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2026年9月25日金曜日

令和七年 冬興帖 第二(神谷 波・田中葉月・加藤知子・曾根毅・山本敏倖・杉山久子・中西夕紀・豊里友行・仙田洋子)



神谷 波
人に影寄りそふてゐる小春かな
山眠り田はかしこまるばかりかな
裸木がぽつんと雲待つ鳥を待つ
年の瀬や降ったり止んだりしつつ暮れ
餅を搗く音やピリオド打つごとく


田中葉月
今今今を咥えたる冬の金魚
やまびこの声うらがへる寒満月
人参や孤心小さくきざみゐて


加藤知子
蓮池を掘るとふ男しぐれない
万葉に遊行女婦の舞う風花
寒月光に晒す大石内蔵助


曾根毅
太陽の沈まぬ夜の傾斜かな
鳥渡る氷河を黒い影渡る
カトマンドゥ夜は臓器のような街


山本敏倖
会釈して凍滝の深さ見上げる
棒パンを撫で切りにする寒月光
忘却がおっこちている枯野かな
寄鍋や昔の顔が煮えている
彫刻やこの枯蓮は明朝体


杉山久子
寒林を行くとき弱音吐きさうに
よく喋る家電三寒四温かな
着ぶくれて黄金のマスクに見入る


中西夕紀
数へ日の欠伸の人とぶつかりぬ
寝る吾に猫の出でゆく布団かな
風止めばそこに立ちゐる雪女
片貝となれば飛ばされ冬うらら
落葉踏むあれは歌つてゐるリズム


豊里友行
我が鉛筆よ星雲のこころざし
咳てぃーちたぁーちみぃーち冬樹の粉砕よ
しんしんと天体をなす消化器系
ひゅうひゅうと肺胞よ珊瑚礁の森
かんかんと蝶カーソルの建築中
煩悩まみれのカフカよ解熱剤
束の間の夢野へ虹の蝸牛


仙田洋子
先生の訃報とともに冬来る
るるるると水湧く音や冬はじめ
漱石忌猫集まつて来たる庭
日直の二人の机冬日差
竹馬の空も大地もぐらぐらと
ちちははの命尽きたり葛湯吹く
葛湯吹きちちははの思ひ出を吹き

2025年12月26日金曜日

令和七年 夏興帖 第六/秋興帖 第四(神谷波・川崎果連・加藤知子・曾根毅・松下カロ・冨岡和秀・堀本吟・木村オサム)

【夏興帖】

神谷波
がらがらの電車西日をゆらゆらと
口数の少なき夜の水中花
重い腰あげて掃除を百日紅
すずやかな瞳あざやか金魚掬ひ
結末に涙鼻水夜の秋
音荒き八月六日の俄か雨


川崎果連
地球儀を猫がぐるぐる熱帯夜
撃たれてもセルロイドなら浮いてこい
蛇皮を脱ぎ否定する多様性
しかれどもヒエラルキーに蟻が這う
天秤の上の革命てんとむし


加藤知子
なんじゃもんじゃ五感毳立つ森がある
青い街総身包帯インスタレーション
わらび餅貸金庫とは無縁なり
兵糧攻めされればまたも敗戦日
満州で万葉集を歌う冷麺
愛新覚羅溥儀へのうぜんかずらブギ


曾根毅
平和憲法蠅の手つきを真似てみる
揚羽蝶耳のうしろが痛くなり
舟虫やじわりじわりと酔いはじめ


松下カロ
蜘蛛の囲に透けて大阪美しき
大阪のおばちやんに西瓜アメもろた
汗びつしよりで大阪より戻る


【秋興帖】

冨岡和秀
海上の舞台で踊る孔雀二羽
龍宮に花の咲きたる宴の譜
肉体を脱ぎ捨てて飛ぶ銀河まで


堀本吟
曼殊沙華人外境を飾る花
百あれば百の音響曼殊沙華
本堂のうらに曀(かげ)りし曼殊沙華
曼殊沙華こつこつかこつ米不足
曼殊沙華さあてのひらが軽くなった


木村オサム
流星を見過ぎて眠さうな駱駝
行きずりにナンを打つ僧昼の虫
星一徹の卓袱台しづか今年酒
シェリー酒の熟成アンダルシアの霧
風葬の目の真ん中へ小鳥来る

2025年5月9日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第二(ふけとしこ・加藤知子・杉山久子・小野裕三)



