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2020年7月24日金曜日

令和二年 花鳥篇 第九(北川美美・小林かんな・椿屋実梛・下坂速穂)



北川美美
鶯や昨日の庭に手を入れて
みつちりと十薬の庭文字うつり
老鶯や巨石並べて庭石屋


小林かんな
黒南風や果実を龍と名づけたる
指笛は市場のおじい雲の峰
芭蕉畑より日焼けして子と大人
気圧910ヘクトパスカルソーダ水
海蛇を燻して吊るす朱の瓦


椿屋実梛
令和二年春がなかつた気がしてる
闇市のごとくマスク売らるる商店街
ひとりしづか巣籠り生活慣れてきて
自粛といふ言葉に慣れて豆ごはん


下坂速穂
真夜中の雨明け方の燕
行かぬ方の道うつくしく麦の秋
麦秋を見つめてしづかなる二人

2020年5月15日金曜日

令和二年 春興帖 第九(花尻万博・竹岡一郎・中山奈々・北川美美・大関博美・小野裕三)



花尻万博
蜷の道昼長々とありにけり
花降りて沼として薄まれる
浜風と背中を反らす花の中
木の国の鳥居の次の桜となり
半身に花を頂きイノブタらは
我儘に泣かされている昼の蝶


竹岡一郎
疫の春腹話術師の舌の赤
黄砂に紛れこはい寝首を搔くめえか
啓蟄や疫や正義や魔女狩や
「死すべきは死す」と逆打ち遍路這ふ
教室空つぽ恋猫さかり放題
疫神おぼろ首都マンホール次々跳ね
もともと死霊の息吸ふ我ら花万朶


中山奈々
蜥蜴が出てきた世界そのものがバベルの塔だつた
疫病の塔や春燈より崩れ
新聞の日に日に薄し花のあと
誰彼と保有の黄砂降りにけり
服をみな紫とせよ鐘おぼろ
どの国の言語で死者数を伝へやうかとすみれを踏む


北川美美
永き日の窓側に置く電波時計
花粉症湿り気のある黒土かな
春の夜の我は豆腐を抜けてゆく


大関博美
LEDランプにレタス盛りなり
悪女とはなれぬ青春シクラメン
どこからの白タンポポやパン工房


小野裕三(海原・豆の木)
亀あれば鼓膜の奥で鳴きにけり
寄居虫の散文的な歩みかな
数式を究めし学長花ミモザ
糸遊の丘へと歩む安息日
肉体は眠り始めて豆の花

2020年4月24日金曜日

令和二年 春興帖 第六(ふけとしこ・渡邉美保・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)冬興帖/歳旦帖追補(北川美美)



ふけとしこ
先勝の朝や燕の来ることも
道行や花どきの花道をいざ
三鬼の忌ピンクッションを針が落ち


渡邉美保
さへづりの樹下接点のなき二人
小惑星に点灯夫ゐてあたたかし
味噌壺の味噌乾びけり春の雷


下坂速穂
誕生日までの一ト月青き踏む
たんぽぽや戦の足跡の上に
春光や水を湛へて星の病む


岬光世
早春の男同士の動物園
粗朶を折る音乾びたり遅き春
目の合ひし犬の吠えたる梅見かな


依光正樹
一園をうち鎮めたる梅花かな
日は遠く目白は近くふんだんに
三椏の黄色い蜜に誘はれて
華やかな気持がひそむ大試験


依光陽子
嫩草や秋は芒が丈隠し
みつまたの花に雨より早く着く
木が水を吸ひ上ぐる音の春を遊べ
漂鳥や振り向けば東京は花


【冬興帖】
北川美美
暖房の人感スイッチにて稼働
罪思ふ百合根の鱗外すとき
ホットワイン球体となる干葡萄(巨峰)

