ温みし水の中けむる


【花鳥篇】

小野裕三
ハッピーと名につく店や抱卵期
思案する頭集まり浮巣めく
輪唱の尻切れとんぼ黄楊の花
キッチンにアネモネの色混ぜにけり
捩花が曲馬団へと雨降らす


松下カロ
海見えて芯まで齧る青りんご
鯉幟ちらり山手線外回り
青りんご投げて静けし日本海

2023年6月16日金曜日

令和五年 春興帖 第二/歳旦帖 補遺(杉山久子・小野裕三・神谷 波・ふけとしこ・筑紫磐井・鷲津誠次)

【春興帖】

杉山久子
鳥の巣を垂れて何やら赤きもの
就活も終活もして四月馬鹿
人類に少しの未来桜咲く


小野裕三
垂直に水音溜めるチューリップ
卒業の足踏ん張っていたりけり
遠足の螺旋階段下りていく
七色のうちのひとつが桜鯛
惜春のカレー魔術のごとく煮る


神谷 波
宿り木の吐息のやうなもの余寒
ぐらぐらと湯が沸き恋の猫の声
猫だつて首を傾げる紫木蓮
花過ぎのコンクリートの上に蚯蚓


ふけとしこ
鳥雲に御納戸色の栞紐
箒目の深きところへ落椿
落椿玄武の首に載るもあり


【歳旦帖】

筑紫磐井
初芝居洒落にもならぬ澤瀉屋
山だけが宝や信濃一月は
ひとすぢの背筋あふれ初山河


鷲津誠次
数え日の叔父は懲りなく旅支度
悪友の喪中葉書や年詰まる
社宅にはひとつの灯り大晦日
靴溢るる子ども食堂福寿草

2023年6月9日金曜日

令和五年 春興帖 第一/令和四年 冬興帖 補遺(仙田洋子・大井恒行・五島高資・小野裕三・鷲津誠次)

【春興帖】

仙田洋子
春装の一歩大きく踏み出しぬ
自転車の上ゆさゆさと桜かな
夕桜山姥も髪なびかせて
夜桜や母にあやしき血の流れ
夜桜や首吊る縄のぶらぶらと
夜桜やふつふつと血の沸きはじむ
春の水十指を抜いてしづかなり


大井恒行
降るはみな花にはあらずきのこ雲
林檎の花かの痛点に至りけり
水際にかげろう白き花ゆすら


【冬興帖】

五島高資
縄跳びや夕日のあとに誰か入る
水けむる川を見ている遅刻かな
狐火のかなた電気のとどこほる
泣きながら天ぷら揚げる冬茜
シリウスや身ぬちに炎抱きたり


小野裕三
目撃者だけを集めて兎狩
空港に狐火混ざる帰国便
決戦のように並んで冬薔薇
白菜を祝うがごとく抱えけり
赤い陽の赤い毛布の赤い人


鷲津誠次
湯気立てて父母に捧げん私小説
吾子のため童話を紡ぐ冬銀河
大寒の朝湯賑わう介護園
定年まで指折る日々よ川千鳥

2023年1月8日日曜日

令和四年 秋興帖 第二(杉山久子・小野裕三・松下カロ)



杉山久子
ニュース速報二度目は無音草に露
感染の向かうに揺れて葛の花
コンビニに無いもの零余子・鞭・無償


小野裕三
校長と教頭の距離花梨の実
身に入むや影のひとつは毛むくじゃら
菊人形展の看板運びけり


松下カロ
つばめ帰るゆれる電線空へ置き
泣きながら国境をゆく鰯雲
コスモスの逆手を誘ふ少女たち

2022年10月21日金曜日

令和四年 夏興帖 第四(小沢麻結・小野裕三・曾根 毅・岸本尚毅)



小沢麻結
打水や濡れていきいき足の指
揚羽蝶見返す暇に見失ふ
ぐんと寄る峰雲初めての乗馬


小野裕三
傷心に虹と名づける選択肢
靴多き体操教師午睡かな
ゼリーとゼリー運ばれてくる食堂車
麻服を着て見殺しにしていたり
誰もかも歯並びのよき浴衣かな
観音に立ち姿ある雲の峰
噴水を待つ間のオーデコロンかな


曾根 毅
瀧迅し我の時間と異なれり
蛇苺人間の皮垂れ始め
肖像画青葉の闇に委ねられ


岸本尚毅
海光ることさへ暑き港かな
冷房のロビーに浮輪提げて待つ
戦隊のレツドを名乗る日焼の子
昼のことふとなつかしき夜釣かな
手で落す夏の落葉や作り滝
草のやうに薔薇が咲きをり避暑の日々
裏山に仙人草やうなぎ焼く

2022年8月12日金曜日

令和四年 花鳥篇 第三(曾根 毅・瀬戸優理子・浜脇不如帰・小野裕三・小林かんな)