ふけとしこ
あらたまの出窓に壜の蒼透けて
年新た琉球硝子のデカンタも
正月の火棚の端にのぞくもの
     ・
芹を摘む渡りの沼といふ水辺
切株に斜めの裂け目春霰
春闌けて地下に大きな舞妓の絵


加藤知子
日の丸を立てぬ酸っぱさお元日
矢の淑気玉依姫の妊活は
寝正月キソウテンガイと化す流れ
人日のパソコン夫が消えた椅子
矢面はマリアの青衣春隣
心筋の狂れて小躍り二月尽
白梅の真白きにごり乳溢れ
啓蟄や渡台の父のロマンとは
停戦の合意決裂花粉症
無条件降伏なんかたんかよたか


杉山久子
七種粥吹き令和はや七年目
鳥帰るみな俯ける列車内
春の川渡りて友の来る日あり


小野裕三
早見表の隅々までも淑気かな
白い目も黒い目もある初芝居
数学的素養羨ましき雨水
魂を抜く仕草にてぶらんこ揺らす
雪割草僕はあなたの指がほしい
日本の音のきらきら遍路道
正解のように湖沈丁花

2025年4月11日金曜日

令和六年 冬興帖 第二(鷲津誠次・加藤知子・杉山久子・小野裕三)



鷲津誠次
家計簿に亡母の俳句や冬銀河
冬帽子なで肩丸め喫煙所
寒柝や認知の父の寝息濃く
路地裏の老犬呻く霜夜かな
腰低き青年庭師冬紅葉
朝霜や警笛強き三輌車
晩婚の子のなき卓やおでん酒


加藤知子
寝る前の水仙香るキラークイーン
狐火におそわれダイナマイトの仕掛け
冬満月ママァーとはなんだかなあ
寒九雨死者が挨拶に来て困る
喪の家の姐御のように寒牡丹


杉山久子
光る眼の六つ狸の親子らし
鳩白く囲われてゐる寒さかな
一陽来復一輪挿しの淡き影


小野裕三
似顔絵に見つめられたる初冬かな
兄弟の同じ角度で冬に入る
形よき白鳥ばかり眠りだす
ときおりは音符噴き出す鯨かな
魂の抜けたあとにて悴めり
カーディガン団体行動苦手です
斎場に行方の知れぬコートかな

2024年12月13日金曜日

令和六年 夏興帖 第五/秋興帖 第四(山本敏倖・冨岡和秀・花尻万博・望月士郎・青木百舌鳥・加藤知子・豊里友行・木村オサム・中西夕紀)

【夏興帖】

山本敏倖
六月ははや吊るし人形である
夏座敷居留守の音の尻尾出る
入念に余白を隠す女郎蜘蛛
古事記からくちなわの音盗みおり
中世の木霊を連れし麦の秋


冨岡和秀
弔いの鐘が鳴るなり疫病期
滑空のスキー転んで鳥探し
捉われて身口意(しんくい)放つ手術台


花尻万博
蛇一つ泳がす雲のみだれかな
木苺や熊野kumanoとツーリスト
お花畑ここ城跡と言はれても
Coca-Cola気にはしている道をしへ
100%ブーゲンビレア西日かな
長々と出口を探す木下闇
都合よくクロアゲハさへ味方して


望月士郎
言葉はぐれて夕べ蛍という鎖線
夜店の灯真っ赤なものを舐めている
包帯を濡らさぬように金魚掬う
等分にメロン切るときやや船長
聞き返す二度目は少しかたつむり
蜘蛛の巣の張られて空が神経質
星涼し脊柱そっと管楽器


青木百舌鳥(夏潮)
老鶯が四五羽それぞれ癖もありて
鶏糞が匂ひ夏葱畑かな
銭蔵に千両箱は無く涼し
高原やトマト棄てつつ販ぎつつ


加藤知子
崖墜ちし汝れ美しとふ梅雨の蝶
今年竹の切り口に憑く金剛鈴
滝の上の水落つ捨身飼虎のごと
揚羽蝶守護霊のごとひらひらす
死者の家蜥蜴が走る朝帰り


【秋興帖】

豊里友行
鰯雲あふれる愛の言霊よ
稲光レベルの属国コンセント
銀河系の回廊なり螽斯
いのちをもやしている戦火のまなこ
でで虫の敬老会の父と母
ブルーシートのあと桃太郎の誕生
原爆と戦争展の鰯雲