【歳旦帖】
北川美美
死ねば居ず地水火風か四方の春
嫁が君囲みて話聞きやらむ
嫁が君餅に上がりて脚白し

2019年12月13日金曜日

令和元年 夏興帖 第六(浅沼 璞・林雅樹・北川美美・青木百舌鳥・岸本尚毅・田中葉月・堀本 吟・花尻万博・井口時男・渡邉美保)



浅沼 璞
ねむたげなまなこ降りくる花あふち
ポットからそゝぐ父の日の無言
階段のぢつと動かぬ更衣
冷房のスカートは腰ほそくなる
日本の目鼻だちして欠き氷


林雅樹(澤)
池に浮く子供の靴や蝉しぐれ
うんこちよつと出ちやつた花火きれいだな
キューピーの波に漂ふ驟雨かな


北川美美
喧嘩するためのトマトを山積みに
血のごとくトマト煮詰めてゐるところ
赤赤とY子弔うトマトかな


青木百舌鳥(夏潮)
きらきらと化繊の綾や明易き
夏山や鍬つかふ音の乾びたる
日曜の会議へ歩く祭町
懐メロにグッピーの舞ふ喫茶室


岸本尚毅
笑ひをる顔の若あゆ新茶汲む
安物の水鉄砲のうすみどり
三才や回つてみせて素つ裸
避暑の人寒しと云うて犬を抱く
空蟬は雌日芝の葉を固く抱く
ラムネ飲む女とラムネ売る男
夏帽子振ればジブリの映画めく


田中葉月
美しき雨つれて来よ道をしへ
眠れないああ眠れない蟇蛙
禁断のくだものを食べはんざきに
ふあの雨音またずれてゐるバルコニー
蝉時雨こんなに軽い本音かな


堀本 吟
季のみだれ
季のみだれ四通八達蟻の旅
ねむの花金魚からまた金魚生れ
けもの道わけいっても雲の峰


花尻万博
問い掛けの途中昼寝始まり
守宮の尾疾走までは夢境
花茣蓙を阿保程敷いて病み直す
羽蟻に強き反芻ありにけり
陸の魚に潮近付けぬ朝は曇り


井口時男
沢水ひかりころがる百の青胡桃
火の文身水の文身都市雷雨
夏の夜をこれ天山の雪の酒
  *「楢山節考」のモデルの村で。三句
夕焼の早桶沢へ七曲り
晩夏晩景矍鑠として山畠
老農に志あり夏逝くも


渡邉美保
水音に誘われて入る木下闇
折紙のピアノ鳴りだす大西日
沼杉の気根膨らむ半夏雨

2019年12月6日金曜日

令和元年 夏興帖 第五/秋興帖 第五(山本敏倖・神谷 波・木村オサム・坂間恒子・浅沼 璞・林雅樹・北川美美・ふけとしこ)

夏興帖

山本敏倖
草木染め夏の銀河で濯ぎおり
透析の力を借りて濃紫陽花
箱眼鏡たましいの色見つけたり
万緑の遺骨のような乳母車
夜の秋明日には消える舟を編む


神谷 波
蝉の殻あつめて忘れ脱ぎ散らかし
館涼しそこのけそこのけ撞木鮫
いやらしいまで張り付いて汗のシャツ
イケメンに髪切つてもらひ青田風


木村オサム
真夜も目を開ける令和の羽抜鶏
翼竜の骨の曲線更衣
柩無き金魚のための平方根
仏蘭西語に男女の区別かたつむり
ぐにゃぐにゃの樹をまっすぐに蝉時雨


坂間恒子
炎天へ自己確認の手形押す
夕顔は源氏の扇にのっており
薔薇園のはてあり裸婦の横たわる


秋興帖

浅沼 璞
ネクタイをゆるめる首の夜長かな
むかれたる種なし葡萄ふるへたる
無理じひの握手よろしく鰯雲
頂上で絶え絶えの鯖雲ありき
両手なら飛べた空かも明治節


林雅樹(澤)
秋晴や尿もて崩す砂の城
山の端のアドバルーンや稲を干す
下痢すれば出づる涙や竈馬


北川美美
山に霧ワインセラーに石の門
虚子たぶんやはらかからむ秋の空
秋風や犬がよろこぶ牛の骨


ふけとしこ
秋天や鳶が掴みそこねし杭
台風が来る枳殻が棘磨く
蛇穴に入る窯番が菓子を割る
頬杖のをとこに松は色変へず
黄昏をくれなゐ帯びて鰯の目
菊の香やもう息をせぬ髭を剃り