曾根 毅
葉脈の薄きひかりを囀れり
光る桃われと齢をともにせし
湖の水底固し花の冷え


瀬戸優理子
合格を決めし拳や春にひらく
巣立鳥指紋の残る子供部屋
泣きすぎの眼が雲雀野に途中下車
アマリリス恋した記憶だけ脳死
花は葉に二度目は事実婚えらぶ


浜脇不如帰
テロメアの増しゆく癌のねぐるしさ
無訓練冷酒キラーT細胞
涼しげにきびすまで真空パック
七重虹ラザロにもキリスト泪
涼やかに地を刺す十字架の柔和
貫く棒じゃなく彩濃しなつやすみ
カルバリの十に畏まるがラムネ


小野裕三
春眠の稀に平行四辺形
設計図通りに咲いて一輪草
豆の花双子似たまま老いゆけり
囀りや離れ離れにショベルカー
傷心に虹と名づける選択肢


小林かんな
初夏を行きつ戻りつ鶏冠の緋
あめんぼと古墳と浮かぶ昼下がり
空海へさかのぼる寺燕子花
鳥たちも天皇陵も茂りのなか
山滴る神杉のそこかしこ

2022年3月25日金曜日

令和三年 冬興帖第七/令和四年 歳旦帖第七(小野裕三・渡邉美保・曾根 毅・鷲津誠次・浅沼 璞・眞矢ひろみ・望月士郎・小沢麻結・前北かおる)

【冬興帖】

小野裕三
新雪の方程式を解きにけり
続篇のようにヤクルト置いて冬
水仙をまんなかとする都市計画
抽斗に隠されていく百合鴎
冬菜みな手傷を負っていたりけり


渡邉美保
冬麗の海底にある山と谷
白き鳥集まる河口寒に入る
冬薔薇一輪しんと日を待てり


曾根 毅
昼更けて寒の椿を潜りけり
読む力まだ衰えず冬の庭
ゴールドジムから寒い東京湾望む


鷲津誠次
霙打つ小駅に朽ちし伝言板
ひとり言好きな家系やかいつぶり
冬夕焼転校生はまた転校


浅沼 璞
凩が廃車を鳴らす渚かな
名盤のジャケットあまた北塞ぐ
空腹のしやつくり凩だよ俺は
赤々と目か降る雪に紛れをる
血の跡をくねくねさせてしまふ狩
寒紅やてかるきしめんの表面
甍へと雪とぎれなく風にのり


眞矢ひろみ
来し方は行く末のさき帰り花
極寒の魚骨ぶつ切る疱瘡痕
人参の色淡くなる都会かな
冬の空はぐれる鷗見てゐたり
枯蓮の水出しきって水の中


【歳旦帖】

望月士郎
てのひらでさわるあしうら去年今年
初句会シャーペンの中小さなバネ
元日やシンメトリーに鼻をかむ


小沢麻結
かまくらの天は雪染むベニヤ板
千歳を手から手巡り歌かるた
初仕事指すらすらとパスワード


前北かおる(夏潮)
綱曳の綱のとぐろに餅を撒き
綱曳の綱のべられて雪の町
綱曳の綱に跳びのる丸坊主


小野裕三
あとがきのごとく始める新日記
ヨーヨーの跳ね上がりたる淑気かな

2022年1月14日金曜日

令和三年 秋興帖 第八(井口時男・小野裕三・関根誠子・田中葉月)



井口時男
ひぐらしの鳴かぬ国なり自爆テロ
胃袋へ黒蔦が這ふ今朝の秋
身を宙に吊つて南瓜の蔓太し
マスクして金木犀の花を過ぎ
匍匐して花野に斃れ帰らざる
鬼柚子がごつごつとあるでんとある
肩先に月尖らせて少年は


小野裕三
のど自慢すぐに退場野分晴れ
しゃあしゃあと案山子となっていたりけり
台風の色蹴散らして進みけり
逆さまに生き物吊るす秋彼岸
啄木鳥やきれいさっぱり失恋す


関根誠子
鉄を組む男等ひかる野分晴
朽葉まじりに蟬の死の簡単なこと
秋酒場毒飲むやうに微笑んで
駅裏は落書の通ねこじゃらし
秋の空宇宙の色の混ざりをり


田中葉月
つくづくひとりつくづく水草紅葉かな
六道の辻に誘ふ蛍草
秋蝶や疵に届かぬ舌なんて
月光や一角獣をさがしゆく
嬰児と鏡のあはひレモン置く

2021年11月5日金曜日

令和三年 夏興帖 第八(ふけとしこ・林雅樹・家登みろく・小野裕三・池田澄子)



