2015年12月25日金曜日

平成二十七年冬興帖 第五 (堀本 吟・月野ぽぽな・羽村 美和子・石童庵・もてきまり)



堀本 吟
開戦日微塵となって散らばって 
闇鍋や本を焚くより愉しいこと
階段の糸引き抜いて閒石忌



月野ぽぽな(海程)
冬に入る全ての塔を尖らせて
母国語も異国語も白い息
悴んできてすこしだけ木の気持ち    



羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」同人)
みのむしの蓑のとりどりパリコレ
冬すみれ番号できみを何と呼ぶ
じゃがいもの芽のほのあかく宵のテロ
さびしさの夢の出口よ寒椿
鬼おこぜ前世は華麗な一族で



石童庵
我が詩嚢色も形も赤海鼠
虎落笛名僧は死を畏れずや
煮凝りや我が曾遊の蛸薬師



もてきまり
軍靴の凩やまぬ地図がある
オリオンの傾ぐ西方瓦礫都市
唐変木といふ木あり榾にする





2015年12月18日金曜日

平成二十七年冬興帖 第四 (坂間恒子・望月士郎・青木百舌鳥)


坂間恒子  (「豈」「遊牧」)
水中の木が両手挙げ十一月
薔薇園に冬蝶の骨沈みゆく
枕木は深夜に燃える枇杷の花



望月士郎 「海程」所属
冬三日月紙片が指をすっと切る
かなしみ時に鶴を束ねて売りに出す
ふかふかの蒲団の中のカフカの眼
盲点にいつも綿虫舞う故郷
故郷よりころころ赤い毛糸玉



青木百舌鳥(「夏潮」)
落葉降る音や枝に打ち枝に打ち
山里の枯れて清らか碑も
野沢菜の一ト桶ほどの刈り残し
供花ありて文字は見えず薮柑子
川底を冬日の綾の遡りをり




平成二十七年秋興帖 追補 (福田葉子)



福田葉子
指ならす仕草覚えしばい廻し
錆びて久しき母の鋏や秋灯し
無愛想に冬瓜ころがる昔話

2015年12月11日金曜日

平成二十七年冬興帖 第三 (前北かおる・ふけとしこ・川嶋ぱんだ・とこうわらび・林雅樹・早瀬恵子)



前北かおる(夏潮)
仮り初めの勤めに馴染み小六月
時なしの蚊にたかられて枇杷の花
色付きてなほ稚く実千両


ふけとしこ
滝壺を覗き込むとき背に冬日
冬紅葉キャラメルシュガー壺に満ち
時雨忌の湖や鳶を見失ふ


川嶋ぱんだ((    )俳句会代表、船団の会)
父ちゃんが炬燵と言わんばかりかな
ストーブの名前にポチとつけてみる
布団から顔出せば国境あたりかな
空き缶を積んで冬日の主夫を抱く
風花が散るまで君を待っている
風花が散るまで黄身のぷるぷるす
風花が散る散る海が満ちていく


とこうわらび((    )俳句会)
氷雨降る肩に不安の刺さる音
クリスマス子供をやめた証の日
枯れ葉落つまたも懲りずに酔っ払い
マフラーに久しぶりねとご挨拶
ストーブやごくりと灯油のまれゆく
朝焼けを背負って行くや寒の入


林雅樹 (澤)
枯野より父帰らずよ次は息子か
枯野に駆け込むMajiで尿洩る五秒前
銀杏散る痴漢注意の看板に


早瀬恵子
冬銀河メトロノームの甘き死よ
妖怪の国籍いずこ冬の園
霜月のボジョレ・ヌーボー君が好き



2015年12月4日金曜日

平成二十七年冬興帖 第二 (内村恭子・渡邉美保・小野裕三・佐藤りえ・木村オサム・栗山心)



内村恭子 (「天為」同人)
稜線の遠く鋭くなりて冬
木枯しや四人揃へば雀荘へ
六地蔵頭巾を深々と時雨
信楽焼に水を吸はせて山の冷え
鳴き真似の枯野に響く九官鳥



渡邉美保
立冬や砥石平らに均さねば
砂浜の砂やはらかく冬に入る
冬空へゴム鉄砲を撃ちにけり



小野裕三 (海程・豆の木)
小雪の大声で呼ぶ隠れんぼ
ふしぎな仲間曇天の冬の一日
十二月の雨を結んでさようなら



佐藤りえ
枯野道ころびすばやく起き上がる
しはぶいてあたまの穴のひろがりぬ
狐火を焚いて迎へてくれさうな
寒林にATMでも作らうか
方形の麺麭積まれゐる十二月



木村オサム(「玄鳥」)
焚火して戦に敗けた顔となる
生き残りほわんと座る散紅葉
形だけのお辞儀で済ませ山眠る
包帯を巻いた海鼠の集う庭
週刊誌丸めて叩く狸かな



栗山心(「都市」同人)
二の酉やヒモの極意を盗み聴く
ニの酉の河童娘の秋波かな
ピンヒールブーツサンダル酉の市