2015年3月13日金曜日

平成二十七年春興帖、第二 (木村オサム・月野ぽぽな・陽 美保子・中村猛虎・山田露結・近恵)





木村オサム(「玄鳥」)
囀に浮かぶ閑雅な無人島
青き踏む伏字だらけの本に倦み
朝刊に載らないニュース百千鳥



月野ぽぽな (「海程」) 
春風や空に溶けだす野の匂い 
しぶきするように鶯鳴き交わす 
花びらのひとつにひとつずつ奈落    



陽 美保子(「泉」同人)
公魚の一寸泳ぐ油鍋
蝦夷栗鼠の耳を立てたる木の根明く
吾が影の吾れを離るる流氷原



中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員)
一の丸二の丸三の丸も春
羊水に浸りて遅き日となりぬ
骨壺の遊女を笑ふ恋の猫
とりあえず寝てみましょうよ月朧
海老のひげはみ出す弁当春来たる
春の水君の形に拡がりぬ
朧夜の肩より生まれ出る胎児



山田露結(銀化)
目の動くSF映画暮れかぬる
歩くたび光る箇所ありうららけし
これ以上老ゆることなき春ショール



近恵(こん・けい。炎環・豆の木)
あの梅の前を集合場所とする 
梅匂う背伸びするとき爪立ちに
梅林へしんと溜まってゆく音楽
紅梅の根の下じきになればいい
梅の夜のいく度も開けている扉