木村オサム
シャンプーの香りの美僧秋の昼
波平の一本を抜く龍田姫
あきらかに人間寄りな桃潰す
簡単に口割るスパイ猫じゃらし
凶作の地から古本掘り出さむ


中西夕紀
海を背に昔酒場の蔦紅葉
とんばうや海につながり湖暗し
秋燕やバスの待ちゐる外国船
あけび持つ小山君てふ迷子かな
赤い羽根つけて木陰に待つ演者

2024年6月28日金曜日

令和六年 歳旦帖 第六/春興帖 第二(花尻万博・早瀬恵子・大井恒行・小野裕三・水岩瞳・中西夕紀・神谷波・坂間恒子・山本敏倖・加藤知子)

【歳旦帖】

花尻万博
角見ゆる枯野の奥に消ゆるまで
佛手柑の働く人にまぎれゆく
降りてくるものをうべなひ夕焚火
外套や父と遊びし納屋に似る
日の暮れのねんねこいつも母を入れ
蜜柑山越えて木の国また清める


早瀬恵子
敲の与次郎ひょいと龍頭(りゅうがしら)
初諷経(はつふぎん)多星人の風立ちぬ
父と母泉殿から初お香


大井恒行
山鳩のふくみ鳴きかや去年今年
結晶は氷雨と書かれ匂う朝
初春の「ああ姉さま」と書く手紙


【春興帖】


小野裕三
前よりも耳の大きな初閻魔
空耳の人集まって春近し
早春の君に蹄のようなもの
棘あるものみな置いてきて雛遊び
人相のはっきりしない蜂の子よ
猫柳たましいならば弄ぶ
夏近しよくもわるくもふしぎな子


水岩瞳
節分や鬼にも好かれたきこころ
北窓を開く濁世も久しぶり
地虫出づ此処はかつての駐屯地
我に反骨されど蛙の目借時
つくしんぼ一斉蜂起とまでいかず


中西夕紀
世を閉づる前髪長し卒業す
ももいろの和菓子いただき卒業す
国後の霞見やりて息深し
上気せる顔に手をやり蜃気楼


神谷波
蕗のたうひよこひよこバレンタインデー
はなやかに幕の開きたる春の宵
蕎麦すする鶯の声近すぎる
こつぜんと婆消えゆれる藤の花
よき隣とはムスカリと黄水仙


坂間恒子
引き出しに椿あふれて眠られず
春の蛇回転扉押し行けり
春鴎漁港はあくび噛み殺す
花の雨鏡売りくる夜の透き間
桜蘂降る真夜中の非常口


山本敏倖
陽炎の仮説を崩すかんつおーね
戦艦の腹から蝶の生まれけり
初蝶の波紋はたしか変ロ短調
雪解けの音につまずく囲碁帰り
言の葉以前の言の葉つなぐ飛花落花


加藤知子
春雷や青むか吠えるかなだめるか
純なるもの人身御供として芽吹く 
花冷えの散るまであなた口に詰め
口からは食べぬ桜餅歯痒い
口数でもの言うおのこ春時雨

2023年11月10日金曜日

令和五年 夏興帖 第五(神谷波・松下カロ・加藤知子)



神谷波
夕涼し川辺の杭にいつもの鳥
山々の輪郭ぼやけたる暑さ
地球沸騰宣言中の青田
枕辺の時計正確明易し
 

松下カロ
乗り換への多い切符の青海月
先をゆく少年の丈まくなぎほど
雲水の指のきれいな蝸牛


加藤知子
梅雨寒やロダンの男鼻をかむ
戦争に捕まっていくまいまい
獣肌が夕焼けるから戦争が
踊り子を物色ドガの箱庭へ
カノンロック少女白雨(ゆうだち)感電す

2023年2月17日金曜日

令和四年 秋興帖 第六(眞矢ひろみ・林雅樹・加藤知子・花尻万博)