2019年11月22日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第三・秋興帖 第三(北川美美・椿屋実梛・曾根 毅・ 辻村麻乃・小野裕三・仲寒蟬・山本敏倖)


【花鳥篇】
北川美美
うぐいすをさかしまにきくあさねかな
鳥骨を組み立ててゐる日永かな
港区に古墳ありけり羊歯萌ゆる


【夏興帖】
椿屋実梛
夏立つや異国の青き水の瓶
夏風邪や味覚どうやらおかしくて
風薫る京友禅のポーチより
Tシャツが風に膨らむデッキかな
仲夏なり眠気を誘ふ法律書
サマーセーター歯の白すぎる男かな
鉛筆を返しそびれし美術展


曾根 毅
眦を研ぎ澄ましたりくちなわよ
戦艦の胴に触れたる夏休み
客観の一つは影や百日紅


辻村麻乃
あめんぼの動けば光動きたる
花ダリア一つ一つの虚空かな
蜘蛛の囲を掻き分けてゐる調律師
隠れ沼や藻海老背筋伸ばしをり
零余子剥く爪半月の父に似て


【秋興帖】
小野裕三
枝豆を悲劇のように盛りにけり
三面鏡にひそむ終戦記念の日
降りやんだ雨の形で黄鶺鴒
話聞かぬ耳を並べて茸喰う
十一月をひとりで渡る綱渡り


仲寒蟬
ひぐらしの周り時間の濃くうすく
一歩目に蝗十跳ぶ二歩目に百
爆弾を持ちたる蜻蛉ゐはせぬか
陋巷に淫祠を見たり後の月
幾たびも案山子に道を訊く老婆
鉱脈のかたちに並ぶ曼殊沙華
仏弟子像声なく哭きぬさはやかに


山本敏倖
おるがんの五臓六腑が見える秋
唐辛子尖り過ぎて臍曲げる
風呼んで弦楽器めく秋の蜘蛛
きりぎりすもう譜面には戻れない
菊枕この幕間は酸っぱい

2019年7月12日金曜日

令和元年 春興帖 第八(内村恭子・林雅樹・神谷 波・北川美美・中村猛虎)



内村恭子
鳥のごと石油掘削機の春愁
パイプライン春の原野を貫きて
蜃気楼海上プラントの遥か
夕凪をタンカーのゆく遅日かな
タンクローリー銀色に風は春


林雅樹(澤)
恋猫や煌々として花やしき
回春の妙薬は砒素木瓜赤し
妾宅の猟奇殺人濃山吹
朧月屋形船にて乱交す
国道に馬牽く人や春の雲


神谷 波
たんぽぽの絮吹きをはり走り出す
宮殿の男手に手にチューリップ
用忘れ花に見とれる二階かな
さくら散る夜と昼とのあはひかな
改元初日うぐひすは普段通り


北川美美
春陰の臨月となる妃かな
魚屋が逗子駅前に桜海老
青山椒一合半の米を研ぐ


中村猛虎
意地悪なこの意地悪なチューリップ
靴裏の紅きヒールや夏燕
褒められる事なき齢鳥曇
骨壷の蓋開けている蛍の夜
残雪や賽の河原に石を積む

2019年5月10日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第九(近江文代・網野月を・北川美美・小野裕三)



