豊里友行蝸牛全力疾走の流星
光年の一筆書きの蝸牛
指揮者なる雨の楽譜のカタツムリ
カタツムリ虹の発条弾いている
月光のジャズを吐き出すカタツムリ
蝸牛虹のタイムトンネルなり
衛星のアンテナになるカタツムリ
近恵(こんけい「炎環」「豆の木」)身体中羽になる日の白木蓮
玄関に花びら落ちていて眠い
鳥だったはず石鹸玉ことごとく割る
桜降るときどき追いついてしまう
囀のかたちになってもうおわり
大塚凱梅一輪探せばあをぞらが近い
拝むときこころまつしろ梅匂ふ
知恵ほどの白梅遠き枝にあり
小沢麻結鶯ややや右向きの土の神
迷ひ消すための短刀時鳥
描かるる裸身はつらつ花真紅
小林苑を空白やグラジオラスの倒れてをり
灯ともりて箱庭となる野球場
ペンギンが日本脱出する夏だ
瀬越悠矢バス停に浜の字多き旱梅雨
禅堂に連なる笠やかきつばた
街騒にたゆたふ祇園囃子かな
関根誠子(寒雷・炎環・つうの会・や)羽繕ふ黒鳥のゐて夏至曇り
語らない夫婦深山の夏鶯
土塀長し今度は柿の花の散り
飯田冬眞(「豈」「未来図」)囀のこぼるる父の記憶かな
聞き返す鳰の浮巣のありどころ
見過ごして二人静に振り返る
花は葉に地を擦るやうに介護バス
桃の花腕組む父の待つもとへ
岡村知昭めんどりかどうか確かめ片蔭り
はなびらもみどりごも食べ羽抜鶏
おんどりを廊下へ放つ白夜かな
筑紫磐井男声のトイレが開け山笑ふ
うららかに散歩唱歌の終り遠し
虚子の句は不思議な句なり木瓜の花
北川美美
春風や草子と書いてかやこなり
草吉をそうきちと呼び風信子
鶺鴒や右手にはげしき谷のあり