眞矢ひろみ
逆光の芒野ねじの音すなり
国葬の先へさきへと秋ともし
山の秋千年待つも帰らない
影をみな朱隈のなかへ秋の暮
体育の日の言ひ様が歪なる


林雅樹(澤)
議員会館前喚く人ゐて銀杏臭ッ
柿干してありタコ足のハンガーに
夜糞るはせつなし竃馬もゐて


加藤知子
匿名が叱られ青蜜柑剥かれ
秋澄むや紅き器をカルデラといふ
桃吹くよう地雷踏むよう逝く女
青い骨白い骨へと照る紅葉
極私的林檎は桃と合体せむ


花尻万博
猪垣に集ふ子よ尻柔らかに
波幾つ鹿を巻き入れ枯木灘
舟に差す母のコスモス濡れ通し
唐辛子掴む子の手に何か灯る
直線に村過ぎ木の国の鹿よ
烏瓜過熟かおしやべりの過ぎ

2022年10月7日金曜日

令和四年 夏興帖 第二(池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月)



池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば


加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ


杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ


坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山


田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる

2022年8月26日金曜日

令和四年 花鳥篇 第五(加藤知子・仲寒蟬・望月士郎・網野月を・渡邉美保)



加藤知子
日本哀歌蓮ひらかねば銃を撃つ
日盛りの弥栄の汀(きわ)へ手製銃
夜の雷鳴元宰相を輝かす
安全神話を石棺に供す星祭


仲寒蟬
蠅生まる憎まれ叩かるるために
まやかしもあやかしも連れ夜桜へ
南家より北家へ蕨とどけらる
白鷺の捕食者の目に見られけり
掌の上に啓示のごとく蜥蜴の尾
屑金魚などとよばれて元気なり
遠縁は黄河にをると梅雨鯰


望月士郎
たんぽぽのわた吹いている測量士
手紙を書くときおり蛍狩にゆく
父さんの言った言わない胡瓜揉
昼の月仰向けに蟻に運ばれて
噴水にどしゃぶりのきて笑い合う
なつやすみ白紙に水平線一本
少年の脱け殻あまた青葉闇


網野月を
ペトロ祭生まれ変はりの小漁師
日盛の電信柱すでに人
病葉を堕とさぬやうに柾立つ
石竜子の子築地の藁に獅噛みつき
夕顔や今は稔りて古女房
向日葵やハートいつぱい随へて
甘いトマトは嫌いな人です自炊派です


渡邉美保
水底も櫻待ちをり魚群れて
車前草を踏んで手足の老いにけり
薄衣や和泉式部の墓の前

2022年2月18日金曜日

令和三年冬興帖 第二/令和四年歳旦帖 第二(加藤知子・坂間恒子・辻村麻乃・杉山久子・松下カロ)

【冬興帖】

加藤知子
神さびの白菜二枚剥ぐ守り
年の瀬の葬にしぐれず白い骨
冬の木の瘤はあらわに胸の音
サーカスを追いかけ手振る落葉樹
三階の偶然あわい冬すみれ


坂間恒子
蜂の巣のころがりきたる軽さかな
チェーホフのかもめ着水冬の沼
大枯れ野風呂桶捨てに来る男
ストーブの炎に巣箱のような厨子
裸木となりて大きな御神木


辻村麻乃
団栗の止まるを知らぬ奥の院
切株に腰掛け拾ふ木の実かな
目庇に勇者のごとき冬日射す
武甲山水の記憶の凍りつく
国神の銀杏黄葉降り注ぐ
寒鯉の群れて光や放生池
どの人も五体投地や床紅葉


杉山久子
放られし黒き塊へ粉雪
肉・皮・毛振り分けられて雪の上
腸を展げて雪の上真赤


【歳旦帖】

坂間恒子
流行語大賞「ジェンダー平等」も
御神木の根方歳旦の雪の声
実南天なかを祝詞のあがりけり
白息をかけ厄除け玉砕く
プリンはあまい新春レストラン


辻村麻乃
かむながら蒼き光芒大枯野
凩や真夜の底ひを掬うては
天井の穴に目のあり嫁が君
歳晩や老女のカートごろごろと
羽子板や大笑ひより打ち返す
訪ねたる袋小路や鳥総松
あらたまの磨崖仏より光落つ