近江文代
喪の家に色増えてゆく去年今年
亡き人と目の合わぬよう年来る
雑煮から餅のひとつを剥すなり


網野月を
今年から去年へ戻る羽田発
初鶏や通販雑誌の犬の耳
何時もなり一般参賀テレビで見る
雑煮食う平成最後疲れかな
獅子舞に虫歯予防を祈願せり


北川美美
歌骨牌畳の縁に立つ亡霊
歌骨牌千年前の恋の歌
額に入る三橋敏雄歌骨牌


小野裕三
元朝の尻尾の殖えていたりけり
寝る位置に高さそれぞれ寝正月
英米で英語の違い骨正月

2019年1月25日金曜日

平成三十年 冬興帖 第三(加藤知子・林雅樹・北川美美・杉山久子・夏木久)



加藤知子
小春日の鳥語おおきく旋回し
寒卵われば少女の黄泉がえり
猪の眼のかなしむときのアドバルン


林雅樹
溶接の火花や雪の降り始む
ストーブの匂ふ名画座のロビー
待ち伏せてポインセチアを突出しぬ
河豚鍋やストッキングの蹠が好き
鱈鍋に煮ゆるたらちやんあちゆいでちゆ


北川美美
地図になき城跡をゆく十二月
手に星や梯子を昇る十二月
新しき看板の立つ十二月


杉山久子
十二月八日盥の底に傷
くちびるに消ゆるコトノハ昼の雪
着ぶくれて番号順に並びをり


夏木久
オーロラをと笑みを零す冬菫
死者生者ドリンクバーに屯せる
ボヘミアから手土産さげて花八手
地下室の井戸に写れる地下の灯よ
引継ぎは湯湯婆のことのみ保安室
踏切のことを畳めばロダンの忌
色々な印象くらべ枯芭蕉

2018年11月30日金曜日

平成三十年 秋興帖 第六(北川美美・花尻万博・神谷 波・家登みろく)



北川美美
地球儀を回す占い天の川
天の川はるか遠くの破裂音
舟底に当たる星屑天の川


花尻万博
猟犬を煙に包む拍子かな
コスモスの喜びは固まつてこそ
新米の音にプログレあはれなり
木の国や飯屋飯屋に山紅葉
驚きの次々緩む鰯かな
木枯しと不意の電話繋がつてゐる


神谷 波
蛇のしばし息んでゐる花野
ハート形顔の土偶よこんにちは
台風一過元気にアサギマダラ
秋麗のアサギマダラをひとりじめ


家登みろく
コスモスやてんでに揺れて総揺れに
猫ごとに違ふ鈴の音秋澄めり
もろこしの粒のじぐざぐ輝ける
月さやか誰とも会はぬ一日に
昭和の熱平成の寒気草の花

2018年9月14日金曜日

平成三十年 夏興帖 第五(青木百舌鳥・早瀬恵子・坂間恒子・近江文代・北川美美)



青木百舌鳥(夏潮)
夏木立右へ左へフリスビー
軽鴨の潜りては背に水わたす
三ツ編が似合ひほほづき市の婆
すくひたる手鉢の金魚かたよれり


早瀬恵子
体内の水の八月痺れおり
武骨なる江戸前金魚のべべ着たり
ややごとにレース模様の乳房の間(ま)
己様の滝のステージ昇り竜


坂間恒子
産廃の天辺で啼く夏の雉子
夏の月白樺の幹手首ほど
柿田川デュシャンの便器投げ込みぬ


近江文代
ママ歌いたいのソーダ水くるくる
梅雨寒の豚肉縛られて沈む
片方の耳出している初浴衣
ポリープの数を夏蝶来ていると
喜んで両手差し出す夏の川


北川美美
野口五郎岳隠してゐたる雲の峰
苔茂る室生犀星旧居糸雨
片蔭の途切れ山口澄子死す

2018年8月24日金曜日

平成三十年 夏興帖 第二(大井恒行・曾根 毅・網野月を)花鳥篇 追補(早瀬恵子・浅沼 璞・北川美美)



