2015年7月31日金曜日

平成二十七年夏興帖 第四 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・早瀬恵子・夏木 久)


下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
日本中いづこも朝や水を打つ
夏服の穴から手出し頭出し
ひと葉づつ増え睡蓮に莟かな



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
サングラス外すプラネタリウムかな
燭台の暗く鋭く夏館
風鈴を吊るしてパリの空の下



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
水吸つてゆく土を見て日の盛り
蟬鳴いてこれが最後といふ翳り
時々の思ふこころと外寝かな



依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)
花茣蓙に立つひと粒の米痛し
飛ぶやうに蟻の来りし読書かな
躍る木の下で踊るや古浴衣



早瀬恵子 ( 「豈」 同人 )
わが名うき胎蔵界のハンモック
ミンミンの命の幅のフォルティシモ
哲学はワイン・オリーブ・トマト・ナス



夏木 久
良い鰹ですと半身を披講され
月下美人夜が固唾を飲む音に
蚯蚓鳴く空を抱へて死ぬために
冷蔵庫より卵は娑婆へ五日ぶり
骨付きの時をオーブン焼きに夏
天の川の底で淋しいワニになる
狐火と皆が言ふならさうでせう






2015年7月24日金曜日

平成二十七年夏興帖 第三 (林雅樹・堀本 吟・小林かんな・小野裕三)


林雅樹(澤)
君と来て祭やあとはノープラン
見世物小屋蛇食ふ女ちよつと綺麗
ジャン・ジュネや盗みし本を夜店に売り



堀本 吟
青嵐が悪い噂をばらまいた
巴里祭や品定めなど愉しかろ
革命はおとうとのレゴ壊すこと
明易し訃報一斉メールにて
安寧や凌霄花垂るるほど



小林かんな
コピー機の最後のボタン虹かかる
風鈴の紐の強さをふと思う
明るくて刺し急ぎたる海月かな



小野裕三
ゆくゆくは秘密を明かすキャンプかな
浮いてこい原寸大で浮いてくる
風鈴の空どこからが消去法
鈴音を並べ暮らして日の盛り
片陰のくにゃりと溜まる研究所

2015年7月17日金曜日

平成二十七年夏興帖 第二 (仲寒蟬・花尻万博・木村オサム・望月士郎・佐藤りえ)



仲寒蟬
殷周の前に夏のあり梅雨鯰
すれ違ふ巨船と巨船かき氷
海峡の向かうも日本花うつぎ
遊船の後ろ軍艦停泊中
最新鋭戦闘機へと草矢撃つ
雷とおなじ高さの階にをり
邪馬台国まで百余里をみなみ風



花尻万博
時化の日の朝日に透けて巣立ちけり
青梅に午前の似合ふ涼しさよ
浄土に鬼 鬱金(うこん)色に花蜜柑
蠛蠓の眠り浮かべば光らざる
水槽を抜けて灯点る単帯
麦の穂と南紀の畳乾くなり



木村オサム(「玄鳥」)
冷蔵庫からよく冷えた十二使徒
裸なのにてらてら機械めいた奴
峰雲へ志望動機を叫びをり
永遠に留守のままなる濃あぢさゐ
持ち歩く骨エルサレムまで西日




望月士郎 (「海程」所属)
蛇の真ん中あたりにある正午
金魚掬いみんな外科医の貌をして
髪洗う闇に潜水艦浮上




佐藤りえ
休日はウツボカズラを擬態する
みちのくの鹿の子はよい子舌を出す
液体になるまで堪え蛞蝓
夏めくや一般的な叫び方
くちなはの真青の方について行く




2015年7月10日金曜日

平成二十七年夏興帖 第一 (曾根 毅・杉山久子・福永法弘・池田澄子・ふけとしこ・陽 美保子・内村恭子)




曾根 毅(「LOTUS」同人)
太古から眠りを覚ます蛇の舌
瀧流れ落つるに全て任せけり
脈打っている初夏の白シーツ



杉山久子
くちなはを威嚇する眼の縹色
優曇華や黒ヌリの書を透かし見る
匙の柄に金の鳥ゐる昼寝覚




福永法弘(天為同人、石童庵庵主、俳人協会監事)
蛍見やほのかに白き行者橋
白川に落ちて蛍の流れけり
白川に沿ひ祇園まで蛍追ふ




池田澄子
葉桜の日陰紅茶のような優しさ
枕優し中は夜風の葉桜かや
カヤツリグサ心残りは砂利のよう
要するに恋人は汗もて光る
光ファイバー通信網戸越し守宮




ふけとしこ
枇杷の実に残る青さも生家なる
何か生れさう指に押す枇杷の種
遠く見て睡蓮近づいて睡蓮




陽 美保子(「泉」同人)
挺身の光ひとすぢ旧端午
一艇を運ぶ肩あり雲の峰
包丁の腹を使ひぬ半夏生




内村恭子 (天為同人)
けふも街走る地下鉄明易し
フォークリフト蠢く波止場油照り
梅雨深し工事のランプ点滅す
キーボード叩き続ける熱帯夜
短夜や工場は火を吐き続け


2015年7月3日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第七(豊里友行・近恵・大塚凱・小沢麻結・小林苑を・瀬越悠矢・関根誠子・飯田冬眞・岡村知昭・筑紫磐井・北川美美)



豊里友行
蝸牛全力疾走の流星
光年の一筆書きの蝸牛
指揮者なる雨の楽譜のカタツムリ
カタツムリ虹の発条弾いている
月光のジャズを吐き出すカタツムリ
蝸牛虹のタイムトンネルなり
衛星のアンテナになるカタツムリ



近恵(こんけい「炎環」「豆の木」)
身体中羽になる日の白木蓮
玄関に花びら落ちていて眠い 
鳥だったはず石鹸玉ことごとく割る
桜降るときどき追いついてしまう 
囀のかたちになってもうおわり



大塚凱
梅一輪探せばあをぞらが近い
拝むときこころまつしろ梅匂ふ
知恵ほどの白梅遠き枝にあり



小沢麻結
鶯ややや右向きの土の神
迷ひ消すための短刀時鳥
描かるる裸身はつらつ花真紅



小林苑を
空白やグラジオラスの倒れてをり
灯ともりて箱庭となる野球場
ペンギンが日本脱出する夏だ



瀬越悠矢
バス停に浜の字多き旱梅雨
禅堂に連なる笠やかきつばた
街騒にたゆたふ祇園囃子かな



関根誠子(寒雷・炎環・つうの会・や)
羽繕ふ黒鳥のゐて夏至曇り
語らない夫婦深山の夏鶯
土塀長し今度は柿の花の散り



飯田冬眞(「豈」「未来図」)
囀のこぼるる父の記憶かな
聞き返す鳰の浮巣のありどころ
見過ごして二人静に振り返る
花は葉に地を擦るやうに介護バス
桃の花腕組む父の待つもとへ



岡村知昭
めんどりかどうか確かめ片蔭り
はなびらもみどりごも食べ羽抜鶏
おんどりを廊下へ放つ白夜かな



筑紫磐井
男声のトイレが開け山笑ふ
うららかに散歩唱歌の終り遠し
虚子の句は不思議な句なり木瓜の花




北川美美

春風や草子と書いてかやこなり
草吉をそうきちと呼び風信子
鶺鴒や右手にはげしき谷のあり




【花鳥篇特別版】澤田和弥さん追善句 追補  (上田信治)




上田信治
五月ああキツキツだつた君のシャツ