松下カロ
鶴となる朝のシャワーに目をあけて
折鶴と鶴の間に夜の川
二羽の鶴影をかさねてゐたるのみ

2022年2月11日金曜日

令和三年冬興帖 第一/令和四年歳旦帖 第一(飯田冬眞・仙田洋子・神谷波・小林かんな・加藤知子)


【冬興帖】
飯田冬眞
洗っても落ちぬ傷あり冬来たる
時雨忌や渡るべき橋あといくつ
冬の水一篇の詩に立ちすくむ
殴られてまた殴られて帰り花
極月や家族写真も燃えるゴミ
ここからが旅のはじまり白き息
今日の日を忘るるための日記買ふ


仙田洋子
折紙の鶴のぽつんと開戦日
冬田道どさりと犬の死骸あり
スターリンの肉声を聞く寒さかな
招福の猫かも知れず竈猫
惑星のごと柚子浮かぶ柚子湯かな
降誕祭星々の馳せ参じたる
亡骸は亡骸のまま寒に入る


神谷波
椎の木のまつさきに暮れ冬めきぬ
タンポポのほんわかほんわか狂ひ咲く
姿無き人の耳打日向ぼこ
枯野来し手先足先無影灯
心しかと閉ぢ短日の無影灯


小林かんな
ひとたばの花光州の朝霧へ
三島の忌熱い茶碗が盆の上
ジョニー待つ二時間冬の鴎たち
暖炉向く安楽椅子とリボルバー
餅うんと伸ばす蟄居の三年目



【歳旦帖】
仙田洋子
鳳凰も龍も飛びゆく初日かな
初社恋の神籤を引きに来し
鏡餅大いなる罅はしりけり
淑気満つ字体も古き神谷バー
酒の名のどれもうれしき初句会
駅伝のたすき真白き淑気かな
玉の緒のひたくれなゐに弓始


神谷波
数へ日の虹のアーチの下に墓
初めての日の降りそそぐ雪の嵩
 三重の名酒 「作(ざく)」
あらたまの年の喉越しふわと「作」
人参の麗々しくも三が日
引立て役の膾金団お正月


加藤知子
眩しくて見えない闇を迎春
初詣清め給えは中くらいで
初夢へ右折するなら入れません
初夢の蝶の憂いはギンギラ銀

2021年10月1日金曜日

令和三年 夏興帖 第三(加藤知子・仲寒蟬・網野月を・岸本尚毅・坂間恒子)



加藤知子
新緑を絞めた手明日は浦安
はつ夏の天使の羽はみゅうと鳴く
江戸川水門無痛分娩痛のあり
前面に女陰あらわが五月晴
青葡萄シーラ・ナ・ギグの宿りかな


仲寒蟬
空中に鳥静止させ青嵐
門柱に薔薇を這はせて魔女の家
葛切を加筆されたる壁のメニュー
裏口の水桶に酒登山小屋
中洲に鵜鳴くほどに月昇りゆく
背泳ぎの雲呼び寄せてをりにけり
両足を海へ突つ込み虹くつきり


網野月を
性別は別せぬものに星祀る
天皇が頭を下げて秋めきぬ
平和とは油絵の餅か玉葱
ひしゃげた奴が元気な馬に瓜と茄子
手踊の外輪をそつと抜けにけり
寒蟬や外灯一つ幽霊に
テレビの中のつづくの文字や法師蟬


岸本尚毅
紫陽花が頭の如く暗がりに
来ては去る人に雨だれ虎が雨
黒雲のしづかに蟬のなきつづけ
墓原や空蟬草に墓石に
梵妻の粉もてつくるソーダ水
明易や見えて色なき家具調度
避暑の町淋しやアーティチョーク枯れ


坂間恒子
虹ふたえ額田王袖をふる
青芒風の言葉を研いでいる
夏薔薇(そうび)拒食症の眼とも
仙人掌を捨てし日のことはくらやみ
黒揚羽柩の蓋をあけにくる

2021年3月12日金曜日

令和二年 冬興帖 第七/令和三年 歳旦帖 第八(岸本尚毅・浅沼 璞・眞矢ひろみ・加藤知子・水岩瞳・下坂速穂・田中葉月・林雅樹)