大井恒行
掘り進む夏 地球のみやこ出で来たり
青空に季(とき)ながく触れ夾竹桃
花づなの島に棲みつつ鸚鵡かな


曾根 毅
空蟬や音を立てずに崩れ去り
夏の蝶大方はメルトダウン
何処まで釈迦の声する百日紅


網野月を
持ち運ぶ略礼服や日の盛
天花粉「生まれる」は受動態
片陰の反対側の喫煙所
もしかしてあのビル斜め日の盛
食べること食べられること冷素麺
蝉時雨連休明けは休園日
夏の月廃刊間近の雑誌買う



花鳥篇 追補

早瀬恵子
春ゆけり万葉カクテルのパレット
咲きましてうすむらさきの美童なれ
平成の一休さんの囀りし


浅沼 璞
くわふんくわふん春風亭のやうな顔
ハンガーがからまつてゐる杉花粉
羽織ぬぐ春風亭杉花粉かな


北川美美
引き寄せて桜の実なり潰し嗅ぐ
之布岐咲く日増に雨の重くなり
紫陽花の青がまばゆし夜目遠目
山鳩の声くぐもれる夏の朝

2018年4月20日金曜日

平成三十年 春興帖 第一(北川美美・小野裕三・仙田洋子・杉山久子)



北川美美
春岬バナナワニ園上から見
右へ左へ河津桜の原木へ
梅園を巡る途中の猿まわし


小野裕三(海程・豆の木)
万巻の背表紙に向け北窓開く
永き日の葬具一式押し進む
裏側は人の音する花馬酔木
観梅を右へ左へ食堂へ
春のひとびと快速艇が運び去る


仙田洋子
はるばると来し江南の桜かな
江南のわれも旅人桜人
春の夜の無錫の運河灯りかな
うららかや紅きランタン窓に揺れ
煬帝の運河の上をつばくらめ
上海の風に吹かれて春ショール
上海の夕日の赫と桜かな


杉山久子
スカートの楕円にまはる鳥の恋
かけがへのない日海雲を食べてゐる
亀鳴くや死の話のち湯の話

2018年3月23日金曜日

平成三十年 歳旦帖 第三(真矢ひろみ・北川美美・西村麒麟・曾根毅・青木百舌鳥・小沢麻結・前北かおる)



真矢ひろみ
父と子とコンビニ弁当初茜
初空やマレビトを待つがらんどう
水流る音は言葉に初寝覚


北川美美
嫁が君一秒で着く隣かな
嫁が君テディベアーと眠りけり
嫁が君亀の背中に乗せてやろ


西村麒麟
平面の広がつてゐる初景色
手毬唄我が靴下の派手なこと
狐火をほれぼれ見るや初句会


曾根毅
傍らに二人を育て薺粥
寒月光松に習えば松に消え
降る雪や影だんだんと濃くなりて


青木百舌鳥(夏潮)
初旦真魚箸の盛る貝の音
曳猿の立ちてとつくり見回しぬ
うす墨となり雪原の川消ゆる


小沢麻結
初夢は忘れ悲しみ残りをり
天蓋の天女へ火の粉初不動
初句会吾に掛替へなき仲間


前北かおる(夏潮)
ふつくらと御殿の御屋根松の内
初句会披講の籤に当たりけり
白妙の湯煙ゆたか雪見風呂

2018年3月2日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善(辻村麻乃・曾根毅・月野ぽぽな・五島高資・北川美美・島田牙城・豊里友行・加藤知子・仲寒蟬・神山姫余・佐藤りえ・高山れおな・筑紫磐井)



