望月士郎 (「海程」所属)春はこつんと卵の黄身に映る窓
鶴帰り折り跡のある紙一枚
朝が来るだれかのからだから桜
湯舟より顔の出ている花の夜
花過ぎの白衣の胸にうすく染み
内村恭子 (天為同人)やはらかに蕗生ひそむる沢の風
ぽんと蓮開きてよりの朝ご飯
薔薇の園月の出づればまた香り
野を濡らし木椅子を濡らし夏の雨
杏子実れば母の手のあたたかさ
木村オサム(「玄鳥」)ひまわりを出られず作り笑いでは
罰として尺蠖虫がやって来る
ベネチアに腹違いの兄金魚玉
プラトニックラブの数だけ蛍舞ふ
寂しくて一番長い蛇を引く
ふけとしこ遠巻きにされてゐる猿松の芯
十薬や道の分かれてまた合うて
雨の日の巣をととのへて鳰
仲寒蟬雲飛んで辛夷の空となりにけり
子を叱る女の前を二頭の蝶
雁風呂にほの暗き月昇りけり
黒靴に踏み散らされて飛花落花
天神の細道若葉雨しとど
近づけば増えてゆくなりかきつばた
この蠅と夫婦であつたかもしれぬ