【冬興帖】

岸本尚毅
波立てて遊ぶ我居る柚子湯かな
陽気なるもの冬雲とアドバルーン
霜柱舐めたる如くつややかに
冬晴の雲の曳かれてゆく如く
何淋しとてにほどりの淋しさは
子供らはひねもす墓地に落葉蹴る
もの買へばサンタクロースお辞儀して


浅沼 璞
鹿の顔に似た人もゐて牡丹雪
排水のほそぼそ氷る山羊の舌
永遠に笑窪はマスクしてゐたる


眞矢ひろみ
世の果にただ佇つちから寒昴
あゝ皆んなここにいたんだ枯木立
彼の世より生前葬の寒牡丹
水鳥はその水影に溢れをり
東京湾に鮫真白き腹見せり


加藤知子
尊きは致死量の青ふゆ空の
冬の陽をこばむひとだまには目薬
ひとだまや冷たき恋に触れてみる
雪獄の総監室へひとだま燦


水岩瞳
絶版といふも冬めくもののうち
喜怒哀楽すべて眼に込め白マスク
十二月八日塩つぱい握りめし
一撃す今年傘寿の牡蠣割女
毛糸編む行きつ戻りつして未来


下坂速穂
梟や古地図と古地図見比べて
水涸れて木に真直な影が沿ひ
風の色日の色雨色の落葉
伐られたる木が残る木へ雪降らす


【歳旦帖】

田中葉月
吉原のお栄の眼差し遠い火事
黒豆や肩までつかつてコロナ風呂
くれぐれも御自愛ください芹なづな
去年今年流れる砂のごとくあり


林雅樹(澤)
家人呼べど応へぬ鏡餅に罅
『ヴィルヘルム・マイステルの遍歴時代』読み始む
初売りの商店街琴の音流れ人はをらず
 

岸本尚毅
雲高く浮かび裏白よく吹かれ
薔薇園に薔薇の落葉や初雀
初鴉頭小さく飛び去れる
窓大きく開けて初荷の運転手
青き空つづく長途を初荷かな
幹部諸氏マスク大きく初句会
初場所の腹をゆたかに仕切りけり

2020年12月4日金曜日

令和二年 秋興帖 第五(夏木久・加藤知子・望月士郎・岸本尚毅・林雅樹)



夏木久
檸檬転げる道なりの港町
透明になりゆく鳥を月光樹
踊り場を行き交う後遺症残り
ⅠCUの医者も患者も夜長へと
聞き漏らす釣瓶落しの深層考
闇を切り天の川原を走る人
然も然も地球は棺漂流す


加藤知子
眠れずに眠る男へ花灯籠
星月夜に向けてエプロンをほどく
木をゆするうそ寒の芯つかむまで


望月士郎
みずうみの空耳ミソラ秋澄むや
狗尾草母と哀しくくすぐりあう
キリン絶滅ガラスのビルに映る月
秋そっと自分の影を踏むあそび
霧の町やさしい象とすれちがう


岸本尚毅
木の上に雲現れし良夜かな
山光るほどの良夜のほととぎす
銀漢に羽蟻もすこし飛ぶ夜かな
秋晴や草丈高き外来種
鬼蔦を引いて柿とる女かな
秋晴や駅の北口広々と
つながつて長き白波雁渡し


林雅樹(澤)
劇終はり舞台に血糊秋の暮
新酒酌みコロナパーティーたけなはぞ
覚えとけよ月のない夜もあるからな
秋暑しバリウム呑んですぐげつぷ
ひつじ田に立小便をする男

2020年8月14日金曜日

令和二年 夏興帖 第二(青木百舌鳥・加藤知子・望月士郎)