辻村麻乃
 斑雪山
斑雪まだ聞き足らぬ秩父の子
困民党残せし痕や春社
狼の天を見つめる眼に涙
兜太いま春の武甲に木霊して
斑雪山あれは兜太だつたかもしれぬ


曾根毅
狼の冷たくなりし黒眼鏡
腹出して寝る人間【じんかん】の零余子飯


月野ぽぽな(海程)
天に星地に梅ともし兜太逝く


五島高資
片目にて笑む師のなみだ風光る
永日や手のひらに手のひらを置く
冴え返る利根の流れや巨星墜つ
利根川や冬三日月の残りたる
福島の残雪ゆがむ泪かな


北川美美
海程秩父道場にて兜太氏は旅館側で用意した二つに裁断されたバナナを片手摑みに登場。2015年の春だった。
マラソンや手渡すバナナ半裁に


島田牙城
金子兜太逝くや春星ふくらませ
なほ停まらざるや兜太の三輪車
星の中の星の地球ぞ兜太逝く
兜太の狼敏雄の狼を追へり
然らばとて然らばと言へり兜太逝く


豊里友行
海ほど脈打つ兜太のほうれん草
海ほどの金子兜太の夢野かな


加藤知子
春落暉大先生の掌ありしが
花盛りを待たず人体の別れかな
梅が香やへうと自在のかなたへと


仲寒蟬
どこまでも狼を追ひつづくべし
臍出して立小便を春空から


神山姫余
春一番兜太が鮫に乗ってゆく
天翔る陸の鯨や兜太逝く


佐藤りえ
草の舟乗らうかさうか手を貸さう


高山れおな
さほひめ と つれだつ まかみ ふりむかず


筑紫磐井
北天に架かるあれが
かくも静かに二月の記憶 兜太星



第83回海程秩父俳句道場(2015年4月5日(日)) 写真:北川美美
左より金子兜太・関悦史・筑紫磐井

左より、安西篤・筑紫磐井・金子兜太・関悦史
背後ホワイトボードの句(金子兜太:老人は青年の敵 強き敵 (筑紫磐井))

平成二十九年 冬興帖 第八(中西夕紀・北川美美・西村麒麟・佐藤りえ・筑紫磐井・羽村美和子・浅沼 璞・五島高資・高山れおな)

中西夕紀
細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり


北川美美
柴犬が戻つて来たり枯野より
太陽の赤く絞れる枯野かな
枯野より手を振る人のよく見える


西村麒麟
鯛焼や遊びをせんとたまに思ふ
石多き冬の赤穂を通過中
鳰泳ぐ鳰より別れ来し如く
鳰脚を揃へて沈みけり
着ぶくれてゐる人々や肉を焼く
別嬪でありし日の絵や鴨の宿
一つある円寂の図や初氷


佐藤りえ
釣り人はダム湖の冬日見て帰る
降るまでは雪ぢやなかつたやうな雪
店名の一文字欠けて冬灯
皆死んでちひさくなりぬ寒苺
寝穢くゐつづけ春を待ちやがる


筑紫磐井
君の心は小春のやうに虚子の穴
三階から落ちる老人枯一葉
人格者うさぎおいしく煮てしまふ


羽村美和子
品格に一番遠く海鼠ずき
模倣犯生半可にして枯れ薊
ポインセチア明日は知らない街歩く
水仙花風の誘いに乗りません
達磨落としこつんこつんと山始
表情筋夜ごと鍛えて 鮃
寒牡丹未明に月への船が出る


浅沼 璞
小春まだ元気かと腕にとまるよ
雪ばんば淡くにごりてよろけける


五島高資
鉄パイプ落ちて響ける枯野かな
紙垂光る内はほらほら鳥総松
嵩上げや小石に長き春の影
日は海を離れ蔵王の息白し
金星の残るインフルエンザかな


高山れおな
  自平成二十五癸巳至平成三十戊戌歳旦
癸巳 まきに まく ほねしやうぐわつ の じや の ねむり
甲午 うま と ゆめ はつしのゝめ を かけめぐる
乙未 はつくゝわい ひつじ の かは を わすれず に
  芭蕉寛永二十一年甲申、蕪村享保元年丙申、
  愚生昭和四十三年戊申。
丙申 さるめん を きゝ と つらぬる はつあかね
丁酉 とりのこ を かけて ぎんしやり しやうぐわつ も
戊戌 は を むいて まかみ ましら の ぎよけい かな
同  しゆくき とも かれいしう とも いへば いへる