ふけとしこ
かはせみの切手で返す夏見舞
向日葵の丈や線状降水帯
行く夏をウバタマムシの長き擬死


林雅樹(澤)
犬の首輪光り新樹の夜を過ぐる
草いきれすごいマスクを外したら
虫入り放題破れし網戸より


家登みろく
二つ三つ氷菓家路を急がるる
影向の松片蔭といふ御加護
をぢさんはかつて小次郎捕虫網
驟雨去り驟雨のやうに街始動
夏雲潔白行くべき道は知らぬ道


小野裕三
サイダーの溢れ出したる希望かな
こいのぼり方向音痴でも愉快
宵祭本祭とも小雨かな
三伏の白きも黒きも放し飼い
「ぜんぶ嘘」プールサイドに告白す


池田澄子
災害級大雨予報以後涼し
蟬穴に突っ込んでみし指を扨て
蓮つぎつぎひらきおらんと寝返りぬ
夕立の先ずは匂いを先立てて
夏野あぁ光の匂いとはこれか
暗い目という比喩にまた夏は秋
無花果裂く我が生誕の覚えなく

2021年4月9日金曜日

令和三年 歳旦帖 第十一(中村猛虎・小野裕三・飯田冬眞)



中村猛虎
初詣やっぱり僕は日本の子
トーストの飛び出し損ね女正月
テーブルにイヌの骨壷年の暮れ
金箔のこぼれて加賀の祝箸
ウーバーイーツの銀輪光る年の暮
リセットすスマートフォンの初神籤


小野裕三
棒読みのような書き初め飾るかな
ストリップ劇場にある宝船
手毬唄町より橋の大きかり


飯田冬眞
鉄塔の奥に初富士構へたる
へその緒の函に金文字初雀
ともに来てばらばらに去る嫁が君

2021年3月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第九/令和三年 歳旦帖 第十(小野裕三・飯田冬眞・妹尾健太郎・浜脇不如帰・五島高資・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】


小野裕三
プレッシャーに強き青年悴めり
鳰の岸幽霊話ある酒場
オーバーの自由な色で吊るされり


飯田冬眞
寒椿奔馬のごとき運命線
冬の蝶壊るる色を引きずりて
冬木立鏡の国に迷ひこむ
寒木瓜の瘦せて原色のくちびる
寒明の紙は一途なる凶器


妹尾健太郎
妙薬の角狩人の手には無し
にょっぽつりつららのつらのうつらつら
物さがす冬服のどれみふあ
縄跳に時化はじめたる校舎裏
この辺かやや下か大根の首ねっこ


浜脇不如帰
おんらいんしょっぷのシラタキのカラミ
虎河豚はあぶらぎらないフルボディ
「ほんじゃこりゃぁ」Gパン畳む寒夕焼
敗北に得るもの診出す河豚鍋
カピカピが新米ならば缶バッジ
生きて置く要するに意地寒鮃
主イエスの血さらりキッパリ霜柱


五島高資
乗り降りもなくドア閉まるレノンの忌
星空やマスクを取りに帰りたる
飴玉を落として洗ふ寒九かな
寒林や赤色灯の駈け廻る
涸れてなほ夜の病院に水の音


【歳旦帖】

下坂速穂
近況のさても短き雑煮かな
寒紅や江戸の鬼門に棲んで佳き
足音の風のごとしや寒念仏
人去りて人あらはれて露地寒し


岬光世
初凪へ斉しくあらむ願ひ事
切山椒開化の町に商へる
親筆や上寿を記す年賀状


依光正樹
人待つてゐるせはしさに年用意
年の瀬のコートまとつて暑がりで
年の音ひとつひとつの芽が生きて
眺めては灯りがあたり年の花


依光陽子
極月や我が笑ひ声遠のき
見えて来るものを見るべく初旦
星を読む人のことばを仏の座
一月や動かないもの動くもの

2021年1月15日金曜日

令和二年 秋興帖 第十(小野裕三・妹尾健太郎・水岩 瞳・渕上信子・佐藤りえ・筑紫磐井)



小野裕三(海原・豆の木)
手土産のように広がる鰯雲
号外に包まれ朝の桃匂う
眠る日も泣く日も秋の遊覧船
龍淵に潜むあたりに学術書
老いてなお象に一芸黄落期


妹尾健太郎
初風のはじまるところ無地番地
葡萄とは思わなかったのが不思議
まるがおはあんまりいない菊人形
栗飯の栗慰めているお米
秋寂ぶや抜くに難儀な茄子の棘


水岩 瞳
三条を上リ西入ル秋の蝶
あーだこーだと人はコロナ禍水澄めり
虫籠や共同リビング食事付き
うつかりと集めてしまふ木の実かな
どうせならあの人に付く牛膝


渕上信子
九月二七日   俳句詠む力士正代初優勝
九月二八日   秋晴や赤い小さな傘干して
九月二九日   庭へ出ん秋蚊一匹ぐらゐなら
九月三十日   掃除当番秋草を少し刈り
十月 一日   今日の月マスク外して深呼吸
十月 二日   雲動き子夜の満月煌々と
十月 三日   長き夜のもういちど近現代史


佐藤りえ
インターチェンジ芒のなかへきりもみに
楽しかつた日西日に駅のドアひかる


筑紫磐井
紅葉赤くなるとき 水青くなるとき
いぢわるな書評をながめ九月盡