青木百舌鳥
風ありて旱河原に靡くなし
明易し鶏卵おのづから光る
地の雨にずしりと太き茅の輪かな
みあかしに蜘蛛つたひをる糸見えず
灰釉のあをき溜りへ冷やつこ


加藤知子
晴子忌や捨てねばならぬお菓子箱
ぽうと立つ蓮の蕾よ食えないお嬢
なめくじらきょうの白地図黒く冷ゆ
馬の目の濡れて道連れ半夏生
血太りの藪蚊を叩く僥倖


望月士郎
蛍狩背中の黒子さわられる
眠れないさかさのさかな梅雨の月
転生のまずは一旦みずくらげ
手花火に黒いキリンがやってくる
哀しみと金魚掬いは鰓呼吸

2020年5月29日金曜日

令和二年 春興帖 第十/花鳥篇 第二(岸本尚毅・佐藤りえ・筑紫磐井・加藤知子・夏木久・神谷 波)

【春興帖】

岸本尚毅
春よ来いウイルス来るな猫は来い
風に乗る足湯の湯気や梅の花
てらてらと胸の木目や涅槃像
涅槃図の眠たさうなる釈迦を見る
日に障子熱くなりつつ地虫出づ
太宰にも沈丁花にも飽きにけり
串団子もちて日永をどこまでも


佐藤りえ
ころばせてころがるままにうららかに
花の旅窓を眺めてゐるばかり
とりどりのマカロン選るも春仕事
猫の仔と坂の途中の教会へ
朧夜のあなたがひっこぬくターン


筑紫磐井
大いなるマスクに隠す悪事かな
大胆な水着を選ぶ磯巾着
遠い日の子規の日記の桜餅


【花鳥篇】

加藤知子
初蝶来羊水ゆるるカルデエラ
すかあとの裾半乾き走り梅雨
手に余るなお捕まえる蛍の死
ピンク本開いて夏野通り過ぐ


岸本尚毅
永き日の日本堂といふ菓子屋
陽炎が高々とこれみんな墓
チユーリツプ「コーポ幸」幸あれと
蝦の尾のひつかかりつつ蜷の道
姫女苑ぐらぐらとして茎硬く
青き空甘茶に暗く映りをり
鍋底のやうなる春の雲を見る


夏木久
花解体デルタの街の猫車
淘汰せし蝶を摘んで病棟へ
10階に水際の波五月雨の病院
海暮れて見舞へぬ五月病ひかな
春菊の残菊をいただく晩春をいただく
銭湯の富士からセザンヌの裸婦
風薫り策を弄してしまひけり


神谷 波
去りがたきうぐひすの声柿若葉
国中が暗澹たるに柿若葉
そのうちに雨は上がるさ柿若葉

2020年1月31日金曜日

令和元年 冬興帖 第五/令和二年 歳旦帖 第四(仲寒蟬・小野裕三・渡邉美保・望月士郎・飯田冬眞・早瀬恵子・浅沼 璞・渕上信子・松下カロ・加藤知子・関悦史)

【冬興帖】

仲寒蟬
冬耕や是より東武田領
焼藷屋魔人のごとく湯気の中
海苔焙る手の皺と海苔交互に見る
阿吽なるあくびとくさめひと部屋に
山襞のやけにくつきり室の花
小春日や母の繰り言ひたすら聞く
討入の日の錆びつきし蝶番


小野裕三
エジソンの瞳の青き文化の日
飼いならすように寒紅引きにけり
先回りして狐火に囁けり
それぞれに前のめりなる聖歌隊
牛飼いと牛飼いの子の聖夜かな


渡邉美保
極月やメタセコイアの金茶降る
遅刻者の火事を見てきし貌であり
子狐の灯す狐火仄白く


望月士郎
月凍てて少女水銀体温計
ふっと風花そっと帰り花きっと
柩の窓こんなにきれい寒銀河
行きすぎて平目を買って戻りすぎ
白息の白犬がゆく年の果て


飯田冬眞
神の留守漏刻の夜の狂ひ出す
かさぶたの色持つ廃車冬夕焼
茶の花や寝所をともす灯の低く
夕暮は風の要塞枇杷の花
冬の鵙銀鼠の空かきむしる
打消しで始まる人と根深汁
冬の月流沙河に詩の崩れゆく


早瀬恵子
雪だるまワンツー天下の園デビュー
アカペラのドッペルカノンにペチカ燃ゆ
大年のウィンク・ウィン明日また


【歳旦帖】


浅沼 璞
天井は嫁が君かやかたかたと
  ころがる棒へさす初茜
花と月あまねく描く筆致にて


渕上信子
嫁が君研究棟の夜
徹夜明なる初日眩しき
差し入れ嬉し喰積にハム
挨拶するや春着の秘書と
破魔矢ぶらさげ友の来訪
年賀のメール豪州は夏
D論仕上げ人日の空