【編集者注:6年分の歳旦帖なので冬興帖の末尾に入れました】

2017年10月27日金曜日

【花鳥篇特別版】金原まさ子さん追善・追補(北川美美)



北川美美
エスカルゴ山盛りにして銀の皿
おりがみの何処でもゆける赤い靴
弔いに来しサド・フーリエ・ロヨラかな
葡萄酒と牛肉赤きまさ子の忌
馬車はゆく銀河の中をカルナヴァル

平成二十九年 秋興帖 第一(北川美美・仙田洋子・曾根毅)



北川美美
公園のベンチ置き去り秋の夕
臨終のくちびるひらくうつつかな
虫の音の黄泉平坂まで続く


仙田洋子
簡単な音が好きなり鉦叩
水の秋手を入れて水よろこばす
石ころのきれいに濡るる水の秋
曼珠沙華水ある方へ傾きぬ
曼珠沙華切りためけふの褥とす
さびしくて銀河の端に触れにゆく
海底の亀裂銀河の亀裂かな


曾根毅
隠沼や落葉まみれという愛も
衣被爪を切られているような
長き夜ピアノの蓋の化身かな

2017年10月20日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第八(北川美美・山本敏倖・佐藤りえ・筑紫磐井・網野月を・池田澄子)



北川美美
透きとほる氷やはらか緑の夜
八月のながき汀(みぎわ)をひたあるく
飴色に眠るしかなし蝉の殻


山本敏倖
  ポンチ絵
炎帝のポンチ絵とてもイ音便
聖戦やどくだみの香と細菌と
夕立に裏おもてある西銀座
あめんぼうついに立つことなかりけり
海月が来るまでバスは平方根


佐藤りえ
ミルクティーミルクプリンに混ぜて夏
茄子持つて地震速報見てゐたる
 Voyager1 Voyager2 讃
1号を追つて2号も別銀河
うるはしき地球忘れてしまひけり


筑紫磐井
圏外に妻の秘中の秘の避暑行
倒錯の意識がくづれ明け易し
水だけで生きる覚悟の老人たち


網野月を
免許証に別人の顔道おしえ
ボルダリングすれば守宮の心かな
GよG来世はきっとカブトムシ
空色の海海色の空夏一つ
土用鰻火災報知器点いたまま
夏果てて掴む乳房に故郷を
板襖越しの人声麦こがし


池田澄子
藻の花や愛は水溶性ならん
台風一過骨付き肉がとろ火の上
階段で家人に会いぬ遠花火
宵まつり彼の世のものを混ぜて吊り
君が代という代ありけり夜這星

2017年6月30日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第一(仙田洋子・大井恒行・北川美美・早瀬恵子・杉山久子・曾根 毅・坂間恒子)



仙田洋子
みどりごにさくらさくらとささやきぬ
春の鹿きれいな人の傍らに
オルゴールに蝶を隠すといふ快楽
春灯や大きくなりし子の匂ひ
もそつと近うもそつと近う蟾蜍
螢袋からちよつとだけ顔を出す
噴水を水のびつくり箱と思ふ


大井恒行
鳥を生みし空の蒼さや花空木
青葉潮に降る雨さみしさみしがる
日焼け子のかの面影や髪ゆたか


北川美美
菜の花と一緒に茹でるスパゲッティ
花の夜のTV画面も桜色
わたくしもしばらくここに花に鳥


早瀬恵子(同人誌「豈」) 
アイリスの髪ゆたかなるミュシャ・カフェ
ロボットのふりする肉球アイ・ラブ・サマー
はからいの唐破風なりあじさいも


杉山久子
花の闇猫のからだとまじり合ふ
五月来る鳩のふるへの地に満ちて
鉄の輪をくぐりアマリリスに屈む


曾根 毅
眠そうな蜆の影を見ておりぬ
恥骨まで轟き渡り薪能
雨音か瀬音か我か五月闇


坂間恒子
花種を蒔く手をあげる影法師
白藤に少年のジャンプとどかざり
白藤や遣欧使節ひかりあう