松下カロ
ホフマンスタール黒豆煮えるまで
冬薔薇リルケ寡黙で貧血で
オクタビオ・パス新年はフリーパス


望月士郎
魂をひとつてんてん手毬かな
ちょうろぎは雪兎には使わない
はらからの集いはららご食べている


加藤知子
初夢の女体掘り出す土器須恵器
塩抜きの足りぬ数の子ピノコのP
参考に頬の赤らむ寒の菊


関悦史
初日さす糞尿五輪の税責めの
子(ね)や読初西村寿行『滅びの笛』
アストルフォを語られてをり初電話
元日の国道の辺の供花を見たり
「男の娘かるた」全画像拾ふ二日かな
五十億年先の初日を待ちながら

2020年1月17日金曜日

令和元年 秋興帖 第八(小林かんな・加藤知子・網野月を・早瀬恵子・中村猛虎・のどか・近江文代・佐藤りえ・筑紫磐井)



小林かんな
前を行く人のリュックの秋日かな
弁当を河原の上に解く照葉
竿で押す紅葉の映る川の底
乗ってすぐ降りる渡船や石叩き
紅葉山滝はいくどか折れながら
     

加藤知子
りんご剥くごと金属探知機の触る
塹壕の深堀林檎湿らせる
唇を切り獣の笛の音楽会
腐りかけのりんご断面見せて舞え
林檎端正に置かれてもはや林檎じゃない


網野月を
爪先で食べ尽くさんと柿落葉
立ち上がる海原睨む石蕗の花
白菜や名無き料理をアルマイト
眠れない呪禁の夢を花八手
欅紅葉地獄にしても温過ぎる
初霜や小鳥のように生きてみる
高くはないが深い空堀返り花


早瀬恵子
秋夕べ新書解体オークション
白秋や恋する本のらんらんと
月明り片口に盛る天女舞


中村猛虎
子規の忌の三角関数溢れ出す
攫われる肩車の子十三夜
カトマンズに人焼く匂い夜長し
亡骸を洗うガンジス紅黄草
鶏頭花方位磁石は黄泉を指す
男根を祀る神社に色鳥来


のどか
黒鍵のエチュード転び色鳥来
御陵を守る鍵穴鵙猛る
霜降や綾取り糸の忘れ物
母と生きる火宅を抜けて桃を剥く(三世火宅)


近江文代
書き順を間違え曼殊沙華一本
散骨の忽ち小鳥来るならば
猫きっと来るコスモスは束となり
入りゆく団地の子供茸山
今生は囮にされる鳥になる
  

佐藤りえ
コスモスや向こう側からも犬が来る
鵙も来よ株式会社月世界
霧の電柱幽霊船の帆と見ゆる
古書店の百均台や夜長く


筑紫磐井
山姥の旦暮(あけくれ)といふ紅葉あり
醍醐味は智山・豊山の紅葉など
数列の視界を秋の蝶が舞っふ
たつたいま見殺しにして秋の蟬
花野とは子供ひとりが消える場所

2019年10月4日金曜日

令和元年 花鳥篇 第七(飯田冬眞・ふけとしこ・加藤知子・前北かおる)



飯田冬眞
水となる骨を納めに桃の花
表札は先代のまま蝦夷桜
羊の毛刈る牧童の青ッ洟
ぼうたんや崩るる音を秘め白し
螢籠まだみぬ吾子の魂連れて
老鶯や溶岩ラバを踏み行くカルデラ湖
郭公の声よおにぎりつぶれたり


ふけとしこ
ひよどりの巣のあるらしき庭に立ち
青柿や西の一間を墨客に
青蜂の取り合うてゐる韮の花


加藤知子
滴りて戦後生まれは甘く跳ぶ
沙羅落花夢は食べたか消えたのか
刺青着て二人称なり大暑なり
天気晴朗馬を冷やしにいくは誰


前北かおる(夏潮)
暗幕の裏地は緑風薫る
あぢさゐの頃のゆりのき通りかな
洗濯機三回分の五月晴